精一杯の恩返し

 よく寝た翌日。お昼を過ぎた頃、ゲームの準備を整え終えると私の方からキバナさんへ連絡を入れた。
「もう手段は選びません。」
 その一文と、よろしくお願いします。の一言を添えて。返ってきたのは「望むところだ。」キバナさんらしい飾らない返答に肩の力が抜けたというか、少しだけ緊張がほぐれた。
 余計な遠慮はキバナさんにも失礼だもんな。

 画面のパーティを見て最終確認を済ませる。間違いなくキバナさんを倒せるメンバーだ。
 大丈夫、今日こそは!意を決してナックルジムへ向かった。

「──何度挑戦に来ようと、全力で相手するぜ」

 目の前に立つキバナさんが不敵に笑う。そのセリフを口にするのも今日で最後ですよ!

バトルが始まる。お互いの手持ちは六匹のフルパーティ。……本来ジムチャレンジのジムリーダーの手持ちの数は四匹らしいんだけど、私を意地でも先へ進ませたくないキバナさんは、本気のパーティで本気の構成で、大きく高く立ち塞がっていた。全く大人気ない。
 一匹、二匹、と順調に倒していく。交代で出てきた相手に私のポケモンたちも倒れされる。一進一退の攻防が続いていた。急所に当ててくれて喜んでいると、天候を切り替えられさらに効果抜群の技が入り、思い切り膝を叩いた。まぁた技構成変えてやがりましたね!くそっ!

 私の手持ちは残り三匹。キバナさんは二匹。ということは、ジュラルドンのキョダイマックスがくる。フィールドに出した瞬間ステルスロックで削られ、ジュラルドンのダイロックに体力が赤まで持っていかれる。そこへ追い打ちをかけるように砂嵐。キバナさんの戦法ほんとに嫌。苦虫を噛みに噛み潰したような表情になったと自覚がある。嫌すぎる。ここで毎回壊滅させられている。サダイジャとジュラルドンの組み合わせも嫌すぎ……。
 私のフライゴンがサダイジャを倒してくれた。地面複合の子なので砂嵐を喰らわない。まだもう少し耐えてくれるはず。ジュラルドンのキョダイマックスはあと二ターン残ってて、それを凌ぐにはこちらもダイマックスを切るしかない。フライゴンにはダイマックス技を当てにこない……と、予想。それならやはり、攻撃は最後の一匹に託す。

 最後の一匹。私の今回の切り札。

 ボールが宙を舞い、バトルコートに現れたポケモン。

「……ボーマンダ、」

 キバナさんが名前を呟いた。そう、切り札として選んだのはボーマンダ。
 ダイマックスもボーマンダに使う。大きく翼を広げ、一度旋回してから地面を踏み締める。タツベイは剣盾の本編では捕まえられない。ダウンロードコンテンツまで行かないと手に入らないらしいので、SVからHOME経由でタツベイを運び、預け屋さんでたまごを受け取り孵化させ目当ての子を入手したらもう一度SVへ返し、ボーマンダまでコツコツ育て上げ、剣の環境で対応できるように調整も行って、そうしてやっとこちらへ連れてきた次第。
 すごく頑張った。細かい説明は端折ったけど初めて真剣に厳選というものを行った。もう二度としない。ガチ勢のみんなを心から尊敬する。ビビるくらい時間が溶けたし孵化させることを“作業”と呼んでしまった時は自分に青ざめた。二度としない……。
 だけど!言ったでしょう、手段は選びません、と。砂嵐は効くがタイプ一致技の効果抜群でジュラルドンを倒してみせる!

 素早さはこちらが上で、ダイマックス時の技は必中。技の威力は元の数値にプラスされる。砂嵐はあと一ターンで終わるはずだし、もしここで倒せずジュラルドンの攻撃が来てもダイマックス状態ならギリギリで受けきれる。そうしたらもう一度ダイマックス技を撃てば……!
 私が選んだのはダイドラグーン。ダイマックスでの攻撃力はドラゴンタイプの技で最高値、140を叩き出す。そう、元の技は“りゅうせいぐん”。

 ボーマンダの攻撃後、キョダイマックス状態が解かれ地面へ倒れたジュラルドン。ボーマンダの体力は少ないが瀕死ではない。フライゴンも健在だ。

「……勝てた」

 手汗で滲んだ手のひらをグッと握り、そのまま上へ突き上げた。ガッツポーズをするなんて小学生以来では?ううん、それくらい嬉しいんだから仕方ない。今日くらい、この瞬間くらい、いい歳した大人だって喜んでもいいじゃない!

 やっと、やっとキバナさんを倒せたんだから。

 興奮する気持ちをどうにか抑えつつバトル後のムービーが始まる。キバナさんのことだから大いに悔しがったり、ここまで諦めずによく頑張ったな!とか。なにかしら熱い言葉を仰っていただけるんじゃないか!?と、期待したが。特にこれといって特別な言葉はなく、淡々と進んで最後のジムバッジを手に入れた。わーい!八つのバッジが揃ったぜ!

