星に涙は流さない
三人で話し込んだ後。学園のお昼ご飯をアオイちゃんからご馳走になった。BPなんて持ってないし、現金はいざという時のために残しておくべき!そう力説され折れてしまった。金銭感覚しっかりしてるなぁ……。ブルレクに参加できるようアプリ送っとくわ。そんでオイラたちと集めりゃあっという間にBP貯まるぜ!カキツバタも抜け目がない。
カロリーダイナマイトな食事を終えたら元気が出てきた。筋肉痛の体を叱咤し午後の授業に参加させてもらうことに。授業を担当する先生も快く受け入れてくださった。
授業内容はコーストエリアでポケモンの生態について。生息する地域により姿が違うポケモンもいる。それをリージョンフォームと呼ぶ。パルデアでもそういう子がいたな、と思い出す。最初に「おや?」と思ったのはウパーだ。私が知っているウパーの体の色は水色。しかしパルデアのウパーは土色。進化したら毒タイプもついてしまう。進化先のヌオーに至っては名前が違った。ドオー。姿が違えば名前も変わってしまうんだと驚きに驚いた。
直近でプレイしたガラルにも知っている姿とは違うポケモンがいた。ニャースがいい例だ。それにニャースはアローラという地方でも姿が違うらしい。カントーにガラルに、アローラ。三つも違う姿を持っているなんて。カントーの姿を見慣れている私にとって、別の姿はそりゃもう衝撃だった。進化先はペルシアンじゃなくてニャイキング!驚くってレベルじゃない。
さらに衝撃を受けたのはアローラナッシー。なに、あれは、何……?
「とっても興味深い授業だったね……!」
「ツムギ、目ぇキラキラさせてたもんなぁ」
「元となる姿、ってどこの地方なんだろうね」
「わかる!気になるよね!私はカントーの姿が全ての原点だと思ってたんだけど……ナッシーはアローラのナッシーがナッシー族の祖先だと知って自分の常識が覆ちゃったなぁ!」
「奥が深ぇだろ、ポケモンってのは」
「うん、今まさに実感してる……!」
まだ見ぬ地域にも、きっと姿かたちは違うけど同じ名前を持ったポケモンがたくさんいるんだろう。確かにこれは研究したくなるし生態を調べたくなる。どのようにたまごから生まれてくるかというのも、どんな場所で暮らしているのかも、人と共生していくためにはどうすべきか、というのも……全部全部、興味がわくし授業で先人たちの努力を目の当たりにすると尊敬の念を抱きまくる。ポケモンの世界の博士って本当に偉大だ。
三人で連れ立ってコーストエリアを散策していると、後ろから声をかけられた。
「こんにちは、アオイちゃんにカキツバタ。お二人ともコーストエリアで授業だったんですね!……あら?そちらの方はどなたですか?」
「おーす、タロ」
「タロちゃんこんにちは!」
タロちゃん。タロちゃんだ!ピンクのボブヘアーにパッツン前髪がベリーキュートな、まさにフェアリーなタロちゃん!本物だ。ここは第一印象として自己紹介が肝心だ!よし!
「初めまして、タロさん。私はツムギと申します。昨日からこちらでお世話になっています」
「……タロさん?」
「……タロさん??」
「何か文句があるのかい年下ども」
いきなり敬称なしで呼ぶの無理くない?我、社会人ぞ?初対面での敬称は基本ぞ?カキツバタとアオイちゃんには初っ端で砕けてしまったけど。くっ、説得力がない!
「だってさ、タロちゃん。可愛くないよね」
「ええ?じゃあ、タロちゃん、さん?」
「謎にある心の壁ぇ!!」
「シャラップツバタ!」
「ふふ、ツムギさんですね。よろしくお願いします!うーん、そうですねぇ。敬称をつけてくださるのは礼儀正しくて私的にはとっても素敵だと思います!ですが、仲良くさせていただくためにもここはひとつ、ちゃんを付けて呼んでくださると嬉しいです!」
「そ、それでは、タロ……ちゃん?」
「はい!ツムギちゃん!」
か……っわいい……。今なんかキラキラしたの飛んでこなかった……?可愛いの致死量を浴びてる……。私はいずれ可愛いに命をやられる。タロちゃんをタロちゃんと呼べる幸せよ!
