Because, I love you.

Q.あなたの恋人が自分以外の女子と…しかも見知らぬ女子に腕を組まれ、キャッキャウフフと笑い合いつつ会話していたら、どうしますか?

A.どうもこうも、慈悲などない。

そんな一人Q&Aを脳内で繰り広げていた私。
私の恋人である、エース。
そう、私という恋人がいるにも関わらず!
何年何組の女子か知りませんけど?
お昼休みに、木陰のベンチに座って?
二人で楽しそうにお喋りあそばせている。

これが怒らずにいられるか、って話よ。

拳を握り、間に入っていこうとしたが。

「エース先輩、素敵ですぅ!」
「はは、そうか?お前こそ、可愛いなァ」
「本当ですかぁ?うふふ、そういうの彼女さんに言うセリフですよぉ!でも嬉しいですー!」

語尾を伸ばすな…っ!!
先輩と呼んだってことは後輩か。
前に一歩踏み出した足を、元へ戻す。
なんだか、割って入る気が削がれた。
可愛い…ね。その子が可愛いと思ったんだ。

私とエースは付き合って2年が経つ。
高校1年生の時に、私から告白した。
現在、私たちは3年生。
2年という月日は短いようで長い。クラスはずっと同じだったし、休みの日もお互い予定がない限り一緒に過ごしていた。
喧嘩はたまにするけれど倦怠期というものは無く、卒業しても一緒に過ごせる関係なんだろうなぁ、もしかしたら私と結婚…してくれるのかなぁ?そんなことまで考えていた。

今、この会話を聞くまでは。

可愛い。
私がその言葉を言われたのはいつだっけ?
思い出せないほど、言われてない…?
毎日顔を合わせてるから。わざわざ口にしないんだろう…。うん、きっとそうだ。
別に、私も毎日言ってほしいわけじゃない。
恥ずかしいし。

でも!!
それを他の子に使うのは違うんじゃないかと思うんですよ!ねぇ!?そう思わない!?

「どう思う!サボ!!」
「え、なにが?」
「せめて聞いててほしかった…!」

相談する相手を間違えたわ。
はぁ、とため息をついて机に突っ伏す。
おもむろにスマホを取り出してエースへメッセージを送る。今日一緒に帰れるかどうか。

【放課後は用事があるんだ】

返ってきたのはそれだけ。
ごめん、とか。明日は一緒に帰ろうな、とか。
そういうフォローも無し。
なんだか、胸がモヤモヤする。

「…用事って、なんだろう?何の用か、それを聞くのは…さすがにウザがられるかな…」
「ん?ナナシ、放課後は暇なのか?」
「相談を聞いてくれないサボに、私の貴重な自由時間はあげないよ、ばーかばーか!」
「ははは、荒れてんなァ!今日はエースと帰らねェんだろ?買い物に付き合ってくれないか」

今日は卵と肉の特売日なんだ!
笑顔で言うサボ。主夫感がすごい。
仰る通り暇なので、付き合うことにした。

エース以外の男子…といっても、相手は気心知れた友人のサボだけど、こうやって出歩く機会はないのでなんだか不思議な感じがする。
歩幅も合わせてくれている。…さすがだ。

「なぁナナシ、新しく出来たあの店だけど」
「どこの店?」
「今から行くスーパーの反対側。淡いピンク色の屋根で…扱ってんのは流行りの菓子だったか」
「ああ!私もそのお店気になってた!」
「行ってみるか?」
「…ううん、エースと行きたいから」
「言うと思った」

なんだよサボ。
エースに会いたくなるでしょ。

話に挙がったお店が見えて来た。
道路を挟んでいるので遠目からになるが、結構な行列が出来ている。新店舗はそうなるよね。
その行列の中に…まさかの人物を見つけた。

「…エース、」

放課後は用事があると言っていた。
用事ってこのこと?
エースの隣に視線を移せば。

昼休み、エースと一緒にいた…あの子が。
私とは帰らずにあの子と。
信じられない光景に足が止まる。

「…なんで?」

絞り出した声は、震えていた。
少しずつ視線が下がっていく。
どうして、その子と一緒にいるの。
その用事は、私とではダメだったの?

その子のことが、…気になるの?

