002-1(1/2)
「出口よ」
「もう、って感じだね…」
「やっとの間違いだろ。もう土くせえ場所はうんざりだ」
いやいや、あたしにとってはもうだよ。…二人と別れたくない。どうしよう。
002
『一歩、また一歩と』
二人と交わした契約は渓谷を抜けるまで、だったし仕方ない。
今からチーグルの森に向かえば間に合うかなぁ…。
なんて考えながら、重たい一歩を踏み出して二人に向き直った。
「それじゃ、あたしはこれで」
「あ、待って。今報酬を渡すから…」
「大丈夫大丈夫! 一人でここ抜けるの心細かったんだ。…それに、辻馬車に乗るんでしょ?」
「でも…」
大丈夫だよ、と財布を持つティアの手をぎゅっと握って笑いかけた。握っちゃった。
うーんと、この後はチーグルの森に行って、次はグランコクマかな?
ライガ・クイーンと、ティアのペンダント。どっちも大事だ。どうにか出来ることなのに、何もしないなんてことはしたくないし。
二人に別れを告げようと結った口を再び開いた瞬間、川辺の方の茂みがガサガサと揺れ始めた。
咄嗟にルークの前に立ってナイフを構えながら、茂みの向こうを睨みつけた。
「うわっ!」
「…あ。ごめんなさい。魔物かと思って…」
「あんた達、漆黒の翼…じゃないみたいだな」
茂みから現れたのはバケツを手に持ったおじさんで、多分辻馬車の馭者だ。
胸を撫で下ろしながらナイフを仕舞っていると、ティアが漆黒の翼? と首を傾げた。
「この辺を荒らしてる男女三人組の盗賊団だよ」
「…フン。俺をケチな盗賊野郎と一緒にすんじゃねぇ」
「…そうね。相手が怒るかも知れないわ」
「あのなっ!」
「…ふふふ」
「おい、笑ってんじゃねぇ!」
このやりとり、知ってるなぁ…。
つい顔が緩んで笑い声を上げてしまうと、ルークに怒られてしまった。……役得。
ぷんすか怒るルークを宥めている間にティアが馭者のおじさんと話を進めていてくれていて、首都まで乗せてもらえることになったみたい。
──さ、あたしも行かなきゃ。
ティアのペンダントのことは心苦しいけど、絶対取り返さなきゃね。
「良かったね、二人とも。…それじゃああたしはここで……ぶぇっ」
名残惜しい気持ちを押し殺しながら二人に背を向けて一歩踏み出した直後、上着のフードが後ろに引かれて首が締まった。
ティア…はこんなことしないだろうし…。
そこまで思考を巡らせて、つい顔がニヤけた。慌てて締りのない顔を整えてからルークを見上げる。やばい、またニヤけそう。
「…どうしたの? ルーク」
「……」
あれれ、だんまり…?
じいっと見つめられたまま、沈黙が流れる。目が逸らせない。何これ、生殺し?
「ちゃんと言わなきゃ分からないよ、ルーク」
へにょん、と効果音がつきそうなくらい柔らかく笑って見せると、一瞬目を見開いたルークが、真一文字に結っていた口をもごもごと動かし始めた。
それがちゃんと言葉になるまで待って、もしかしたら、なんて期待をしてしまう。
フードから手が離れた。ちょっと残念。でもこれで身体ごと振り返ることができた。
「……よ」
「へ?」
「ッ、だから! お前、俺の護衛になれ! 報酬だって欲しいだけやる。いいな?」
その意味を理解した瞬間、口から出そうになったのは、マジすか。だってそんなの、願ってもないことだもの。
タタル渓谷で出会えたことと自分の戦闘スキルに感謝しながら、ルークの言葉に大きく頷いた。
「分かった。必ず守るよ。約束ね」
「…ああ」
笑いながら左手の小指を突き出すと、ちょっと驚いた顔をしながらも指を絡めてくれた。幸せ。
顔が綻ぶのを感じながら一連の流れを見守ってくれていたティアを見上げると、にこりと微笑んでくれた。え、なにそれ嬉しい。
「…おじさん。三人、乗ります」
「ああ。じゃあ、36,000ガルドだよ」
満面の笑みで言うおじさんの言葉に、ティアが高い…とぽつりと呟いた。
確かに、若い子にはでかい出費だよね。
「首都に着いたら親父が払うよ」
「そうはいかないよ。前払いじゃないとね」
「…」
その会話を耳にしたティアが眉間にシワを寄せながら俯いた。
ティアはこうなることを予想してもいなかっただろうけど、こうなったのは自分の責任だから、なんて考えているのだろう。
意を決したティアが首の後ろに両手を回したのを見て、その手をそっと抑えた。
潤んだように見える瞳が揺れていて、安心させるように笑いかけてから首を振って見せた。
「ダメだよ、ティア」
「え?」
「ここはお姉さんに任せなさい」
「…お姉さん?」
ティアの素朴な疑問に続けて、ルークがそんなの何処にいんだよ、と憎まれ口を叩いた。
……き、気にしてないもん。
二人の言葉が聞こえなかったフリをしながらおじさんに代金を支払ってドヤ顔をした。
「大人の懐は温かいものよ」
…呆れ顔をされた。え、なんで?
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