好きと言わなければ出られない
(女夢主/革命軍の仲間、部下/→←)
目を覚まして思ったのは、不覚。
子ども相手に気を抜いたのが原因だ。
まさかこんな厄介な能力を持っていたとは。
全方位白い部屋。
窓はなく、扉だけが壁に付いている。
部屋の中央、不自然に置かれた三人掛け用のソファーが異様な雰囲気を醸し出していた。
ここにいるのは私と床に倒れている参謀総長の二人だけ。コアラさんやハックさんは?みんなは?…無事でいるだろうか。
未だに目を覚まさない参謀総長の頭の下へ私の上着を敷く。無機質な床に頭を置くよりは…少しは固さも和らぐはず。
次に思ったのは、この状況の不可解さ。
わざわざ革命軍の二人を同じ部屋に閉じ込める意味は?何故、別々にしなかったのか。
相手はうちの参謀総長をナメているのか?
それはそれで腹が立つ。
目を閉じている参謀総長の顔を覗う。
気配に鋭い人だから、こんなにも無防備な姿は今まで一度も見たことがない。
「─…モカ、」
「!参謀総長、気づかれましたか!?」
「…すー」
「…寝言、ですか…」
……。
い、いやいやいやいや、私の名前を呼んだだけ。一緒の任務についていたから、咄嗟に出たんだろう。きっと深い意味は無い。
私が先に起きてよかった。
赤くなった顔を見られずに済んだから。
そうだ、参謀総長と二人。
二人きり。
今さらながら、かなりパニックだ。
すぐにでも距離を置きたい。けれど、参謀総長は意識がない。何が起こるか分からないこの状況で、離れて参謀総長の身に危険が及んでしまったら。それは非常によろしくない。
私の身はどうでもいい。
彼だけは。必ず生きて帰さねば。
革命軍に、この世界に。必要な人だから。
ひらり。
一枚の紙が落ちてきた。
それを空中で素早く取って確認する。
【好きと言わなければ出られない部屋】
…へぇ?
条件を満たさなければ出られない、と。
好き、…好き…ね。
「好き」
声に出してみるが、特に変化はない。
なんて子供じみた仕業。
首を振り、ため息をもらす。
「…誰を、好きなんだ」
下から声がして心臓が跳ねた。
「参謀総長!目を覚まされましたか、お体は大丈夫ですか?怪我などは…!」
「モカ、誰が好きなんだ」
「…今の言葉に意味はありませんよ」
「誰を思い浮かべて、好きと言った?」
「参謀総長…?」
真っ直ぐ見つめてくる参謀総長。
「…いい匂いがしたと思ったら、お前の服がおれの下にあって。立っているお前を見上げれば、遠くを見つめて“好き”と言った。気にならない方が無理な話だろう?」
上体を起こし、私の上着を手に取る。
立ち上がって上着の皺を伸ばしつつ何度か払ってくれた後、優しく掛けてくれた。
なんと、恐れ多い。
…いい匂いがした、という言葉は心に刻んでおこう。照れるが素直に嬉しい。
「気になるんですか?」
「ああ、気になる。…と、言うことはやっぱり誰かを思い浮かべていたな?」
「すみませんが今は状況が状況なので、お答えは出来かねます。しいて言うなら、この紙が“好き”と言った原因です」
「…なんだこれ」
「この指示通りに言葉にすれば出られると思ったのですが…。変化はありません」
「好きと言わなければ出られない部屋…」
参謀総長は紙を見て、部屋をぐるりと見渡し、最後に扉へ視線を動かす。
なるほど。一言呟いて顎に手をかける。
とりあえず足掻いてみるか。
扉へ向かう参謀総長に着いていく。
例の紙は折ってポケットへ仕舞われた。
私は扉もどこにも触れていないことを伝えると、ひとつ頷いて構えた。壊すつもりだ。
扉が大破する未来しか見えないけれど。
少しだけ距離を取る。こういう時の参謀総長は遠慮がないのを知っているから。
その結果は。
大破どころか、傷ひとつ残らなかった。
攻撃を吸収するかのように、扉は波打つだけ。…扉が波打つというのも意味不明だ。
「手応えなし、だ」
「出られない…ということですか」
「相手の策に乗るのは癪だが」
もう一度、あの紙をポケットから取り出せば、手から離れ床へと滑り落ちた。
そして迷いなく私の方に向かってくる。
「参謀総長?」
「モカ、好きだ」
カチャ、解錠の音が耳に届いた。
扉へ目を向けた…つもり、だったが。
頬に参謀総長のグローブの感触。
グイ、と顔を上に向けられる。
「…好きだ」
逸らすことを許さない瞳に、捕まる。
「さ、さんぼう…そう、ちょう…?」
「お前は誰が好きなんだ」
「そ…っ!それは、」
「ほら、おれの目を見て言え」
「何故です!言う意味ありますか!?」
「少なくともおれには意味がある」
するり、頬を撫でていく。
「…なぁ、赤面するのはどうしてだ?
