宝探しの始まり
大きなバトルコートが目を引く丸い形のエントランス。飛行場からここまでは一本道で、内部へ向かうには許可が必要となる。在校生のカキツバタは問題なく入れるが、一般人である私はそう簡単に入れない。入れない……はずなのだが、受付のお姉さんはカキツバタに何か言われた後、パソコンを操作して何かを確認する。確認が終わったらひとつ頷いてネックストラップの付いた名札を渡して快く招き入れてくれた。
いったい何を伝えたのか。カキツバタの後ろにいるので聞き取れなかった。尋ねてみても、へらりと笑って「ヒーミーツ!」とはぐらかされる。どうやらエントランスでは話せない内容らしい。話す気がない、とも取れるけど……!
受付を済ませたカキツバタと私は大きなエレベーターに乗り込み、海の中にある主要内部施設……、テラリウムドームへと向かう。
「カキツバタくん」
「なんだいツムギちゃん」
「どうして起こしてくれなかったの……」
「ぐっすり寝てる人間を無理やり起こしてまで景色見ろ!なんて、オイラにゃ出来ねぇよ」
「起こしてって言ったじゃん!」
「気持ち良さそうに眠ってたなぁ!」
「このっ!カキツバタァ!!」
「へっへっへ!!悪ぃ悪ぃ!」
悪いと思ってない言い方にカチンときたが、これ以上のやり取りは不毛だと早々に諦め、エレベーターから見えるとんでもない景色を眺めた。
海中にありえないほど大規模に作られたドーム、自然環境の忠実な再現、そしてそこに暮らすたくさんのポケモンたち。学校の多岐に渡る施設や居住スペースまでもを作った、って……本当にすごすぎる。
降り立った先はサバンナエリア。ドードリオを筆頭にしたドードーたちの群れ。サイホーンやタマタマ、空にはモルフォンが飛んでいる。初代の子たちだ。実際この地に立って空気に触れるとよくわかる。……ポケモン、めっちゃモンスターだわ……。間違いなくモンスターだ。ゲーム上では高さや大きさが簡略化されているけど、こうして目の当たりにするとなかなか怖い。向こうにはキラキラと輝くテラスタル状態のケンタロス。ロトムを除いて手持ちゼロな私にとって野生のポケモンは恐怖でしかない。こういう時こそ手を繋いでて欲しい、なんてね。
先をのんびり歩くカキツバタに視線をやれば、振り返って私の後ろへ何かを投げた。
「そんな不安そうな顔しなさんな。前はオイラが、後ろはカイリューがお守りしますよ」
名前を呼ばれボールから出てきて目的を理解したカイリューは、返事をするようにひと鳴きすると私へ向けてにっこりと笑みを見せる。
ん"ん"っ、かわいい!
「よろしくね、カイリュー」
「リューウ!」
「ぐっ、かわいい……!」
「オイラのカイリュー、美人だろ?」
「女の子だっけ、うん!可愛くて美人さんだね」
大きくて存在感すっごいけど、それを上回る可愛さよ。毛並みも良さそう。後で撫でさせてもらえないかな。カキツバタとカイリューに頼んでみよう。
ふわり、地面から離れて上空を旋回するカイリュー。何をしているんだろう?と首を傾げたが、カイリューが飛んだのを境に野生のポケモンたちは一定の距離から近づいてくることはなく、むしろ勢いよく逃げて行く。……なるほど、威嚇行為だったか。不用意に近づくなよ、近づけば野生のお前らなぞワンパンだ!と言っている。え?言ってない?そうだよね。
サバンナエリアをひたすら歩く。どこへ行こうとしてるのか。
今更ながら目的地を知らない。
「どこへ行くの?センタースクエア?」
「そ。キョーダイが、アオイが来てるらしい。折角の機会だ。ちっとばかし会ってみねぇか」
「アオイちゃんがいるの!?」
「そりゃいるさ。留学生なんだぜぃ?」
アオイちゃん。私が操作していたバイオレットの主人公。会いたい、会ってみたいけど。私のことがわかるのかな。パルデアやキタカミ、ブルベリを一緒に旅したのは事実だけど実際に体を張って冒険したのはアオイちゃんだ。かなり無茶な行動をさせたことも記憶に残っている。
向こう岸に行けるでしょ!と思ってまだミライドンが泳げない時に川へ突っ込んで行ったり、スマホロトムが必ず助けてくれるからと見張り台や風見台の上から飛び降りてみたり、手持ちの子たちや野生ポケモンでは飽き足らずキャラの周りを囲うようにくるくる走り回ってみたり……。
……だいぶ無茶で無謀な行動と、奇行すらさせた奴だよ?私、本当にアオイちゃんに会って大丈夫?罵倒されるのを覚悟するしかない。
ドキドキしながら歩を進める。ふと空を見上げると青い空ではなく夕焼け、茜色が広がっていた。うっすらと星も見える。時間の経過は現実と同じなのようだ。ゲーム内では朝昼晩、切り替わるの早かったよね。そりゃそうか。同じじゃないと体内時計ぶっ壊れちゃうもんな。
「……日が暮れ始めたね」
「そういやあ、そんな時間だっけか」
「センタースクエアへは徒歩で何分くらいかかるの?」
「今の歩みなら一時間もあれば」
「一時間」
「お散歩にゃあ最適〜、ってな!」
「日が沈むでしょ!」
夜行性のポケモン、気性荒そうじゃない?大丈夫?カキツバタの読みが!大丈夫!?
