99回目の告白
「チョッパー!あなたが好きです!!」
ある晴れた日のサウザンド・サニー号。
釣りに勤しむルフィ、ウソップ、チョッパー。そして三人の元へ勇み足でやって来たかと思えば、開口一番、告白をする一人の女性。
その名もナナシ。
彼女は二丁拳銃を扱う、戦う歯科衛生士だ。
歯科衛生士、というだけあって同じ医療従事者であるチョッパーと過ごす時間は長い。
チョッパーはチョッパーで、歯に関する分野は自分の専門外な部分も多々あり、ナナシとの話はとても有意義で好きな時間であった。
そんなナナシは。
プリティーな船医、トニートニー・チョッパーに恋をしている。かなり真面目に。本気で。
「おう!おれもナナシが好きだぞ!」
「っ!!恋愛的な意味で!?」
「大事な仲間って意味で!」
「仲、間…!アイ ラブ ユーではなく!?」
「アイ ライク ユー!だ!!」
そんなぁぁぁあ!!!
絶望の声と共に涙を浮かべ、一目散に逃げ出す。それを見ていたルフィとウソップは。
「今の何回目の告白だァ?80回くらいか?」
「あっはっは!ナナシは熱烈だなー!」
「熱烈ってレベルじゃねェだろ、灼熱だ」
逃げて行くナナシの背中を憐れむように見つめるウソップ。愛の告白に笑顔を見せるルフィ。
そして告白されたチョッパーは。
どうして伝わらないんだろう?
こちらはこちらで困った顔を見せていた。
ところ変わって。
海のコック、サンジの城。つまりキッチン。
ダイニングテーブルに腕を置いて重苦しいため息を吐き出したのは、80回目の告白を断られたナナシ。彼女の隣には麗しい考古学者。
その正面に、みかんとお金を愛する航海士。
彼女がため息を吐く理由を知る二人は、なんとも言えない表情で声をかけていた。
「あんたもめげないわね」
「ふふ、一途でいいと思うわ」
「え〜!?そお?諦め悪くない?」
「あら、ナミがその台詞を言うの?」
「…それとこれとは別ッ!ナナシは告白なのよ!愛の告白!断られたならすっぱり諦めて、自分磨きでもしなさい!」
「うえええん!ロビーン!悲しいよぉぉぉ」
優しく頭を撫でてくれるロビン。好きになってしまう。ナナシは涙を浮かべながら抱き着く。
やめなさい!ロビンも甘やかさない!!
ナミはなかなか手厳しい。
一体自分の何がだめなのか。
どうしたら恋してもらえるのか。
今のナナシの頭の中はそのことでいっぱいで。
「想われているチョッパーが羨ましいよ」
にっこり、紳士的な笑顔でティーカップを置いたサンジ。カップからは良い匂いが漂う。
なんのフレーバーだろう?
ナナシの疑問はロビンがすぐ解決してくれた。
カモミールの紅茶。心を落ち着かせる作用があるらしい。ほのかに香る優しい匂いに納得。
「チョッパーには、どう断られてるの?」
「一番言われるのは…仲間として好きだぞ。かな。後は、ナナシに対して恋愛感情はねェ!種族が違えば好みも違うんだ。とか…」
「種族…」
「ヒトとトナカイ、ということかしら」
「愛する気持ちに種族は関係ないよォ!!」
「あんたはそうでも、チョッパーには関係あるの。トナカイはトナカイが好きなんでしょ」
ナミの言葉を聞きたくなくて耳を塞いで
「あ"ぁ"ぁ"あ"あ"ーー!何も聞こえない!」
と、現実を逃避するように拒否を示す。
ピキ、と青筋を立てているナミが目に入れば、急いで耳から手を離した。
「ナナシ、チョッパー以外でこの船の男共に魅力は一ミリも感じないの?一ミリも?」
「全く」
「サンジが肩を落としてるわ」
「ご、ごめんサンジくん。私、恋はいつでもハリケーン!の真っ只中にいるから…。チョッパー以外の男…いや、オスに興味ゼロなの!!」
ナナシの言葉に、三人から「オスって…」と
引き気味のツッコミが入る。
「おい、アホコック。茶ァくれ」
鬱々とした空気をばっさり斬って現れたのは、三刀流剣士のゾロ。緑の頭が目に優しい。
誰がアホコックだ、クソ剣士。
眉を上げて文句を言いながらも、急須にお茶を入れてあげるサンジはコックの鑑である。
「…で、なにを話し合ってんだ」
「ナナシの恋の行方を、ちょっとね」
「恋の行方…?あぁ、チョッパーに付きまとってるアレのことか。お前もめげねェよな」
「うっ、付きまとってるって言わないで…!」
ダァン!とテーブルを叩くナナシ。
想いを伝えてるだけだよ!と言えば、
チョッパーは困ってんだろ。そう返す。
困っ…困ってるのか。そうだよね…。
再び気持ちが沈んでいくナナシを横目に、ナミがゾロへ拳を叩き込んだ。筋肉だけじゃなくてデリカシーも身につけなさいよ!と。
「ナナシはいっつも押しに押してるだろ。たまには引け。あいつから寄ってくるよう考えろ」
「!チョッパーから、寄ってくるよう…?」
「それが出来てたら悩んでないでしょ」
「…そうなんだよねぇぇぇ!!」
押してダメなら引いてみろ!作戦。
それは一度試してみるべきかな、と思わないでもないが。引く…となればどこまで引けばいいのか。線引きが難しくて、ゾロに尋ねてみれば。
チョッパー“から”声をかけられるまでだ。
ナナシが先にあいつへ声をかけるな。
好きな人…好きなトナカイを前に、声をかけるなというのはなかなか酷な話である。
しかし、やれることは全てやってみよう!