「ナナシ!!危ねぇ!」
「う、わっ!?」

大きな声で呼ばれてハッと顔を上げる。
内側を通って来た自転車に気づかず、庇うように肩を引き寄せられた。引き寄せる力が思いのほか強く、サボへ抱きついてしまう。

「わわ、ごめんサボ!大丈夫!?」
「ナナシこそ、どっかぶつけられてねぇか?」
「大丈夫だよ。ありがとう!」
「…なぁ、ときめいた?」
「全然」
「ふ、はは!だよなぁ。エース一筋だもんな」

エース一筋。
その言葉に不覚にも頬が赤くなる。
仕方ないでしょ?ずっと好きなんだもん。
じんわりと涙も浮かびそうになるが、我慢。
赤い顔をからかいながら手を引いてくれるサボ。涙には触れない心遣いが…ありがたい。

先程の光景を振り払うようにスーパーへ。
卵を一パック手にすると、レジに並ぶ。
お一人様一パックまで!と表記があったので私を連れて来たのだと理解した。98円は安い。
購入した卵をサボへ渡せば、食べ盛りの弟、ルフィくんのために夕飯は特大の親子丼を作るんだ!とのこと。サボ、お母さんじゃん…!

「付き合ってくれて、ありがとな。もし明日、エースに何か言われたらすぐおれを呼べよ?」
「…?エースに何か言われたら、って?」
「まぁまぁ、深く考えないでくれ」

ニヤリと笑うサボ。
意味深だなぁ…。
サボの言葉は気にかかるが、これ以上尋ねても答えてはくれない。この男はそういう奴だ。

じゃあまた明日!交差点で手を振って別れる。
奢ってくれた飲み物を片手に、家路についた。

帰宅してエースへ連絡をしようと思ったけど、
あの子と並ぶ姿が思い浮かんで、止める。
この胸のモヤモヤは、嫉妬。ヤキモチだ。
エースの気持ちがわからないから。…今、誰を想ってるのかわからなくて不安、だから。

もし…別れよう、って言われたら。
想像するだけでも悲しい。こわい。
スマホの電源を落として、ベッドへ放った。



***


「なぁ、昨日…なんでサボと抱き合ってたんだ」
「サボと抱き合ってた…?」

翌日。
登校してすぐ、エースに捕まった。
そして教室から、屋上へ続く階段の踊り場へ。
着いたら開口一番そう言われて頭上に疑問符が飛ぶ。抱き合ってた?私と、サボが…?
昨日の記憶を手繰り寄せれば、思い出す。
自転車から庇ってくれた時だ。

「ああ、あれは…」
「否定しねェのかよ」
「…?だって、サボは助けてくれたんだよ」
「じゃあその後…顔を赤くしてたのは?」
「え、なんでエースが知ってるの?」
「…っ、いいから答えろ」
「なにその言い方。やだ、教えない」
「おれには教えられねぇことか」

教えられねぇというか、
教えるのが恥ずかしいというか…!
本人を前にして、“エースが好きだから”赤くなった…なんて言えない。さすがに照れるし、昨日のこともあり…今は言いたくなかった。

それにしても。
何故、エースは怒ってるの?

「…サボを好きになったのか」

サボを好きになったのか?
誰が。…私が?
でも、それを言うなら…エース、だって。

「エースだって、そうでしょ」
「なにがだよ」
「放課後はあの子と一緒にいたよね。用事ってあの子と過ごすことだったの?」
「!」
「あの子可愛いもんね。好きになったの?」

じっと見つめれば、ぐっと黙るエース。
目線を下げ、私の視線から逃げるかのように。
…無言は肯定と捉えられても仕方ないよ?
ねぇ、否定しないの?

“エースに何か言われたらすぐおれを呼べよ”

ふと頭を過ぎった、サボの言葉。
エースの沈黙に耐えられなくて…名前を呼ぶ。

「…サボ、」
「…は?」

弾かれたように私を見る。
その表情は驚きと、悲しさと、怒りが含まれているような…そんな複雑なものに感じた。

「おう!呼んだかナナシ」
「!?呼んだけど、なんでいるの!?」
「そりゃあ、いるさ」

私に近づいて、何故か肩を抱く。
待って、一体どこから現れたの?気配は!?
わけが分からなくてサボを見つめれば。
パチンとウインクされた。
いや…だから何…?ちょっと鳥肌たったわ。

「エース、お前。昨日誰とどこにいた」
「…サボに言う必要はねェ。お前こそ、昨日ナナシと何してたんだよ。なんでお前がナナシの肩を抱いてんだ…!」
「へぇ?じゃあおれも言う必要はねェよな」
「ナナシはおれの恋人だぞ!」
「恋人。ふぅん?」
「…意味深に答えるんじゃねぇ、言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ」
「そうか、それなら言わせてもらおう」

