電車に揺られ、輝きの街

 カーテンの隙間から陽の光がもれる。朝の日差しほど眩しいものはない。目を開ける気力をも失われる。つまり起きたくない。仕事もしたくない。
 このままお布団さんに包まれていたい。

「ツムギ!起きるロト!」

 怠惰へ落ちる前に声がかかった。声の主は、ロトム。キバナさんから話を聞いたあの日。電話を切った後、少しだけボーッとしてからロトムを送り返そうとした。ところが、それは出来なかった。受け取り拒否……ではなく。ロトムが向こうへ戻ることを拒んだ。
「ボクはツムギの側にいるロト!」と、初めて言うことを聞いてくれなかった。あの賢いロトムが、だ。意思を持つロトムの言葉。気持ちを無下にしたくない。もう二度と向こうの世界に帰れなくなるよ?そう伝えたら、「構わないロト!」はっきり言い切った。悲しく沈んでいた私の心が、ほっこり温かくなる。不甲斐ない主人だけど、これからもよろしく……お願いしてもいいかな?問えば、「もちろんロト!」と即答してくれた。今度こそ泣いた。
 そんなわけで、ロトムは私の側にいる。

「ロトム〜!眠たいよ〜!」
「遅刻して怒られるのはツムギロト」
「ぐう正論〜!やだあ眠たいよぅ!」
「今日は雨降ってるし、いつもより混んでるロトよ」
「雨はもっとやだぁ!」

 ロトムはケテケテ笑いながら宙を舞う。仕方ない、観念して起きますか。ゴロンと転がって背伸び。ちょっとずつ動き、数分かけてベッドから離れた。
 ここから出勤までタイムアタックだ。脳内でカーン!とゴングを鳴らす。
 顔を洗って歯磨きして最初の顔面ケア!おーっとここで尿意をもよおす〜!トイレ!戻ってくると引き続き顔面塗装作業に入る!ある程度終われば髪をサッと濡らして拭いて、ドライヤーをかけて……!ヘアオイルで整えて、服を着て靴を履けば、フィニッシュ!
 終〜了〜!カンカンカン!

「ツムギ、朝ごはん忘れてるロト!」
「10秒チャージ!」
「健康にもお肌にも悪いロト!」

 選ばれたのはスニーカーでした。傘も忘れずに、急げっ!

「毎朝ボクに怒られてるのに懲りないロトね〜」
「返す言葉もございませーん!」

 雨の中、就業開始ギリギリに着いた。アウトじゃなければセーフです!……動悸と息切れがヤバい。

 黙々と業務をこなしてあっという間にお昼。お昼はしっかり食べる。ここできちんと栄養を摂らないと本当にまずい。ロトムからのお叱りが酷いものになる。

 当たり前だけど、キバナさんからもう連絡はもうこない。電話番号を削除したし、あちらも同じく消しただろう。連絡先さえ消せば繋がりも消える。
 ……儚い関係だったなぁ。なんて、ね。

 いい加減切り替えなきゃいけない。今までのショートメールも消せばもっとスッキリするだろう。でも、こちらは。ショートメールのやり取りを消すことは……残念ながら出来そうにない。つい見返してしまう。良くないよね、女々しすぎ。わかっちゃいるけど消せないでいた。

 定時少し過ぎ。仕事を終えて退社する。朝はあんなにバタバタしていたのに夜は非常にゆっくりだ。時の流れに差を感じる。今日はポケモンセンターへ足を向けた。閉店まであと少しだが、小さい子どもや大人、家族連れ。たくさんの人がまだお店にいる。私も中へ入りぬいぐるみの棚へ歩を進めた。自分のお気に入りの子を探す。自宅の壁にぬい棚を作って飾ろうかな。バイオレットのパーティ、は、まだ全種類ぬいで発売されてない。ソードもだ。いや、初代でもいない子がいるな!?集め切るのには時間がかかりそうだ。ロトムのぬいぐるみはあった。買おうと思ったけど、ボクがいるのに……、と拗ねるロトムの姿が目に浮かぶ。頬を緩めてロトムぬいを見つめた。
 ポケモンはこの世に存在しない。それでも確かにこの子たちは私の心にいる。好きになったポケモンたちは、思い出となって記憶に残ってくれる。
 残り一体。ちょこんと座るフライゴンを見つけた。……ナックラーのたまごをもらって育てたんだよね。旅パで入れて、いつも手持ちにいた。そして、この子に乗って空から現れる人。思わずフライゴンぬいを手に取って、……お迎えを決める。……女々しい、なぁ。

「ツムギはキバナをどう思ってたロト?」
「……突然だね」
「今だから聞いてみたロト」

 自宅でまったりしているとロトムが話しかけてきた。キバナさんをどう思っていたか、か。
 もう誰にも伝えることはないし、ロトムにくらい自分の気持ちを話していい、かな。切り替えるために、吐き出すのは必要……かもしれないよね。