結構疲れてるけど、うん、一時間ならなんとか……。
── 一時間後。
「着いてなくない!?」
「ツムギの歩みに合わせてんだけどねぃ」
「高低差に足腰やられてるんだよ!まともな運動してない大人に、体力があるとでも!?」
「足腰やられてる、まともじゃない運動ってなに!?きゃあ〜!ツムギちゃんのえっち!」
「くそっ、殴りかかる体力すらない……!わざわざ高低差のある場所を選んで突き進んでるのきみだよね!?これ絶対、先導してる奴が悪い……!」
そうしてさらに数十分。完全に日は落ちドーム内でも夜空が広がり、とっても綺麗です。……なぁにが一時間ならなんとか、だ!着いてないじゃない!山の向こうにうっすら光が見えんでもないけど!それでもだいぶ遠いのよ!
飛んでいるカイリューも時々降りてきて、私の心配をしてくれる。それが「うちのご主人がごめんね」と言ってるような表情に見えるわけ!カイリュー、後で絶対撫でさせてもらうからね……!癒させてね……!
「休憩すっかあ」
「着かない、今日中に着かない……」
「がんばれぃ、がんばれーい!」
「頑張れない。アオイちゃん助けてぇ!」
岩場に腰を下ろして座る。疲労がやばい。思わずアオイちゃんの名前を叫んでしまった。
「──カキツバタ!」
どこからか、左隣の岩場でカイリューと戯れるスットコドッコイを呼ぶ声が聞こえる。
幻聴……?
ここだここー!夜空に大きく手を振るカキツバタ。それ相手に見えてるの?夜で視界も悪いだろうに。
「いた!もう、どこで道草食ってたの!?ツムギちゃんを連れて来るって言ったじゃん!」
「怒んなよキョーダイ!ちゃあんと連れてきてるよ。こちらがツムギちゃんでーす」
空から降りてきたのはミライドンに乗ったアオイちゃん。
髪型はミディアム、髪色はホワイトアッシュ。瞳はウルトラマリンブルー。私と一緒にパルデアからキタカミの里、ブルーベリー学園まで、たくさん旅した、可愛い女の子。……見た目、変えてないんだ。嬉しいような、気恥ずかしいような。
私に気づいたアオイちゃんが駆け寄ってくる。……そうだ、様々なやらかしを謝らなきゃ!
「初めまして、アオイちゃん。あの、私──」
「ツムギちゃんっ!!」
勢いよく、それはもう、瞬発力高めの勢いで。がっしり、がっちり、強く抱きしめられた。思っていた以上の強さでハグされて、ぐえっ!て声が出た。
「心配してたんだからぁ!」
「ご、ごめんね……?」
「センタースクエアで待っててくれーい!って連絡がきて大人しく待ってたけど……全ッ然来ないんだもん!カキツバタの言うことなんか聞かずに私が直接迎えに行けばよかった!カキツバタ!なんで空飛ぶタクシー使わなかったの!?」
「そりゃあお前さん、
「えっ。空飛ぶ……タクシー」
「ツムギちゃんも知ってるでしょ?ほら、エアームドが運んでくれる、テラリウムドーム内限定のタクシーのこと!」
「カキツバタ、」
「いやぁせっかくも機会だしテラリウムドームを肌で感じて欲しくてねぃ。実際、楽しそうにあちこち眺めてたし。タクシー使うって選択肢は皆無だったぜい!」
「カ、カキツバタァァァァ!!」
アオイちゃんの腕を優しく解いてスッと体を離し、残る力を振り絞りカキツバタの特徴的な前髪を掴みにかかる。こいつ……!アオイちゃんを待たせてるのわかってたのに歩かせてたのか!……確かにあちこち眺めることができて楽しかったけども!アオイちゃんが待っていたなら話は別だバカタレェ!
なーにが来てるらしい、だ!待たせてたじゃん!心配させるほど待たせてるじゃん!
「いてててて、いてぇって!抜ける抜ける、毛根から根こそぎ持ってく掴み方やめろー!」
「私の中に残る全パワーを右手に集中!!」
「ハゲるハゲる!アオイ助けて!!」
「そこ無くなってもハゲはしないよ」
「ちくしょう味方はいなかった!ツムギちゃん!謝る!謝るから!!ごめーんねぇ!!」
ぐるるるるる、と本気で唸ってしまったかもしれない。夜は人の本性が垣間見えるという。今夜の本性は獣よ……!
一応謝ってはくれたので手を離した。離したと同時に、私の体は前へ倒れ込んだ。そう、カキツバタの方へ。抱きとめてくれたものの、数歩後退り、なんとか肩を掴んで支えてくれる。マジで脱力してる。筋肉が機能してない。腕も上がらなくて全体重をかけてるし、足がガクガク震えて来た。まずい膝が折れそう!
「どっどどどどどうした、今度は押し倒す気!?」
「ふふふ、もう踏ん張る体力すらないだけだよ。ごめんカキツバタ、頑張れ、がんばれぃ!」
肩を掴んでいた手は背中にまわり、抱きしめられるような体勢になっていた。申し訳ない。スンッとした表情でもたれかかっていたら、首元ですんすん音がする。なんの音……?