おれ以外の男にも、その顔を見せるのか?」
「さ、ささささ参謀総長ッ!!!」
「おれの名前を呼べ」
「無理です!!」
「モカ、まさか名前は知らねェ?」
「…存じ上げております…」
「なら、呼べるよな!」
「呼べませんよ!」
参謀総長、扉が開いたかと!
早く出ましょう!コアラさんやハックさんが心配しているかもしれません!!
そう言ってもなお、離そうとしない。
…分かってる。参謀総長は先に折れない。
柔軟な思考をお持ちの人だが、こうと決めたらテコでも動かない・折れない人でもある。
ならば、私が折れるしかない…。
深い意味はない。そう、意味はないんだ。
言葉にするだけ。伏せた目を開けて、意を決し参謀総長を見上げる。
「サボさんが、好きです」
真剣な瞳とぶつかる。
直後、嬉しそうに微笑んだ。
「そうか」
「深い意味はありませんよ!?言わされてますからね!私の意思ではないです!」
「おれのこと、好きじゃねェの?」
「人として尊敬してますし好きです!」
「恋愛対象としては?」
「ええ…!?」
「おれはモカが好きだぞ」
こういう意味で。
さらに距離が縮まり、鼻と鼻がくっつく。
参謀総長の端正な顔がふ、と緩む。
目を閉じろ。
その言葉の後、唇が触れ合った。
こんな場所で。
敵の手中にあるかもしれないのに。
優しく何度も、唇を奪っていく。
「モカ、抵抗しねェのか」
「…え?…あっ!な、なんでキスを…!?」
「抵抗しねェんなら、話は早いな」
言うが早いか。
私の手を取り、扉へ向かう。
先程まで全く開く気配のなかった扉は、すんなりと開き部屋を出た。途中でコアラさんとハックさんに会ったが、参謀総長はお二人の声を無視して通り過ぎる。
船に乗り、参謀総長の部屋へ。
扉を閉めると鍵もかけられた。
…再び出られない部屋に来てしまった。
「ここなら誰も聞いていない」
「そう…ですね」
「モカ、お前は誰が好きなんだ」
「どうしてそんなに知りたいんですか」
「好きな人の好きな奴は気になるぞ」
「…もう嘘は、つかなくてもいいんですよ」
「おれの告白が嘘だと?」
「部屋を出るための嘘、なのでは?」
「好きでもねェ女とキスなんてしない」
どうして私なんですか。
何故。
参謀総長に相応しい女性がいるはず。
それはきっと、私じゃない。
「観念したらどうだ?」
「観念、ですか…」
「そう。観念して、おれに想われてくれ」
繋がれた手。指が絡む。
「モカ、好きだ」
好きと言わなければ出られない部屋
「私も…参謀総長が好き、です」
「ああ、ずっと前から知ってた」
「……はい!?」
「ははは、隠してるつもりだったのか?
残念だったな。ほら、おれの名前を呼べよ」
Fin.
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