カフェラテ、ミルク多めで
出会いは、玄関先だった。
よく通販サイトを利用する私。
配達はいつも同じ人で、私もあちらも顔と名前を覚えてしまうほど何度も顔を合わせていた。
けれど、その日は。
いつものお兄さんではなく、初めて見る人。
「白ひげ宅配便です、お荷物をお届けに…」
「…マルコさんは、お休みですか?」
「はい?あー、っと、はい。今日はどっかで大きいイベントがあるらしく、そっちの集荷へ応援に行って…ます。…マルコに言伝があるなら、おれでよければ聞きますけど」
帽子のつばを掴んで少し上げる。
見えたその顔はマルコさんより若く、あまり愛想もなく、ぶっきらぼうな雰囲気さえ感じた。
普通、配達員と届け先の人の関係って淡白だ。一緒にお喋りする…なんて早々ない。
マルコさんと仲良くなりすぎてるのかな。
「いえ、大丈夫です。…すみません、不躾に尋ねてしまって。荷物ありがとうございます」
「重いんで気をつけてください」
失礼します。
軽く一礼して出て行ったその人。
マルコさんのような気遣いが垣間見えて、白ひげ宅配便は教育がしっかりしてるなぁ、なんて感心してしまった。基本的に皆さん優しい。
そんな初対面の数日後。
「あ、お姉さん」
「?…ああ、宅配便の!」
私の勤め先、コーヒー店で再び出会った。
今度は私が店員で、あちらがお客様。
あちらはお休みなのだろう、私服姿で。
黒いスカジャンに、オレンジ色のTシャツ。
ヤンチャな若者だ〜!そう思ったのは秘密。
帽子をかぶっていないからか、顔も表情もよく見える。挨拶を交わせば笑ってくれた。
…その笑顔が、なんだか可愛く見えて。
「おれ、コーヒー苦手なんですけど。ここのは、牛乳がすげェ美味くて飲めるんです」
「ふふ、そうなんですか。嬉しいです」
彼が頼んだのはカフェラテ。ミルクが多め。
作り終えて手渡せば一礼して受け取った。
すぐ出て行かず、店内のカウンター席へ。
待ち合わせかな?
しばらく、彼がコーヒーを飲む姿を見ていた。
それから何度か、マルコさんの代わりに荷物を届けてくれるようになったその人。
最初は、愛想があまりないなと感じていたが、何度も顔を合わせるうちに、よく笑い、喋ってくれるようになった。やはりなんだか…可愛い。
お店にも度々足を運んでくれる。
頼むのはいつも、ミルク多めのカフェラテ。
「よう、ナナシさん」
「マルコさん!こんにちは。こちらへ来てくださるのは珍しいですね、お休みですか?」
「ああ。うちの若ェのが最近贔屓にしてるってんで、おれもコーヒーを飲みたくなってなァ」
「なるほど。若ェの、っていうのは…」
「エースのことだよぃ。迷惑かけてないか?」
「大丈夫ですよ!」
熱いコーヒーを、ふぅふぅ冷まして飲む姿が
可愛くて…近頃よく目で追ってしまいます!
そう言えば、ニヤリと笑うマルコさん。
「だってよ、エース」
「!?」
マルコさんの影から現れたのは…、
え…エースくん!?
「…なんで、飲むとこ見てんすか」
「わ!エースくんも一緒だったんですね!?」
「恥ずかしいから、もうここじゃ飲まねェ」
「わわわ!そんなこと仰らないでください…!
