嫌いと言わなければ出られない
(女夢主/戦闘員、同い年、古参/→←)
「キャプテン…」
「…“ROOM”」
キャプテンが技を発動しても何も起こらない。かなり奇怪な、白い部屋。
私が壁を。キャプテンが扉を。
いくら攻撃してもビクともしなかった。
島へ降りた先で、こんなことが起こるとは。これだから
「技自体は発動するのに、効かないって一体どういうことでしょうか…。…はぁ、名物の大福アイス食べたかった…」
「食べたいのは大福なのかアイスなのか」
「大福でアイスですよ…キャプテンにも一口くらいならあげようかな、と思ってました」
「相変わらず食い意地が張ってんな」
「味覚好奇心が旺盛なだけです!」
「味覚好奇心って初めて聞いたが」
やれやれ、と気だるげに部屋の中央に置いてあったベッドへ腰掛けたキャプテン。
座る所がそこしかないので仕方ないが。
…ベッド、という存在は緊張感を覚える。
本当にどうして、こんな所に来てしまったのか。ここで気がつくまでの記憶が曖昧だ。
誰かに声をかけられた…ような。
ハッキリと思い出せなくてモヤモヤする。
「あの、キャプテン?」
「モカ、ここには誰もいない。名前で呼べ」
「……ロー、さん」
「敬称も取れ」
「いや、さすがにそれは…」
「昔馴染みのお前に、キャプテンと呼ばれることがどんなに居心地悪ィか…わかってるか?いつも我慢してやってんだ。二人の時くらい、構わねェだろ」
「そりゃ、ローさんにも面子がありますし。いくら古参のクルーであっても、気軽に名前で呼べませんよ。敬語も同じく!」
「…昔は、呼んでたじゃねぇか」
「昔は昔、今は今!です!」
頭が硬ぇなァ…。
結構深めのため息をついて寝転がった。
あー、これは動くつもりがないとみた。
分かってますとも。伊達に長い付き合いじゃないですからね。北の海で出会った頃から、キャプテンはマイペースで自由な人だ。
代わりに、私が動く。
愛刀を抜き一閃、二閃。斬撃を放つ。
分かっていたが手応えなし。
石や鉄…大体の鉱石なら斬れるのだが。
移動可能なキャプテンの能力でもダメ。
と、なると。考えうる可能性は誰かの能力…か。キャプテンも含め、超人系の悪魔の実は本当に厄介だ。一筋縄ではいかない。
扉の取っ手が壊れないのも不思議。
キャプテンと私の猛攻に耐えるってすごい。
「…おい、モカ」
「はい?」
「これ」
振り向けばベッドからキャプテンの腕が伸びて、その手には…何かな。白い紙…?
近づいて受け取る。
そこに書かれていたものは。
【嫌いと言わなければ出られない部屋】
「……はぁ?」
「恐らくおれがお前に。お前がおれに。その言葉を言わねぇと出られねェんだろう」
キャプテンに嫌いって、言えと?
えっ、めちゃくちゃ好きなキャプテンに向かって、嫌いと口にしろと!?ふざけるなよ。
「ローさんからどうぞ」
「言っていいのか」
「……ヘコむ自信しかないです。ハートの海賊団は、もれなく全員がローさんに惚れてますので!大好きですから!…なのでこの言葉はキツいです。メンタルブレイクします」
「あぁ、だろうな」
そう、うちのクルーはキャプテン・ローが大好きなのだ。一見、クールで冷徹な印象が強いキャプテンだが、懐に入った者は非常に大事にしてくれる。扱いが粗雑なのは信頼されてる証。…なので、これは…嘘だとしても、その場しのぎの言葉だとしても。
…一人の、女としても。
かなり、心に突き刺さる。
「モカ、なんで言いたくねぇんだ」
「ローさんが好きなので」
「それは、船長に対する好意…だな?」
「当たり前じゃないですか」
「おれ個人に対する“好き”ではないのか」
「…おれ個人?」
「トラファルガー・ローに対する感情だ」
えっ。
好きですけど?
