ベランダからこんにちは

「──りゃっ、」

 体に何かが乗ってきた。ずしっ……となかなかの重量を感じる。さらに少しずつ重さが加わってきた、ような?ぐうっ、これは重すぎる……!

「ふーりゃりゃあ!」

 可愛い鳴き声とあまりの重さに目を開けた。

「……フライゴン、?」
「ふりゃあ!ふりゃ、ふりゃりゃ」
「わ、ふふ、おはよう〜……」

 ぎゅうぎゅう抱き着いてくるフライゴン。可愛い。砂漠の精霊可愛い……。……でも重い……っ!自分からは可愛くない呻き声が出てくる。可愛いんだけど重さに耐えられなくなってきた。ああでもなぜかすごく嬉しそうなフライゴンに「どいて?」とは言えない。だって、ニッコニコで私を見てるんだもん!

「おーいフライゴーン?朝ご飯できたぞ!食べないのか?どこ行っ……ツムギー!」

 キバナさんの声が聞こえる。……ああ、そうだ。ここはキバナさんの自宅だった。キバナさんの自宅。なんというパワーワードなのか。
 潰されている私と嬉しそうに抱きつくフライゴンを見つけたキバナさんが慌ててやってきた。

「大丈夫か!?フライゴン!めっ!」
「ふりゃりゃ、ふりゃあ……ふりゃ?」
「ツムギがいて嬉しい?オレもだよ!」
「ふりゃ〜?ふりゃっ!」
「だよね〜?じゃあいいじゃん!じゃないの!!自分の重さ考えろな!?80kgオーバーだぞ!?ツムギが潰れる!はい、退いて退いて!」

 キバナさんに怒られ、不満げな声をあげて渋々離れてくれたフライゴン。すごく可愛いけどとっても重かった。
 ふりゃあ!と笑顔で手を振り部屋を後にする。お腹空いたんだね。……ということはもしかして、朝ご飯だよ!って起こしに来てくれたのかな?ふふ、優しいなあ。

 キバナさんの自宅。一軒家かと思いきや普通のマンションだった。階層は15階。住んでいるのはそこの最上階で、なんとワンフロアのみ。マンションは二重のオートロック。管理人が在住し、専用のカードキーがなければエレベーターは最上階に止まらない。非常階段のドアもカードキーを持つ住人しか開けないというセキュリティの高さ。
 身長の高いキバナさんとポケモンたちのためか、天井は普通より高く、玄関も部屋のドアも高めに設計されているようだ。
 昨夜、ご自宅へ招かれた私はゲストルームで過ごさせていただいた。ブルーベリー学園の寮も普通に広かったがこちらも広い。シャワールームが付いていない分、広く感じる。個人のマンションの一室とは思えない。高層階にある平屋のホテルだ。どういうことなの。

「ツムギ、おはよ」
「おはようございます……」
「大丈夫だった?重かったろ」
「幸せの重みでした」
「う"っ、って聞こえたけど」
「幻聴ですね」
「ははっ、調子は良さそうだな!」

 未だに寝ている私の側まで歩いてきて、ベッドの端に座るキバナさん。髪に触れて、頬を撫でてくる。優しい手つきに目を閉じてしまった。
 触り方が優しくて気持ちいい。……けど、恥ずかしい。

 眠れたかを問われ、素直に頷く。寝具の質も良い。シャワーをお借りした後ここへ沈んだら、ものの数分で寝てしまったから。お高めのホテルだわ。お高めのホテル、わからんけど。
 キバナさんは私を見つめてにっこり笑っている。

「……なんで笑ってるんですか?」
「そりゃ、オレんちにツムギがいる〜!って喜びを噛み締めたら笑みも深まるってもんだ」
「キバナさん?」
「なぁに?」
「……ふふ、本当にキバナさんですね」
「そうだよ?キバナさんだよ?本物でーす」
「ふふふ。私、ガラルへ……来たんですね」
「ああ。ようこそ、ガラル地方へ」

 顔を見合わせて、笑う。
 そろそろ起きようと体を起こせば、キバナさんがぎゅううっと抱きついてきた。重っ……!数分前のフライゴンだ!間違いなくデジャヴ!スリスリと首元に擦り寄られて戸惑う。戸惑うけど、……くっ、大型のポケモンと思えば!……可愛い!

 キバナさんに手を引かれダイニングへ向かう。ダイニングもモデルルームみたいな広さだった。シンプルな家具が多いけど、質が良いことがわかる。一般家庭で育った私でもわかるぞ……!?それでも、あちこち塗装が剥げたり溶けたり欠けたりしてるのは……ポケモンと暮らしているからこその破損、なんだろう。なるほど、これがポケモンと暮らすということか。
 朝ご飯は簡単なものしかないけど。と言われたが、基本朝はお手軽なエネルギーチャージ系しか食べない私なので、何が準備されてても感動する。
 実際感動した。ベーコンと目玉焼きが乗ったトーストにサラダ、果物。めちゃくちゃ気合いの入った朝食に目が覚める。えっ、これキバナさんが?