「好き、に、なりかけてたかな」
「なりかけてた?好きじゃないロト?」
「そう、だね。最初は何この人、距離の縮め方怖っ!コミュ強すぎやばぁ!って引いんだけど。キバナさんさ、いつも優しかったんだよね。それで……私を通して誰かを見てた。私の名前を呼びながら、私じゃない誰かを見てた。何かを知っている風に話すのも気になってたなぁ。過去の話を聞いた今は……なるほどな、って納得したよ」

 想い人と重ねていたんだよね。そりゃ優しくしてくれるわけだ。朝晩の挨拶も、テンポの良い会話も、早いツッコミも。とても気さくなお兄さんで話していると楽しい人。
 妬く、って言われて少し嬉しかったんだよ。よく知らなくても、あからさまに好意を向けてくる顔面偏差値爆高なキバナさんに言われちゃ、ときめくの!にこぉ、って目を細めて柔らかく、嬉しそうに笑う姿……可愛かったな。電話越しに男性へ向けて威圧?威嚇?してくれたじゃない?あれすっごく格好良かった。あの場にいなくても守ろうとしてくれてるんだ、って伝わったから。ところであの時のミシッ、て音。何を軋ませたんだろうね?……まさかスマホロトムじゃないよね?ミシッ、って普段生活している中で聞かない音だったよ?テーブルでも椅子でも壊れるレベルの軋み音だった、気がする。……深く考えないでおこう。

 ああ、こんな素敵な人に想われているなんて、いいなぁ。私も出会えるかな。キバナさん以上に素敵な人、この世にいるかなぁ?探すしかないよね。

「ツムギ、これ使ってロト」
「ぐすっ、うん、ありがと……」

 目から流れる涙。思い出し泣きとか。ティッシュを一枚引き抜いて差し出してくれる。優しい。

 きっとあのまま私がツムギさんじゃないと否定しなかったら。この不思議な関係は続いていたと思う。思うけど、私の心は潰れていたかもしれない。好きになった人は、別の人を想ってるんだよ?いくらなんでもしんどすぎ。それなら潔く身を引くよ。ずっとずっと探してるから、報われてほしい。幸せになってほしい。
 それにキバナさんはバトルでも努力の人だよね。何度負けても折れずにダンデさんへ挑み続けてるし、私相手でも全力でバトルしくれた。だからツムギさんのことだって諦めてないはず。見つかるよ、絶対。見つかってくれなきゃ困る。
 キバナさんは幸せになるべき人だもん。

「それはやっぱり今も好き、ってことロ?」
「ロトムはどうしても言わせたいんだね?……うん、好きだった。好きにならないわけ、ないよ。絶対本人には言わない。伝えない。……あ、そっか。もう言えないんだっけ。ふふ、もぉ〜!ロトムやめて?泣いちゃうし涙止まらない、じゃん!」
「ティッシュ箱ごとどうぞ!」
「ちょっと、最初から泣かす気だったな〜!?」

 涙もすごいけど鼻水もやばい。これだけ泣けば、ね。
 うん、でも!スッキリするでしょう!あー、心が痛い!

「ロトム、聞いてくれてありがと」
「ボクのご主人は優しいロト!」
「優しくないよ〜、心が狭い女だよ〜」

 好き、だった。
 好きだった……なぁ。

 明日は少しでも早く起きられるように準備をしておこう。毎朝ロトムに叱られるのも……良くないもんな。一応社会人でしょ、しっかりしてくれ私!
 歯磨きを済ませてお布団へ。するとゆっくり眠れそうな心地良い音楽をロトムが流してくれる。もうロトムがいない生活は考えられないなぁ……。向こうに戻る、って言われたら全力で引き止めるぞ。全力で。ロトムに感謝を伝えて目を閉じ、眠りについた。


 ──その夜、夢を見た。

 身も凍るほど寒い雪山で吹雪が襲う。視界は白一色。隠れる場所はなく全身が震えた。その場から動かない方がいいと分かっているのに、足が勝手に動く。上へ上へとひたすら登る。登り続けているとついに視界が開けた。吹雪も止み、目の前に広がる澄み渡った空が眩しい。
 力が抜けて膝から倒れ込む。降り積もった雪が疲れた体を受け止める……と思ったら暖かい何かに包まれた。疲れ果てた体ではその何かを確認できない。暖かさに安堵して目は閉じてしまった。包んでくれているのは誰なのか、一体なんなのか分からない。だが不思議と嫌な気持ちにはならない。人間?それともポケモン?雪山にいるならユキノオーやツンベアーが思い浮かぶ。氷タイプのポケモンで、包んでくれそうな子。ニューラやウリムー、デリバードとか?そんなことを考えていると優しく頭を撫でてくれる。それもまた気持ちよく、このまま身を委ねてしまおうとその手に擦り寄った。大きくて、暖かくて、優しい手。安心させてくれるように強く強く抱きしめられる。誰かわからないのに嬉しくなった。
 ……あの人、だったらいいな。
 もう二度と出会うことはない、あの人だったら。