最高。連れて来てくれてありがとう、次元ぶち抜きポケモン。誰か知らないけど。
私がブルーベリー学園へ来た理由は、仕事に疲れた社会人が改めてポケモンに触れ、さらには知識を増やすためにやって来た。……ということにした。どうやらカキツバタは校長へもそんなニュアンスで伝えたらしい。開き直って宝探し、でもいいんじゃない?いや、そうか。そうすると私がここから離れづらくなる……とか、そういう配慮もしてくれてる?
説明を終えると「なるほど」と納得してくれるタロちゃん。
「ここ、コーストエリアは私が管轄しているエリアなんです。知りたいこと、可愛いポケモンのこと、何かあればいつでもお話を聞きますよ!」
「ありがとうございます!可愛くて心強いです!」
「ツムギはもう誰を見ても可愛いって言うんじゃねえのかい?」
「カキツバタには言ってないけどね」
「ちょいちょい心抉るの止めてくれーい」
「アオイちゃん。あの二人……なんだか気安いですよね?」
「そそ。昨日からあんな感じだよ」
「アオイちゃーん!次の授業はどこかな!」
「はーい!次はキャニオンエリアでーす!」
「はっ、てことはもしかしたらネリネさんにも……偶然、こうして出会えたりする……!?」
「ネリネにもさん付けすんのかい」
「社会人って大変だねぇ」
「ちゃん付けでいいなら呼ぶが!?いや、自己紹介はしっかりしたいから敬称つけるよ!」
「ふふふっ!面白い方ですねぇ」
私たちのやり取りを見て微笑むタロちゃん。
はわわ、天使かな?天使だったか。やっぱりな。
タロちゃんと挨拶を交わしてから別れ、次の授業があるキャニオンエリアへ。こちらのエリアでの授業は進化の過程についてを学ばせてもらった。これもまた興味深い内容で。
バルキーは三つの姿に進化できる。エビワラーにサワムラー、そしてカポエラー。この三つ。その進化の分岐点はどこか。……確かに気になる。野生のバルキーは環境に応じて進化する。トレーナーの元に居るバルキーはトレーナーの意思に応じて進化する。防御より攻撃が高ければサワムラーに。攻撃より防御が高ければエビワラーに。攻撃と防御が同じ値ならカポエラーに……といった具合だ。トレーナーの望むように進化先を調整できる、できてしまうわけか。
さらにシビシラスがシビルドンへと進化する過程、なぜストライクはハッサムへ進化するのか。エレブーやブーバーが進化に道具を必要とする理由。エトセトラ、エトセトラ。
目から鱗な話を聞けて、なおかつ生態も知れる。ポケモンってすごい。
「人は……単純な生き物だね……」
「どーしたどーした。悟りを開こうとしてんのかい?」
「ツムギちゃんの言いたいことはわかるよ〜」
午後の授業を終えて放課後、今度はリーグ部へと向かう。キャニオンエリアでネリネさんと出会えなかったのを残念そうにしていたからか、リーグ部になら顔を出すはず!と連れてきてもらえた。わがままを言って恥ずかしいが、会いたいのも事実なので甘えることにする。
二人の言葉通り、部室へ入るとネリネさんとアカマツくんがいた。さらには先ほど出会ったタロちゃんもいるし、なんとゼイユちゃんとスグリくんもいるではないか。
やっばい、ブルベリーグの主要メンバー勢揃いだ……。
緊張する私を尻目に、カキツバタが力強くグイグイ背中を押してみんなの前へと誘導する。こういう時に力が強くなるのはなんでなの!カキツバタとアオイちゃん、そして謎の人物である私が近づくと初対面である面々は首を傾げて見つめてくる。決して怪しい者では……!
……確かに怪しさしかない、と自負はあるけども!