「……私、向こうにいた頃の食生活がまぁまぁ酷かったので……今、とても驚いてます……!キバナさんって料理できるんですね!?」
「簡単にしか出来ないよ。忙しい時なんかポケモンたちの食事以外はだいぶ手抜きだし」
「デリバリー的な……?」
「そうそう、便利だよなぁ。よく利用するよ」

 席に着くと、モーモーミルクを置いてくれる。手厚いなぁ。手を合わせて食べ始めた。
 食べながらキバナさんが今日のスケジュールを教えてくれる。今の時刻は午前九時過ぎ。キバナさんは一旦ナックルジムへ顔を出して報告。そして、昼過ぎに私も一緒にナックルジムへ向かう。そこでダンデさんに会う……らしい。ダンデさん。ガラル地方の元チャンピオン。十年間無敗の王者だった、ガラルの象徴ともいうべき存在。
 会う?私が?なぜ……?顔見知り、というわけでもないのに。キバナさんは、まぁいいから。と笑うが、良いわけない。理由を知りたいけど話してくれなさそうだ。

「シュートシティで待っててくれ、って言ったんだけど。二人とも疲れているだろうからオレがそちらへ向かうぜ!なんて言われちゃな……。……ま、来なきゃ来ないでオレと一緒に働いてるジムトレーナーたちに紹介したり、やることは色々あるからさ」
「時間通り来ない前提なのがもうなんとも……。では、午前中は外出してもいいですか?」
「あー……、うん。そうだな……」
「……外出はダメでしょうか」
「ダメじゃない、けど。オレの感情の問題というか……」
「感情の問題?言ってもらえると助かります」

 食べる手を止めて、キバナさんを見つめると気まずそうに視線を泳がせている。
 なんだろう……?

「……ちゃんと、帰ってきてくれる?」
「え?」
「急にいなくなったり、しないよな?」
「……あ。ああ、そういうことですか」

 ツムギさんのことを思い出したんだ。なるほど。過去の出来事が完全にトラウマになってるわけね……。不安そうな表情を浮かべている理由がわかった。

「キバナさん、私は元々出不精なインドア派です。家に待機してろと言われても平気ですよ」
「でもそれだとツムギの自由を奪うことになるじゃん……?良くないと思うわけで……」
「いなくならないか、心配なんですよね?」
「……そう。すっごく怖い。心配だよ」
「いらない心配ですけどね」
「え?」

 食べ終えて、こぼれてしまったパン粉や果物の皮などをお皿へ集める。……出来るだけ早く、フォークとナイフの使い方を練習させてもらおう。ガラルではフォークとナイフがメインっぽい。簡単にしか使えないからだいぶ音を立ててしまう。キバナさんは何も言わなかったけど、私がめちゃくちゃ気になったから……!逃げ道としてお箸が売っているなら買いたいな。
 ……と、キバナさんとは全く違うことを心配しているな、私は。

 お互いの食器を片付けて、お皿洗いをさせてもらう。流石にこれくらいはできる。食べるだけだったからせめて後片付けはさせてほしい。割らないよう注意も払って。綺麗な白いお皿。透明なコップ。光沢のあるカトラリー。……うーん、これはキバナさんが家事してるのかもだけど、ハウスキーパーさんを雇ってる可能性もありそう。ピッカピカじゃん……!
 手を洗って、しっかり拭いて、よし!

「寝起きでボサボサ、すっぴんでひどい顔の私ですが」
「?全然気になんないけど。可愛いし……」
「キバナさんの可愛い判定は謎ですね。ええと、まだ気持ちを信じてもらえてない感じなので行動で示そうと思います。立って腕を広げてください!」
「腕。……はい」

 ゆっくりキバナさんに近づき、広げてくれた腕の中に収まる。両腕を背中に回してぎゅうっと強く抱きしめた。

「好きな人を悲しませるような真似はしません。キバナさんが嫌いならガラルへも一緒に来ませんでした。……せっかく好きな人に会えて、同じ気持ちだと知れたのに自分からわざわざ離れることはしないです。キバナさんが思っているより、私はキバナさんが好きなんですよ?」

 ブルーベリー学園では、絶対に会わない。会えない。会ってはいけない人なんだ、と頑なに拒んでいた。……正直今も私なんかがキバナさんと一緒にいていいの?と思い悩んでいる。引け目も恐れ多いという気持ちもすごい。
 それでも、イッシュ地方まで迎えに来てくれたキバナさんを、好きという想いを伝えてくれたキバナさんを……、私は信じる。私もその想いに応えたい。

「急にいなくなったりしません。連絡もせず、帰らなかったり消えたりしません。キバナさんが私と別れたい、もう一緒にいたくないと思ったら、……そう、ですね。めちゃくちゃ駄々をこねてみっともなく縋って、すっごく面倒くさい女として記憶に居着いてやります!」
「ツムギ、」
「なので!安心してお仕事や私用のお出かけをしてください。私の帰る場所はキバナさんのところです。私の気持ちを動かせるのは、キバナさんだけです」
「ツムギ……うう、好き〜〜〜〜」

 ぎゅむむむっ!強く抱きしめ返される。うおお、圧が、胸筋と腹筋がすごい!硬い!