「……ツムギの匂い、めっちゃ好みかも」
「うっわ匂い嗅いでたの!?キッッッッモすぎ!」
「すーごい、これ。香水とかつけてる?」
「つけてない、し、ッ嗅ぐなぁ!」
「ツムギちゃん!カキツバタなんかに倒れ込んじゃダメだよ!ばっちい!今助けるね、出てきてマスカーニャ!!」
「ニャニャ」
「いや、オイラばっちくはないけど!?」
ポン、とアオイちゃんが放ったモンスターボールからマスカーニャが現れた。手際よくカキツバタから引き離され、お姫様抱っこで抱えられる。
そして私を見て微笑むマスカーニャ。
えっ……なに?ときめいちゃう……。
「あ、ありがとう。マスカーニャ……」
「ニャア、ニャーゴ」
フッ、と笑みを浮かべるマスカーニャ。
「惚れてまうやろー!!」
イケメンすぎる。そうだ、アオイちゃんのマスカーにゃはオスだった。かっこいいはずよ。だって私とアオイちゃんのマスカーニャだもん!
アオイちゃんにもお礼を伝え、この態勢のまま話をする。申し訳なさすぎ。体力なさすぎ。
「本当は夜になる前に話をしたかったんだけど、カキツバタのせいで予定が狂っちゃった」
「悪かったってぇ」
「ツムギちゃんはお疲れだし、寮に部屋があるから休んでね。もちろん私が連れて行くよ!」
「安心と信頼のアオイちゃん、頼もしい……」
「オイラはー?」
「不安と不信のツバっさん」
「さすがのオイラも泣いちゃうぞ?」
「ごめんごめん。カキツバタも今日は本当にありがとう。日を改めてお礼をさせてね」
「お礼なんていーの。それにもう貰ったし」
「え?なにもしてないけど……」
「ヒウンアイス。貰っただろ?ごちそーさん!」
対価がアイス!?見合ってないよ……。私はめちゃくちゃ救ってもらった。救われた。
まさかのポケモンの世界。イッシュ地方のライモンシティ、右も左もわからず誰にも頼れない場所で。偶然にも出会った……私を知っている人。どれだけ安心したか。
なぜかカキツバタには軽口ばかり言ってしまうけど、心から感謝してる。
もう一度、お礼を伝えた。
「おうよ。へへへ、たまには人助けしてみるもんだ。んじゃまた明日な。ゆっくり休めよ〜」
緩く微笑んでゆるりと手を振り、カイリューに乗って浮上する。そうして速度は控えめに、夜の空へと飛んで行った。
「……アオイちゃん、カイリューに乗って行ったね」
「カキツバタ、フライゴンも持ってるよ」
「……二人乗り禁止とか、そういう校則があったり?」
「なかったと思うけど……。ああ、もう!そういう奴だよ、カキツバタは……!」
なんで徒歩だったんだ。本当に純粋にテラリウムドームを楽しんでほしかった、が半分で、面白そうだからこのまま歩きでいっか!が半分……だったのでは?
アオイちゃんと顔を見合わせて、深いため息。でも、もうこれ以上の文句は言うまい。
女子寮へ向かうために大きいサイズの空を飛べるポケモンを出すね、とボックス内を探しているアオイちゃん。大きいサイズの空を飛べる子。捕まえた記憶がないなぁ。私がそう呟くと、最近捕まえたそうだ。ツムギちゃんが来ないから様々な証持ちのポケモンを片っ端から捕まえていた!とのこと。アグレッシブだわ。
選んで出てきたのはリザードン。ほ、本当に大きいな……。マスカーニャからリザードンへお姫様抱っこで私の受け渡しが行われる。マスカーニャもブレることなく抱えてくれたが、さらに大きなリザードンの安定感は半端ない。背中にはアオイちゃんを乗せている。やばいよ、ポケモンたちへのときめきが止まらない。ケモナーではなかったんだけど、ポケモンの世界にいると私の中で何かが目覚めてしまう……。
学生寮のエントランスに着くとリザードンからマスカーニャへ受け渡し作業。二匹には重ね重ね申し訳ないことをさせている。申し訳ない、が、今は歩けない自信しかないので甘えさせて欲しい。頭は下げに下げる。ありがとうマスカーニャにリザードン……!
寮生たちの視線が痛い。馬鹿にするようなものではなく生暖かい視線。歩けないから抱っこされてるのね、うふふ!という視線だ。痛い。心が痛い。大の大人が情けない。
さらに移動してもらい、見慣れないドアの前へ。どうやらここが今夜泊まらせてもらう部屋らしい。内装はアオイちゃんの部屋と同じ、とのこと。なるほど分かる。
部屋の使用許可はカキツバタが取っていて、校長であるシアノ先生とももう話をつけている、と聞いた。見えないところでかなり動いてもらっていたようだ。やばいくらいカキツバタに頭が上がらない。やっぱりお礼をさせてほしい。なにか私にできることはないかな!?
ベッドの上に優しく下ろしてくれるマスカーニャ。彼にもありがとうと伝えれば、ぐいぐい頭を押し付けてくる。戸惑いつつ撫でてみる、と。や、柔らかぁい……!警戒している時は毛が草のようにツンツントゲトゲして痛いらしいが、甘える時はふわっふわになる、とアオイちゃんが教えてくれた。……甘えて、くれてるんだ。嬉しい。優しく撫で続け、顎の下にも触れさせてもらえた。そうして撫でていたら満足したのかひと鳴きした後、ぎゅうっとハグされる。そして何事もなかったかのように離れてアオイちゃんの側へ戻って行った。
「アオイちゃん……?私は今、何を体験して……?」
「マスカーニャ、ツムギちゃんが大好きだもんね」
「ニャゴ」
「動けない自分の体が恨めしい……!」
「また明日、いっぱい会えるし触れ合えるよ!」
「あ"ーーーーっ!私ここに住むぅー!!」
私の突然の奇声にも動じないアオイちゃん。彼女は彼女でニコニコ顔で私を見ている。
こっちにも可愛い子がいふんだよなぁ……。
「あのさ、アオイちゃん。その、サバンナエリアで会った時に言いたかったんだけど……。いつも変な行動させてごめんね。無茶なこともたくさんさせて、本当にごめん。いい大人なのに忙しなくて動けなくて……頼りなくて、情けないよ……」
「どうして謝るの?私もね、マスカーニャと同じでツムギちゃんのこと大好きなんだよ!私と一緒に旅してくれて、私を冒険に連れて行ってくれて、いつもすぐ側で見守ってくれて、ありがとう!ツムギちゃんとずっと、ずーっと話をしたかったんだ。会えてすっごく嬉しいよ!こうして頼ってもらえるのも、誇らしいもん!」
アオイちゃん……!