いつも仲の良い二人が。
エースは、怒りを露わにしていて。
サボは。…サボはこれ、笑ってる…?
二人を交互に見て、おろおろするしかない私。
不甲斐なさすぎる。でも、口を挟めない。

「お前がやってることは、ナナシが不安になるだけだ。エースの方こそ、ハッキリ言えよ。お前らしくもねぇ。遠回しにヤキモチ妬かせたって、ただ傷つくだけだぞ。それに、んなことしてたらナナシはお前を信用しなくなる」
「………えっ?」

遠回しにヤキモチ妬かせたって…とは?
サボを一度見てから、エースへ視線を移せば。
エースは明らかに動揺していた。

なに、どういうこと!?
私だけが状況を理解出来ないでいる。

「お前がそういうことを続けるなら、おれは。
本気でナナシを奪う。いいか?本気で、だ」
「ふざけんな…」
「それはナナシのセリフでもあるからな。きちんと全部話せ。話せねぇならおれから言う」
「…っ、自分で話す…から、」

いい加減に、肩から手を離せ!!

その言葉と共に私の体はエースの腕の中へ。
ぎゅう、と抱きしめられる。
もう。なにがなんだか。

「分かりゃいいんだよ。おーい、ナナシ」
「な、なに?」
「今の状況、わけ分かんねェと思うが、その説明はエースがするからな。落ち着いて聞いてやれよ!そんで、最後までちゃんと聞いてから殴るなり蹴るなり好きにやっちまえ」
「??分かんないけど、わかった」
「よし、じゃあおれは教室へ戻る!また後でな」

さっと離れて、サボは階段を降りて行く。
サボが来てくれたのはいいけど、さらに疑問が増えただけな気がする。なんだったの。

その場に残された、私とエース。
抱きしめられたまま動けないでいると。

「ごめん、ナナシ。昨日帰れないって言ったのは…お前へのプレゼントを買いたくて。でもそこには一人じゃ行きづらいから…後輩を、誘ったんだ。ルフィの友達の…友達?だったかな。関係は遠い方がいいと、思って…」
「それが、用事だったの?」
「まさか見られてるとは思わなかった」
「…ショック、だったよ」

私以外の子と、楽しそうに話すエースを見て。
可愛いって…微笑むエースを見て。

「…それも、ごめん」
「?なにがごめんなの」
「昨日の昼休み…ナナシが近くまで来てたこと、様子を窺ってたこと。…気づいてた」
「え」
「知らねェ女子に可愛いって言ったらどんな反応するかなァ、って…。その、ナナシはヤキモチ…妬いてくれるのか、気になったんだ」

怒るのか、泣くのか。
止めに入るのか、後から何か言ってくるのか。
ナナシなら「慈悲など無用」とか言いながら割って入ってきておれをぶん殴るだろうな。
ドキドキしながら反応を待ってた。

…けど、何もなくて。
おれが誰と一緒にいようが、興味ねェのかな?
そう思ったら、少しだけ悲しくなった。
でも!おれはナナシが好きだし、勘違いさせたままは嫌だったから、お前が好きそうなお菓子を買ってプレゼントしようと考えた。

「そういうことだったんだ…」
「…ああ、用事って言わずに本当のことを言えばよかった。今、めちゃくちゃ後悔してる」
「エース…」
「ナナシがサボに名前を呼ばれて抱きしめられた所も見ちまって。しかも、顔を赤くしてるのが目に入って…焦った。さっきも突然あいつの名前呼ぶし。サボを好きになったんだと…」

その言葉に、首を振る。
私が好きなのはエース。エースだけ。

「私はサボの買い物に付き合ってたんだ。その時、自転車が内側を走ってきたから庇ってくれて。抱きしめられたんじゃないよ。顔を赤らめたのは…エースのことを、思い出したから」
「おれのことを?」
「うん。エース一筋だもんな、って言われて。
エースを想う気持ちはずっと変わらないの」
「…ナナシ、」
「すっごく、すっごく妬いたよ!怒りもした!
でもそれ以上に…とても悲しかった」

サボが来るまでは、別れ話をされるんだろうな…そう、思ってた。エースはもう私のことが好きじゃない。きっとあの子を…想ってる。

言葉が詰まる。
思っていたことを口にするのは辛かった。
目の奥が熱くなり、視界がぼやける。

「エー、ス。別れたいなら、ちゃんと言って。他に好きな子ができたなら、話して。嫌だけど、別れたくないけど…!が、頑張って…っ、諦める、よ。エースが好きだから、別れる…」