「……はぁ、ジム、行かなくていいかなぁ……」
「お休みは今日まであるんですか?」
「……数日ジムを空けちゃったから、仕事もそれなりに溜まってると思うし……。ワイルドエリアの巡回にも行きたいし……。宝物庫の確認もしたい……。行かないと、ダメかも……」
「ジムリーダーのお仕事、多忙そうですもんね。引き止めてしまってすみません。ここで帰りをお待ちしてますから、行ってきてください」
「…………引き止めて」
「はい?」
「行かないで、って言って!!」
「キバナさんの方が数倍面倒くさいかも」
「心の声が出てる!」
「ふふふ!っふふ、ツッコミ早いですね」

 少し離れてもらって、膝を曲げてもらう。身長が高いから何をするにもすぐバレちゃうなぁ。

「行ってらっしゃい、キバナさん」

 頬にキスをした。

「……唇じゃないのが不満!」
「歯磨きしてないので唇はダメでーす」
「歯磨きしよ!」
「必死じゃないですか」

 ──行ってらっしゃいのキスは唇だろ!?
 ──ほっぺたでもキスはキスですよ。
 ──違うぞ!その日のやる気度が絶対違う!!
 ──キバナさん、本当におもしれー男ですね。

 洗面台のある部屋へ。シャワールームじゃないから、パウダールーム?それは化粧室か。洗面所って日本風すぎるよね。……オシャレな空間を洗面所。……いいや!私は日本人!洗面所と呼ばせていただく!
 準備されていた歯ブラシで磨く。準備というかストックだろう。……そう思おうな!
 キバナさんは身だしなみを整えて、パーカーを羽織る。昨日も目の当たりにしたけど、ゲームでよく見る姿になった。うん、間違いなくキバナさんだ。
 玄関へ向かい、靴を履き替える。そう、こちらの家は土足厳禁。靴のまま室内に入る欧米スタイルではない。ブルーベリー学園では土足のままだった。これも意外だったけど、私的にはキバナさんの家の様式の方が助かる。玄関で分けたいよね、外と中を。

「はー、仕方ないから行ってくる」
「はい。お気をつけて」
「引き止め……」
「ません!ファイトです!」
「もう一日休みをとっておけばよかった〜!早く上がるから買い物に行こうな。必要なもの、考えてて?オレはツムギとお揃いのマグカップが欲しいなぁ〜!」
「お揃いのマグカップですか、可愛い人ですね。私はお箸が欲しいです」
「お箸!それもお揃いにしよ?部屋着もいるよな。色々買おうぜ」
「はい。……どうしましょう、すごく楽しみになってきました!」
「可愛いのはツムギだよ。かぁーわいい」

 毎朝、こうなるのかな。抱き着きと絡みつきが強いキバナさんを見送るの大変そう。
 ……ニヤけてないよ。

 ちょっと背伸びして、口付ける。

「……もう少し、していい?」
「ダメです。少しじゃ済まなさそうなので」
「ちぇ、ドラッグストアにも行かなきゃな」
「?お薬ですか?まさかお怪我でも?」
「いいや?夜のお楽しみのための準備でーす!」
「……。今日はビジネスホテルに」
「ダメ!!あ。赤くなってる可愛い〜!お仕事やだぁ、このまま押し倒したい〜〜!」

 こ、この人は!全年齢だっつってんでしょ!やめろやめろ、想像するな私!私の慌てる反応を見て楽しんでるんだよキバナさんは!くそっ、言葉が出ない!
 そうして何度か、何度も!キスされて!やっとお仕事へ向かいました。
 行ってらっしゃいのキスは一回だけ、というルールを作ろう。

 見送った後はポケモンたちが過ごせる専用の部屋へ向かい、ボーマンダとモンメンがいるか確認する。私が声をかけたら二匹とも寄ってきた。
 ご飯をいただいたらしく、モンメンはいつもより膨らんでいたし、ボーマンダの機嫌も良い。可愛い二匹と戯れながら自分の少ない荷物を片付けさせてもらったり、窓から外を眺めたり、キバナさん宅を探索したり……かなり自由に過ごさせてもらった。
 流石にキバナさんの私室には入らなかったけど、この家、マジで広い。私が使わせていただいているゲストルームの他にも同じような部屋がまだ二部屋あったし、トレーニング施設的な部屋もあったし、食材の備蓄庫や大きなウォークインクローゼット、季節毎の家電置き場、シンプルな倉庫。何に使うかわからない部屋もあった。

 最上階ワンフロア全てが自宅。……恐ろしい。


◇ ◇ ◇


 ──コンコン!

 お昼少し前。どこからか、何かを叩く音が聞こえた。広い室内を歩き回って、歩き、くっ!ちょっと小走りで見て回る。どこだ、どこから音が聞こえる!?