マジで現実世界へ、私の元の世界に帰りたくなくなるな?帰れたとしてもきっと喪失感が半端ないと思う。自分の世界へ帰りたい気持ちと、絶対ここに居座ってやるんだからね!という気持ちとで揺れに揺れている。後者の傾きがすごいかも。
「あまり長くなると休めないよね。何かあったら連絡……、連絡出来るものある……?えっ、スマホロトム持ってるの!?なんで!?聞きたいこと増えちゃった!じゃあとりあえず連絡先を交換しよう!……え?私が初めて?カキツバタよりも?やったぁ!飲み物とタオルとティッシュとゴミ箱は近くに置いておくね。ほんっっとうに無理しないでよね!いつでも電話して?アオイちゃんが力になるよ!じゃあ、また明日!……明日も会えるんだよね、えへへへ、嬉しい〜!ツムギちゃん、おやすみなさい!」
笑顔で出て行ったアオイちゃん。ちょっともう、可愛すぎない……?あの子チャンピオンでしょ?パルデアとブルベリーグのチャンピオンだよね?心撃ち抜いてくるんですけど。うわ、心臓バクバクいってるわ。ここへ来てから私の心臓大忙しじゃん。落ち着いて。そして決して止まらないでくれ。生きたい、生きねば。
「……ロトム、起きてる……?」
「怒涛の展開に気絶してたロト」
「それ私もしたいやつ。どうしよう、このままブルーベリー学園でお世話になる流れだよね」
「嫌ロト?」
「嫌ではないけど……申し訳なさが勝ってる」
「……それならガラルに、行ってみるロト?」
「……ガラル、に?」
一瞬で脳裏に浮かんだ──あの人の姿。
「……勇気がないから無理、かな」
「ツムギが呼べばキバナは飛んでくるロト」
「ううん、来ないよ。私を探すこともない」
「甘いロト。キバナを侮ってるロト」
「……どうして?」
「キバナはツムギが大好きだからロト!」
それは私ではなく……同じ名前の、
「相変わらず変な拗れ方してるロトね〜!ツムギはツムギロト!ボクの大好きなご主人ロト!そのご主人を、キバナは好きなんだロト!!」
「変な拗れ方ぁ?だって事実でしょ!あの矢印は私に向いたものじゃなかったの!」
「はぁ〜〜、やっぱりキバナを呼ぶべきロト」
「ダメ!絶対ダメ!!そもそも呼べないでしょう!?」
「呼べるなら呼んでいいロ?」
「呼んだらロトムを他の家電に入れちゃう」
「呼ぶわけないロト」
「よろしい!」
くぅ〜!ボクの扱いを心得てるロト〜!
悔しそうに宙をふよふよ舞うロトム。よほどスマホの中が居心地いいのね。ふふふ、一緒に生活してるのは伊達じゃないんだぜ……。
今日の出来事を記録としてメモに残しておこう。ええと、自分の世界の駅から何故かポケモンの世界に繋がる。駅を降りるとそこはイッシュ地方のライモンシティだった。そこでカキツバタと出会う。フキヨセシティからブルーベリー学園へ。サバンナエリアを歩く。アオイちゃんと出会う。部屋をお借りして就寝。……こんな感じかな。
なんでカキツバタと出会えたのか。どうして私を知っているのか。それで言えばアオイちゃんも当たり前のように私を知っていたよね。……もしかして、キバナさんの時と同じで二人には私の姿がうっすら見えてた?空を見上げるくらいの角度、で?そ……っ、それはさぁ!恥ずかしいを超えて虚無だよ?無にならないと受け入れ難いよ?