『ツムギ』

 名前を呼ばれる幻聴さえ聞こえた。応えたいのに口が動かない。唇も震えない。頷くことさえ出来ない。抱きしめてくれたのはあなただったの?こんな雪山に来てくれたの?私は、私は……あなたの望む人ではないのに。どこまで優しいんだろう。離れられなくなる。離れたくない。こうしてずっと、抱きしめてほしい。叶わないと知っているから願ってしまう。

 私は、あなたを……。


 息を切らせ、飛び起きた。
 ──夢。今のは、夢。
 大丈夫、大丈夫だ。言わなかった。想いを口にしていない。夢だとしても言っちゃいけない。
 心臓の音が聞こえる。ドッドッドッ、と大きく強く速く……鼓動している。滲んだ汗を拭いて枕へ沈む。ロトムを起こしていないか確認すると、しっかり充電中で目を閉じていた。
 ……よかった。余計な心配をさせたくない。

 耳に残る、あの人の声。人を忘れる時は声から、と言われるが……まだ、その気配はない。はっきり覚えている自分に頭を抱えてしまう。

 外も部屋も暗い。もう少し寝よう。目を瞑ろう。今度は……夢さえ、見ないといいな。


「──ツムギ!起きるロト!」

 静かに目を開けた。……あの後、一睡もできなかった。目を閉じただけ。無の心で横になっていただけで睡眠はなし。寝てないけどスマホをいじってたわけではないし、目を閉じていたから体の重だるさもない。……こともない。
 無言で起き上がればロトムに驚かれた。

「……起きてるロト?」
「起きてるよ、おはようロトム」
「今日の天気も雨!?晴れ……てる、ロト!」
「そんなに驚く!?」
「やればできる子ロトね!」
「下げて上げるロトムね!」

 顔を見合わせ、へへへと笑う。うーん癒し。
 早起きは三文の徳ってことで朝ご飯を食べるぞ!卵かけご飯だ!いつもウィダーインうにゃらら的な、カロリーメイほにゃらら的なものばかり食べてるから白ご飯と卵が胃に沁み渡る。美味しい。朝ご飯って大事ね……。ここに味噌汁があれば優勝なのでは!?夜に作り置きするべき、だなぁ。
 お腹を満たし、準備も余裕を持って出来た。早起きすげぇぜ!……ただこれを毎朝続けられるか?と聞かれると無理なんだな。私にはゴングが鳴ってバタバタする日々がお似合いってことですわ。ダメじゃん。

 ロトムに褒められながら職場へ向かう。いつもより早めの電車に乗るが、座れないので吊り革を掴んで揺られる。次の駅に停まると運よく目の前に座っていたお姉さんが降りた。
 ラッキー!座っちゃお。朝の電車に遠慮など無用だぁ!サッと座り目を閉じる。
 会社の最寄り駅まであと五つ。

 ゆらり揺られ。ガタンゴトン、電車特有の振動。
 最寄り駅まであと四つ。座席が柔らかくてよき。人が降りていく気配。
 最寄り駅まであと三つ。両側の人たちも立って行く。朝の電車は忙しないよね。
 あと、二つ。そろそろカウントダウンをやめて私も降りる準備をしよう。

 ガタンゴトン、ガタンゴトン──。

「ツムギ、……ツムギ!起きるロト!」

 ロトムの大声で目を勢い良く開けた。焦ったようなロトムの声。朝起こす時もこんな声出さないよね?全く毎朝仕方のないご主人ロト〜!みたいな呆れた声なのに。切羽詰まっているロトムの声は私の動揺を誘った。電車内なので小さな声で話しかけてみる。

「どうしたのロトム?」
「ツムギ、ここ、会社がある駅じゃないロト」
「……うん??通り過ぎちゃったのかな。まぁ今日は時間もあるし降りて逆の電車に乗りなおそう!……おかしいなぁ、ちゃんと数えてたんだけどね」
「ここの駅名、聞いてたロト?」
「え?駅名?」

 そう言われて外を見渡すと。
 見慣れない地下鉄の景色。んん?通り過ぎたにせよ、違和感を覚える。考えるのは後だ。とにかく降りよう。反対の電車に乗れば間違いなく最寄り駅へ戻れる。

「駅名、わからなかったよ。どこかな?」
「……ライモンシティ」

 らいもんしてぃ?シティ?地名ではなく、街名?初めて聞く駅名に疑問符が浮かぶ。電車から降りて反対のホームへ……向かおうとしたが、構内の柱に貼ってあるポスターに目が止まると吸い寄せられるようにそちらへ足が向いた。

 “ヒウンアイス、ライモンシティ限定フレーバー!一口食べれば心はトロピカルサマー!”