 玄関は除外。このフロアに入って来れるのは家主のみ。管理人でさえ勝手にフロアへは来れない。キバナさんの私室……ではない。ダイニング、リビングも違う。借りている私の部屋も覗くが、違った。探して回るが見つからない。コンコン!とまたも窓を叩く音。どこだ!?
 ふと、ボーマンダたちポケモン専用の部屋を覗いてみる。と。窓の向こう、随分広いベランダから……誰かがノックしていた!こっわ。カーテンに影が映っている。え、普通に怖い。……影。ん?なんとなく、知っているような気がする。このシルエット。一番警戒心が強そうなボーマンダが何もアクションを起こしていない。モンメンはビビってボーマンダの陰に隠れている。つまり、ボーマンダはこの影の人物と面識があったり……する?

 カーテンをそっ、と開け……て、閉めた。
 マジで人がいたわ。しかも、まさかの人物。

「お!中に誰かいるな!?ベランダから声をかけて申し訳ない!ジムへ向かうつもりが、こちらへ来てしまったぜ!すまないがキバナは在宅だろうか!」

 外に居たのはガラルの元王者、ダンデさん……。なんでここに!こちらへ来てしまったぜ?確かナックルスタジアム、つまりジムってすぐそこじゃ……?あんなに目立つ建物なのに着かなかった……?えっ、嘘でしょ!?そんなミラクルな迷子キメちゃう感じ!?こ、これが噂の迷子体質……!?やばい。日常に支障をきたしまくってる……!
 開けるべきか、否か。ここは否だろう。
 家主の許可なく招き入れるのは良くない。例えそれがダンデさんであろうとも、だ。スススッ、とカーテンから距離をとる。ところが私の服の裾をボーマンダが咥えた。どうしたの?

「グルル!ギュァァ!」
「ボーマンダ、何が……?」

「──ばぎゅあっ!」

「ギュアッ!」
「……ボーマンダ、今の鳴き声は外から?」
「クルルル、」

 よしよしと頭を撫でていたが、カーテンの方へぐいぐい押される。えっ、開けろってこと?なんで!?戸惑いつつ、今度はカーテンを大きく開いた。

「!おや、きみは……?うん、初めまして!だよな!オレはシュートシティでバトルタワーのオーナーを担っているダンデという!キバナのライバルだぜ!」

 まっ、眩しい!笑顔が眩しい!そして存じ上げております!戦ったことはないけど、ポケモンバトルがお強いこと、その名を世界各地に轟かせていることを!知っています!ただ、バトルタワー?というものは存じ上げておりません、すみません!

「……ボーマンダ、開けた方がいいの?」

 思いきり頷くボーマンダ。マジですか。モンメンはふわんふわんと逃げて行く。行かないでモンメン。私もモンメンと同じ気持ちなんだよ!逃げたい!
 逃げ出したい衝動をなんとか堪え、鍵に手を伸ばす。ボーマンダが警戒していないなら偽物ではないはず。ご本人のはず。……ええい、ままよ!

「初め、まして。昨日からキバナさんのご自宅でお世話になっているツムギと申します……」
「きみがツムギさんか!初めまして。よく、ああ。よーく知っているぜ。そこのボーマンダの育ての親だろう?……そうだ、ベランダからやって来て申し訳ない。ジムがダメなら、と入り口を探したんだが。リザードンがここへ飛んできてな!そして背中を押されるがまま、窓を叩かせてもらったんだ」
「リザードン、」

 ダンデさんの後ろに、大きなリザードン。「ばぎゅあ……」とこちらも申し訳なさそうにひと鳴き。それにボーマンダが「ギュアア……」と返す。あー、なるほど?先ほどの鳴き声はリザードンへのもので、それに返事が来たのか。そして恐らく……。“何しにきた?”“ダンデさんを入れてやってくれ!”“仕方ないな……。”……みたいな会話をしたんだろう。完全に私の予想だけど、外れていない空気を感じ取れる。

「ここではなんですし、入られますか?」
「ああ、すまない。遠慮なく失礼させてもらうぜ。キバナの家は靴で入ってはダメなんだよな。よし、リザードンもおいで。足を拭こう」
「ばぎゅあ!」
「ははは!いつもありがとうリザードン!」

 わぁっ、ダンデさんとリザードンのやり取りが眩しい……。なに?太陽でも背負ってる?笑顔が明るく爽やかすぎて目を細めてしまう。
 靴を脱いでベランダへ置く。リザードンの足を片方ずつタオルで拭いて室内へ入ってきた。慣れてるなぁ、とその光景を見つめているとササッと手早く窓に鍵、カーテンも閉めてくれる。

「待ち合わせ時間より早く到着出来たのは……うん、上出来だぜ!キバナの自宅だが!」
「ダンデさん、もしかしていつもベランダから……?」
「……否定はできないな!」

 ……手慣れているわけだ。もてなそうにも、食器やお茶の場所も把握してないので何もできない。勝手なことは出来ないので……すみません。
 ソファーへ座るダンデさん。きみも座ってくれ!なんて誘われて笑みが零れる。マイペースな人だ。距離を置いてソファーに腰掛けた。

「きみはイッシュ地方のブルーベリー学園にいたらしいが、どうしてまたそんな遠くに?」
「それは、ですね……」
「……ああ。不躾すぎる質問だった。答えづらければ首を振ってくれて構わないぜ。それはまた落ち着いてから聞かせてもらえると嬉しい!ところで、キバナとは付き合っているのか?」
「それこそ不躾な質問じゃないですか?」
「……そう?……だな?」