バイオレットをプレイしてた時の私、本当にやばかった記憶しかないのに。思い出すのも躊躇われる、ってやつだからね……。みんなには心から忘れてて欲しい。
ロトム用の充電ケーブルが備え付けられていたけど、動けないからロトムには自分で充電してもらった。今日はとことんポンコツです。ごめんね。
瞼を閉じれば少しずつ眠たくなってくる。飛行機の中でもかなり眠ったはずなのに。歩き疲れたからだ、と無理やり納得させて睡魔に従い寝てしまおう。
明日はカキツバタとアオイちゃんと話をしよう。
今までのことと、これからのことを。
◇ ◇ ◇
よく寝た翌日、頭はスッキリ!視界ははっきり!元気も百倍!……とはいかず、太ももとふくらはぎ、足の裏、腰と腕が痛い。間違いなく筋肉痛だ。全身筋肉痛。ま、まぁでも。運動した翌日に筋肉痛ってことは、だ。若さは保ってる!ってことで……。シンプルに体力も筋力も無いだけかもしれない。つらぁ。
プルプルな脚を叱咤し、洗面所へ。顔を洗い、使い捨ての歯磨きセットがあったので袋を破り歯を磨く。シャワールームが横目に見えた。よし、サッと入ろう。色々洗い流したい。痛みを引きずりながらシャワーを浴びた。シャンプーやコンディショナー、ボディーソープが備え付けで置いてあるのはありがたい。本音を言えば湯船に浸かりたい。けど、贅沢は言えないよね。髪を乾かして服を……服。昨日の服は汗かいたし洗わねば。早々にまた今日も着るという選択肢は消えた。仕事用の服を着よう。下着は仕方がない。服も下着も学園内のお店に売ってないかな?アオイちゃんやカキツバタに聞いてみよう。
なんとなくサッパリしたところでアオイちゃんへ連絡を入れる。部屋を把握していないので申し訳ないが話し合いはここでお願いしよう。カキツバタへはアオイちゃんが連絡してくれるそうだ。昨日の今日でお世話になりっぱなしだ……。
アオイちゃんに連絡を入れて数分後。
「おはようツムギちゃん!きたよ〜、入るね!」
「おはようアオイちゃん!どうぞー!」
失礼しまーす!と元気よく入ってきたのはアオイちゃん。彼女の後ろから姿を見せたのはカキツバタ……ではなく、ジュカイン。持ち主であるカキツバタはというと、ジュカインに背負われていた。まさかと思うけど、背負われたまま寝てる……?私の視線の先に気づいたアオイちゃんが呆れたようなため息を吐く。
「カキツバタに連絡しても既読はつかないし、電話ももちろん出なかったから部屋に突撃したんだ。で、案の定寝ててさ。デカヌチャンのデカハンマーを繰り出す前にジュカインが出てきてくれたから、背負ってもらって連れてきた次第です」
「な、なるほど。アオイちゃん朝からごめんね、ありがとう……」
「クルルル……」
「ジュカインもお疲れ様。ここのベッドに寝かせてもらえると助かるよ」
すっごい申し訳なさそうな鳴き声。カキツバタを優しくベッドへ下ろすと自らボールに戻っていく。賢いなあ……。主人を雑に扱わないところも好感度が高い。
しかしよく人のベッドでスヤァできるもんだ。顔にかかっているセットされていない前髪をさらりと横に流してみる。……は?誰。ああいや、カキツバタなんだけど。下ろしていると印象がだいぶ違わない?まさかカキツバタ……も、顔面偏差値高め人間だった……?えっこわ。キバナさん、グルーシャさん、チリちゃんときてカキツバタまで??昨今のポケモン、オタクを確実に刺しにきてる。こわい。
「アオイちゃん、これどうする?」
「コアなファンがいるので、写真撮ります」
「くっっそウケる。私も撮っちゃお!」
寝こけるカキツバタを激写。よし。
「マリルリ、顔面にみずてっぽう!」
撮り終えた直後、アオイちゃんのマリルリがカキツバタの顔面に向けて水鉄砲を放つ。見事顔面にヒット!ベッドはギリギリ濡れてない。二人のコンビネーションに拍手!
なにすんだよぉ、やめてくれぃ……。モゴモゴ呟き寝返りをうつ。こら、濡れた顔面のまま寝返りするんじゃないの!ベッドのシーツで拭いてるな!?
「ん〜〜、おーす……キョーダイたち……。おはよー……ぅ」
「はーい、おはよう」
「おはようカキツバタ。目を開けて!」
「開いてるぜーぃ……?」
「じゃあ、この指何本に見える?」
はっはっは、馬鹿にすんなよ?二本だ。
「ゼロだよ!カキツバタ起きろ!!」
拳を握ってカキツバタの頭をグリグリするアオイちゃん。お強い。ふふふ、どっちが年上かわからんねぇ!二人のやり取りを微笑ましく眺めて笑う。
オイラ寝たまんまでいい?と枕に顔を埋めて尋ねてきたので許可した。座る気ないな。
「そういえば二人とも授業は?出席しなくても大丈夫なの?」
「ふふーん!私は優秀なので大丈夫だよ!」
「へへーん!オイラは大丈夫じゃなーい」
「……なるほど来年も留年、かぁ…… 」
「カキツバタ、そろそろ学校卒業しよ?」
「学校側が迷惑だよね」
「本当にそれ」
「なんでぃなんでぃ、二人して冷てぇの!オイラにゃオイラの考えがあるんだもーん!」
だもーん!じゃないのよ。三回留年した学生がいる、って事実があるだけで学校側はだいぶ苦い顔してると思う。今年は頑張ってよね、カキツバタ!
改めて学園の方には午前中の授業は受けられないと連絡をしてあるそうなので、二人とも無断欠席にはならないようだ。私の都合なのに付き合ってくれて感謝だよ……。
じゃあそろそろ、と話を始めることにした。
まずは私がこのポケモンの世界へ来た経緯を説明。朝早く起きて仕事へ向かうため通勤電車に乗り、目を閉じていたらいつの間にやらライモンシティへ着いていた。そこでカキツバタと出会ってブルーベリー学園へとやって来た。
「なんで私の世界とこの世界が繋がったのか……それはわからないんだけど、ロトムが“電車内の時空が歪んだから”という仮説を立ててくれてね。それとこの世界には次元をぶち抜くポケモンも存在すると教わったんだけど……」
「……次元をぶち抜くポケモン。いるっちゃいるな」
「いるね……。どのポケモンだと思う、カキツバタ?」
「そうだねぃ。空間ならパルキアで時間ならディアルガ。だが次元とくりゃ……アルセウスやギラティナあたりか。セレビィも該当しそうだが、イッシュ地方での目撃例はなかったはず。伝説で幻系のポケモンは気まぐれで困るねぃ」
パルキア、ディアルガ、アルセウスにギラティナ。そしてセレビィ。挙げられたポケモンの名前はわかる。わかるけど各々が何を司っているのかは覚えていなかった。金銀とダイパの伝説ポケモンだよね。何年も前にプレイしたっきりで記憶が朧げだ。
それにしても次元越えられるポケモンってなんなの……??