 南国の色合いが強いアイスを全面に押し出したポスター。アイスの横には不思議なキャラクター。アイスのような、どこかポケモンを思わせる造形。
 シティという駅名も相まって、なんだかポケモンの世界みたいだ。現実世界までそう思えてくるなんて、相当ポケモンに脳内が染められていると実感する。

「時間はまだあるよね、外に出てみようかな」

 いやはや、三文の徳さまさまだ!余裕があるって最高。外の空気を吸ってからまた電車に揺られよう。

「ツムギはライモンシティ……わかるロト?」
「わかんない!から、外を眺めようと思って」
「自分の目で、確かめるロトね?」
「……?そうだね、確かめてみるよ」

 ロトムの言い回しにも違和感が……めちゃくちゃある。気になるけど、とにかく一度地上へ。エスカレーターを登り、出口を過ぎると視界に入ってきたのは賑やかな街並みと、右手に赤い屋根の、……ポケモン、センター?で、左を見れば大きな観覧車。……観覧車?
 再び勢いよく右を見る。ポケモンセンターらしき建物。既視感がすごい。今までのゲームの記憶が間違ってなければ、赤い屋根でモンスターボールがデザインされたあの建物はどう考えてもポケモンセンターだ。なぜこんなところに。あんなリアルなポケモンセンターって、存在したっけ?
 目の前を多くの人たちが行き交う。その人たちの側には、モグリューやシママ、あちらにはシキジカ。そちらを見ればチラーミィにゴチム。
 なんということでしょう、鳴き声さえ聞こえてくる。

「ろ……ロトム!」
「ロト」
「ここ、どこ!?」
「ライモンシティ、ロト」
「そうだけど違くて!ええと、っ、地方……は?」
「イッシュ地方、ロト〜」
「イッシュ、地方……」

 ジーザス。がくぅ!と膝を折った。
イッシュ地方。わからんが、わかる。ブルーベリー学園には大変お世話になった。だがここはブルーベリー学園ではない。シティ、そう、街。学生だけではなく一般人の皆々様も闊歩されている、街だ。
 待て、ちょっと冷静に、落ち着け私。

「夢の中にしてはリアルだよね。ロトム、私に電気ショック撃ってもらえる?」
「撃つわけないロト!ツムギ、夢じゃないロト!」
「夢じゃなかったら何?私の世界にポケモンはロトムしかいないよ?どういうこと?」
「ロロロ〜、ボクもよくわかんないけど……。なんとなく仮説は立てられる、かもロト」

 電車の中の時空が歪んで、ポケモンの世界に繋がってしまった。

 簡潔な言葉に私は絶句する。時空が、歪んで?そんなことありえる?
 現実世界からポケモンの世界へ繋がった?ない、ないない!そんな無茶な話が!

「次元をぶち抜くポケモンも存在するロト」
「それもう討伐した方がいいんじゃない?」
「滅多なこと言っちゃダメロトよ!」
「え、ええええ!?あー、うん。キャパオーバーだわ。え〜〜?どうしよう!?まずは……そう!ロトム!会社に連絡をっ」
「繋がると思ってるツムギは社畜の鑑ロト」
「褒められてない!!」

 繋がらんのか〜!スマホ、というかロトムはいる。財布もある。メモ帳、ペンケース、フリスク、イヤホンにモバイルバッテリー、タオルとティッシュ。小さめの化粧ポーチに日焼け止め。通勤鞄の中身は変わってない。小さく息を吐いた。
 会社へ繋がらないのは、一旦置いといて。

「ポケモンセンターへ行って事情を話す、ってのはどう?何も考えないままウロウロするより、現地の人に身を委ねてみる!ってのは!?」
「フムフム。普通に保護してもらえると思うロト。でも結局、引き取り手がないと……」
「ないと……?」
「トレーナーカードだけ作られて、そのまま放り出される可能性が無きにしも非ずロト」
「嘘でしょ!?」
「現実はそういうモンロト」

 厳しすぎる。ポケモンの世界、どうなってるの?ああでも、トレーナーカード作ってもらえるのは大きいよね。確かポケモンセンターってトレーナーカードがあれば泊まることができる……とかなかった?アニポケ設定だっけ?うんうん、まずは自分自身の存在証明にもなるし、トレーナーカードを作るのはアリ!後でポケモンセンターへ行こう。
 ロトムに伝えると頷いてくれた。

「ツムギ、あんまり動揺してないロト?」
「え?めちゃくちゃしてるよ?」
「冷静に見えるロト。慌ててないの、心配ロト」
「……驚きすぎて逆に落ち着いて見えるのかな。それかまだ夢の中だと思ってるのかも」
「危ないロト!今も現実ロト!!」
「普段からロトムと話をしてるしポケモンの世界だと言われても違和感が薄い……もあるな」

