その後のお話

(女夢主/酒場の店員、年下/赤髪が常連)
(赤髪視点)(少し背後注意)



『シャンクス』

一人の女の声で目を覚ます。
どこかで聞いたことがある、その声。
もう、二度と会えないだろう…そのひと
ここ数日、彼女に名前を呼ばれる夢を見る。

拠点にしようと考えていた、ひとつの島。
海流も気候も島民も、全てが穏やかで。
海軍の出入りが少なく、酒が美味い。
…好条件だったが、拠点には出来なかった。

名前を呼ばないと出られない部屋。
なんて、敵のふざけた罠にかかっちまって。
酒場の店員であった彼女も、巻き込んだ。
おれに好意を持っていると気づいたのをいいことに、強引な手を使って名前を呼ばせた。

涙を零した彼女の姿が、頭から離れない。

陽は登っていないらしく、外は薄暗かった。
なるべく静かに部屋を出る。
彼女が暮らすあの島の方角へ歩を進めれば。

「よォ、お頭」
「…なんだ、お前も起きてたのか」

この船の頭脳であり古くからの友人であり、常に己の背を任せてきた相棒、ベックが手すりに肘を置いて煙管をふかせていた。
全く、こいつは何をしても様になるな。

寝つきが悪くて起きたと伝えれば
「へェ」
としか返ってこない。
もっとおれの悩みに興味を持てよ。

「アンタの煩悩に興味はねェ」
「ベックお前、エスパーか何かか?」
「何年付き合ってやってると思ってんだ」
「だっはっは!お世話になってます」
「世話してばかりだぜ、おれは」
「でも、それが楽しいんだろ?」
「ぬかせ」

肩を揺らす副船長。
おれも手すりに腕を乗せて海を眺める。
もちろん眺めてもそこは真っ暗で、船が海を掻き分ける波の音しか聞こえない。今はそれがおれの心を鎮めてくれているようだった。

…彼女は、元気だろうか。

「奪えばよかっただろう」
「なにを?」
「しらばっくれるな」
「…奪えるわけねェよ、おれは海賊だぞ」
「海賊だから、奪うんだろうが」
「この海に…彼女は引き込めねェ」

荒れ狂う海。真っ直ぐ進むのさえ困難な海。
海賊や海軍との避けられない戦闘。
怪我は日常茶飯事、死も常に隣り合わせ。
こんな過酷な場所にあの子は身を置くべきじゃない。地に足が着く陸の上で。おれのような男ではなく、もっとしっかりした奴と一緒になる方が…きっと、彼女は幸せだ。

幸せにしたい、なんてのはただの我儘。

ヒュ、と空を裂く音が耳に入る。
こんな夜更けに珍しい、情報屋の海燕だ。
一枚の紙をおれに押し付けてくる。
なんだよ、熱烈が過ぎねぇか?
ベックが紙幣を渡した直後、嘴で額を一突き。
…次来た時は丸焼きにしてやろう。

「地味にいてぇ」
「はは、下っ端だと思われたんじゃねェか」
「有り得る。…で、これ何の記事だ?」
「特にめぼしいモンは載って……ん、」
「なんだ!?」
「…お頭、覚悟を決めた方がいいぞ」
「…なんだ」

紙の上には、
“とある島が海賊の襲撃を受ける”
その一文と共に島の写真が映っていた。

その島はおれ達も先日まで停泊していた。
彼女が穏やかに暮らす…あの、島。

「ベック、航路変更だ」
「いいんだな」
「あァ。あの島はおれ達の拠点に出来ないが…他の奴らに奪わせる気も、更々ねェ!」
「ったく、面倒くせぇ人だよ」
「付き合ってくれるだろ、副船長!」
「仰せのままに、赤髪の大頭キャプテン

緩やかに航海していたレッドフォース。
ぐるりと舵を回し、方向転換。
不寝番の奴らには変更を伝えた。他のクルーにはベックが上手いこと言っているだろう。

無体を働こうとする馬鹿野郎共に…
わからせてやらねェとなァ?
あの島に手ェ出せば、─どうなるのかを。



***


「見えたぜ、お頭」

島の輪郭がわかるほど近くまで来た。
港の方から黒と灰色の煙が立ち上っている。
どうやら、海賊はまだ島にいるらしい。

海上なら沈めるだけで済んだかもしれんが。
まだ島に居るのなら、手加減は不要だな。

「ヤソップ、撃ち抜け」
「おーおー、珍しく怒ってやがる」
「一発でやれよ」
「お頭ァ、誰にモノ言ってんだ。当然だろ」

狙うは、敵船の海賊旗。
まずはそれを全て。全て撃ち落とす。

号令と共にヤソップが引き金を引く。
鋭く走る弾丸は風に流されることも、逸れることもなく、いとも簡単に旗を撃ち抜いた。
それらはボッと火が付き燃え上がる。
待機していたであろう船員も出てきた。