「ライモンはな、たまぁ〜に起こるんだよ。こっちの世界からどっかへ消えた、とか。どこからかこっちの世界へ来た、とかな。ツムギの世界にポケモンはいたか?」
「ううん、ポケモンの世界を舞台にしたゲームならあったけど、実際に存在はしてないよ」
一瞬、カキツバタが固まる。
「……ポケモンの世界を舞台にした、ゲーム?」
「えー!何それ面白そう!」
「キョーダイはポジティブで羨ましいなぁ」
「え……?疑問を持つとこだった?」
「そりゃあな。ポケモンがいないのに、“ポケモンのゲーム”は存在するんだぜぃ?なんだそれ、どういうこっちゃ?って普通は思う……が。まあそこがキョーダイの良いとこよ!」
なんともフワフワしたフォロー。アオイちゃんはキョトンとしている。
カキツバタは全体的にゆるふわなのに理解が早い。頭の回転も早い。ちょっと驚く。
「ゲームでこっちの世界を知っていたから、ポケモンのこともオイラやアオイのことも知ってた……ってことでいいんだよな?」
「うん、そういうことです」
「やっば。さしずめオイラたちはゲームのキャラクターってとこ?」
「そこまで理解しちゃうカキツバタが怖いんだけど……」
「オイラは一切否定しないツムギのが怖ぇよ」
寝そべっていたカキツバタが掛け布団を目元まで引き上げて震える仕草を見せた。
……ちょっと、「ツムギの匂いがする〜」じゃないのよ。気持ちが悪い!剥ぎ取るぞ。
「ポケモンがいない世界、想像できないや……」
「そうだよね、側にいてくれるのが当たり前だもんねえ」
「まあ、ポケモンがいない世界から来た人間ってのもツムギが初めてじゃないと思うぜぃ。それこそ、全国各地で起こってる……と、オイラは思ってる」
「嘘でしょ……」
「ほら、ツムギちゃん。現在では飽き足らず、未来に行ったり過去に行ったりしちゃう博士も世にはいるくらいだから!」
「アオイちゃん……それ頭抱えるやつ……」
「
親友が苦しんだからね!怒髪天案件だよ!」
全国各地で次元をぶち抜いて人を行き来させてる、なんて。怖すぎ。やっぱり討伐するべきなのでは?……もしかして、試みようとしても見つからない、とか?あり得そう。
「ツムギちゃんはライモンシティを知ってたの?」
アオイちゃんの質問に首を振る。聞いたこともないしその街の知識もない。イッシュ地方はブルーベリー学園しかわからないことを話す。ただ、カントー、ジョウト、ホウエン、シンオウ、パルデア、ガラルは知っていることも正直に伝えた。むしろどこを知らないんだ?イッシュだけでは?とカキツバタも首を傾げる。いやいや、確かまだいくつかあるよ。名前がわからないだけで!ほら、アローラ、とか。ヒスイ、とかさ。
「そういえばだけどよぅ、ロトムを持ってんのはなんで?」
「あ!それ私も聞こうと思ってた!」
「えーと、話せば長くなるんだけど……」
ロトムを持っていた理由に興味津々な二人。話しても構わないんだけど、どこまで話そうかな?それも問題だよね。ひとつ息を吐き、二人の顔を交互に見る。
パルデア、キタカミ、ブルベリでの冒険が一段落ついたので次はガラル地方へ向かった。そこでアオイちゃんと同じような女の子と一緒に旅を始めて少し経った頃、会ったことはなく、完全に初めましての人で“私”を知る人が現れた。そしてゲームの画面越しに会話を成立させてしまって、その人が私のスマホへロトムを送ってきた。ロトムが来たからか向こうと通話もできてしまったし、メールのやり取りさえできるようになった。……色々あって今はその人に連絡は出来ない。ロトムも返そうとしたがロトム本人に拒まれ私の元に残ってくれた。
……これが大まかなロトムを持っている理由、だ。一応時系列通りに話せたと思う。
「なるほど、なぁ。完全にそっちとこっちが繋がっちまったわけだ」
「ロトムが私の元へ来たから?」
「そういうこと。いやぁ、すげぇことをする人だ。ロトムを次元が違う世界へと送って連絡を取り合う……たぁ。お上にしょっ引かれて何十年の懲役刑!って判決が下っても納得できちまうレベルのことをしてるぜ?全く大した度胸の持ち主だ!」
やっぱり軽率にやっちゃダメでヤバい行為だったんだ。自分の血の気が引いていくのがわかる。もう動向はわからないけど……、大丈夫かな、キバナさん……。
「……愛されてるねぃ」
「いえ、愛されてはいないです」
「えっ、急な敬語は心臓に悪いのよ……」
「なんでその人はツムギちゃんを知ってたの?ツムギちゃんは知らなかったんでしょ?」
アオイちゃんの質問に口を結んだ。それを説明するにはキバナさんの過去に触れてしまう。本人がいないところで話をしてしまうのはよくない。どうしたものか。
「なんでだろう、ね?」
「あ、誤魔化した!」
「わかりやすく誤魔化したなあ!」
「ごめんね、それは私からは話せないんだ」