「はいはい、三天王とキタカミ姉弟はちゅうも〜く!ほい、ではどうぞ」
「お膳立てが手厚い。ええと初めまして、こんにちは!私はツムギと申します。昨日からブルーベリー学園でお世話になっています!突然の訪問で驚かせてしまいすみません。決して怪しい者ではないので、何卒よろしくお願いいたします……!」
すぐ後ろにいるカキツバタが「かてぇ挨拶ぅ」とこぼすが固くて何が悪い。我、社会人ぞ。
「礼儀正しい人、ネリネは好ましく思います」
「ネリネさん……!ありがとうございます!」
「ネリネはこの学園の生徒会長でもあります。困ったことがあれば、あなたの後ろにいる人物が煩わしいのであれば。いつでも頼ってほしい。ネリネが必ず力になります」
「えっ、キュンとしちゃう……」
「後ろにいる人、ってオイラのこと?」
困惑声が耳に届くが、日頃の行いだよ。きみぃ。
「あ、あの!ネリネさん。ちゃん、を付けて呼ばせていただいても……?」
「?はい、構いません。口調も無理に合わせることは不要」
「恐縮です!じゃない、……ありがとうネリネちゃん」
嬉しくて締まりのない笑顔を向けると、小さく口角を……上げてくれた。
す……好ゥーーーー!!わかる?ネリネちゃんの小さな笑みがすんごい可愛いのわかる?わからんのか?幻覚?私には見えたぞ?もう一回藍の円盤やり直してこいっ!!
ネリネちゃんにキュンキュンしていたらフライパンを持った少年がにっこり笑顔で近づく。
「オレはアカマツ!オレのことも呼び捨てていいぞ!」
「アカマツくんはアカマツくんですね!」
「?どういうこと?」
「深く考えなくても大丈夫です!」
「ところでツムギ?は、激辛料理食べれるか?今度作ってやるからな!」
「ありがとうございます!……できれば辛さは控えめで!」
「もちろんいいぜ!これからよろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!」
太陽。太陽を背負う男だ。笑顔が眩しい。激辛料理、か……!胃がやられないレベルの辛さで作ってくれるとありがたいな。社会人の、いや、私の胃は辛さに弱いぞ。
四天王の皆さんとは挨拶を交わせた。次に目が捉えたのは……スグリくん。
ガバッ!と飛び出して抱き着きたい欲求をなんとか抑える。やめろ、急に私が抱き着くのはアウトな行為だ。絵面的にもアウトだ。やめておけ。
「……っスグリくん!」
「わ、わやっ!?」
「頑張ったね。本当、……すごく、成長したねえ……!」
「……へ?」
「はっはっはー、親戚のおばちゃん感がすげえ」
「カキツバタ倒したのは純粋にすごいし、頂きへ駆け上がるための努力もすごいし、アオイちゃんと張れるバトルするのとっても格好良いよ……!」
「え、と……?ありがとう、こざいます……?」
「私はわかる、わかるよツムギちゃん!」
「うっうっ、こんな私ですがよろしくお願いします……」
「よ、よろしくお願い、します。……??」
「後で握手させてね……」
「情緒!こりゃあ親戚のおばちゃんで違いねえや」
不審に思わせて、ドン引くくらい戸惑わせて申し訳ない。スグリくんに関しては今でも情緒不安定になるのよ。私が。きみの成長が著しすぎて。涙なしには語れないんだよなあ。スグリくんが視界に入るだけで涙腺が緩んでしまう。私が落ち着いたらぜひお話をさせてね、ちょっと時間かかるかもだけど……。
最後にチラリとゼイユちゃんを見る。
「ほんと、お綺麗ですね」
「アンタいきなりなに?まあそれほどでも!あるわね!!」
ゼイユちゃんの性格めちゃくちゃ好きよ。ゼイユちゃんがいなかったら今作のDLC、アホほど鬱ってたと思う。姉風吹かすところも弟想いなところも全て引っくるめて好き。
画面越しでも思ったけどマジで整っている。美人さんだ。強気で勝気なお顔。スラリとした体型で、でも細すぎずガタイが良いわけではなく。長く艶のある髪。本当に綺麗な人だ。
「ゼイユちゃん」