ほろり。
涙が一筋、こぼれ落ちた。

一度溢れたら止めることは出来ない。

「ナナシ、ごめんな」
「どう、いう意味の…ごめん?」
「ヤキモチを妬かせようとして悲しませて、傷つけて。泣かせてしまって…本当にごめん!!
おれはナナシが好きだ。別れたくねぇよ、好きな子はナナシ以外にいるわけない!」
「…信じていいの?」
「信じてほしい」
「じゃあ、」

抱きしめられている体をゆっくり離す。
申し訳なさそうに眉尻を下げているエース。
意図して嫉妬させたのは事実のようだ。

ねぇ、エース。
泣いてしまったとはいえ、この私が。
あなたの彼女である、私が。
あなたを許すために、

「抱きしめてほしい」とか、
「愛してる、って言って」だとか、
「キスしてくれたらいいよ」なんて。

甘い言葉を返すとは…

思ってないよね?

「顔面を差し出して」
「………うっす」

冒頭でも、言ったでしょ。
慈悲などない。って。

自分で涙を拭って、一度エースの頬に触れる。
手のひらに擦り寄るエース。
…ときめかないわけ、ないけど。
好き。大好き。かっこいいし、可愛いな。
今でもそう思う。けれど。

それとこれとは、別!!

「二度と同じようなこと、しないでね」
「お、おう!もちろんだ!二度としねェ!」
「エースが想うのは、私だけにして」
「ああ、おれはナナシを愛してっ」


───ヒュッ、

ドン!!!!!


「…っぐ…ぅ!…あ、…あいして……るっ…」

鳩尾を抑えて、エースは地面に膝をついた。
顔面を差し出せ・と言っただろ、って?
ははっ!誰が“頬を張る”と明言したかね!

構えてる場所を殴るわけないでしょう。

どこにどうパンチを入れたらいいのか。
それを教えてくれたのは、ヤンチャなエースくんです。何かあった時のために!ってね。
お陰さまで、役に立ちました。ありがとう。

「はー、スッキリした!」
「……な"っ、なにより、です………」

ばたりと倒れ込んでしまったエース。
恋人の気持ちを試すもんじゃない。
きっと身をもってわかってくれたはず。

地面にひれ伏すエースの傍に近づいて座った時、一限目の予鈴が鳴った。
先生に怒られるだろうけど、一限は出ない。

低く唸っているエースの髪を撫でる。

「そういえば、お菓子は買えたの?」
「教室に、持って、きてる…」
「そっか。あとでひとつ、食べさせてね!美味しかったら今度は私と一緒に行ってくれる?」
「も、もちろん…だ!」
「エース」
「ん、」

顔だけ上げて私を見るエース。
顔色がちょっと悪い。いいのが入ったなぁ!

目を閉じて、唇に触れる。

「だいすき」
「!!ナナシ、ごめん、ほんと悪かった!」
「もういいよ。ふふ、痛い?」
「朝ごはんが出てくるとこだった…」
「可愛げのない彼女でエースも大変だねぇ」
「…んなことねーよ、可愛い。泣き顔も、怒ってる姿も、おれを見つめる瞳も。全部可愛い。
サボにも…誰にも、ナナシは渡さねェ」

可愛い、だって。
やっぱり恋人からそう言われるのは…嬉しい。

鳩尾を抑えて倒れたままのセリフだけど。
格好つけてるのに格好つかないね。
さすがエース。愛しいよ。

ヤキモチは妬くものであって、無理に妬かせるものじゃない。長い付き合いなら尚更。
気持ちを試す?反応を見たい?縋ってほしい?
それは恋人を悲しませてまですること?

いま一度、考えてほしい。
そしてそれ相応の報いがあると、心してほしい。

…私は許してあげる。
なぜなら、あなたを愛しているから。
でも、ただでは許さない。
なぜなら、あなたを愛しているから。



Because, I love you.


「ねぇ、サボに嫉妬したの?」
「…すっげぇ嫉妬した」
「エースに何か言われたらすぐおれを呼べよ、って言われたんだよね。…分かってたのかな」
「さぁな」

鳩尾を押さえながら起き上がるエース。
突然、座っている私を持ち上げて膝の上へ。
片腕は腰に。片手が頬に。
まるで逃がさないと言っているかのようだ。
そして、じい、と真っ直ぐ見つめられる。

「ナナシ、キスしたい」
「うん、いいよ」
「もう少し深く、触れたい」
「ん…っ、エース…」
「…やっぱり、ナナシが一番かわいい」


Fin.


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