 左手に見える大きな観覧車。よく耳をすませば、どこからか歓声が聞こえる。明るく眩しい街。そこを歩く人たちはみんな表情が柔らかく楽しげだ。刺々しい空気は感じない。
 焦る気持ちも、混乱する脳内も、ライモンシティの街並みとポケモンたちを見ていると少しずつ強張った心が解けて、高揚してくる。もしこれが夢だったとしても現実であっても、もはやどちらでも構わない。

「ロトム、ライモンシティを散策したいな」
「ロロロ、トレーナーカードを作ってからなら許可するロト。ロトムがしっかりするロト!」
「頼もしい!……ありがとう」
「ロトッ!」

 しっかりとした足取りで一歩踏み出した。赤い屋根のポケモンセンターへ向けて歩を進める。現在の天候は晴れ。湿度は低くもなく高くもなく過ごしやすい。
 見知らぬ街、見知らぬ人。右も左もわからないこの状況下。……怖くはある。これからどうなるのか不安もある。でも、ポケモンたちのことはわかる。知っている。
 嘆くだけでは進めない。私は一人じゃない、ロトムと一緒にいる。……前を向こう。

▼ さぁ、ポケットモンスターの世界へ。レッツゴー!


◇ ◇ ◇


 ポケモンセンターから出てきた私とロトム。なんと無事に!トレーナーカードを作れることができましたぁ!ポケモンを一匹所持していることが条件だったらしいが、スマホロトムを持っていたことと、なつき具合を確認し終えたら「お作りできますよ!」と笑顔で仰られた。ボールに入っていなくても、スマホに入っているロトムは一匹にカウントされるんだ。
 ……許可の判定ガバくない?今回は私にとってとても助かったけど!

 次はお財布の中身を確認。間違いなく日本円札。はたして使えるのかな……?不安になって近くの自動販売機を見に行く。表示されている貨幣は……!?円ッッ!ビクトリー!
 くるくる回ってリザードンポーズかますところだった、危ない。なぜ今お金の心配をしたのかというと、服を買おうと思ったからです!今の格好は仕事用の綺麗めな服。靴はパンプス。もう少し動きやすい服に着替えたい。Tシャツにスキニーパンツ、とか軽いものがいい。靴も運動靴にしたい!

 ロトムがイッシュ地方のマップをダウンロードしてくれたおかげで、ライモンシティの案内はお任せロト!とのこと。早速ブティックへゴー!だ!ロトムがいなかったら詰んでたし絶望してただろうなぁ。心底ロトムを送り返さなくてよかったと思う。あの時の判断が今の私を救っている。ナイス私。
 お手頃な価格で購入出来たのだが、上から下まで揃えたのでまぁまぁの出費になった。痛い。諭吉を出した時のスタッフさんが「えー!このお札めっちゃレアですよ!たまにいるんです、ポケモン柄ではなく謎の人が載ったお札を出す人!」と、興奮していた。問題なく使えてよかったけど、謎の人が載ったお札……か。表現がちょっとね。みんな大好き諭吉さんだぞ?

 リュックも購入したので着替えたものは仕事鞄へ入れ、駅のロッカーへと突っ込む。中身は入れ替え済み。動きやすい服装になっただけで気分が上がる。
 トレーナーカードよし、服装よし、ロトムよし!
 ワクワクする街、ライモンシティを散策開始!

 散策をして一時間ほど経過した。ロトムが表示してくれたマップは簡易的に作られて見やすく歩きやすそうだが、実際に街中を歩くととても広い。眩暈がするくらい、めちゃくちゃ広い。ミライドンが恋しくなる。徒歩はしんどすぎる。
 一息つくためにベンチへ座る。手に持っているのはヒウンアイス、トロピカルサマー味。駅の構内ポスターで見たアレだ。元々はヒウンシティという街に本店を構えるアイス屋さんで、長蛇の列ができるほど大人気のアイスらしい。現在は移動販売車で各町へ出張したり、大きな街には支店ができたりと広がりを見せている。そしてここ、ライモンシティ限定のフレーバーが新発売された、と。それは食べてみるしかないでしょ〜!

 もぐもぐしつつイッシュ地方のマップを見せてもらう。ロトムにもトロピカルサマー味のアイスをあげたがお口に合わなかったようで、すぐスマホに引っ込んでしまった。

「ヒウンシティ、ホドモエシティ、フキヨセシティ……。やっぱり聞いたことない。ダイパ以降はやってないんだよねぇ。バイオレットからの出戻り勢だし。何世代目なんだろう?」

 マップにはジムリーダーの情報も載っていた。トントンと画面をタップしてライモンシティのジムリーダーを見てみる。お名前はカミツレさん。ひええ、美人さん!スタイル良ッ!絶対お顔も小さいんだろうなぁ。ジムリーダーでありながらモデル業も行っているみたいだ。ジムリーダーでモデルさん。ルリナさんが脳裏に浮かぶ。カミツレさんは美白だからルリナさんと対になる感じだな。並んだら神々しさがやばそう。……お二人が表紙の雑誌、ぜひほしい。二冊買わせていただくぞ。おや?扱うのは電気タイプ……?うわあ!水と電気!ここも対だ!やば。本気でコラボしてくれないかな……!?