「よ、呼ばれ慣れないわね……」
「照れる顔が可愛いからちゃんを付けて呼ぶね」
「あんたなんなの?」
「こいつが可愛い?ただのモンスターボール見ても可愛いって言うんじゃねぇのかい?」
「喧嘩売ってんなら買うわよカキツバタァ」
「買っても負けちまうだろう?」
「キーッ!スグ!倒しておやり!!」
「なんでオレが」
「姉の敵討ちよ!」
「ほーら、やられる前提で話してる」
眉を吊り上げて吠えるゼイユちゃんと、ヘラリと笑って煽り散らすカキツバタ。
ありがとう、ブルベリ界のトムジェリ、ありがとう。仲良く喧嘩しな。この二人のやり取りで救われるオタクがここにいます。拝んどこ。
突然現れた私の自己紹介……挨拶もそこそこに、リーグ部のパイプ椅子へ各人が座り、会議という名の話し合いが始まる。部員の皆さんも各々活動を始めていた。もちろんアオイちゃんやカキツバタも部の重要人物だから会議に参加するのは当たり前だ。そうなると部外者である私は手持ち無沙汰。……そもそも部員ではない私がここに居ていいの?そっと部屋から出ようとすればカキツバタに手を取られた。「どこ行くんだ、ツムギちゃん?」ですって。私は部員じゃないし会議の内容を聞くわけにもいかないから外で待ってるよ、そう答えるとカキツバタはみんなに向き直る。
関係者ではない“私”が部室にいてもいいか?
……会議前に余計な話し合いをさせて申し訳なさすぎる。カキツバタの提示に、会議中は席を外してほしい派と、まぁ別にいいじゃん?派に分かれた。よく意見が分かれるなぁ。でもお互いに意見を言い合って、お互いの意見を聞いて。最後には話がまとまる。……色々あったけど良い部になったね、と人知れず微笑んでしまう。
私、マジで親戚のおばちゃんみたいだな。
話し合いの結果、少し席を外すことになった。そりゃそうよ。部員ではない私がリーグ部に居ていいわけがない。納得の結果です!心配そうな表情を浮かべるアオイちゃんに大丈夫だよ、と声をかけてリーグ部を後にした。
さて、どこで時間を潰そうか。学園内を散策してもいいかな。
「ツムギちゃん」
名前を呼ばれて振り返る。呼んだのは……カキツバタ。
「どうしたの、会議は?出てきちゃダメじゃん」
「オイラ一人いなくても大丈夫。しっかり者の多い部なんでね。安心してサボれる!」
「カキツバタがいるからまとまるんでしょ?」
「まとまりを引っ掻き回すこともあるぜぃ!」
「胸を張って言うセリフじゃないからね!」
購買部を覗いてみようかな。下着とか部屋着とか欲しい。っと、その前にBP集めが先かぁ。ロトムに学園のマップを開いてもらって購買部の場所を確認する。とりあえず見に行こう。歩き出せばカキツバタは無言で私の後を着いて来る。
「……カキツバタ」
「んー?」
「心配しなくても、逃げないよ」
「……ん。悪いな、監視みてぇに着いてって」
「みたいじゃなくて、そうなんでしょ?」
「わかっちゃう?」
「ここまでつきっきりだと、ね」
笑って見せれば肩を竦ませるカキツバタ。やっぱりね、当たりだったか。ということは、ライモンシティに居合わせたのも偶然じゃない可能性が高いな。
私はこの世界の異分子で不安要素……だもんね。
「カキツバタ。私、ここに居ていいのかな」
「もちろん。朝の言葉に嘘はないって」
朝の言葉。“「一人にはしねえよ」”……かな?
「そっか、……うん。ありがとう。でも本当にみんなの迷惑になりそうなら早めに言ってね。ちゃんと出て行くからさ!」
「……ツムギ、」
「ふふふ!困った顔はレアだね。そうだ、一緒に来るなら行きたい場所があるんだけど!」
疑問符を浮かべるカキツバタの右手を取った。そして、ニッと笑う。
今から向かうのはポーラエリア!他の三つのエリアは実際に歩いて体感したけど、ポーラエリアだけはまだ行っていなかった。そしてカキツバタはそこを管轄している。手持ちポケモンたちも強いし、案内人としても護衛としてもピッタリってわけさ!
