「──きれい」

「いい子だね、私は綺麗だし美しいんだよ」






そんな出会いからどのくらい過ぎただろう。
今日も姐さんは綺麗だし美しい。
髪結を長年見てきたからあれから20年経ったくらいで姐さんの髪を結えるようになったし、姐さんの機嫌が悪い時は大門の近くで売っていた可愛い飴を片手に宥めたこともある。
新しい打掛も姐さんの好みを知っているから綺麗なものを手配して、簪だって一等上物にして。
わたしがそんなことしなくても姐さんは綺麗なのだろうけれど、姐さんはいつも綺麗で美しい。

「姐さん、姐さん。女将が姐さんに新入りの禿をつけたいって」

「……アンタだけで十分って言ってよ」

「フフ。嬉しいけれど、女将の顔立ててあげよう?この前はほら、だれだっけ……喰べちゃったんだから」

新しい子は姐さんに到底及ばないけれどきれいな子だよ。
もぞもぞと布団から起き上がった姐さんにおはよう、と声をかけると不機嫌そうな顔をした姐さんがわたしの着物の襟を掴んだ。
ぐっと引き寄せられれば綺麗で美しい姐さんの顔が目の前にある。

「そうよ。私が美しいの。けれどその次に美しいのはアンタよ名前。アンタ以外の禿や新造は不細工だからいらない」

「そうね。褒めてくれてありがとう。けれど姐さん、わたし年齢的にはもうすぐ初見世になるの。だからそろそろ姐さんが禿をとらないと、また余計な労力使っちゃう」

姐さんとわたしを人間じゃないと気づいた人たちを始末していくのも面倒だもの。
それこそ殺しではなく高いところからの転落死だったり、足抜けに見せかけたり。
気づく人間に限って姐さんの好みじゃない、だから喰べたりはしない。
──あ、わたしが喰べてる時もあるけれど。
わたしの襟を掴んだままの姐さんは、わたしの顔をじぃっと見つめて、それから手を放して今度は両頬を包むように手を添える。
犬猫の類を可愛がるようにわたしの頬や目元を綺麗な指でなぞり、頬にぷつりと鋭い爪を立てた。

「仕方ないね……名前、アンタの言うことに間違いはないから」

「ありがとう堕姫姐さん」

姐さんが爪を立てたところからつーっと血が流れる感覚がする。
牙を見せて笑った姐さんが、わたしの頬に舌を這わせて血を舐めとった。


20171220
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