覚えているだろうか。
小さな小さな幼い小娘が囁いた拙い愛の言葉を。
覚えているだろうか。
恐れられていたあなたが小娘の手を握ったことを。
昨日のことにように覚えていなくてもいいから覚えていてほしい。
恐れられているあなたが気まぐれにしたことは、あの幼い小娘を心を晴らしたことを。
私はずっと覚えているよ。







「……あ〜……名字さん?そんなに見つめられるとその……さすがに照れるっていうか……」

「気にしないで?私が虎杖くんを眺めていたいだけだから」

それ美味しい?と聞けば素直に虎杖くんが首を上下させた。
五条の監視の下での接触だけれど仕方ない、この際贅沢は言ってられない。
姿は違えど、まだ高校生の彼から伝わる呪力は私が慕っているあの人のものなのは確かで。
今は目の下に傷のように存在する閉じた目もあの人のもので。
たまに彼の頬や手の甲に現れる口から発せられる声も言葉もあの人のもの。
虎杖くんが羨ましいなぁ宿儺様とずっと一緒で、と前に言ったら凄く引かれた覚えがある。
思わず初見で手を握ったら五条に殺られるかと思った、殺られないけど。

「お前も年齢考えてよ。悠仁はまだ高校生でしょ」

「虎杖くんには恋愛感情ないから問題ないよ」

「絵面だよ絵面。あと年」

「目隠ししながら歩き回る変な呪術師に言われたくないなぁ」

あんた童顔なの知ってんだからね。
お土産で持ってきたチョコを食べ終わった虎杖くんの手を取って、一本一本指を撫でる。
大きい手だなぁ。
私もあの頃と比べたら成長して小娘から女になったけれど、それでも男女の壁は越えられないなあ。

「ね、虎杖くん」

「え?」

「ちょっとでいいから私の手を握ってもらってもいいかな?」

「悠仁じゃなくて僕が握ろうか」

「五条には用ないから」

絶対そこからぼこぼこにされるのが目に見えている。
虎杖くんは助けを求めるように五条に顔を向けたけれど、肩を竦めた五条を見てか、何か意を決したように私の手を握った。
そんなに気を遣いながら握らなくていいのに。
あの人は小娘の手をそっと握るんじゃなくてがっしりと掴んでいた。
手を引く時も私の歩幅に合わせないで引き摺るように歩いていた。
転んだってお構い無し。
けれど、擦り剥いたら仕方ないなと溜め息を吐いて傷を治してくれたり、私のご機嫌取りに金魚の形をした飴をくれたり。
現代を生きる呪術師たち呪詛師たちてまは知らないような宿儺様のことを、私は知っている。

「虎杖くん、早く宿儺様のお指を集めて食べてね」

そして私に宿儺様に献身できるような時間をちょうだいね。
にっこりと笑えば、虎杖くんは複雑そうに顔を顰めた。



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