そう伝えると、お付き合いしますよ。どこへなりとね。そう言ってくれたので遠慮なく! 今度はちゃんと空飛ぶタクシーを使い、センタースクエアへ。到着はとても早かった。サバンナエリアから一時間以上歩かせたカキツバタは鬼畜だ。当の本人は笑っている。おい。
深々と雪が降り続くポーラエリア。一歩踏み入れただけでもう寒い。
「上着がないとツラいよな!」
「カキツバタだって半袖じゃん」
「オイラは我慢できっから!」
「我慢してんのかよ〜!長袖着なよ!」
腕をさすって寒さを誤魔化して、誤魔化し……、いや、無理だって!寒いものは寒い!
ポーラエリアへ入ったものの、もう一歩を踏み出せないでいた。するとカキツバタはどこからか冬服のブルーベリー学園の制服を取り出した。それを私へと差し出す。……その制服、どこから出したの?そしてなんで自分で着ないのか。
「ほい、どーぞ」
「カキツバタが着なよ」
「オイラはこのジャージが好きなの」
「前全部閉めてるくせに!」
「隙間風対策ってやつよ!」
「……よくわからないけど、着ていいのね?」
「おうとも」
受け取ると急いで羽織った。一枚羽織るだけで寒さが全く違う。暖かさすら感じるし冷たい風も凌げている、気がする。ほっとひと息。
このジャージの長袖作ろっかねぃ、と震えるカキツバタ。我慢せずに着なってば……。
気にすんな、と言うからもう気にしない。なんとか歩き出して氷ポケモンや雪のエリアに住むポケモンたちを観察する。パウワウにラプラス、クマシュンやユニラン。寒さなんて関係なさそうに水中へ潜ったり雪の上を滑ってみたり。
もっと上の方へ行ってみたい。と頼めばカイリューを出してくれた。出てきたカイリューに挨拶をするとにっこり笑ってひと鳴き。そしてなんと抱きしめてくれる。大きな体で、優しい抱擁。私もそっと腕を回してみる。全然腕は回らないけど……。どうやら嫌がられてはいないみたい。それが嬉しくてもう少し擦り寄ってみた。可愛い。カイリュー可愛い……。暖かい……!
「オイラもオイラも!」
「ちょ、なに、割って入ってこないで」
「なんだよ、オイラのカイリューだぞ」
「カイリューから抱きしめてくれましたぁ!」
「なんだとぉ!浮気かカイリュー!」
「リュ!?リュリューウ!」
「カイリューを困らせるなコラァ!」
スパッと離れた。私が。面倒くさいヤキモチを妬くんじゃないよ!ご主人が一番に決まってるでしょう!優しいカイリューを困らせるのは許せないぞ。あと、勝ったぜぃ!みたいな顔もやめて。自信満々にドヤるんじゃないよ。
カイリューの背中に乗せてもらう。人間が二人乗っても動じない。びくともしないなんて、頼れるなぁ。ちなみに私が後ろで、カキツバタに抱き着いている。致し方なし。
飛んでもらって着いたのはポーラエリアで一番高い場所。連れてきてくれたカイリューにお礼を言い、雪を踏み締める。喉を刺す冷たい空気。吐いた白い息は風と共に消えていく。
「どうしてここに?」
「高い場所からドーム全体を見たかったから、かな。すごい景色だね。絶景だ……」
「だろ?ここは空気も澄んでる……気がするよな。管理されてるから空気は同じだけど」
「澄んでるよ。こんなに寒いんだもん」
「寒いよなぁ」
「寒いねぇ」
そこから会話は途切れた。静かに夕暮れが迫る。一日が終わっていく。時が流れるのは早い。
各エリアの休憩所の明かりがぽつぽつと灯り始めた。
天候は晴れ。気候は冬。見上げると薄暗い空に輝く星。ここは海中だから星空も投影されたものだと思う。それでも、とても。とても幻想的だった。
「……ツムギはさ、ちゃんと言えよ?」
「言う?なにを?」
「会いたい奴がいるなら、そう言えよ」
「言わないよ。会いたい人もいないから」
「我慢は良くないんだろ?」
「それは服の話ですー」
「そうだった。そうじゃないけど」
「……優しいんだね」
「責任感ないだけなんだなぁ、これが」
「カキツバタはもったいないね」
「そう?」