グッと顔を上げて、ナナシは気合いを入れる。
まさかゾロがアドバイスしてくるとは予想外で、ナミもロビンもサンジも、複雑な面持ちでナナシを見つめていた。三人は「空回りそうだな…」という言葉を飲み込んで、彼女を見守る。
「じゃあ早速、今から始め…」
「おーい、ナナシはいるか!?あっ、いた!ルフィが変な魚を釣り上げたんだ!生簀に投げ込んだから、一緒に見に行こうぜ!」
「チョッパー!!!うんっ!行くー!」
勢いよくキッチンの扉が開き、可愛い笑顔でナナシを誘ってきた青鼻のトナカイ。
溢れ出るハートを抑えられないままチョッパーの元へ走って行く彼女に、ロビンを除く三名が同じツッコミを入れたのは…言うまでもない。
「「「いや、そこは引けよ!」」」
「ふふふ、一応チョッパー“から”声をかけていたわ。嬉しそうに笑うナナシ、可愛いじゃない」
***
押してダメなら引いてみろ!作戦を開始して
3日経過した、雨の日。
声をかけてもらえるまで我慢していた。
我慢、していたが。
チョッパーが声をかけた瞬間「好き!!」と口をついて出てしまうものだから、あまり引いている効果は無いように思える。
むしろ押している感すらあって。
告白の回数は98回目…と、順調に増えていた。
アクアリウムバーに設置してあるソファーへ膝を抱えて座るナナシ。隣には、ブルック。
「ねぇブルック…私、魅力ないのかな…」
「ヨホホ、そんなことはありませんとも。ナナシさんはとても魅力的です。恋は人を輝かせますからね。私には眩しいとすら思えますよ!」
眩しさを捉える目はないですけど!ヨホホホ!
骨ジョークを飛ばしつつ、励ましてくれるブルックはとても大人だ。ため息を吐けば、そっと頭を撫でてくれる。優しさが骨身に染みるよ…。そう呟けば、静かに微笑んでくれるブルック。
穏やかな空気が、心を落ち着かせてくれた。
「…ブルック、歯を見せて」
「これまた唐突ですね〜!いやです」
「ブルックも頑なだね!いいじゃない!80オーバーの人…骨?が、こんなに歯並び良いんだよ!?ちょっと口開けて!奥まで見せて!ふふふ、大丈夫。ここには私しかいないから…!!」
「ヨホ、これは大胆!と…言いたい所ですが、ちょっとナナシさん!?目が歯科衛生士のそれじゃないです!身の毛がよだつ!」
私、身によだつ毛はありませんけどォー!!!
いやぁぁぁぁぁあ!!!