 アイスが溶けないよう気をつけながらイッシュ地方全体図を眺める。セッカシティ、ソウリュウシティ。……ソウリュウシティ?どこかで見た記憶がある、ような?

「ソウリュウシティ、ソウリュウシティ……。誰かの出身地、だったよね。絶対知ってる、どこかで絶対、目にしたことがあるのに!誰だっけ……?」
「あー、それ。オイラの出身地だねぃ」

 オイラ。
 あ、ああー!?そうだカキツバタ!そうだよ、確かおじいさんがジムリーダーでドラゴンの一族!あの緩い雰囲気からでは察せられないほど、なんだか複雑な関係の!早々に思い出せて良かった。スッキリしたぁ。

 ……ん?オイラの出身地、だねぃ?

「えっっ!カキツバタ!?」
「おーす。偶然だなぁ、キョーダイ!」

 私が座っていたベンチの横、真隣に隙間なく詰めて座ってきた人物はまさかまさかの、ブルーベリー学園四天王の一人。ドラゴン使いのカキツバタ。
 なんでここに!?待っ、待て待て待て!今、キョーダイ≠チて言った?言ったよね!?違うよ、きみのキョーダイはアオイちゃんで私は、その、なんだ、……保護者?のような第三者目線のプレイヤーだよ!直接的なやり取りはアオイちゃんじゃん!?

 落ち着け。深呼吸、深呼吸。心臓がバクバクしてる。もしかして私、ライモンシティへ来た時より動揺してない?だって初めての……一方的にだけど、私が知っている人だ。

「ええと。私はキョーダイではありません、よ?」
「ん?ああ、ほら、アオイの姉貴?みたいなモンだろ。そんならキョーダイで違いねーや」
「どういうこと!?いや、その前に!近い!」
「それヒウンアイス?しかもトロピカルサマー味!オイラにもちょーだい」
「ちょ、パーソナルスペースどうなってんの!?」
「ひとくち!ひとくち!!」
「あげるあげる!あげるから離れてくれる!?」

 頬をグイーッと反対側へ押しつつアイスを手渡せば、ようやく物理的距離が空いた。それにプラスして精神的にも距離が出来たからな、カキツバタよ。
 キテレツな味〜。トロピカル混ざりすぎ〜!と、笑いながら食べている。……カキツバタ、本物?本人?コスプレした人、とかじゃない?
 服装はブルベリでのあの格好で、ジャージのファスナーを首元までしっかり上げていた。
 特徴的な前髪も……、これマジで地毛なんだ……。毎日セットしてるのかな。

「うん?どうしたんでい。ツバっさんの顔になんかついてる?アイスついちゃってる?そーんなにジイッと見つめられちゃあ自慢の顔に穴が空いちゃうぜーい?」
「すっごいビンタしたい。この人絶対カキツバタだ」
「どういう確認の仕方?初めて会うのに辛辣がすぎやしねぇかい?」
「それ、初めて会うのに迷いなく真隣へ座った人のセリフ?」
「へっへっへ、ちげえねぇや」

 緩い。この緩さたるやカキツバタ本人である証拠、かな?あれ、でもどうしてライモンシティにいるんだろう。彼の出身地はソウリュウシティだし、服装を見るに今もブルーベリー学園に通っているはずだよね……?
 怪訝な視線を感じ取ったようで、アイスに夢中だった瞳がゆるりと動いて私を捉えた。
 陰って見づらいがキラキラ輝く金色の瞳。素直に綺麗だ。

「どうしてここにいるんだ?って顔してる」
「教えてくれるの?」
「キョーダイの名前、教えてくれるなら喜んで」
「私の名前?」
「そそ。いつまでもキョーダイ呼びじゃあ、周りに怪しまれるだろ?アイスをくれた綺麗なオネーサン。オイラにお名前教えて?」

 口元は弧を描いているのに目が笑ってない。うわぁ、もしかしなくても見定められてる?年下なのにオーラがすごいのよ。背負うオーラが。
 蛇に睨まれた蛙、ならぬドラゴンに探りを入れられる人間……だな。

「私はツムギ、と申します」
「なんで急に敬語?」
「カキツバタくんはなぜここにいるんですか?」
「敬語!突然でっけぇ壁が出来ちまったな!?敬称とって敬語も崩さないと話しませーん」
「……このクソガキ腹立つなぁ!」
「本性出奴ゥ〜!ツムギ、おもしれぇや!」

 さすがアオイのキョーダイだ!空を仰いで笑うカキツバタ少年。笑うのはその辺にしときな、歯磨き粉をギュッと絞り出したような特徴的な前髪、引きちぎってやるぞ。
 笑い疲れたのか左腕をベンチの背に回して、だる〜んと溶けるように座り直す。いや、これを座り直すと表現するのは間違っている。姿勢が悪い!

