「おっ、福寿じゃん。元気ィ?」

「つーかオマエ伯父さんは?」

「ひとり」

「……は?」

「えっ、福寿がこんな都会にひとり……!?」

見知った顔だなーと思ったら、従妹の福寿だった。
ぽつんと本屋の前で立ってはキョロキョロと周りを見渡し、それからその場にしゃがんでじっと地面を見下ろしている。
声をかけると、思ったよりも淡々とした返事が返ってきて、それからまさかの福寿ひとりでここに取り残されているという事実。
聞けば、福寿の父親であるオレらの伯父さんとはぐれてしまったらしい。
福寿はあまり歩かずに、ここでしばらく待っていたんだと。
思わず竜胆と顔を見合わせ、それからしゃがんでいる福寿の脇に手を入れてそのまま抱き上げた。
きょとんとこちらを見る福寿はされるがままの猫みてえだ。

「そっか、ひとりで頑張ったなー」

「……おとうさん、もどってこなかったの」

「うん」

「……らんとりんどーがきて、よかった……」

「そっかそっか、オレらがお父さん探してやるから安心しろよ」

「兄ちゃん、伯父さん電話してみたけど電波届かねえとこにいるって」

福寿をしっかりと抱っこしてやれば、福寿はオレの首に腕を回して肩口に顔を埋めた。
それからすんすんと鼻を鳴らす音、じんわりと湿ってくる服。
こいつ頑張り屋だもんな。
ポンポンと背中を撫でてやり、竜胆のケータイから無機質な音声が聞こえてくるのに思わず溜め息をひとつ。
きっと伯父さんのことだからしっかり福寿の手を握っていたと思う。
多分福寿の目を引くものがあったり、伯父さんと福寿の間を誰かが通ったり、そんなハプニングがなきゃこんなことは起こらねえだろうから。
オレらより十個年下の福寿は、オレらの母親の兄の一人娘、つまりオレらの従妹だ。
このくらい年が離れると可愛くてしょうがない。
郊外の住宅街にあるでっけー日本家屋がオレらの母親の実家で福寿の家だ。
遊びに行く回数は少なかったけれど、オレらを気にかけてくれている伯父さんのおかげで今も交流がある。

「いつからいたの?」

「わかんない……」

「しょうがねえよ、よく泣かなかったな」

「うん……」

普段はふてぶてしいのにこういう時はしおらしいな。
まあそこも可愛いんだけど。
伯父さんが遅くに授かった愛娘ってことで溺愛しているけれど、でもそこに胡座をかくようなことをせずに福寿はのびのびと育っていると思う。
ひとりっ子でひたすら甘やかされたらただのわがままになっちまう気もするけどさ、こいつはそういうことねえの、すげーよな。
まあ、伯父さん曰く「オマエら見てるからじゃねえの?」とのこと。
そんな福寿はあまり外に出ようとしない。
というか、絵を描くのが好きだから描いてる時はひたすら部屋に篭っているんだとさ。
たまに絵を描きに行ってくるって公園行ったり、興味本意でいろんなところに迷い込むレベルで足運んだりしているみてー。
絵なんてオレらにはよくわかんねーけど、福寿はこの年にしては描くものはっきりしてるんじゃねえかなって思う。

「お父さんと何しに来てたの?」

「このまえね、わたしのえがひょうしょう?されたからそのおいわいにえのぐかってくれるって」

「なるほど、じゃあオレらからも何かお祝いしねーとなあ」

「福寿何か欲しいモンあるか?」

「えのぐ」

「いやそれはお父さんが買ってくれるんだろ?」

「キラキラがいい」

オレの肩口に顔を埋めたまま福寿がえのぐ、と何回も繰り返す。
絵の具ったってオレらわかんねーからなー、どうすっかなあ。
すると、あ、と竜胆が思いついたように声を上げた。

「じゃあ福寿が絵の具持って出かけるバッグ買おうぜ。可愛いのでもおしゃれなのでもいいからさ」

「おっ、いいじゃん。どう?福寿」

「じゃあそれがいい!」

ガバッと顔を上げた福寿の顔はとてもキラキラとして生き生きしている。
本当に絵のことに関しては人が変わるなぁ。
表情もあまり変わらない子どもだから珍しい。
伯父さんと連絡取れるまでは一緒にいりゃ問題ないだろう。
じゃあ買いに行こうな、と福寿の髪を撫でてやれば福寿は嬉しそうに表情を緩めた。





あーでもないこーでもないと首を傾げる福寿の後ろ姿を兄ちゃんと笑いながら見守る。
かれこれ十五分くらい悩んでねえか?
悩んでいるのは大きさかな、絵の具やらスケッチブックやらどんだけ入れるのかは知らねえけど、大きくし過ぎても持てないだろうしかと言って小さくても入れたいもんが入らねえ。
兄ちゃんが両方買う?と聞いたら思い切り首を横に振っていた。