「そう。なんで三留したのかねぇ」
「ね。なんでかねえ。……ツムギに会うため、だったのかもしれねえなぁ」
「ふふ、なにそれ」
静かな会話に頬が緩む。
「ツムギちゃん、」
「なんだいカキツバタくん」
「手。繋いでいい?」
「握手?」
「そりゃもうしたでしょ。はい、おてて出して」
「私の手、冷えてるよ」
「オイラも冷えてるよ」
カキツバタの左手と私の右手が繋がる。誇張なく、冷たい。もちろん私の手も冷たい。
ポーラエリアにいるとあっという間に夜になった。その辺りも徹底しているんだと感心。
「冷えますねぇ」
「冷えるねぃ」
「カキツバタはココア好き?」
「エネココア、だーいすき」
「私も飲んでみたい。ずっと気になってたの」
「そんならオイラが特製のを作ってやるよ」
「すっごい甘いんでしょう?」
「あたぼーよ。マシュマロも乗っけるぜい」
「最高。……戻ろっか」
「満足した?」
「うーん……。流れ星は流れないんだっけ?」
「……ああ、それが目当てだったのか」
ゲーム内でもテラリウムドームの夜空だけをずっと眺めたことがないから分からないけど。ここでも、人工であっても、流れ星を見たかったな。……なんてね。実際の夜空でさえ見たことはない。それこそ、流星群がこない限り簡単に見つけられないだろうなぁとも思っている。
「なにを願うんだ?」
「そうだなぁ。ふふふ、ひーみーつ!」
「あ、オイラの専売特許を!」
「カキツバタは口軽いし」
「軽いんじゃなくて緩いの」
「それはそう。こういう時に言うのは恥ずかしいんだけど、……ありがとね、カキツバタ」
突然なんだ、という顔を向けるカキツバタ。
「監視とはいえ側に誰かがいるのって安心するんだな、と思えたから。こんな寒い夜ですし」
「……一人は怖くて寒いの、よくわかるからな」
「だから、ありがとう。なわけです」
「ああ。どういたしまして」
んじゃあ、そろそろ学園の方へ帰っかい!……うーわ。これ見ろよ、このアオイとゼイユからの鬼電。オイラはこっちの内容を聞くのも怖ぇや。
そう言われてスマホを確認していなかったのを思い出す。ロトムを呼べば震えている。寒いところは苦手そうだもんね。ごめんよロトム。画面を開いてもらうと……わぁ、私の方もアオイちゃんからの着信数がすごいことに!
放課後、リーグ部の出来事からだいぶ時間経ってるしな。心配させたかな。素直に謝らなきゃ。
手を離してもらって距離を置く。センタースクエアへ戻るためにカイリューを出すと思ったからだ。その予想通り、ほい、とボールを放れば元気いっぱいのカイリューが。可愛い。
「ツムギ、今度は前に乗って」
「えっ、落っこちない?」
「オイラが支えてやるって」
「……暖を取るつもりだな?」
「ヘッヘッヘ、ご明察ぅ〜」
こいつ。リーグ部でポーラエリアは長袖必須、とかそういうルール作るべきじゃないかな?タロちゃん、ネリネちゃん、スグリくんの真面目に、真剣に考えてくれる三人に話してみよう。提案だけなら聞いてくれるはず……!
カイリューの背中に乗る前に声をかけて跨った。ほんのり暖かい。後ろにはカキツバタ。
「よーし、カイリュー!しゅっぱーつ!」
リューウ!元気な鳴き声をあげて宙に浮く。羽ばたく音はとても大きいが、縦にも横にも揺れはほとんどない。背中に人を乗せ慣れてるんだろうなぁ。賢くて優しい子だ。
「あのさ、ツムギ」
「はーい?」
「一人になりたくなったら、またここへ来るか?」
「うん、そうしたいかな」
「放っておけないからオイラと一緒だけど」
「それじゃ一人になれなくない?」
「寒いから一人にはしないのー」
「意味わかんないけど、わかった!ありがと!」
「おう、オイラも、ありがとなぁ」
「なんでカキツバタがお礼言うわけ?」
「あまり深くツッコまないでくれーい」
ぎゅう、と後ろからお腹に腕が回り抱きしめられた。お、思ったより強めにくるな?そして徐々に前へ体重をかけてるような……。体重、かけてきてるなこいつ!?
