30分ハグしないと出られない
(女夢主/海軍将校(中佐)/桃鳥→(←)夢主/)
(夢主強め、語気も強め)
ふっ、と。
意識が浮上する。
…“意識が浮上する”?
覚醒し始める脳が違和感を訴えた。
何故。
私はいつ、意識を落とした?
瞼を静かに開き辺りを見渡す。
白い天井、白い壁。窓は…見当たらない。
どうやら扉はあるようだが。
恐らく簡単には開かないだろう。
捕まったのか。
…誰に。考えうるのは海賊。
手と腕、足と付け根を動かしてみる。
どこも拘束はされていないらしい。
上体を起こし、て。さらに驚愕した。
私が寝ていたのは…ベッドの上。
「どういう、ことだ?」
海賊ならば拘束もせずご丁寧にベッドの上に寝かせるだろうか?否、それは有り得ない。
奴らは私を好まない。私も奴らを好まない。
絶対に相容れない関係だ。
他の賊徒にしても、そう。
小さく息を吐く。
「フ、フフフ。お目覚めか?お姫様」
「!」
声がした方を向けば、大きなベッドの端に桃色の塊…いや、コートを羽織る男が一人。
他の誰かと見間違えることも、そう簡単に記憶から消すことも難しい…その男。
七武海の一角を担う、そいつ。
「お前の企てか?ドフラミンゴ」
「なんのことやら」
「この部屋はなんだ、何故私とお前が…」
「さァなぁ?おれに聞いても答えなんぞ持ち合わせてねェよ。言えるのはそれだけだ」
「…ドアは開かないんだな?」
「フッフッフ、ご明察」
こいつの力で開かないとなると、疑うべきは海楼石の類い。しかし能力を行使したのならばその可能性は消える。…と、なれば。
この不可思議な部屋は悪魔の実の能力で。
私とこいつを閉じ込めたのはその能力者。
…よりによってこいつと二人きりとは。
先ほどより大きくため息を吐いた。
「なァ、」
「なんだ」
「あまりおれに近寄るなよ」
「…は」
「近づくな」
どういう意味か測りかねて首を傾げる。
このような状況だ。仕掛けて来ない限り、
私も無理に戦おうなどと思っていない。
なのに近寄るな、近づくな…とは?
ドフラミンゴの意図はよく分からない。
…まぁ常にこの男の意図は分からないが。
ベッドを降りて扉の方へ。
警戒しつつ、ドアノブを捻った。
当然のように開かない。
コートのポケットから革手袋を取り出し手に嵌める。そこに武装色を纏わせて、構えた。
「…おい、いくらお前でも」
長く細く息を吸う。
「ハァッ!!!」
狙ったのは扉の蝶番。
思い切り拳を叩き、ぶち壊そうと試みる。
──ガキィン!!
カラン…。
三つあるうちの中央の蝶番を叩いたら。
壊れて床に落ちた。よし。ひとつめ。
「…ふ、フッ…フッフッフ!!ははは!!」
「ドフラミンゴ、本気で攻撃したのか?」
「ッフフフ!フフ…っはァ、ゴリラかよ…」
「はいはい。お褒めの言葉、ありがとう」
外れた蝶番の部分を重点的に攻撃を加える。
その甲斐あってか、壁にヒビが入った。
そろそろ上を狙うか。
右足を下げて腰を落とす、が。
「待て」
突然肩を掴まれる。
振り返ればそこにピンクの男。
何故か紙を持っていた。
それを手渡してくる。
そこに書かれていた文字は。
【30分ハグしないと出られない部屋】
「…この部屋の仕様、か?」
「だろうな」
「文面的に…私とお前で、ハグしろと?」
「だろうな」
「却下」
「フッフッフ、だろうなァ」
その紙の通りにドフラミンゴと、ハグ。
ハグ…。つまり抱きしめ合う。
しかも30分間。それで扉が開く…だと?
どうにも、ふざけている。
…それに。
恐らく、私の心臓がもたない。
「壊した方が早い」
「おれはこっちの方が早ェと思うが」
「先程近寄るな、と言っていたのは誰だ」
「…そうだな。それはおれの事情だ」
「っ、近づくな!」
私との距離をさらに詰めてきた。
思わず後退れば、背に何かが当たる。
…何か。後方にはドアしかない。
あまりにも近い距離に顔を背けてしまう。
ダメだ、意識してると気づかれる。
先程までのように毅然とした態度で接さなければ。ただでさえ目ざとく、頭の回る奴だ。
気づいたら、からかってくるに違いない。
私の想いを気づかせてはならない。
…決して。
「…モカ」
「な!名前を、呼ぶな…」
「フッフッフ。耳が赤いぜ、中佐殿?」
「!!」
急いで耳を隠しても、すでに意味はなく。
恨みがましくドフラミンゴを睨みつけるも、いつものように飄々と笑みを浮かべるだけ。
私の背にはドア。
目の前にはドフラミンゴ。
逃げ道は左右にある。けれど。
…何故か足が動かなかった。
恐怖に竦んで動かないというわけでも、
こいつの能力…というわけでもない。
「一応聞いておく。抱きしめていいか」
「いいわけあるか!」
「フッフッフ、聞いただけだ」
その言葉を紡いですぐ。
空気が揺れ、ドフラミンゴの香りが強くなる。背中に感じる違和感。体を包む浮遊感。
そして、顔を覆いたくなるほどの
高揚感。
─っ、だめだ、落ち着け。
静まれ、心臓。
私からこいつに触れるわけにはいかない。
が、何かに捕まっていないと落ちそうで。
仕方なく。…そう、仕方なく。
ピンクのコートをそっと握りしめる。
「モカ。なぁ、モカ?」
そんなに可愛い反応をされると、
…期待するぜ?