ずるい大人でごめん。また時がきたら……いつか話せる日が来るなら……きっと話すから。
「じゃあ今度は私も聞いていいかな?ライモンシティでも尋ねたんだけど、私が元の世界に帰れない……ってなんでカキツバタは言い切れるの?」
「連れてきたのがポケモンの仕業なら、それはそいつの気まぐれや偶然だ。と、オイラは考えるわけよ。そんなら元の世界にも……って、思うだろ〜?ないんだな。“帰す”のが前提ならそもそもこっちの世界には連れてこねえさ」
「そういう情報、おじいさんのところへ集まってくる感じ?」
「まぁそんな感じ。特殊な家柄なモンで!」
面倒くさそうな、苦虫を噛み潰したような。肩を竦ませなんとも言えない表情のカキツバタ。本当に複雑で特殊なお家なんだな……。
「あと、元の世界へ戻ったって記録もナーシ。過去に何度かライモンの駅でこっちに来ちまった人がいるんだが、逆はないんだ。帰っちまったって記録は一個も出てこねえ」
「絶望じゃん……」
「オイラもアオイもいるんだ、悲観することはないぜぃ」
掛け布団の端から手が出てきて私の手をぎゅうっと握る。驚いて引っ込めようとしたが掴む力の強いこと。カキツバタを見やればにっこり笑っていた。……気が抜けてしまう、笑顔。
「一人にはしねぇよ」
「……カキツバタなのに頼もしいね」
「オイラなのに、は余計でーす」
「私も!ツムギちゃんを一人にしないからね!」
「アオイちゃん……!」
「なあんでオイラの時よりときめいてんの?同じこと言ってるのに」
「私とカキツバタの差だね!」
「なくない?そんなに差ある?」
アオイちゃんとカキツバタの兄妹感、いいなあ。微笑ましく眺めてしまう。
その後二人からの質問は、仕事は何をしていたの?どれくらいポケモンのことを知っている?ここで捕まえる予定はないの?トレーナーになる予定は?他の地方ではどんな旅をしていたのか?等々。答えられる限り真面目に答えた。
「そうだ、カキツバタにもう一つ聞いておきたいことがあるんだった」
「お?なんでい?」
「カキツバタは私のことをどこまで知ってるの?」
「へへへ、気になっちゃう感じ?そいつは、ひぃーみぃーつぅー!」
口元に人差し指を当ててにんまり笑う。こいつ。思わせぶりな態度を見せられて腹が立つ。絶対、秘密にするほど深い理由はない気がするんだけどなあ?
「じゃあアオイちゃんはさ、」
「うん!」
「いつから私のことを認知してたの?」
「にんち……とは!?」
「ん"っふふ」
「先輩、笑うとこじゃないよ。私と旅をしてる!ってわかるようになったのはいつ頃?」
アオイちゃんの返答によっては気恥しさ度が変わるよ……!
「ネモちゃんの家の前で三匹の中から一匹選ぶ時……だったかな」
序盤も序盤だった……!や、やだぁ!
あ〜!一緒に歩いてる時も思ったけどやっぱりニャオハが一番可愛い〜!四足歩行のにゃんこ可愛すぎ〜!ホゲータは絶対癒し枠だよね、ぽっちゃりまんまる最高。食いしん坊なとこも良き!クワッスはオシャレさんなのかな、スタイリッシュな進化しそう!……とか、こう、荒ぶって声に出してたのも全部聞こえてたってことよね?ヒェ、羞恥心で死ぬる。
ということはつまり、パルデアでの各ルートでも、キタカミでのスグリくん関連の時も、ブルベリでわぁわぁ言いながらブルレクや四天王戦に挑んでいたのも。キビキビ事件で笑いが止まらなかったのも……全部、全部アオイちゃんには知られているんだね……?
「キタカミの時がピークだったよね。スグリくん、待って、違うんだよスグリくーん!待ってぇぇ!誤解を解かせて、ねえ、話をしよう!?目のハイライト消さないでぇぇ!アオイちゃん早く追いかけてぇぇぇぇ!って。私の気持ちを全部言葉にしてくれて嬉しかったなぁ。ツムギちゃんも私と同じ気持ちなんだ、って思えてさ!」
「ぐぅ……っ!……テ……コロ、シテ……」
「オイラがツムギの姿を認知したのは、確かタツベイを育て始めた頃かな。時間をかけて育ててたのを遠目に見つめていたぜぃ」
「えっ」
「んで、初めて話しかけたのはリーグ部にアカマツとオイラが居て……タロとネリネは居なくて。ええと、その日はボタン……だったか?を、こっちに呼び寄せた時だ。パーティ調整してなくてボコボコにやられてたっけな!」
「は?」
「オイラ、ツムギに聞いただろ?」
“「おーす、キョーダイ。いい勝負できた?」”
そういえば、あった。キバナさんを撃破した後、話をしてもらう間の一時間でバイオレットを起動させて……アカマツくんとカキツバタに会った。その時のカキツバタは私たちがタツベイを育てていたことも知っていた。いったい何を言っているのか、誰に向けて放たれた言葉かわからなかったけど……あれは私に話しかけていたの!?キバナさんと同じことしてるじゃん!