「オイラは呼び出しに応じて渋々ソウリュウシティへ戻ってきたんだ。んでぇ、そろそろ学園へ帰っかな〜と思いつつ、ライモンでぶーらぶらしてたとこよ」
「とっとと帰ればいいのに」
「ヒウンアイス!ライモンシティ限定トロピカルサマー味!ってのが気になって仕方なくてねぃ!いや〜、タイミング良かったぜぃ」

 コーンに巻かれた紙を破き、バリバリかじるカキツバタ。呼び出しに応じて、か。これ以上詳しく……は、聞けないな。彼と親しい関係者でもそう簡単に身内のことは教えなさそうだし、出会って数分の私なんかに話してくれるわけがないよね。警戒心もすごく強そうだ。
 ……でも、ここに居る理由、ちゃんと教えてくれたな。本当に読めない、掴めない子だ。
 
「アイス、ご馳走さん!さてと、行きますか」
「あ、学園へ帰るの?気をつけてね」
「おう。んじゃほら、手」
「手?」

 スッ、と右手が伸びてくる。何?握手?このタイミングで握手?意味がわかりませんねぇ……?わからないけど、私も右手を差し出して握手した。……うわ、こっちの手、さっきコーンを持ってた方だよね?やだ、コーンの粉が付いてるってこれ!地味に嫌。

 一瞬ピタッと固まったカキツバタが、空いた左手で口元を押さえた。今度は何?よくよく見れば肩が小刻みに震えている。こっ……こいつ!笑ってやがるな!?

「ちがっ、っはは。初めまして!の挨拶じゃないって」
「??」
「なぁ、ツムギってオイラより年上だよな?それでこの世界で生きていけんの?このオイラが心配するって相当のことよ?」
「カキツバタの言い方が回りくどいの」
「そう?ストレートの方がお好み?」
「ひねくれた物言いよりはね」
「りょーかい。よっ、と!」

 ベンチから勢いをつけて離れたカキツバタ。そして私の正面に立って再び右手を差し出してくる。だるんとせずにしっかり立つと……身長あるんだ。私とどっちが高いかな。

「オイラと一緒にブルーベリー学園へ行こうぜ」
「…………は?」
「イッシュのマップを見てたってことは地理も移動方法もどこに何があるか、ってのも何もわかんねえだろ?それなら勝手知ったる我が校で過ごすのが最善ってもんだ。だーかーら!ほら、手!オイラと一緒にビューンとひとっ飛びだぜーい!」

 ブルーベリー学園へ行こうぜ?そんな勝手な、確かにイッシュ本土?よりは勝手知ったる場所ではあるけど!カキツバタの独断で決めていいの?一般人が行ってもいいの!?
 戸惑う私をよそに、カキツバタが私の左手を取った。

「おお、柔らかいお手手でやんすねぇ」
「至って普通の手ですけどね!?……じゃなくて!初めましてでよく知りもしない私を学園へ連れて行くのは良くないと思う!カキツバタは私がアオイちゃんの関係者だって知ってたからまだいいかもだけど……。……だからなんで知ってんの!?もう!話を逸らされる!つまり私はこのイッシュ地方に来たばかりのただの一般人で、電車に乗って帰れるかもしれないから……今ここから離れるのは得策じゃないと考えてるわけ!」
「ツムギがどっから来たかわかんないけど、帰るのは無理だろうなあ」
「……どうして言い切れるの!?」
「その辺も含めてあれこれの問答は腰を据えて学園で話そうや!な!はい、けってーい!」

 有無を言わさぬ力で立ち上がらされた。この細腕のどこにそんな力が。くっ、力強いな!

「ロ、ロトム!」
「ロトッ!ツムギごめん、口を挟めなかったロト」
「大丈夫だよ。ねえ、ここからガラル地方って……遠い?」
「!遠いけど、ツムギの世界よりは近いロト!」
「んー?ガラルに知り合いがいるのか?」
「カキツバタは引っ込んでて」
「手厳しいねぃ」

 肩を竦ませるが手は離れない。逃がさないとでも言っているかのようだ。逃げないよ!