落ちる落ちるー!そう叫べば「大丈夫だって。信用してくれぃ。だあーいじょーうぶ!」と、信用していいのか怪しい“大丈夫”が返ってくる。
私に気を許していないからこそ、私が気を許せる。監視役がカキツバタでよかった。
「ところで、アオイちゃんとの放課後バトルは?」
「おっと。そういやあ約束してたねぃ。現チャンピオン様が激おこってないといいけど」
「鬼電の時点で怒ってるの確定でしょ」
「だよなあ」
「一緒に謝ってあげようか」
「お!持つべきものはキョーダイ!……頼む……」
「おふざけゼロの声色じゃん」
その後、リーグ部へ戻り一緒にアオイちゃんやゼイユちゃんに謝った。やはり心配をかけていたようで「二人とも通知をサイレントモードにしないで!」とプンプンしている。確かに。それは本当に、ごめんなさい。カキツバタに至っては、タロちゃんネリネちゃんアカマツくんにまでも怒られていた。結局怒られちゃったね……。反省。
◇ ◇ ◇
ブルーベリー学園へ来てから二週間が経つ頃。私は厨房にいた。サンドイッチは好きだし、学食も嫌いじゃない。嫌いじゃない……が。どれもこれもカロリーダイナマイトすぎる。そうじゃない、私には足りないのだ。そう、白いお米が。お米を食べたくて食べたくて、厨房の人に頼み込んでお米を炊かせてもらった。そしておにぎりを作って食べた。美味しい。白米を食べたことで幸せホルモン分泌しまくりだ。塩だけしかつけてないのに、とても美味しい。
つまりお米がめちゃくちゃ美味しいってこと。
おにぎりに厨房のスタッフさんたちが興味津々で集まってきたので、小さめの塩おにぎりを握って差し上げた。するとこのおにぎりを気に入り、朝か晩で学食のメニューの一つとして提供したいんだがここで働かないか?と相談された。もちろん時給換算でBPを払うから、と追撃で言われてしまえば断る理由はなくなり、了承した。寮生たちも結構食べてくれる。中の具材を日によって変えてみたり、これが意外と……なかなか楽しい。朝は相変わらず起きれないので、晩に働かせてもらっている。程よく疲れるし、働いていることでやりがいも少し感じ始めていた。うん、私は大人だと再確認できて非常に良い!問題なし!
朝から夕方までは授業に参加して、夜は厨房で働く。なんとなく大学生活を思い出させた。
そして今日はついに、ポケモンを捕まえに行く。
アオイちゃんに付き添ってもらい各エリアを巡る予定だ。ブルーベリー学園の野生ポケモンは軒並みレベルが高い。捕まえるのには自分もポケモンを持っていないと厳しい。さらに例え捕まえることが出来たとしても、高レベルのポケモンはジムバッジを持っていないとトレーナーの言うことを聞いてくれない。ちゃんとゲーム内のルールを遵守してるなぁ。
この状況の中、はたして捕まえることはできるのか……?
