媚薬を10本飲むまで出られない
(女夢主/4番隊員、同い年/エース→夢主)
(エース視点)
未だかつてないほどおれは焦っている。
見知らぬ部屋。
どうやっても開かない扉。
中央にベッド。
ベッドの上に、4番隊のモカ。
枕元には謎の小瓶。
ウロウロしてもどうしようもないことくらい、流石のおれでも分かる。だが、ウロウロせざるをえない事情もあった。
まだ目を覚まさない彼女に近づく。
おれはモカが好きだ。
彼女の笑顔も、彼女の声も。なにもかも。
気持ちを伝えた所で玉砕するのは目に見えていた。と、いうのも恐らく彼女は自隊の隊長であるサッチのことを、想っている。
告白して気まずくなって、変な壁を作られるよりはマシだと。友人のように親しく接してくれる彼女が離れていくよりはマシだと。
そういう考えが、想いを告げる・という行動を起こせない原因となっていた。
実に、おれらしくない。
…もしかしたらこれ、夢なんじゃねェ?
想いすぎて夢にまで出て来たんじゃ?
おれ、相当参ってねぇ??
帽子のつばを掴んで視界を遮る。
勘弁してほしい。
そんなおれを嘲笑うかのように、白い紙が上から落ちてきた。足元に落ちたそれを拾い上げる。何か書いてある…よう、だ…。
【媚薬を10本飲むまで出られない部屋】
読み終えて、即座に燃やす。
いやいやいやいや、おれ本当に大丈夫?
どんな夢見てんだよ。
チラリと枕元に目をやる。
あの謎の小瓶。その中身は媚薬…。
媚薬って、あの媚薬だよな。…マジか…。
現状、扉が開かないとなれば怪しすぎるがこの紙の通り、飲まねェと出られないんだろう。額に手を当ててため息を吐く。
彼女が寝ている間に飲み干して、扉を開ければ出て行ける。彼女は、サッチに助けてもらえばいい。…それで、いい。
例え夢でも、彼女を傷つけたくはない。
小瓶へ手を伸ばす。
薄いピンク色で、水晶のような形をした、手のひらに収まる程度の小さな瓶。
これを10本。この量なら大丈夫だろ。
躊躇いなどなく、勢いよく飲み干す。
その液体は喉を通っていく時、熱く燃えるような刺激を与えた。が、体にも何も特に変化はない。これは余裕でいけそうだ。
2本、3本。調子よくグイグイ飲み干していけば、残りは3本にまで減った。
…平気だと思っていたが、あー、うん。
体は別の意味で熱いし、思考がじわりじわりと溶けてきている気がする。手のひらを握れば汗が滲んでいた。
視界に彼女が入ると触りたい衝動に駆られ、その度に頭を振った。おれが汚してはいけない。傷つけたくない。絶対に。
震える手でひとつ持つ。
あと3本。たった3本だ。
飲み干した瞬間、手から瓶が滑り落ちる。
くそ、誰だこんな夢見てんのは!!
おれか!!!欲望丸出しじゃねぇか!
夢じゃなく、現実なら、この部屋に閉じ込めた奴は…どうしてくれよう。
明確な殺意を持ってもうひと瓶あおる。
残る瓶は、あと1本。
それを手に持って、蓋を開けた時。
「…エース…?」
全身が燃えるように熱い。
おれは炎なのに。その熱さではない別のものが体を支配してるのは分かっている。
彼女に触れたい。
声を聞いただけ、名前を呼ばれただけで。
彼女に、触れたい。
見つめる先におれを映してると思うと。
彼女に……触れたい。
ぎゅっと目を閉じてゆっくり後ずさる。
見てはダメだ。触れてしまう。
なけなしのおれの理性、頑張ってくれ。
下がり続けて壁が背中に当たった。
たぶん、これは扉だ。
「…えっ!?ここは何?どこなの…?なんで私、ベッドで寝てんの?…っていうか、エース!大丈夫!?顔赤くない!?」
もしかして私たち捕まってる!?
ベッドから降りて近づこうとする気配。
すぐに片手を上げて、制止させた。
「少し、そこで待っててくれねェか…」
「でも!体調悪いんじゃ…?」
「大丈夫だ、心配…いらねぇよ、」
「エース…?…あれ、なにこの紙」
バッ、とモカの方へ顔を上げる。
彼女の手には、白い紙。
まさか。あの文字が書かれた紙か?
確かに燃やしたはずだ。
…やはり、誰かの仕業だったか。
彼女が息を飲んだのがわかった。
散乱した瓶、部屋の空気、おれの言動。
察さない方が無理な状況だ。
「エース、まさか、一人で…?」
「あと一本で終わる。飲まねェと、出れねぇらしい。ここが開いたら、おれがすぐに出る。…サッチを、呼んでくるから、モカはもう少しだけ…待っててほしい」
「でも、」
「頼む…!そこから、動くな」
おれは大丈夫だから。
そう言って精一杯、いつものように笑う。
…笑えていたか、わからねェけど。
動きを止めたモカに安堵する。
ふぅ、と息をひとつ吐いて飲み干した。
目の前が歪む。
ああ、ほしい。モカがほしい。
欲望のまま、押し倒して。
おれのものにしたい。
ギリッ、と強く奥歯を噛み締める。
後ろ手でドアノブを探せば、見つけた。
それを捻ればガチャ、と開く。
よかった。おれは彼女を守れた。
「エース…」
「開いたぞ。はは、はぁ…よかった」
「近づいても、いい?」
「ダメだ」
最後まで、格好をつけさせてくれ。
少しだけ顔を上げて彼女を見る。
不安そうな表情。心配する瞳。おれの名前を呼ぶ声。ああ、モカの全てがたまらねぇ。
好きだと叫びたい。抱きしめたい。
…でも、その役目は…おれじゃない。
扉を開いて転がり落ちるように部屋から出た。胸が苦しい。好きだ、モカ。
好きなんだ。
おれを、好きになってほしい。
想ってほしい。
涙が浮かぶおれの前に、青い炎が見えた。
「エース!!大丈夫か!?」
「っ、マル…コ…部屋に、モカがいるんだ。出してやってくれ…おれじゃ、出来ない。おれには、触れない。マルコ、おれ」
「わかった、…わかった。安心しろよい」
青い鳥が、静かに怒っていた。
本当にもう大丈夫だ。ありがとうマルコ。
ここに居たのが、あんたでよかった。
意識が遠のいてそのままマルコの方へと倒れ込む。おれの出番は、ここまでだ。
媚薬を10本飲むまで出られない部屋
夢だったなら、どんなに、よかったか。
Fin.
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