 キョトンとしたお顔、可愛いですね。
 ……何考えてんの私。質問の振り幅が極端でびっくりした。

「お付き合い……そう、ですね。キバナさんの生活の邪魔にならない限り、一緒に居させてほしい……な、とは思っています」
「キバナは邪魔だと思う相手を自らの足で迎えに行くほどお人好しな奴じゃないぜ?きみを想っているからこそ動いた、熱くて優しい男だ」
「……はい」
「あんなに焦っているキバナを見たのは久しぶりだった。きちんと止めなければフライゴンで向かおうとしてたからな!ははは!無茶で無謀すぎる!」

 ダンデさんからブルーベリー学園まで向かうに至った経緯を聞いた。私のロトムがキバナさんの元へ来たこと。事情を聞いたその場でイッシュ行きを決めたこと。焦るキバナさんを止めたこと。パルデアを経由しテラスタルオーブを受け取ってから向かうよう指示したのはユウリちゃんだ、ということも。

「口調が素に戻った時は驚いたぜ。いつもの一人称は“オレさま”だろう?それが“オレ”になったんだ。周りが見えてない証拠だな」
「そうだったんですね……」
「ボーマンダの育ての親がきみというのも、納得してるんだぜ?持ち主であるユウリくんの指示はもちろん聞く。だが、出てくればいつも誰かを探している。そしてひと鳴きして諦める。……そんなボーマンダがここで、きみの側でリラックスして寛いでいる。見たことないぜ、ボーマンダのこんな姿は!」

 な!ボーマンダ!ダンデさんが声をかければ不機嫌そうに低く唸る。え、なんで……?

「ははは、ボーマンダはユウリくんの手持ちの中でも屈指の強さを誇るだろう?いちトレーナーとして、こう、気になるんだ!ユウリくんと会う時、何度か触らせてもらったり、個体値を調べたり色々と構っていたら……な?」
「嫌がられちゃったんですね」
「その通り!……ちょっと悲しい」

 しょんぼりするダンデさん。……可愛いな。

「そうだ!ジムチャレンジでキバナとの熱いバトルも見させてもらったぜ。あいつのああいうバトルは……あまり見れないから新鮮だった。次世代を担うジムチャレンジャー相手に何を本気になっているんだ?と、何度か苦言を呈したこともあるぜ!」
「めちゃくちゃ負けましたからね。……いえ、あれはユウリちゃんが戦っていたのであって」
「……大丈夫、ユウリくんから聞いているよ。きみがユウリくんと一緒に冒険していた人だと。だからこそ、“ボーマンダの育ての親”という不思議な言葉に納得したんだ。キバナに勝ったあのバトル、痺れたぜ」

 最後の一匹。見るからに強そうなボーマンダ。そこからダイマックス。ドラゴンタイプ最大の技、りゅうせいぐんをいのちのたまを持った状態で放つ。ダイマックス中の技は外れない。育て上げた努力と倒すための計算と、キバナに勝つことへの執念。

「なんでオレがあの場に立っていないんだ?と、少し妬いたぜ!キバナにも、きみにも」
「そう仰っていただけるのは光栄ですが、あの時は個人的にどうしても勝ちたくて……」
「ああ、そうして勝利を掴んだだろう?」

 そう、キバナさんに勝った。勝って、話をしてもらった。
 離れるきっかけとなった過去の話を。

「……ユウリちゃんは、怒ってます、よね」
「ん?それは本人に直接尋ねてほしい!」
「私、そんなにメンタル強くないんですよ!」
「諦めずにキバナへ挑んだだろう?負けても負けても。ははは、謎のパーティで挑むこともあったな!それくらいのメンタルがあれば大丈夫さ!」
「……ダンデさん、結構見てくれてたんですね」
「ああ。途中からだが、楽しく観戦していたぜ!」

 謎のパーティ。迷走していた時期のことだ。そんなことも知られているなんて。恐れ多い。
 当時の技構成を尋ねられたり、現在のダンデさんの話をしてもらったり、なかなかに濃い時間を過ごさせてもらった。チャンピオンをユウリちゃんへ引き継いだ今は、シュートシティでバトルタワーのオーナーをしているそうだ。バトルタワーのオーナー。字面がバトル狂なのよね……。ネモちゃんとか嬉々として挑みに行きそう。そしてキバナさんがアオイちゃんやスグリくんを誘った理由がよくわかる。みんな、若い芽を育てたいんだなぁ。

 そうして、お昼が過ぎて少し経つと。

「ツムギ!ただいまぁー!!」

「帰って来ましたね。出迎えてきます」
「ああ!……ははは。キバナ、嬉しそうだなぁ」

 お昼ご飯を買ってきた!サンドイッチとー、おにぎりとー、からあげにコールスローサラダのセット!あと日替わりのスープもあるぜ!もちろんポケモンたちにもそれぞれ好きな木の実とかを!あとはな〜、なんてニコニコで話をしながらダイニングへ。
 ダイニングからリビングへ視線が動く。その視線の先はソファーにゆったり座り、寛いでいるダンデさん。キバナさんがその圧倒的存在に気づいた。

「……は?」
「やぁ、キバナ!お邪魔してるぜ!」
「はぁ?ダンデ、お前、なんで」

 めちゃくちゃ韻を踏んでる!とは言わない方がよさそう。
 余計なツッコミを入れそうなお口を自分でチャック!

