蔓姫、ときれいな人は言うらしい。
わたしはそんな蔓姫姐さんの禿になった。
わたし以外にも禿や新造はいる。
けれど、なぜかみんな蔓姫姐さんに対してすごくよそよそしいし、常に顔色を窺っていた。
基本的に静かに姐さんの身の回りの世話しかしてないし、なるべく姐さんが何を求めているのか考えて先を行くようにしていたから、なんで姐さんに対してよそよそしいのかは知らない。
ただ、姐さんが「いい子」と言ってくれたのが嬉しくってもう一度そう言ってほしかっただけ。
姐さんは、綺麗なもの、美しいものが好き。
けれど醜いもの、不細工なものは嫌い。
それは人でも物でも同じ。
あと短気。
気に入らないことがあると他の禿や新造を叱りつける。
怒ると綺麗な分、迫力があって怖い。
けれど笑うと本当に綺麗だから、それらも全部引っ括めて蔓姫という花魁なのだろうなあ。

「お前」

「あ……」

蔓姫姐さんの部屋の屏風や花瓶を綺麗に拭いて整えていると、いつの間に帰ってきたのか蔓姫姐さんはわたしを見下ろしていた。
一度作業をやめて、おかえりなさいと言うと、蔓姫姐さんは乱暴にわたしの顎を掴む。
長い爪が少し肌に食い込む、けれど意外と痛くなかった。
まじまじと姐さんはわたしの顔を見つめる。

「……ふぅん、それなりに美しい顔してるじゃない」

「姐さん……?」

「お前、名前は?」

まだ遊女としての名前をもらっていないと伝えると、姐さんはわたしの顎から手を放し、指先で喉を擽ると薄く笑った。

「じゃあお前は今から名前≠ニ名乗るんだよ。お前にその名前が一番似合う」

「……本当?」

「なぁに?この私の言葉を疑うっていうの?」

「ううん、嬉しい」

「そう、それでいいの」

お前はいい子だね。
そう言って笑みを浮かべたままわたしの頬を撫でる。
嬉しい嬉しい嬉しい嬉しい!
いい子って言ってくれた!
それだけじゃない、名前だってもらった!
綺麗で美しい蔓姫姐さんから!
人生が大きく変わったのはここからだったのかもしれない。
吉原に売られたことよりも、姐さんに会えたことが、きっと人生の分岐点だったのだろう。

20171222
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