「お前たちも知ってるだろうが、おれはこの島を気に入っている。だからこそ、ここを拠点にするつもりはない!…が、他のアホみてェな海賊共に奪われるのも荒らされるのも許せねェし、我慢ならねェ」

日の出前。
寝ていた野郎共も、すでに臨戦態勢。
…おれのワガママに付き合ってくれ。

「敵船の船員は全員捕縛。幹部及び船長を発見もしくは捕らえ次第、おれの元に連れてこい。金品、食料、その他島の荷物は全て降ろせ。捕まっている島民がいる場合も、即時解放してやれ!いいな!」

おれの発言の端々に力が篭っていることに気づいた幹部たちは、揃って肩を竦めた。
察しが良くて助かるな。

「この島は、おれのナワバリにする!!!」

言い切った瞬間、歓声が上がった。
うちのクルーの士気は上々。
これならすぐにカタがつくだろう。

船と船員は皆に任せ、島へ降り立つ。
周辺を見渡せば家屋や店、花壇に樹木、レンガで舗装された道までもが壊されている。
美しい街並みをまぁ、よくもここまで。

躊躇うことなく酒場へ足を向ける。

「あァ?誰だ、テメェ」

扉を開けて酒場の中へ。
俺より少々大柄な男が一人、細身の剣士に、二丁拳銃を扱う者が一人。斧を背負うのが三人。その他を合わせると15人弱…か。

ほとんどが酒を飲んでいるようだ。
足元に空瓶が散らばっている。おれはカウンターに座る大柄な男の元へ歩を進めた。

「─酒を一杯、飲みたくてな。あんたも飲んだだろう?ここの酒は美味いんだ」
「テメェにやる酒はねぇよ、出ていけ」
「まぁそう言わずに。店員さんは?」
「…男はそこで酒と飯を作ってらァ、女は…へへへ、奥で可愛がられて…ッ」

言い切る前に、大柄な男は白目を向いて
ガクン!!と前のめりに倒れた。

その他の連中も、すでに気絶している。

「あ、赤髪の、旦那…!」
「遅くなって悪い。モカちゃんは?」
「先ほど奥に連れられて…まだ、そこに」

みしり、床が軋む。
…おれが店を壊してどうする。

マスターには外に仲間がいることを伝え、先に出てもらった。はたしておれは、奥にいる男を殺さずにいられるだろうか。無理だな。

奥へと続くドアを開ける。
キッチンと食料庫、酒蔵を兼用している部屋。さらにその奥。
おそらく、マスターの私室だろう。

躊躇いなく蹴破り、中へ入った。

そこには。

「ひっ!?…え…?あ…っ、」
「モカ、ちゃん…」

服を乱された姿でベッドに横たわる彼女。
手首は縄で縛られている。
汚ェもんを晒したまま、床に転がる男。
どうやらコイツにも覇気が届いたようだ。
おれとしては、意識が残っている状態でぶん殴りたかったが。気絶してるなら仕方ない。
よォーーーし…、後で思いきり踏み潰す。

彼女に近づけば、体を震わせ涙を流して。
服は切り裂かれたのか所々破れていた。

「や、みな…見ない、で」
「モカちゃん、どこを触られた?」
「服を…破かれて、む、ねを…」
「…嫌なことを聞いてごめんな。怖かっただろう、すぐ外へ連れて行くからな。だから、おれが触れるのを…今だけは許してほしい」

ゆっくり体を引き寄せて抱きしめる。
こんなに後悔したことはない。
陸の上が安全だ。なんて、保障はなかった。
海へ、おれの手が届く所へ…奪っておけば。
羽織っていたコートをかけて抱き上げる。

前回抱き上げた時より、軽い気がするな…。

「赤髪の…お兄さん、」
「ん。どうした?」
「助けに来てくれたんですか…?」
「ああ。心配でな」
「この島、お気に入り…ですもんね」
「そうさ。それに酒と、モカちゃんもな」
「…ありがとうございます」
「本当だぞ?本気に聞こえねェか?」

片腕で抱き上げているから、おれはモカちゃんを見上げるような体勢で。モカちゃんは落ちないように、と、おれの首に両腕を回してくれている。

この小さな距離がもどかしい。
強く引き寄せて、その唇を奪いたい。
そんなことを思いながらマスターの私室を出て、食料がある部屋に再び戻ってきた。

「…会いたかったです」
「ん、おれに?」
「はい。…シャンクス、さん…に」
「…はぁ〜〜〜」
「!?え、な…なんですか?」
「今、おれの名前を呼ぶのはズルいなァ」
「前に“赤髪のお兄さん”じゃねェ、って…」
「言った言った。覚えてくれてたんだな」

食料庫に置いてある少し高めのテーブル。
その上にモカちゃんを優しく降ろす。
視線はおれと同じくらいになった。
コートの端を口で広げれば微かに見えた肌色。彼女の胸に遠慮なく顔を埋める。