「ジムへ向かうつもりが、ここへ来ていたんだ」
「は?ジムはすぐそこだろうが!?おい……まぁたベランダから来たな?リザードンに毎回世話させやがって!はっ、ツムギ……。ツムギ!あいつになんもされてないか!?怖い思いしてないか!?心無い一言とか言われてないか!?」
「きみはオレをなんだと思ってるんだ?」

 心外!という表情でプンスコするダンデさん。可愛い。

「……ツムギ、こいつは可愛くない。少しも可愛い要素はない。人の顔したゴリランダーだ」
「ゴリランダーは可愛いですよ?」
「そうだった、ツムギの最初の一匹はサルノリだったな……!」

 怒ったり頭を抱えたり。予想通りのリアクションでにっこりしちゃう。さすがキバナさん。
 怒涛の勢いで話すキバナさんをよそに、タイミング良くお腹が鳴る。ダンデさんの。

「おまっ、お前なぁ〜〜〜〜!?」
「ダンデさんも一緒に食べましょう。ね、キバナさん」
「もおお〜〜!……はぁ、仕方ないか」
「ご馳走になるぜ!!」
「遠慮する態度を見せろ!!」

 この二人いいコンビだなぁ。
 見事にボケとツッコミでわかれてるし。天然っぽいよね、ダンデさん。
 ダンデが居るなら皿は出さない!このままテーブルに食べ物広げて食べよ。オレさまはポケモンたちへの木の実を切ってくるな。ツムギは三人分のコップを出しといて〜!……テキパキと指示を飛ばしてくれる。ありがたい、了解です!
 ちなみにダンデさんはニコニコでモンメンをもふもふしている。モンメンがもふもふさせているということは、打ち解けたんだ。よ、よかったですね……!

 ポケモンたちにはフーズと木の実が混ざったものを。私たちはキバナさんが買ってきてくださったものを、三人仲良く……仲良く!分け合いながら食べた。サンドイッチ美味しい!
 食べ終わるとキバナさんが帰ってくるまでの出来事を話した。来訪についてはなんと予想の範疇だったらしい。長年の付き合いの賜物だなぁ。そして、キバナさんがブルーベリー学園へ向かう経緯も聞いたと伝えれば……、それは本人のいないところで話すな!とダンデさんを叱り飛ばした。すでに話を聞いてしまった身としては何も言えない。

「その話をするならこいつがいないと始まらないだろう?そろそろ出てこいよ、ロトム!」

 キバナさんが自分のロトムフォンへ声をかけた。
 ……ロトム。もしかしなくても私の……ロトム?画面からそろりと顔を半分覗かせる。

「ロトム?」

 声をかけると引っ込んでしまった。なぜ!?

「会いたかったよ、ロトム。無事でよかった」
「…………ツムギ、怒ってないロ?」
「怒る?どうして。モンメンを受け止めてくれたんだよね。助けた後のことは考えてなかったし、ロトムに感謝こそすれ、怒るなんてお門違いだよ」
「でもボク、勝手に……キバナを呼んで……」
「……私がキバナさんの名前を口にしたんでしょう?カキツバタに聞いたよ。あの時は、心配かけてごめんね」
「ロロ、う……、ロトォ!」

 ピュン!と飛び出して私の元へ飛んできた。シクシク泣いて擦り寄る。よしよし。本当、あっちこっちに迷惑と心配をかけすぎなのよ、私……。
 落ち着かせるようにロトムを撫でていたら、あの時のことを話してくれた。

 モンメンを助けるためにポーラエリアの海へ落ちた私。ロトムは私に言われた通りモンメンをキャッチして砂浜へ下ろした。走ってきたアオイちゃんに落ちたことを伝えるが、震えて動けないのを察知してカキツバタへ連絡を入れる。カイリューに乗って飛んできたカキツバタ。後から先生とリーグ部の人たちが来て救助と介抱してくれた。
 キングドラの背に乗る私を引き上げタオルに包んだ時にキバナさんの名前を呼んだそうだ。

 まるで、助けを求めるように。

 それを聞いた瞬間、キバナさんの元へ向かったのだとロトムは言う。連絡先は消していたけどログは残っていて、それを頼りに情報を伝って辿り着いたらしい。……情報を伝って辿り着いた、とは?ロトム有能すぎる……。
 その後はキバナさんのスマホに入り、出てくるタイミングがわからず……今に至る、と。

「……ロトムが来なきゃオレさまは迎えに行くことすら出来なかった。この世界にツムギが居ることも知らずに……なんの変哲もない日々を過ごしていただろう。今こうしてここにツムギが居てくれるのはお前のおかげだ。心から、感謝してるよ。ロトム」
「キバナ……」
「言ってたよな?お前は誰のロトムだ?」