あの時の謎の違和感はそういうことだったのか……。
「でぇ、誰と戦ったんだ?」
「ボーマンダを戦わせた相手?」
「そそ。あれだけ時間をかけて育てたのに、対一人用だったんだろう?となりゃ、どんな相手とやり合ったのか気になるのは当然ってもんでしょ」
「タツベイかぁ、すっごいコツコツ育ててたよねぇ」
「……そうだね、二人には教えておこうかな」
ボーマンダが戦った相手。
ガラル地方、ナックルシティのジムリーダー。ドラゴンタイプを扱う、キバナ……さん。
「ガラル地方、ナックルジムのリーダーキバナ……ね。かのドラゴンストームが相手か!」
「知ってるんだね」
「よくSNSで炎上してる人だからな!」
「それは知りたくなかったよ」
「……キバナさん。ガラル地方の……キバナさん、」
「ん?アオイちゃん?」
「どーした、キョーダイ」
うーん、うーん?と唸り出すアオイちゃん。どうしたの、何か思い出そうとしてる?
「キバナさん。キバナさん……!どこかで見た気がするんだよね……」
私とカキツバタは顔を見合わせた。
キバナさんをどこかで、そして何かを見た?気になるぞ。
「はっ!トップモデルと熱愛加速!結婚まで秒読みか──!?みたいな記事が出てた!」
「なんだゴシップかよ」
「……へぇ、」
「お?ツムギ?」
「ふぅーーーーん?」
「えっと、ツムギちゃん……?」
そう。トップモデルと熱愛加速。結婚まで秒読み、ね。へーぇ。ちゃんと将来を誓うお相手がいたんですねぇ。知らなかったなあ。そうだね、そうよね。知ろうとしなかった私も悪いよねぇ?一途にツムギさんのことを好きでいるんだと思ってたけど、それはそれ。これはこれ、ってことね?ふぅーん。そうですかぁ。モテる人の思考って分かんないな〜。
人に向かって妬くだのオレさまのだの、よく言えたもんだ。どの口が!?って感じですよ。
「ツムギちゃんの目が据わってる!」
「どしたぁ?まさかファンだったとか?」
「えっ、それなら余計な情報を教えちゃったかな……」
「ファンならいずれ知ることになるだろ。気にするこたねぇさ。いやはや、人間ってのは感情を無くすとこんな顔になるんだなぁ!貴重な表情を見れて面白いねぃ!」
行かない。絶対ガラルには行かない。
もし行ったとして万が一、億が一、ご本人に会ってしまったら……面と向かって罵詈雑言を浴びせてしまう自信しかない。
そうなるくらいならこのままイッシュかパルデアに住んでしまえばいい。そうしよう。余計な情報も入れずに過ごせばきっと存在丸々忘れられるはずだ。うん、就職先を探そう。
素性の怪しい私だが、面識のあるアオイちゃんとカキツバタがいるならこの先どうにかなるだろう。二つの地のチャンピオンと、ブルベリーグ部元部長。大いに二人の功績にあやからせていただく。ズルい大人は狡賢く生きねばならぬのよ。何も持たない私だからこそ、ね。そしていつか巡り巡って二人への恩を返せたらいい。いや、必ず返したい。
「こっちに来たばっかで何も考えられないとは思うが、ツムギはこの世界で何をしたい?」
「何をしたいか、か……」
「ポケモントレーナーになってもいい。そんで高みを目指してもいい。今まで通りの仕事をしたって構わない。専門的すぎる職業はすぐに就けねぇかもだけど、割と融通がきく。とにかくやりたいことが見つかるまでここに、ブルーベリー学園に居るといいぜぃ」
「ツムギちゃんの宝探しの始まりだね!」
「やりたいこと、宝探し……。いい歳した大の大人が……?」
「大の大人だからこそ、新たな旅立ちってことで吹っ切れていいんでない?」
「そうそう!カキツバタのくせに良いこと言うじゃん!」
「オイラのくせに、は余計だと思いま〜す」
「尻込みしてるなら私たちにも手伝わせてほしいな!色んな所に連れて行っちゃうよ!」
「そいつは名案だ。授業も参加できるよう、学園側に話通しておくかぁ」
「こういう時はフットワーク軽いよね」
「頼りになるだろ?」
「普段からそうならリーグ部のみんなも困らないのに……」
「耳が痛ぇや!」
笑い合うカキツバタとアオイちゃん。
宝探し、か。私にも見つかるかな。
──見つかると、いいな。
「んじゃま!午後からの授業は一緒に行っかい!何事も経験と体験が大事〜ってな!」
「あ、それならグレープアカデミーの先生も特別講師で呼んじゃお!」
「それもアリだな」
「!いっそパルデアのアカデミーに行っちゃう?みんなに紹介もしたいし!」
「それはナーシ。オイラが行けないからダメ〜」
「むっ、ツムギちゃんは私のツムギちゃんだよっ」
「ツムギちゃんを見つけたのはオイラだよっ」
……よくわからん内容で火花を散らす両名。
──ツバっさん、放課後バトルで決めようぜ。
──おーう、望むところでぃ。
なんてバチバチしないでもろて。……ところでその放課後バトル、私も近くで観戦していいやつかな?二人のダブルバトルを間近で見れるとか……!観覧料いくらかな?タダ?トップレベルのバトルを無料で見れちゃうの!?ブルベリーグ、正気か?
こうしてお昼のチャイムが鳴り響くまで三人で仲良く、時に真面目に話をして過ごした。
うん、実に有意義な時間でした!
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