「ちょ、っと!?シャンクスさん!」
「…胸のどこを、触られた?」
「っ!言わなきゃ、ダメ…ですか?」
「ダメ」

ちゅ、と素肌に吸い付く。
…この柔らかい肌にあの男が触れたかと思うと…鎮まった怒りがふつふつと湧き上がる。
やはりあの場で両方踏み潰すべきだった。

おれの視線を避けるように目を泳がせる。
そりゃまぁ、言いづらいよな。
でもダメだ。絶対言わせる。

「モカ、おれが消してやるから」
「消して…?」
「ほら、どこを触られた?」
「…ぜ、」
「ぜ?」
「全体…?」

顔を真っ赤に染める彼女。
…なるほど、揉まれたわけか。

自分の目が鋭くなるのが分かる。
落ち着け落ち着け。奴の手首と指は砕こう。

片手はおれの指を絡めて。
ふわりと盛り上がるそこを、舐め上げた。

「!!?し!シャン、クスさ…っ!?」
「おれの頭を、抱きしめてな」

見上げて笑いかければ、更に頬が赤くなる。
…あぁ、ほしい。この子がほしい。
奪いてェ。おれのもんに、したい。

ひと通り乳房を舐め終え、唯一触れていなかった胸の頂へと舌を絡める。するとその刺激を待っていたかのように体がビクビクと強く打ち震えた。
目が合えば蕩けた瞳がおれを映す。

たまらねぇ。

「やぁ…!あ、だめ、ん…シャンクスさ…!
っふ、あぁ…っ!も、もぉ、消えた…ぁ?」
「おう。今は上書きしてる所さ」
「ひゃうっ!っ、な…んっ!で?」
「なんで?…モカにもっと触れたいから。
なぁ、おれの舌は…気持ち良いか?」
「シャ、クス…さんっ、きもち、いぃ…っ」

なんて良い声を上げるんだ。
降ってくる可愛い声に熱が抑えられない。

──ヒュッ、

ガンッ!!!!!

頭に響いた衝撃と鈍痛。
その辺の棒か何かで殴られたようだ。
モカに夢中だったおれは簡単に吹っ飛ぶ。
殴ったのが誰かなんてのは、愚問なわけで。

「…なにしてんだ、アンタは?」
「いっ、てェな!!なにしやがるベック!」
「襲われた女をてめぇが襲ってんじゃねェ」
「……それを言われると反論できない!」
「はぁ……とっとと病院へ連れて行け」
「わぁーかってる!…ベック。奥の男は両方潰して手首と指を砕いとけよ。粉々にな」
「…本気か」
「こいつらはおれを怒らせた」
「…了解、お頭」

赤髪の嫉妬は恐ろしいな。
そんな声が背に届いたが、おれは笑うだけ。

病院へ向かう途中。
息が乱れているモカを見やれば、思いきり睨みつけられた。どうやら我に返ったらしい。

へらり、笑えばビンタされる。
…んん、なかなか痛い。

「ななななんであんなことしたんですか!」
「気持ちよかっただろ?」
「!!!そ、そんなこと…ない、です!」
「顔真っ赤にさせて否定してもなァ?」
「う、」
「なぁ、モカ。おれの船に乗れよ」
「……はい?」
「おれの船に乗れよ」

聞こえていないわけじゃないだろう?
まぁ、聞きてェなら何度でも言ってやるが。

「それは…どうして?」
「モカがほしいから」
「ほしい」
「欲しいもんは手に入れたい。手に入れたら傍に置きたい。その。つまり…なんだ」

ここまでスラスラ、つらつらと言えたのに、肝心な言葉は喉に詰まって出てこない。
歳だけ重ねたガキだと、誰かに言われたことがある。今まさに、それを痛感していた。

“覚悟を決めたほうがいいぞ”
ベックのセリフも頭を過ぎる。
ああ、そうだな。おれは覚悟を決めた。

ふー、と息を吐いてモカを見る。
首を傾げる彼女が。…愛しい。

「モカが、好きだ」

頭から湯気が出るんじゃないか?と思うほど
顔は赤く、首元も腕すら赤く。

なァ、期待していいんだよな?

「おれの恋人になってくれ」



その後の、お話。

「おーし!復興の手伝いをするぞ野郎共!」
「「「おおーーーーっ!!!」」」
「お前ェら手際が良いな。おれも手伝おう」
「副船長!」
「…ん?副船長だけ?お頭は?」
「は、帰ってきてねェのか」
「…まさか」
「…ま、まさか」
「…はぁ、あの男は…」
「呼んできます?」
「やめとけ。蹴られるだけだ。それより部屋をひとつ…いや、部屋を広げるべきか?」
「「「?????」」」

赤髪に惚れられたのが、運の尽きだな。
これから船にやって来るであろう、一人の女性を思い浮かべ、副船長は静かに笑った。

Fin.


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