 ……私の世界より近い。
 それなら、と思った。思ったけど、頼るわけにはいかないよね。先に離れたのは私の方だ。都合が良すぎる。それに連絡しようにも番号はもう、わからない。

「ううん、やっぱりなんでもない」
「連絡、しなくていいロト……?」
「連絡先わからないし迷惑だと思うから」
「迷惑かどうかはそいつが決めることなんじゃねーの?」
「カキツバタは黙ってて」
「つめてえの!ツバっさんもう待てなぁい!ってなわけで連絡すんのは諦めてくれーい」

 歩き出したカキツバタの後に続く。……振り払おうと思えば簡単にできそうなくらい、緩く掴まれている。このまま着いて行ってもいいのかな。見知らぬ街、初めての場所。ポケモンがいる世界。ワクワクしたのは本当だ。それと同じくらい、多少の不安と恐怖は……あった、と思う。好奇心が上回っていたから何事もなく過ごせていたけど。
 私を知っているというカキツバタ。ゲームを介してカキツバタのことを知っている私。
 意識してぎゅっ、と手を握りしめる。足を止めてゆるりとこちらへ振り返った。

「どうしたんでい」
「離して、って言ったら離してくれる?」
「そうさなぁ……。トイレに行きてぇなら離してあげるけど」
「……ふふ」
「へへへ、違うってんなら離してやんねぇよ?」

 にっこり笑うカキツバタの表情につられて笑みがこぼれる。緩いなあ。小さく息を吐いた。この急展開に体は緊張で強張っていたんだろう。やっと肩の力が抜けた気がする。握りしめた手の力を緩めると、今度はカキツバタが握る力を強めた。……不思議な人。
 そのままのんびりライモンシティの街中を歩くカキツバタ。あ、そういえば荷物。駅のコインロッカーに突っ込んだ荷物も持って行きたい。ゆるゆる歩くカキツバタを逆に引っ張って、駅の方へ向かう。鍵を開けて仕事鞄を取り出した。私の世界の存在を証明してくれる大事な鞄。両腕で抱えようとしたらするりと取られた。そして「ほら」と三度みたび差し出された右手。どうやら……鞄を持ってくれる、らしい。まさかの紳士的な行動に驚きと動揺が隠せない私。そんなカキツバタの右手を自分から繋ぐ。カキツバタは荷物ないの?と問えば「オイラは着のみ着のままよ!」とのことで。風来坊がすぎない?

 カキツバタの案内で辿り着いたのはフキヨセシティの飛行場。ここから飛行機で向かうらしい。確かにバイオレットのロードの画面には飛行機が飛んでいた。たまに競うようにカイリューも飛行機の横を飛んでいたなあ。ブルーベリー学園は人工島で海中にテラリウムドームがあるんだっけ。すごいな。最先端の技術……だよね?そんな場所へ本当に私が行ってもいいのかな?ワクワク半分。恐怖の意味でドキドキが半分。
 連れられるがまま、飛行機へ搭乗すると中にはブルーベリー学園の関係者らしき大人たちや、在校生の姿もちらほら見えた。そしてめちゃくちゃ見られている。視線の先はカキツバタ。と、近くにいる謎の人物。そう、私です。
 席が三つ並ぶシートの奥へ追いやられる。ここまできたら逃げないってば。ジト目を送れば窓側のが景色を眺められるだろ?ですってよ。……景色を眺められる、か……。
 さらに当然のように左隣、三列シートの真ん中に座るカキツバタ。普通、真ん中を空けて通路側に座るものじゃない?何度でも言うけど、初めまして同士の距離感じゃない。

「はあ〜〜、やあっと帰れる」
「実家はこっちなのに?」
「オイラにも色々あんのよ」
「色々。そっか、頑張ってるんだね」
「そ。あの人らオイラをなんだと思ってんのかねぇ」
「カキツバタはカキツバタなのにね」
「……へへ、ほーんと。全くそのとーりよ」
「カキツバタ、少しだけ目を閉じていい?」
「そりゃ構わねえけど。景色はいいの?」
「景色……、離陸したら起こして」
「この数分間で眠れんのかい?」
「シートに座ったら眠気が来ちゃった」
「お疲れだねぃ」
「大人にも色々あんのよ」
「なるほど、頑張ってりゃ疲れるわな」
「あのさ、カキツバタ」
「へいへい」
「ありがと」

 真っ直ぐ目を見てお礼を告げると、瞼をパチパチ瞬かせた。

「困ったときは、お互い様ってやつよ」

 目元も口元も緩めて笑うカキツバタ。今度は他意も含みもなく自然に笑っているみたいだ。年相応に笑うお顔は素敵ですね、カキツバタくん。

 静かに目を閉じれば隣の少年は意外にも話しかけてこなかった。気遣える子なんだよなあ。行動も言動も緩いのがもったいない。でもそれがカキツバタたる所以だと思えるから、無理やり真面目になれとも言えない。まあ言える立場でもないんですけど!はっはっは!はあ。
 朝早くに目が覚めてそこからずっと起きていたせいだろう、とても眠たい。飛行機に乗ってるからロトムもお休みしてもらってるし、隣のカキツバタは緩いし、シートの座り心地も悪くないし……。ああダメだ、思考が途切れる。襲いくる眠気に勝てず、落ちてしまった。

「──ガラルに知り合い、ねぇ……」

 小さく呟かれた言葉を拾う者は、いない。


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