もう禿ではなく新造になった。
わたしが来てから蔓姫姐さんの機嫌がいいと、旦那様や女将さんがわたしを重宝してくれているらしい。
確かにうちでは姐さんの髪しか結わない髪結が試しにとわたしの髪も結ってくれたし、わたしの着るものは同じ年代の新造より上物だ。
姐さんにその話をすれば、当たり前だろう、と笑われてしまったけれど。
姐さんには当たり前でも、わたしはちょっと戸惑ってる。

「アンタはいいわよね、だってあの蔓姫さんに目をかけてもらってるもの」

一体どんな手を使ったのよ、と同い年の新造はいつも言っていた。
何もしていない。
でも、泣きたくて泣きたくて仕方ない時にそこにいた姐さんがとても綺麗だったのは覚えている。
何もしてないよ、と言っても彼女は鼻を鳴らして自分の姐さんのところへ行ってしまった。
……本当に、何も特別なことはしてないのだけど、それが彼女たちにとっては特別なことなのかな。
さて、蔓姫姐さんの部屋は陽の光が一切入らない北側だ。
冬になってからは南の部屋も寒くなるのだから、あの部屋はもっと寒いのだろう。
特別に誂えてもらった玉子酒を盆に乗せて姐さんの部屋へ向かう。

「姐さん、入るね」

返事を待たなくても大丈夫だろう、愚図は嫌いって言ってたから逆に怒られちゃう。
部屋に入ると、見たことのない格好をした姐さんと、知らない男の人がいた。
あ、姐さん髪を下ろしていても綺麗。
姐さんは珍しく慌てたような表情を見せると、男の人の顔を窺うように視線を向ける。

「堕姫、彼女は?」

「私の新造です。あの、無惨様……」

「お前には及ばないが美しい子だね」

「ええ、ええ!──私の傍に置きたいのです」

姐さんが丁寧な言葉で男の人に頭を下げた。
なんだろう、綺麗な男の人。
人の領域から外れたような、そんな、魅力。
姐さんに似てる、いや、姐さんが似てる。
おいで、と男の人に声をかけられる。
持っていた盆を壁際に寄せて急ぎ足で男の人の前に座り、頭を下げようとした。

「顔を見せて」

けどその言葉に頭を上げて、まっすぐに男の人を見る。
綺麗な人、こんなに綺麗な男の人もいるんだ。

「君は、堕姫のように美しく強い鬼になれそうだ」

そんな言葉と姐さんの少し嬉しそうな顔。
それを最後に目の前が真っ暗になった。
──今思えば、あれは人としての最後だったかもしれない。

20180205
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