耳元で声がする。
背中と臀部に腕が回って、体が密着する。効果音をつけるとするなら「ぎゅっ」。
…だろう。
抱きしめられている。
あの、ドフラミンゴに。
されるがままになっていること屈辱感を覚えるが。喜んでいる自分も確かにいて。
「モカ、腕をおれの首に回せ」
「…締め上げていいのか?」
「フフフッ!馬鹿を言うな。お前もおれに抱きつけって言ってるんだ。ハグしないと出られねェ、そういう謳い文句だっただろう?
どちらかが、かもしれねぇが。そうじゃない場合、30分以上ハグする羽目になるぞ」
「!…そう、だな」
言っていることは理解出来る。
抱きしめ合えば30分で済むかもしれない。
…理解したくないが、わかる。
一度ため息を吐いて恐る恐る腕を伸ばし
ドフラミンゴに抱きついた。
より密着度が増してしまって。
とても、かなり、だいぶ…恥ずかしい。
耳に笑う声が届く。
結局、言われるがまま動いてしまった自分に腹が立つ。やはり扉をぶち破った方が良かったのでは?今からでも遅くない、こいつの腕から抜け出して盛大に破壊してやろう─、
「往生際が悪ィなぁ?」
「海軍将校が海賊に抱きしめられているんだ、抵抗するのは当たり前じゃないか!」
「フフ、そりゃあごもっとも」
「大人しく離してくれれば…」
「離さねェよ」
ぐっ、と腕に力がこもった。
「お前が考えていることは、わからない」
「奇遇だな、おれもお前がわからねェよ」
「…どういう意味だ」
「本当に嫌なら、海楼石が仕込んであるその革手袋をおれに押し当てりゃあ、すぐにでも離れられるだろう?なのにそれをしない。わざわざおれの意思で離れさせようとしている。これを都合よく解釈するなら、」
お前はおれとハグしたい。
自分からは離れたくない。
「!!そ、そんなことは!」
「ない、か?本当に?」
「ない!」
「フッフッフ、心臓は正直だけどな」
ハグしたまま、ドフラミンゴは扉から離れた。そのままベッドへ近づき、そこに座る。
心臓、心臓の音…。
目を閉じてこいつの音を探れば。
「…お前も、鼓動が速くない…か?」
「…そうだろうな」
「まさか体調が悪い…?それなら早く言え!悠長に抱きしめ合ってる場合じゃ…!」
「……大丈夫だ。黙って抱きついてろ」
何故か抱きしめる力を強められた。
大丈夫と言うなら、…いいか。
もう一度目を閉じる。
私の鼓動とこいつの鼓動、速さが同じような気がする。気がするだけだと思うが。
段々この心音が心地良くなってきた。
とん、とん、とん。
一定のリズムで背を叩かれて。
ふわふわのコートが頬に触れて。
ドフラミンゴの呼吸も、穏やかで。
…私の思考は、少しずつ閉じていった。
30分ハグしないと出られない部屋
「(寝ちまった、か…)」
抱きしめ合ってから30分が経ち、扉は音を立てて開いた。まさか本当にハグしたから開いたのか?笑えるほどふざけた能力だ。
己の腕の中で穏やかに眠る海軍将校。
いつもは凛とした佇まいでそこに立ち。
視線はやや鋭く。隙を見せることなく。
悪い奴は許さない。まさに正義の海兵。
苦手なタイプの女だったけれど。
「…おい、モカ」
「ん、ドフラミンゴ…」
よくよく観察してみれば。
おれの前だと肩に力が入り、視線が泳ぐ。
目が合えば勢いよく逸らし頬を染める。
からかえばからかうほど、表情を変えて。
なんて面白ェ奴だと口角を上げてしまう。
おれが唇を奪えば、どうするのか。
拳は飛んでくると覚悟するべきだな。
愛を囁けば、逃げてしまうだろうか。
フッフッフ…、まぁ、逃がしはしねェ。
糸を絡ませても、恐らく引きちぎられる。
中佐殿は武闘派だと心得ている。
起こさないよう静かに立ち上がって、部屋を出た。外にいる海兵共にこいつの寝顔を見せる気は更々ない。自身のコートで覆い隠す。
さて、どこで目を覚まさせてやろう。
無難に考えりゃおれの船か。
…いや、壊される可能性が高い。
ならばホテルにでも連れて行こうか。
ああ、その方がいい反応を見せるはずだ。
─おれはおれが思っているより、こいつを。
モカのことを好いているらしい。
Fin.
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