 ロトムはキバナさんを見て、次いで私を見上げる。

「ロトムは、ロトムはツムギのロトムロト!」
「嬉しい。おかえり、ロトム。助けてくれて、ありがとう」
「ツムギ、ツムギ〜!無事でよかったロト!」

 わんわん泣くロトム。そっと抱きしめる私。そんな私たちを温かく見つめるキバナさんとダンデさん。多方面にご迷惑おかけして、すみません……!
 ひとしきり泣いたロトムだが、落ち着いてきたようで私のスマホを探して室内を飛ぶ。どこに置いてたかな。ロトムがいない間は連絡手段としてしか使ってないしその時以外はほぼ触っていない。部屋にあったロト〜!と、早速スマホに入った状態でロトムが飛んで来た。

「ツムギ、またよろしくロト!」
「こちらこそ、よろしくね。ロトム!」
「ツムギにはロトムがいなきゃダメロト!」

 そうだね、ロトムがいない寂しさはすごかった。ふわんふわん!と宙に浮かんで嬉しそうなロトム。戻ってきてくれて、私もすごく嬉しい。

「ロトムが現れた時、オレさま激しく罵倒されたんだぜ。キバナのばぁぁぁぁか!ってよ」
「え。それについては、どうしてなの?」
「助けられない自分が不甲斐なくてロ」
「それオレさまに暴言吐く理由になる??」
「だってキバナなら、……ツムギを助けられるロト。ポーラエリアの氷の海に飛び込んでも平気で、ボクは飛び込んだら壊れちゃうロト」
「オレさまも氷の海に飛び込んだらヤバいことになるけど。頼ってくれて良かったよ」
「ふんだ!ボクはカキツバタ推しロト!」
「あぁ!?それは聞き捨てならねぇな!」
「いっつもツムギと一緒にいてくれたロト!頼りになるロト!見えないところでずうっと守ってくれてたロト!だからボクの推しってやつロト!」
「……ふぅん?やっぱあいつこっちに呼ぶか」
「カキツバタ、シャガさんのお孫さん……だよな?」
「そ。纏う雰囲気は緩いが反骨精神もあってバトルの腕は間違いない。生意気なクソガキだが、まぁ……素直に将来が楽しみな奴さ。なぁダンデ、ブルーベリー学園の奴らをバトルタワーに招待しようぜ!そこでボッコボコに……いや、ほどよく鍛えてやろう!」
「カキツバタくんに対する本音が見え隠れしてるぞ」
「そうか?……あいつは絶対全力でボコす……」

 笑うダンデさんと不機嫌全開のキバナさん。
 口を挟むと飛び火しそうなので、黙っておこう。

 私はロトムと一緒にモンメンとボーマンダの元へ。二匹にロトムを紹介すると、すぐに打ち解けたようで三匹でキャッキャし始めた。間違いなくここが癒し空間だ。

「ツムギ、モンメンはツムギ大好きらしいロト!一緒にいられて嬉しい、って!」
「そっか、ふふふ。嬉しいな。ありがとうモンメン」
「ボーマンダは、ツムギと離れたくない……って」
「探してくれてたんだもんね……。ごめんね、急にいなくなって。来てくれてありがとう」
「照れてるロト!」
「んんーーーーっ!可愛いっ!!」

 ボーマンダの頭を包み込むようにぎゅうぎゅう抱きつけば、ぐぅん!と上を向いてそのまま背中へ転がされた。め、めっちゃびっくりした……!怒ってるわけではなさそうなので、向きを変えて背中に乗り、首元へ手を伸ばす。優しく撫でると嬉しそうな声。モンメンも着いてきて私の前へ。もふりとボーマンダにも引っ付いた。そんな私たちを、ロトムがパシャリと一枚。……緩んで変な顔してなかったかな。
 モンメンがボーマンダにじゃれつき、ボーマンダは翼と首でモンメンを風で浮かせたりポンポンと跳ねさせる。二匹とも楽しそうだ。急いでロトムに動画を撮ってもらった。
 くぅ〜〜!なにこれ、幸せだぁ……。

「……ダンデ。可愛いだろ、オレさまの恋人」
「そうだなぁ、愛らしい人だ」
「オレさまの!恋人!なんだぜ!!」
「ふっ、ははは!そうだな、きみの愛しの恋人だ」
「なんだよ、馬鹿にすんなよ」
「してないさ。……よかったな、キバナ」
「……おう。今回はありがとな。助かった」
「いつでも頼りにしてくれていいんだぜ?」
「迷子にさえならなきゃ、頼るんだけどなぁ」
「それは。……ははは!治りそうもない!」
「せめて改善する姿勢を見せろ〜?」

 思いのほかみんなで戯れてしまった。時間は大丈夫かな?とリビングへ行けば、ダンデさんとキバナさんが笑い合っていた。穏やかな空気になっててよかった。
 そういえば。予定ではお昼過ぎにナックルジムでダンデさんと会う、ということだったけど。それはどうなるんだろう?ここにダンデさんが居るわけだし、もうジムへ向かわなくていいのかな?とりあえず聞いておこうかな。

「ご歓談中すみません。お昼からの予定なんですが、お二人とも時間は大丈夫でしょうか?」
「……キバナ?」
「うん?」
「ツムギさんは本当にきみが好きなのか?」
「「!?」」
「何を言い出すんだお前!」
「いや、だって……仰々しいほどの敬語じゃないか」
「お前が!いるからだよ!」
「気になるかと思いますが、基本敬語なんです!私自身、ちゃんとキバナさんのことを」
「「キバナさんのことを?」」
「……どうして二人とも身を乗り出すんです」
「続きを!ください!」
「わくわく!続きを待ってるぜ!」

 なーにわくわくしとんねん、この迷子マン!キバナさんも続きを求めないでください。今朝伝えたじゃろがい!……と、こういうお口の悪い私はまだ見せられないわけです。特に元チャンピオンにはね!恐れ多いんだってば!