骨の叫びがこだまして。
一拍置いた後、誰かが入って来た。
「どうしたんだ、ブルックの叫びが聞こえて…。
な、何してるんだナナシー!!?」
やって来たのは、想い人であるチョッパー。
彼の視界に飛び込んできたのは、骨の上に跨って顔面に手を伸ばしているナナシの姿。
イヤイヤと首を振るブルックは涙目で。
どうやらチョッパーの声が耳に入らなかった彼女は、未だにブルックへ意識がいっている。
奇行に走る彼女を止めるべく、チョッパーは人型に姿を変えてブルックから引き剥がした。
そしてようやくナナシは我に返る。
「よかった。ナナシ、正気に戻った?」
「…チョッパー?」
「おう。…ナナシ、だめだぞ?泣いて嫌がる患者を、無理やり押さえつけるのは!」
「うっ!知的好奇心が暴走しちゃって…」
「ほら、ちゃんとごめんなさいできるか?」
「ブルック、無理やり診ようとしてごめんね」
「ヨ、ヨホホ…ええ、いいんですよ…」
お若い女性に跨られる。骨身の体で体験するとは…。むしろありがとうございます。ヨホ…。
フラフラと立ち上がったブルックは
サンジさんに牛乳をお願いしてきます。
そう言ってアクアリウムから出ていった。
そこに残された一人と一匹。
チョッパーは普段の姿に戻り、ソファーへちょこんと座る。ブルックと一緒に行ってしまうと思っていたナナシは、少しだけ驚いてしまう。
「今日の雨、けっこう強いみたいだぞ」
「…うん、早く止んでほしいね」
「雨が止んだら一緒にブランコ乗ろうな!」
笑顔でお誘いしてくれるチョッパーに、胸がときめく。ときめくと同時に…苦しくなる。
きっとこの先も、自分を恋愛対象として見てくれないだろう。彼の中で自分は大切な仲間。
それは幸せなことでもあり、残酷な事実。
…それで、いいのかもしれない。
嫌われてしまうよりは。
こうして、近づいて話しかけてくれるだけで。
「うん、一緒にブランコ…乗ろうね」
「…?ナナシ?」
「フランキーに二つ目を作ってもらえないか、お願いしてみる!それなら並んで遊べるよね」
「なぁ、ナナシ?どうした?」
「え?なにが…?」
ぱちり。
瞬きをしたら、ぽたぽたと頬へ落ちる水滴。
驚くチョッパーを見て、驚くナナシ。
心配してくれてるの?優しいなぁ。好き。
「わー、涙だ。へへ、驚かせてごめんねチョッパー。大丈夫だよ、すぐに止まるから!」
「…ナナシ、こっち向いて」
小さな蹄が、頬に触れて。
薬品の香りがナナシに近づく。
─ちゅ、
少し湿った鼻と、柔らかな感触。
頬へ口付けられたと気づくのに数秒かかった。
「…えっ!?!!な、なに!?」
「おれ、ちゃんとナナシが好きだぞ!」
「仲間として、でしょ?」
「…そうだ、大事な仲間だ。恋愛って意味では応えてあげられないけど、でも、ナナシが大好きなんだ!それだけは分かってくれねェかな!」
「…だいすき?」
「ああ!大好きだ!」
にっこり笑うチョッパー。
“大好き”という言葉が心に広がっていく。
ぼふ!!!そんな音が聞こえそうなほど頬が赤く染まる。好きを上回る、大好き。
涙を拭って、にこにこと見つめてくるチョッパーに向けて腕をがばー!と広げた。
「抱きしめさせて!!」
「…んん?そこは、抱きしめて、じゃないのか?おれも人型になれば抱きしめてやれるぞ?」
「そっ!それは、照れるじゃん…!」
「??照れるのか…?なんでだ?」
「いいから!抱きしめさせて!!」
しょーがねェなー!
ぴょん!と飛び込んでくれるチョッパー。
柔らかな毛並みが腕に触れて。
桜色の帽子が顔面に当たるけれど。
腕の中の温もりが、心地いい。
二人で顔を見合わせて、へへへと笑う。
「チョッパー!大好きだよ!」
「おう!おれもナナシが大好きだ!!」
99回目の告白
「…良い形で、落ち着いたのかしら」
「ふふ。あの二人、並ぶと可愛いわね」
「ナナシちゃんが笑ってくれてよかった!」
「こういう結果も、悪かねェな」
「アーウアウアウ!よかったなぁナナシ〜!」
「ヨホホ、私もいい仕事しました!」
「ブルックの退席タイミング最高だったぞ」
「雨降ってるけどよ!今夜は宴だな!!」
アクアリウムバーの扉の向こう側で、ナナシとチョッパーを見守っていた仲間たち。
その全員が口元に笑みを浮かべていた。
「チョッパー、これからも…よろしくね」
「おう!いつでも、抱きしめてやるからな!」
「ひぇぇ…かっこいい、可愛い…好き…!」
Fin.
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