「羽宮鬱陶しい。離して、邪魔」
「離したら姉ちゃん六本木行くだろお!?オレというものがありながら!灰谷兄弟なんてどこで引っかけたんだよ浮気者!!」
「蹴られても尚しがみつく一虎の根性やべえ」
「オレできねえよ、顎かち上げられんじゃん」
「万次郎も龍宮寺も冷静に分析すんなら羽宮剥がせよ」
「姉ちゃんの浮気者おおおおお!殴っても蹴っても吊るしてもいいから六本木行くなよおおおおお!!」
「一虎やっば」
「うっわあ」
姉ちゃんの足にしがみついているのは一虎だ、なんでそんなにぐちゃぐちゃの顔してしがみついてんのかわかんねえしDV彼氏に縋る彼女みてえでなんか怖い。
姉ちゃんは春から家を出て、新しい家から大学に通うんだってさ。
うちでもいいじゃん?って言ったら伯父さんが家を手配してくれて、もうどういう生活を送るか決めているんだって。
あと一虎が言ってるように六本木の灰谷兄弟とめちゃくちゃ仲がいい。
だって普段泣かない姉ちゃんがふたりに泣きついたくらいだ、オレのせいだったけど。
親しげに蘭、竜胆、そう姉ちゃんが名前でふたりを呼べばふたりはとても嬉しそうに表情を明るくしていたのも知っている、なんでだろ。
そんなふたりと姉ちゃんをずっと見ていたいとも思うし、オレの姉ちゃんなのにとも思う。
なんだろう、このよくわからないものがごちゃ混ぜになっているのは。
それに、姉ちゃんに怒られるのは怖いし逃げたいけれどそれが嬉しいとも感じるんだ。
よくわかんねえな、感情って。
そろそろ一虎が姉ちゃんにしがみついてんのも姉ちゃん嫌だろうからケンチンとふたりで一虎を引き剥がした。
それでもぴーぴー泣いてるんだからこいつ姉ちゃんのこと好きだよなあ。
一虎を引き剥がした後に姉ちゃんに聞いたらこの後はやっぱり六本木に行って灰谷兄弟に会うんだと。
姉ちゃんが灰谷兄弟と仲良いのは知ってるし、灰谷兄弟も姉ちゃんのこと好きなのは知っている。
けれど、灰谷兄弟はどんな意味で姉ちゃんのこと好きなんだろうか。
恋愛?友愛?親愛?
オレが見た限りでは何もかも混ぜ込んだぐちゃぐちゃにドロついた目をしていたけれど、どうなんだろ。
駅に向かう姉ちゃんに後でうち寄れよー、と声をかけ、それからケンチンと一虎を見た。
「……姉ちゃんより先回りして灰谷兄弟に会いに行こうぜ」
「……は?」
「だって確かめてえもん、あいつらが姉ちゃんのことどう思ってんのかさ」
姉ちゃん優しいから、灰谷兄弟に応えているだけかもしんねえだろ。
べそべそしている一虎にも声をかければ行く!!と返ってきたので、バイクで六本木に向かった。
「それだけのために行動力あんのウケるんだけど」
「それな、オレらこれから福寿迎えに行くんだけど」
「待ち合わせに遅れてすっぽかされたと思った姉ちゃんをオレが慰めるから大丈夫」
「大丈夫じゃねえんだなぁ……マイキーが関わってるって知ったら福寿がオマエを締める未来が見える……」
「ほんと福寿の弟分たちってなんで変な方向に振りきんの?なあ竜胆なんで?」
「兄ちゃんそれブーメランってんだよ」
福寿が従弟のところに寄ってから行くね、と連絡が来たので電車に乗ったって連絡まで適当に時間潰そうと思ったらその従弟がバイクで来た。
えーびっくりすんだけど……なんでそうなった?
ドラケンの後ろにいる羽宮だっけ?なんでめちゃくちゃ涙目なの?これ福寿絡みの何か?
