※トリップ

こんな出来事起こるなら私だけじゃなくて全人類味わえばいい、マジで。
なんてこの10年間毎日思いながら煙草の封を開けた。
宇宙旅行もどきをした、惑星間の移動もした、普通に生きてただけなのにおそらく経験することのないことを経験した。
はて、何か私はしたのだろうか?
カミサマとやらを怒らせるような、悲しませるような、喜ばせるような、何か目に付くことをしただろうか。
ざっけんな成人式終わったばっかだったわ畜生。

「遥、我らはしばらく構えぬ故、こやつをつけた」

「いや間に合ってます」

首を横に振ってもダメでした、なんでや。
和服着たことのない私でもわかる、柄はシンプルでも質は上物の小袖を着て、ふらふらと建物内を歩く。
やめてくださいよー、あなた方の中でこの人1番苦手なんだわー。
こえーもん。
理由?動物的カンかな。
命の危機を元JDが感じるんですよやばいでしょう。

「別に危ないことしないし外に行かないんでついてこなくていいです。心臓にクッソ悪いんで。マジで」

「そうしたいのは山々なんですが、あなたの件に関しては従っていた方が御機嫌取りができるので」

「そーゆーストレートなところは嫌いじゃないんだけどそうじゃないんだよなあああああ」

純粋に私が嫌ですはい。
まだ朧くんの方がいいわ……義務的な対応だけだからいくらか楽。
けどこの人、虚さんは何考えてるかわかんないし。
あとはまあ、あれかな、初めてお会いした時から本能的な何かがこの人に近づくなって言うんだよ。
溜め息を押し殺して煙草を咥える。
ライターで火を点けようと袖や懐を探るけれど何故か出てこない。
おかしいな、落としたかな。
何度かゴソゴソやっていると、横から煙草に火を点けられ……え、なんでアンタがそれ持ってんですか。

「落ちそうなのを拾ったんです」

「……そうですか」

その時に渡してくれてよかったんですよ。
でもそのライターは私に渡されることはなく、虚さんが自分の懐に引っ込めてしまった、何故!!
煙と一緒に溜め息を吐いて、廊下の壁に寄りかかりながらしゃがんだ。
ヤンキーとか言うな、元だもん。
普通の生活に戻りたいなー、帰りたいなー切実に。

「なんで朧くんとかが受けるようなお仕事引き受けたんですか」

「おや、朧とは仲良しなんですね」

「当時は年が近かったもんで……」

「ああなるほど」

「で?」

「あなたとふたりきりになれる数少ない機会でしょう?」

いつの間にか私と同じ目線になるようにしゃがんでいた虚さんが私の首にそっと手を添えた。
力は入っていないものの、急所を撫でられる感覚に背筋がゾッとする。
息、しづらい。

「初めて会った時から親近感を抱いてるんですよこれでも。10年経って容姿が変わらないですし、もしかしたら──って」

「……私ケガしてもあなたみたいに治らないですよ」

「なら、私の血でも入れてみます?」

「血液型合わないのでお断りします」

「きっと、あなたには馴染むでしょうね」

朧よりも。
笑っているけれど目が笑っていない。
気のせいかな、手に力少し入ってません?
咥えられずに持っていた煙草はフィルター近くまでが灰に変わって、重さに耐え切れずに落ちた。
……あー、五体満足で帰りたいなー。


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