なつき度で進化する子でもレベルが高い。最終進化している子は論外。そうなると、進化前で尚且つ、三段進化する子が望ましい……と、考えた。アオイちゃんも賛成してくれている。
「ヒトカゲか、モクローか、ケロマツかなぁ」
「うん、いいと思う!御三家が安心だよ!」
「だよね。ニャオハもいいなあ……と思ったんだけど。アオイちゃんの手持ちにいるからね」
「この子、絶対ヤキモチ妬くよ。絶対!」
「甘えてくれなくなるの寂しいから除外……!」
さて、どうしよう。草むらに隠れて野生ポケモンたちの動向を見つめる。どのポケモンも、いつ見ても、彼らは間違いなくモンスターだ。
手持ちが一匹もいない私がどうやって捕まえるのか。草むらに隠れたまま目当てのポケモンに近づいて死角からボールを投げる!これ一択です。運良く捕まれば万事解決。捕まらなくて、こちらに襲いかかってきたらアオイちゃんに追い払ってもらう。
あの辺、突然頭に何かが飛んでくるのよね。地味に痛いし近づかんとこ。と、ポケモンたちが寄ってこなくなったら場所を移動する。
サバンナエリアでヒトカゲとモクローを見つけ、ボールを投げ、捕まらず。コーストエリアへ移動してケロマツやアシマリの死角からモンスターボール!を投げても捕まらず。
一つ安心したのは、捕まえられなくても襲いかかってこなかったことだ。ほとんど「??」という顔をして離れて行った。頭にポコンポコンぶつけてごめんよ……。
「この辺り、出てこなくなったね。ポーラでポッチャマ狙ってみる?」
「そうだね、警戒されちゃってるし……。ポーラも見て回ろっか」
「ヒノアラシとミジュマルもいるよ!」
「いいね!御三家みんな可愛いんだよな〜!よし、移動しよう。アオイちゃんお付き合い感謝だよ……。ポーラエリアはすぐそこだし、歩いて向かおうか……」
視線を上げて、コーストエリアとポーラエリアの境目に目を向けた。光るブロックの近くで一匹のモンメンがふわりと通って行く。その子の行く先が気になって目で追えば、突然の強い風に煽られたのかポーラエリアの方へ飛ばされた。コーストエリアの温かい海ならまだしも、ポーラエリアの冷たい海に落ちたらどうなるのか。水ではなく氷に近い水温。草タイプのモンメンでは、落ちたら綿が濡れて身動きが取れなくなっておそらく、凍る。……そして。
ダメだ、危ない。助けなくちゃ。
「こっちの砂浜だとポーラ側に足場がないから、あっちの方へ……え!?ツムギちゃん!?」
アオイちゃんに声をかけて任せたらいい。彼女の手持ちには素早さがピカイチのファイアローがいる。マスカーニャを出してもきっと助けてくれる。頭ではわかっていた。わかっていたのに私の体は勢いよく飛び出して、駆ける足も止まらない。
全速力で走りながらポケットに入っていたスマホをコーストエリアの砂浜へ向けて投げた。急に放り出されて驚いたロトムが急いで宙へ浮かぶ。
「ツムギ!?」
「乱暴してごめんロトム!モンメンを捕まえてそっちに投げるよ!キャッチして!!」
「ロト!?モンメン!?何が起こって……、待つロト!そのまま行けば氷の海にっ」
「お願いね!私のロトム!!」
砂浜を蹴り、光るブロックを強く踏み込んで水面に触れそうなモンメンを、ギリギリ片手で捕まえた。そのままの勢いで腕を大きく振り、コーストエリアの方へ思いきり投げ飛ばす!頼むから届いてほしい!
氷の海にざぶん!と沈む。遠くでロトムとアオイちゃんの叫ぶ声が聞こえた……気がする。
我ながら無茶をしたな、なんて冷たすぎる海中で思う。過去一で全力ダッシュした。よくこんな力が私の中にあったもんだ。そりゃあ、だって。見過ごせなかったから。例え私に関係のない野生ポケモンでも。片手で捕まえた時のモンメンは、微かに震えていた。ポーラエリアの海に落ちた後、自分の身がどうなるのか……わかっている震えだった。
……うん、助けてよかった。ここに落ちなくてよかった。
冷たすぎる海では体が痺れて動かしづらい。氷を含む海水は皮膚に突き刺さってくるような感覚。もはや痛い。皮膚という皮膚がビリビリしている。これもちゃんとテラリウムドームの環境が整ってる証拠だ。体を張って体験するもんじゃあ、ないけどね……!
肺に残っていた空気が口からゴボリと溢れ、意識が遠のく。
泳ごうにも、もう指先ひとつ、どこも動かせない。
ああ、なるほど。これが……。
▼ ツムギは 目の前が 真っ暗に なった──。
【
戻る】【
Topへ戻る】