キスをしないと出られない

(女夢主/同い年/二番隊の隊員)


まさか。
まさかと思うでしょう?
私とエース隊長が捕まるなんて。

敵襲を受けて、相手の船へ乗り込んだ。
四皇の親父を倒して名を上げるのだという馬鹿が攻め込んで来たら、そいつらを返り討ちにする。私たちの誇りであり尊敬する船長、白ひげの親父。この海で最強の親父を守るというのは、かなり烏滸がましいことだが、親父が現場へ出るような事態は極力避けたい。
これは戦闘員である船員の一番の大仕事。

自分の力を過信していたわけじゃない。
けれど、油断した。
能力者がいるとしても覇気でどうにかなると。小さな男の子が、まさか能力者だとは。

目が覚めたら、そこは真っ白い部屋で。
周囲を見渡すが窓はなく、ただ白いベッドだけがポツンと中央にあるのみ。
早々に扉も見つけた、が。

「何してんの、エース隊長…」
「ぶっ壊そうとしたんだが、ダメだった」

扉の周りが焼け焦げていた。
エース隊長の能力でも燃やせず溶かせず。
覇気を纏い攻撃を加えてもビクともしない…らしい。エース隊長が能力を使用出来るということは、部屋は海楼石の類いでもない。
つまり、これは敵の能力の中。
…ということになる。

厄介な悪魔の実があるもんだ。
悪魔の実というだけで厄介ではあるが。正体不明の出来事が起こると頭を抱えてしまう。

ジタバタしても疲れるだけだ、とエース隊長はベッドに寝転がってしまった。ここは敵の手中であると警戒心を持っていただきたい!!…まぁ、エース隊長にそれを求めても無駄だと分かってるけどね。ええ。

壁に手を宛て、ぐるりと回る。
トラップは無さげ。天井にしてもそう。
扉のドアノブを勢い良く回すが、当然開かない。押しても引いてもどうにもならない。
…これはため息しか出ないなァ。
踵を返してエース隊長の元へ行こうとしたら、上から一枚の紙が落ちてきた。

思わず飛び退いた…が、ただの紙だ。
拾ってみればそこに文字が。

「…モカ?それなんだ?」
「エース隊長、これ燃やして」
「何か書かれてんのか?」
「はい、どうぞ」

ピラリ、隊長の目の前に垂らす。

【キスをしないと出られない部屋】

「………は?」
「ナメてるなぁ、あのクソガキ…」

ここから出られて見つけたら容赦なく拳骨を喰らわせよう。容赦なく。
…そういえば、あの子どもの攻撃を受けたのは私だけではなかったか?何故ここにエース隊長もいるんだ?

「エース隊長も攻撃喰らったの?」
「倒れるお前を庇った時にな。油断した」
「…捨て置けない性格だもんね」
「大事な家族だぞ、当たり前だ」
「そっか、ありがとオニーチャン」
「どーいたしまして、モカチャン」

含みのある笑みでお互い見やる。
はいはい、私はどう足掻こうと妹です。
お兄ちゃんに恋する、妹ですよ。不毛。

キス、キスか。
場所の指定はない。
お?ということは?手とかでもいいの?

「エース隊長、手ェ貸して」
「なんで手」
「いいから、はい、ちゅー」

手の甲に口をつける。
…特に何も変化なし。どういうこと。
ヒラッ、とまたも紙が落ちてくる。

【普通そこは口じゃない?】

「ぶっとばす」
「うははは!なんだこれ!どっかで見てんのか?趣味悪ィなぁ」
「笑いごとじゃないんだけど!」
「モカとキスか…」
「しないよ?」

なんでわざわざ自分の心を抉るような真似をしなければいけないのか。嫌々キスするエース隊長の顔を見るとか、いっそ殺せと思う。密かに想う乙女の心を弄びやがって。マジであのクソガキ許すまじ…!
紙をぐっしゃぐしゃに握り潰す。
ペイッ!と扉に投げつけた。

はー、どうしよう。
二人きりが嬉しいと思う乙女心。
早く出してあげたいと焦る気持ち。
隊長の攻撃を通さないのならば、私の攻撃なんて毛ほども効かないだろう。
あーーーーどうしよう。

「モカ、なぁモカ」
「なに?脱出方法でも浮かんだ?」
「ちょっとおれを見ろ」
「?はぁ…」

エース隊長の方へ振り返る。
思いのほか近くに隊長がいて驚いた。
ザッと一歩後ろに下がれば、一歩距離を縮めてくる。いや、なに?ちゃんとエース隊長を見てるんだけど。…なに、…ま、まさか。
いやまさか!?

「しませんってば」
「出たくねェのかよ」
「そりゃ出たい、キス以外で!」
「試してみる価値はあるだろ?」

いいから大人しくしろって。
片手で利き手を掴まれ、反対の手で頬を包んでくる。それはそれは優しい手つきで。

「なに泣きそうな顔してんだ」
「エース隊長の決断の早さに泣きそうなの!それに、あのクソガキが見てるんでしょ!?手の平で転がされて…!ぐうムカつく…」
「ふーん、じゃあ別におれとのキスが嫌ってわけじゃねェんだな?」
「…え」
「嫌だから泣くわけじゃねェな?」
「ええと、まぁ。…嫌では、」

嫌ではないです。
そう言おうとしたら、唇が触れる。
コンマ1秒もない、本当に触れるだけ。

その瞬間、ガチャ!と鍵の開く音。
エース隊長が扉に近づき、ドアノブを捻る。するとビクともしなかった扉がパカーンと開いた。
は?はぁぁぁあ???

「モカ、出るぞ」
「え、あっ…!うん!」

放心する脳を叩き起こし、隊長の後に続く。しっかりしてくれ私の脳。
勘違いを起こすんじゃない、私の脳!
これは部屋を出るための手段!
好きだのなんだの、そういうのは全くない!エース隊長はそういう人だから!本能で!!生きてる人だから!!!
別に悲しくないわ!クソガキ捻り潰す!

明確な怒りを携えて部屋を出れば、なんと目の前は真っ赤な炎で包まれていた。

「……隊長」
「おう、炙り出してるとこだ」
「下手したらこれ死にますけど」
「それはそれでいいんじゃねェか?」

あのキスはおれとモカの秘密にできる。
そう言ったエース隊長の顔は、怒って…いた。なんで。閉じ込められたから?それとも、こんな所でキスすることになったから…とか…?
うわぁぁぁぁ頼むしっかりして、私!
都合よく解釈するのはやめよう、私!!

隊長が片手を差し出してきた。
ここから出て、船に戻るぞ。と。
ひとつ頷いてしっかりと手を取る。
隊長の熱い手に私の顔も熱くなった。

ああもう、この何とも言えない気持ちは、一体どうしたらいいの!ねぇエース隊長!


キスをしないと出られない部屋

「戻る前にもっかいするか?」
「しない!!」

Fin.


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