 ……なんか思ってたのと違くない?いや、うん……。まぁ……違わなくないけど。そうなんだけど!これはきっとゲーム進行上でのムービーで、シナリオ的にも絶対に間違いはない。これがキバナさんの確定セリフなんだとしたら納得も、……する。それでも、ここまで何十回とバトルを繰り広げたのだから特別なセリフが欲しかったなあ!
 なんて思ってしまうのは贅沢な願いだろうか。

 一通りのイベントを終えるとナックルジムを出てポケモンセンターへ。頑張ってくれたみんなを回復させた後、ボックスを開いた。今回のパーティは対キバナさん用だったので旅パに入れ替えだ。ありがとう、みんなのおかげで突破できたよ……!
 それにしてもボーマンダ、強かったな。キバナさん戦では殿だったけど、先頭で出してりゅうのまい積んでアタッカーとしてもいけるよね。あ、でも攻撃上げるなら技構成とステータス諸々を変えなきゃか。うーん、ダイマックス要員として心強い。きっとチャンピオン戦、ダンデさんとのバトルでも踏ん張ってくれそう。600族、マジで育てるとえげつないくらい強い。かなり力を入れて育てた子だから愛着もわいている。旅パに組み込む?一応ドラゴン枠にはフライゴンがいる。地面複合が魅力だ。飛行枠はアーマーガアがいるしこの子は鋼の複合。
 ……悩む。悩むなら入れるべき、だな!フライゴンもアーマーガアもボーマンダも連れて行く!そうしよう!育てたい子が現れたら……都度交代ということで。

 ポケモンセンターを出たらゲーム内ではなく現実世界のロトムが声を上げた。
 画面に表示された名前は、キバナさんだ。

『よう、いい勝負だったな』
「キバナさん!バトル、ありがとうございました!ついに勝ちましたよ!」
『ああ。負けちまったなぁ。強かった!』
「ふふん!へへへ〜!」
『くっそ……!面白くねぇ〜〜!』
「ふふふ、私の本気を見ましたか!?見ましたよね!今回の切り札はボーマンダです!」
『相当オレさまのバトルを研究して、対策としてしっかり育て上げてきた……って、一目見て分かったぜ。バトルコートに立ったボーマンダ、存在感がすごかったからな。ところで持ち物はいのちのたまか?』
「ご明察です!攻撃力も上げました!」
『えげつねぇ威力だと思ったんだよ……。オレさまのジュラルドンを一撃だもんな……』

 悔しそうな声色とため息を聞いてにんまりしちゃう。そうそう、このリアクションを求めてた!ゲーム内じゃ無理だよね。この現場から生の声!ふふ、良き悲鳴だぁ!

「さあキバナさん、約束ですよ!」
『そうだな。……約束した。忘れてないよ』
「では、私を知っている理由を教えてください」
『まぁ待て、そう急くな』
「……はい?どうしてです?」
『ツムギの後にダンデの弟、ホップが挑戦しに来ただろう?あいつ、お前がオレさまを倒すまで待ってたんだ、根気強くな。そんなホップの気持ちも大切にしてやりたい。ってことで、今からあいつとバトルしてくるわ』
「ホップ……」
『ツムギほどじゃないにしろ、あいつにもオレさまの強さ……身をもって教えてやるぜ!』

 嘘でしょホップ、私がキバナさんを倒すのを待っててくれたの……?確かにクリアした後にホップも来たー!と嬉しく思ったけど、そうか。私が何十回も負けている間、先にクリアすることなく……辛抱強く待ってくれていたんだ。なんて、なんていい子なのホップ!やっぱりホップには頭をヨシヨシ撫でさせてほしい。良い子すぎる。

『おい。キバナさんを倒すの、待っててくれたの!?良い子すぎ!ホップをヨシヨシしてあげたぁい!……とか考えてないよな?』
「電話越しに思考を読むの止めてください」
『あーあー、可哀想になぁ、ホップ。ダンデの前にでっけぇ壁が現れちまうんだもんなぁ!よーし!オレさま、ホップの心が折れるくらい本気でバトルするわ』
「!?や、やめてあげてください!心が折れるバトルはホップにはもういらないんです!乗り越えようとしてるんです!ダメですよ!!」
『仲がいいのは良いことだと思うぜ?』
「じゃあなんで急に圧が強くなるんです!」
『ツムギが妬かせにくるからだよ』

 わからん。キバナさんの地雷がどこにあるのかわからん。キバナさんをわざわざ妬かせるようなことは、一切考えてない。ヨシヨシ撫で撫でも友を愛でる意味合いだし!思考を読めるならその辺の感情も読んでほしい。いや……無理か。私に対するキバナさんの感情自体が謎だし、だいぶバグってるもんな。