竜胆と視線を交わし、どちらともなく溜め息をひとつ。
本当にねえちゃんはオレらにとってただの福寿になっても誰かの姉ちゃんだからこうして面倒な弟分増やしていくんだな。
オレらもねえちゃんのことに関して極端になっていた自覚はあるからあまり他人事のように言えねえけど。
愛されている証拠なんだろうけど、ねえちゃんは、福寿はオレらから一番好かれていればいいの、他はお呼びじゃねえ。
百歩譲って福寿が従弟を大切にしているのはいい、弟分たちだってなんだかんだ大切にしていた人だから。
「で、オマエら姉ちゃんのことどう思ってんの」
「姉ちゃん唆したのオマエらだろ、じゃなきゃ姉ちゃん六本木に頻繁に行かねえもん!」
「浮気相手に問い詰める女かよ……」
「ケンチンどっちの味方なわけ!?」
「いやオレ平穏がいいから福寿さんの味方」
ドラケンはしれっと首を横に振る。
めちゃくちゃいい判断だと思うわそれ。
どう思ってるって言われても、もう見たまま感じたままに受け取ってくれて構わねえんだよな。
唆したわけじゃねえけど、でもおじさんの力借りて囲おうと思っているのは事実か。
「なんとも思ってなけりゃ春から一緒に暮らさねえよな」
「……福寿さんが春から一緒に暮らす……?」
「あれ、もしかして福寿から聞いてねえ?」
「オレと竜胆と福寿で春から暮らすんだよ、その方が福寿の通いたい大学近いし」
「聞いてねえよ!!姉ちゃんがオマエらと!?はァ!?せめてマイキーのところだろ!」
「オマエらか!姉ちゃんがうちに来ねえ原因は!!」
「原因かって言ったら福寿の父ちゃんもだな、オレらとならいいってさ」
羨ましいだろぉー、そうわざとらしく笑うとマイキーからすっと表情が消えた。
わかるわかる、大好きな姉ちゃんが知らない間に男と同居するって知ったらそうなるよなぁ。
今回はオレらの方が上手だったってわけよ。
大切なモンはいろんな手を使って大切に囲わなきゃいけねえからな。
前のマイキーがどんな生き方をしたのか全部知ってるわけではねえけど、どんな人間なのかは知っているつもりだ。
大切な人が離れていくのは嫌だよな、自分で突き放さなけりゃしょうがないで済まねえってのも知っている。
今のところ前を知っているのはオレと竜胆だけだ、ねえちゃんは、福寿は覚えてねえだろうし。
けれど嫌がったり突き放したりしねえからきっと何かは感じているはずだ。
「……じゃああれか、オマエら潰せば姉ちゃんはオマエらと暮らさねえな」
「マイキーやめとけ!福寿さんにバレたらただじゃ済まねえから!!」
「だって姉ちゃんはオレの姉ちゃんだもん!!なあ一虎!」
「そうだそうだ!!オレらの姉ちゃんだもん!!」
「……あー……うん、そうだな、今は、今はオマエらの姉ちゃんだもんなぁ」
「でも残念ながらオマエらの姉ちゃんはオレらの福寿だからさ。もうおじさんが家も手配したし、福寿は大学決めて今勉強中だろ?」
「無理姉ちゃんが東卍の誰かのところで暮らすならともかくオマエらのところは嫌だ無理よって潰す」
無表情のマイキーをドラケンが止める間もなく、オレに掴みかかろうとする。
正当防衛になるよな、手ェ出しても。
なんてマイキーがオレに拳を振り上げたのを見て腰に差してた警棒を取り出そうと手を伸ばした時、横から何か飛んできてマイキーの顔面に当たった。
「……何してんの……?」
ひっくい地を這うような声に思わず姿勢を正した。
それは警棒を持った兄ちゃんも、マイキーを止めようとしたドラケンも、オレに殴りかかろうとした羽宮も、飛んできた何かで顔を痛めたマイキーもで、それから揃って声のした方向に顔を向ける。
つーか今何が飛んできた?えっ、靴?
「さっき別れたばかりなのになんでオマエらここにいんの?何してんの?は?私が来るのわかってて目の前で乱闘起こそうとしてた?ぶん殴んぞ」
「もう靴投げてるだろ、殴ってねえけど」
「福寿、足怪我すんから靴履けよ」
福寿にバレないように兄ちゃんは警棒を戻すと足下に転がった靴を拾って福寿の足下に身を屈め、ほら、と靴を履かせた。
待ち合わせの時間過ぎてたかな?ケータイを取り出して確認すれば福寿からいくつかメールが入っている。
電車乗った、着いた、そっちに向かってるね。
あー……思ったより来んの早かったんだな。
福寿を見て顔を青くしたのはドラケンだけ、マイキーと羽宮はイタズラがバレたような子どものような表情だ。
「ごめんな、もうちょい早く着けると思ってたんだけど」
「ううん、タイミング良くて快速乗れたからさ」
そう思うと快速電車より速くここに来たマイキーたちの根性やべえな、よくサツに捕まんないで来れたもんだと少し感心する。
兄ちゃんは福寿が来たことに嬉しそうに表情を緩め、自然と肩に腕を回して三人へ視線を向けた。