「悩んでんの可愛い」

「わかる。つーか福寿あんなに表情豊かだったんだなぁ」

「それな。ちょー可愛い」

手放しで可愛い可愛いと言えるのはきっと従妹だからってのもあるんだろうな。
オレは兄ちゃんがいるから下の子なんていなかったし、だからか余計に可愛く感じる。
しばらく悩んでいた福寿は意を決したように「これ!」と言ったのでオレと兄ちゃんは福寿が選んだバックを見た。
小さいやつ。
まあ福寿はまだ小学生だからな、その方がいいだろ。

「よし、じゃあ兄ちゃん買ってくるから竜胆と待ってろよ」

「うん」

兄ちゃんが福寿の選んだバッグを持ってレジに向かう。
その間、オレは福寿を抱っこして待つことにした。
なんでだっこ?と福寿は首を傾げたけど、さっきは兄ちゃんが抱っこしたからと言えばふーん?と首を傾げたまま。
兄ちゃんだけずるいとか思ってねーし。
ちなみに伯父さんから連絡がさっき来て、こっちの用事が終わったら福寿を迎えに来るって。
それを福寿に言ったら福寿はおこられるかな……と落ち込んでいたけれど、多分落ち込むのは伯父さんだと思う。
メールの文章めちゃくちゃ落ち込んでるのわかったくらいだしな。

「お待たせー」

兄ちゃんが可愛くラッピングされたバッグを持って戻ってきた。
それを兄ちゃんから渡されると、福寿はそれを両手で受け取ってありがとうとはにかむ。
めちゃくちゃ可愛い。
大切に抱きしめるように持つ福寿の頭を兄ちゃんはくしゃくしゃと撫で、それからじゃあ伯父さんと合流するかと言ったから兄ちゃんに続くように歩き出す。

「大丈夫、お父さん怒ってねえからさ」

「そうそう、むしろ福寿がなんで手ェ離したのって怒っていいんだよ」

いつも暮らしている郊外だったらはぐれるようなことはねえんだろうけどさ。
ここは人も多いし普段こっちに出てこない福寿がひとりになったら動けなくなっちまうだろうし。
しょうがねえよ。
しゅんと落ち込む福寿にオレと兄ちゃんで慰める言葉をかけて伯父さんと合流する場所へ向かうと、こちらに気づいた伯父さんが珍しく大きな声で福寿の名前を呼んだ。

「福寿!」

「とーさん!」

「ごめんなあ、手ェ離しちゃって。蘭と竜胆も悪いな、福寿見つけてくれて」

「気にすんなよ伯父さん」

「福寿に会えてオレらも嬉しかったしさ」

伯父さんに福寿を渡せば伯父さんは福寿を大切に抱きしめてオレらに頭を下げる。
福寿は伯父さんの腕の中から「らんとりんどーありがとう」と笑った。

「福寿何持ってんの?」

「らんとりんどーがね、ひょうしょうのおいわいってバッグプレゼントしてくれた」

「何から何まで悪いな」

「オレらがしたかったからいーんだって」

「伯父さんこれから福寿と絵の具買いに行くんだろ?それに入れてやってよ」

「そうするかぁ……よかったな、福寿」

「うん」

ニコニコと嬉しそうに笑う福寿。
伯父さんもそろそろ行こうな、と福寿を抱っこしたままオレらに声をかけて背を向けた。
伯父さんにしがみついている福寿は、小さな手をオレらに向けて振るとばいばーいとまた笑う。
それにオレらも手を振って返した。

「……やばい、福寿のばいばいはやばい」

「わかる、あれ学校とかでやってねえよな?大丈夫だよな?」

「わかんねえけど……惚れるやついたら締める」

「オレの分も残しておいてよ兄ちゃん」

惚れるも何も小学生だろ、なんて突っ込む人間もいないまま、オレと兄ちゃんは福寿可愛かったなーと話しながら帰った。

♢ ♢ ♢

親戚の女の子
もしも年齢差が逆だったら、ということでおねえさんじゃなくてようじょです。
ようじょの頃は幾分か素直、甘やかされているけれどしっかりはしている。
ひとりっ子なので蘭くんと竜胆くんにはそれなりに懐いている、はず。
呼び方はお父さんのが移ったので「らん」「りんどー」と呼んでます。
相変わらずお絵描き大好き。

灰谷兄弟
年齢差が逆だったら、なお話。
蘭くんと竜胆くん十八歳だったらようじょは八歳。
身内の子どもは可愛がりそうなイメージある。
隙あらば抱っこしそう。
貢ぎ癖があるんじゃなくて物を与えれば間違いないと思ってそうだからようじょになんでも買ってあげるーっていうのが愛情表現のひとつ。
今はようじょ可愛い時期だけど、思春期とかになったら一番ダメージ喰らいそうな気がする。
梵天軸なんかやばそう。



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