恋してます的な意味で。
愛してます的な意味でも。
それをぐっと堪えて。
にこやかにお答えしましょう。
「もちろん、敬愛してます」
「…モカ。いい加減にしろよ」
手首を握られ、強く引っ張られる。
その力強い引きに抵抗出来ず、ローさんの方へ倒れた。寝転がるローさんの、上に。
ローさんは黒いパーカーを羽織るだけで、前は閉めていない。素肌に手が触れてしまう。
飛び退こうとするが、腰に腕が回り動けない。目の前には意地悪そうに笑うローさん。
や、やばい。
なにこの体勢。照れるというレベルを遥かに超えてしまっている。沸騰、そう、顔も体も沸騰しているかのように熱くなってきた。
「お前の気持ちが他に移らねぇ限り、それでもいいと思っていたが。感情を押し殺すくらいなら言わせてやる。モカ、おれを見ろ」
「キ、キャプテン!?」
「ローだ、名前で呼べ。敬称もつけるな」
有無を言わせない、強い口調に戸惑う。
いや、だめだ。流されるわけにはいかない。
私はキャプテンの力になるんだ。
いつでも切り捨ててもらって構わない。
利用してくれるなら、それでもいい。
キャプテンをこの海の、王にしたい。
確かに好きだ。大好きだ。
愛したいし、愛されたい。
でも、それ以上に。
あなたはこの世界に愛されているから。
私の感情で縛りたくない。
自由でいてほしい。
「モカ、おれをどう思ってる」
「…私、は」
「ああ」
「私はあなたが……ローが、嫌いです」
キャプテンが目を見開く。
こんな表情をするなんて、珍しいな。
…おや、なんだろう。
視界がぼやけてきた。
「…馬鹿野郎が」
頬に何かが触れる。
瞬きをしたら、水の塊がぽたりと落ちた。
続けざまに何滴も。
少しだけ開けた視界に、キャプテンの腕が目に入った。どうやら私の頬に触れたのはキャプテンの手の平、みたい…だ。
頬に触れていた手が離れて、今度は思いきり抱き締められる。キャプテンの匂いに包まれた。耳は心音を捉える。鼓動が少し速くなっているのは、気のせいだろうか。
「好きで好きでたまらねェ、そんな顔して嫌いと言われたら…。確かに、キツいな」
「ろ、ロー、さん」
「…今から口にする言葉はもう二度と言わねェ。本心でもねェ。いいか、心に残すなよ」
「…はい」
眉間に深い皺を寄せて目に火が灯る。
キャプテンが、怒っている。
一度目を瞑ってから、私と目を合わせた。
「モカ、……嫌いだ」
二度と言わない。本心じゃない。
そう言ってくれた。
でも、やはり好きな人からのそれは。
悲しい。
扉の鍵が開く音が耳に届いた。
…そうだ、ここから出なければ。
シャチもペンギンも、ベポも。
きっとクルーの皆が探し回っているはず。
傷ついてる場合じゃない。
「キャプテン、扉が」
「モカ」
「キャプテ…!…っ、ロー…さん」
「モカ、おれはお前が好きだ」
一人の女として。
さらに強く抱きしめられ、耳元で囁かれた。
キャプテンはベッドから動こうとしない。
「…お前は?」
「ローさんが、好きです」
「知ってる」
「嫌いと言って、ごめんなさい…」
「わかってる」
「これからも、ずっと好きです」
「ああ、おれだけを見てろ」
耳元から首筋に唇が寄せられる。
そこから頬へ。そして、唇へ。
少しだけ唇同士が触れて、すぐに離れた。
「おれ以外に触れさせるな」
「…はい」
私の返事を聞いて満足そうに笑った。
好きです、大好きです。キャプテン。
嫌いと言わなければ出られない部屋
「今夜、部屋にこい」
「いや…それはちょっと…」
「おれは我慢しねェことにしたんだ」
「目が本気じゃないですか!」
「あぁ。本気だ。お前を抱く」
「!!こ、今夜はベポと不寝番です!」
「おれと不寝番だ。ベッドの中でな」
Fin.
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