ああ牽制ね、オレらこんだけ仲がいいんだぞって。
オレも福寿が来て会えたのはいつも嬉しいし、福寿に駆け寄って遅れてごめんなともう一度言って福寿の荷物を受け取って手を繋ぐ。
「姉ちゃんどいて!」
「そいつ殺せない!」
「いやなんでそうなんの?万次郎も羽宮も、蘭と竜胆と仲悪い?」
「姉ちゃんの前だったら仲良くするけどぉ……でもぉ……」
「こいつら姉ちゃんと春から暮らすって言ってたから……!」
「……もしかして万次郎に言っちゃった?」
涙目で近づいてきたマイキーと羽宮を見て、福寿が気まずそうに眉を下げた。
逆になんで言わなかったの?兄ちゃんが聞けば、福寿は親戚以外に迷惑かけるなって言われると思ったからと答える。
なるほど、マイキーとしてはマイキーの家で福寿が暮らすのは大歓迎だけど、福寿は親戚以外に迷惑かけるなと怒られると思ってたのかな。
「福寿さん、こいつら悪気はなかったんだ。ただ極端な方向に振り切っちまっただけで」
「龍宮寺もいつもストッパー悪いね」
「でも福寿さんが灰谷兄弟と暮らすのはオレも賛成しねえよ、そもそもこいつらどんなやつかわかってんのか?」
「父親が遠縁って言っていたしなんかめちゃくちゃ仲良かったから」
つまり、六本木のカリスマってことはあまりわかってないと。
うん、前から不良のあれこれあまり気にしねえからな、うん、わかってた。
オレも兄ちゃんもわざわざ口にすることじゃねえし言わなかったから。
福寿の言葉に引っかかりを感じたのはマイキー。
そりゃあそうだよな、福寿の父親とオレらが遠縁になるとオレらとマイキーも親戚になるからな。
それは福寿を納得させるためについたオレらとおじさんの嘘。
「……めちゃくちゃ言いたいことあんけど」
「うん」
「姉ちゃんの前でやったら姉ちゃん怒るから、今日はやんない」
「……今日は?」
「いつもやりません!!な、一虎!」
「はい!やりません!!……多分!」
「……安心はできないけど、日を改めてまた春からの話するからさ。今日は蘭と竜胆との予定だし、また今度な」
福寿の言葉に渋々と頷いたマイキーと羽宮、ドラケンはお騒がせしましたと福寿に頭を下げてまだ何か言いたげなふたりを引きずってバイクの停めてあるところへ戻った。
……それにしても、本当に福寿は、ねーちゃんは弟分たちに愛されてんな。
オレらもだけど。
「なんか万次郎たちがごめんね」
「気にすんなって」
「でもちゃんと春からの話はあいつらにしとけよ?」
「うん、そうする」
じゃあ気を取り直してどこ行こうか。
楽しげに言う福寿にオレと兄ちゃんは福寿の行きたいところ行こうぜと答えて福寿の手を引いた。
♢ ♢ ♢
佐野家の親戚のおねえさん
六本木行く前に佐野家に顔出したら一虎くんに引っ付かれて止められた。
春から灰谷兄弟と暮らす話は誰にもしていなかった、敢えて言うなら学校の親友くらい。
従弟や弟分たちは大切だけど、無意識に蘭くんと竜胆くんの方がもっと大切。
佐野万次郎
姉ちゃん灰谷兄弟と仲良いけど灰谷兄弟は姉ちゃんのことどう思ってんの?とおねえさんより先回りして灰谷兄弟のところに来た。
灰谷兄弟とおねえさんも仲良くしているのを見ると安心するしずっとそうしていればいいなとは思いつつも、自分の姉ちゃんなのにって思いもあるので複雑と言えば複雑。
でも春からおねえさんが灰谷兄弟と暮らす話は見逃せない、オレんちでもいいじゃん!!シンイチローもエマもじいちゃんもいんのに!
前のことはまだ思い出してない故に複雑。
蘭くんに掴みかかっていたのを見られて靴投げられた。
龍宮寺堅
おねえさんが何もなく過ごしていればいいけど、よりによって灰谷兄弟はちょっと……とは思っていた。
万次郎くんのストッパー、たまに連帯責任で締められるけど。
誰の味方か、と言われたらおねえさんの味方。
羽宮一虎
姉ちゃんの浮気者!!と言うくらいには懐いている。
バイク屋襲撃事件の時には偶然おねえさんが真一郎くんに遅くまで仕事しないで帰んなよって顔出しに来てたし誰かわからない格好してたのもあっておねえさんにワンパンされて阻止された、よかった。
今世のおねえさん過激派と言っても過言ではない。
灰谷兄弟
おねえさんのこと大切だし大切にしてもらっているから来る自信がある。
万次郎くんの気持ちや羽宮くんの気持ちもわかる、オレらそうだったしな。
ねえちゃんが誰の従姉でも姉貴分でもねーちゃんはオレらのだから。
前のことを全部覚えているからこそ自信もあるし、おねえさんに傍にいてほしいからどんな手段も使うふたり。
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