『そういうワケで、一時間後に宝物庫へ来てくれ。扉の前で待ってる。ちゃんと話をするよ』
「絶対、ですね?」
『もちろん』
「わかりました。ではまた、後ほど」
『ああ、また後でな』

 キバナさんの返答をしっかり聞いて、通話を切った。どうやら「え〜?オレさまそんな約束したっけ〜?覚えがないなぁ!」なんてすっとぼけるような真似はしないらしい。
 よかった、真摯な人で。

 一時間後、か。リアルでの予定は特に無い。買い出しへ行くには逆に時間が足りないし、料理も……うん、お米くらいなら炊ける。洗濯機もポチッとしておこう。残った時間はブルーベリー学園へ行って交流しようかな!誰を呼ぼう。リーグ部に誰がいるかも見ておかなきゃ。タロちゃんが居れば勝負してもらおう。可愛いは正義だ!

 剣はレポートして終了。家事を適当に済ませ、また本体を手に取る。今度はバイオレットを起動だ!分身であるアオイちゃんを動かしブルベリーグ部へ。
 入って部内を見渡せばアカマツくんと、いつものあの席にカキツバタくんがいた。だるーんと椅子に座っている。見るからにやる気ないけど、ちゃんとあるんだよね。近づくとにっこり笑ってくれる。そこにキバナさんみを感じてしまう。彼もまた不思議なキャラだ。まずはアカマツくんに話しかけて、カキツバタくんの方へ移動する。
 声をかけてみれば。

「おーす、キョーダイ。いい勝負できた?」

 ……なんの話、でしょうか?バイオレットでボーマンダの育成を頑張っていたのは覚えている。が、誰かとバトルをした記憶はない。いい勝負、とは?

「うん?育ててただろ?つよーいドラゴン。ぜひオイラともお手合わせ願いたいねぃ」

 つよーいドラゴン……、ボーマンダのこと、じゃんね?なんでそれをカキツバタくんが知っているの、こわ。どこかで見ていたとか?それなら声かけてくれよな……。
 ニコニコなカキツバタくんに若干引きつつも、会話が途切れたので呼び出しパソコンへ向かう。タロちゃんがいなかったのは残念だなぁ。さて、本題の誰を呼ぼうか問題。ずらっと並ぶキャラクターのアイコンを眺めていたら何故かハッサク先生に目がいってしまった。ドラゴンタイプのキャラに吸い寄せられてしまう現象が怖すぎる。ダメだ、ハッサク先生はやめておこう。求めているのは癒し。癒し枠の人!……よしボタンちゃん!きみに決めた!!

 ボタンちゃんがやってきて会話を交わしてからバトル開始!ブイズパーティも良いよね。可愛いがぎゅうっと詰まってる!
 このバトルだが、普通に負けた。パーティを確認していなかった私が悪い。初歩的なミスを犯したわ。肩を落としながらボタンちゃんに別れを告げ、テラリウムドームへ向かう。くっ、テラレイドで鬱憤を晴らすぞ……!どこだ、黒い結晶!うっうっ……。

 そんな感じで遊んでいたら、あっという間に一時間が経過した。
 レポートしてバイオレットを終了!

──ロトロトロト!

「ツムギ、キバナからメールロト!」
「キバナさんから?読み上げてもらえる?」
「ロト!お待たせ。……それだけロト!」
「そっか、ありがとうロトム。ついに話してもらえるんだね。早く聞きたいような、怖いような」
「大丈夫ロト、ボクも側にいるロト!」
「ふふ、そうだね。心強いよ!」

 ロトムに背中を押されて剣の世界へ。
 ポケモンセンターから宝物庫に向かう。ポケモンの世界は少しずつ日が暮れ始めた。夕焼けに染まるナックルシティ。城壁も茜色へと変わっていく。
 宝物庫前に着くとキバナさんが待っていた。少し早いが今日は閉館する、遠慮なく話が出来るぜ。とのこと。番人の権限を目の当たりにしてる。
 キバナさんの後を追うように建物内へ。

 宝物庫内部に行くわけではないようで、一階の受付?ロビー?とにかくいつもは人気のある場所のソファーへ座ったキバナさん。一人分を空けて座る。

「なんでオレさまがそっちに居るツムギを知っているのか。……聞きたいのはこれだよな?」
「はい」

 電話で通話、ではなくゲームの画面越しでの会話だ。台詞を見逃さないよう気をつけなければ。

「そうだな、どこから話そうか」

 一度額に手をやり、唸るキバナさん。観念はしているがどう言おうか迷ってる、そんな風に映る。そ、そんなに難しい話なの?私まで謎に緊張してしまう。

「突拍子もない作り話だ、と思うかもしれないがひとまずオレさまの話を一通り聞いてほしい。その後に質問を受け付け……られる限りは聞く!」
「ツッコミどころ満載なんですねわかります」
「そういうこと。そんで、この話を誰かに伝えるのも初めてなんだ。上手く話せるといいが」

 深呼吸したキバナさんが顔を上げた。


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