「頬を染めて想いを口にする私をダンデさんに見せていいんですね?キバナさん!」
「はっ!?やだ!それはやだな!?」
「なに!?キバナ、気にするな!」
「気にするわ!はい、ツムギちゃんこっちおいで」

 キバナさんに手を引っ張られダイニングを通りキッチンの奥へ。壁となっている場所に私を隠し、むぎゅうと抱き締めてくる。

「さぁ、いつでもいいぞ!」
「なにをさせられてるんですか、これ……」
「言うまで茶番が続くぞ?」
「茶番!私、口を慎むことを覚えますね」
「それはそれで寂しいんだが……」

 途中まで言葉に出した私も私だもんね。
 よし、観念しよう!

「キバナさんのこと、好きですよ」
「う"っ……」
「……言わせといて呻くのはやめてください」
「違うよ、噛み締めてるの……」

 天を仰ぐほど?全く仕方のない人だ。私からもむぎゅ!と抱きつく。……くっ、やっぱりキバナさんに抱きつくのは慣れない。ドキドキする。

「ダンデさ〜ん!オレさまのこと好きだって!」
「聞こえなかったが」
「もういいじゃん、オレさま充電できたし!」
「きみの充電のために振ったわけじゃないぜ!」
「この話は終いだ!」

 キバナさん、ダンデさんの反応を見て楽しんでるな?
 話が進まなさそうなので私が出しゃばるぞ。

「あの!お昼からの予定はどうするんですか!ダンデさんとナックルジムでお話をするんでしたよね?」
「もうここで粗方話してしまったな」
「……えっ?」
「初めましての挨拶、今のオレのこと、キバナがブルーベリー学園へ向かった経緯、ボーマンダのこと。ジムチャレンジ中のキバナとのバトルの話もできた。……うん、大体話せたし会談はここで済ませてしまったな!」
「手間が省けてよかったな」
「ああ。一箇所で済ますのが一番だぜ」
「え。えええええ?」

 そんな軽いノリで済ませたと判断していいの?まあ、話すことが終わったなら良かっ……いや、良くはないよ……。スケジュール通りにいかないこの感じ。ダンデさんに秘書やマネージャーがいたら大変だろうな。……主に胃が。
 なんだかまったりし始めた二人だが。

 ──ロトロトロトロト!!!!

 めちゃくちゃ鳴った、ロトムの着信ボイス。こんなにもけたたましく鳴るのを初めて聞いた。誰のロトムだろう?緊急事態、だろうか。
 キバナさんが首を振ったので、鳴っているのはダンデさんのスマホ。

「………おっと」
「ん?どうした、誰からだ?」
「キバナ、チャンピオンが……お怒りだ」
「……あっ!ユウリ!!」

 チャンピオン。ユウリ?

「ナックルジムにユウリくんを……呼んでいたんだった」
「何してるんですか!早く向かってください!」
「ツムギさんも一緒に行くんだぜ!」
「えっ、私もですか!?」
「むしろそっちが今日のメインだった!」
「ダンデさん!!」

 一刻も早くダンデさんにマネージャーをつけよう!

 先頭はキバナさん、一番後ろに私。そして真ん中にダンデさん。縦列移動でナックルジムへ向かった。ちなみにダンデさんの右隣にリザードン。左隣にはフライゴンが飛んでいた。ここまで厳重に囲わないとダメなの?迷子体質、厄介すぎる。
 シュールなこの光景をロトムに撮ってもらった。

 ナックルジムへ着き、スタッフの皆さんへの挨拶……は、また後で!ということで、応接室へ急ぐ。キバナさんがノックをしたが返事を待たずにバァン!と勢いよく開けた。

「ユウリ!待たせてすまん!」
「すまない、ユウリくん!原因はオレだ!」
「間違いなくこいつが原因だ!」
「時間を忘れていたのはきみもだろう!?」
「大元がなんか言ってるわ!」
「なんだと!」
「やんのかぁ!?」

「キバナさん、ダンデさん」

 凛とした声。アオイちゃんの声質より少し低く、落ち着いているように聞こえる。低いとは言ったが私よりは高い。女の子と女性の狭間の声だ。

「いい大人が、ジムリーダーとバトルタワーのオーナーが二人も揃っているのに時間を守れない……というのは、どうかと思いますよ?」
「「ごめんなさい……」」

 ガラル地方のチャンピオンが、ここに居る。


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