エースくんに癒されているんです!」
「そこは見ないようにします、じゃねぇの?」
「エースくんは知らない方ではないので…、いらっしゃればどうしても見てしまいます…!」
お店が忙しければ見る暇はないけれど。
いつもエースくんが来るのはお客様の少ないアイドルタイムだから。どうしても目が行く。
そして私は彼の姿に癒されているのだ。
「エースくんは、何にしますか?」
「カフェラテ」
「ふふ、ミルク多め…ですね」
「おう」
「かしこまりました!」
マルコさんはエースくんを小突いて。
エースくんはなんだか照れくさそうで。
二人がじゃれ合う所を微笑ましく見ていた。
マルコさんはブラック。
エースくんがカフェラテ。
二人ともホットなので持つところにスリーブ…
つまり、紙の段ボールを巻く。
その部分に。
「こちらがマルコさん」
「ありがとよい」
「こちらがエースくん」
「どうも。……ん?」
少しだけ、コメントを書いた。
“また来てくださいね”
「!」
「ありがとうございました」
「…おう」
気づいてくれたようだ。
笑顔で見送れば、一礼して店を出ていく。
エースくんはいつも…礼儀正しい。
***
その日の天候は、雨。
お客様も一日を通して少なく、早めに上がることになった。着替えてから一度外へ出る。
傘はあるものの、なかなかの強さだ。
帰る前に店内を外から覗いた時。
急にドアが開いた。
「!すみません…、あれ?エースくん?」
「あ、お姉さん。もしかして上がりですか」
「はい。…エースくん、ずぶ濡れですね!?傘は?そうだ、タオル持ってるから使ってください!あっ、その前に私の傘に入って!コーヒーを飲みに来たんですよね?ちょうど出て来た所みたいですけど…、ええと、どうしましょう。
一度店内へ行きますか?」
「お姉さん、落ち着いてくれよ」
「!!…はい。ビックリしちゃって」
「はは、かわいい」
「かわ!?っ…聞き間違い、ですよね?」
「可愛いって言った」
タオルを受け取り、微笑むエースくん。
その笑みに、私の心臓が跳ねる。
水も滴るいい男…という言葉が頭を過ぎった。
それにしても、今の言葉のどこに可愛い要素があったんだろう?なかったと思うけど…。
…頬が赤くなってないといいなぁ。
「雨足が強くなる前に来ようと思ったら、仕事が長引いちまって。急いで来てみればお姉さんの姿はなくてさ。帰ろうと、してた」
「あの、エースくん?それって、自意識過剰じゃなければ…、私へ会いに…来たんですか?」
「そう。お姉さんはおれの癒しだから」
「!!聞いたことがある台詞ですね…」
「お姉さんの癒しは、おれなんでしょ」
「…はい」
「途中まで一緒に帰っていいですか」
途中まで一緒に。…エースくんと?
「だめ?」
「だめじゃない、です」
「やった。傘、おれが持つんで貸してください」
「え!?でも!あああ…すみません!」
「謝んないでくれよ。おれの方が上背あるだろ?…お姉さんこっちに寄って。雨に濡れる」
肩を引き寄せられて、距離が縮まる。
狭い傘の下。
エースくんの腕に触れそうで触れない。
隣を見ることが出来なくて、俯いてしまう。
どうしよう、緊張する…!
心臓の音がすごい。エースくんに聞こえてないかな。…雨の音で掻き消されてるといいな。
雨で足元が悪く、歩みが遅くなる。
エースくんは文句も言わずに歩幅を合わせてくれた。嬉しさと同時に…申し訳なくて。
前を確認すると、自宅の近くまで来ていた。
「エースくん。とても今さらですがエースくんの家は…この辺り、なんですか?もしかして、逆方向だったりしませんか…?」
「…逆、だけど。いいんだ。お姉さんが濡れたら困る。おれは傘を貸して貰ってる身だしな」
「えええ!?良くないですよ!」
私はここで大丈夫です!この傘、お貸ししますのでエースくんは自宅へ帰ってください!
そう言っても、エントランスまで送ります。
と、押し切られてしまった。
私の方が年上なのに…!本当に申し訳ない…。
マンションの入口に着く。
先に入りエントランスのオートドアを開けた。
どうぞ、と振り返ってもこちらへは来ない。
首を傾げてエースくんの元へ。
「あの、エースくん。そのままだと風邪を引きますし…!良ければ着替えとかタオルとか、お貸ししたいです。中へどうぞ、」
「いや、それは出来ない…っす。おれとお姉さんはそんな関係じゃねェし…。仕事ならまだしも、その扉から先は…気軽に入っちゃだめだ」
「!そ、そうです…よね」
おれとお姉さんはそんな関係じゃねェ。
…そう、だね。
私とエースくんは店員とお客様。
配達先の受取人と、配送業者。
ただ、それだけの関係。
忘れかけていた当然の事実を突きつけられて、言葉が詰まり…胸が、痛んだ。
「…そんな顔、しないでください」
「私…どんな顔してます?」
「おれを連れて行けなくて残念、って顔」
「その通り、です」
「はは、ありがとう。お姉さん」
「っ、せめて傘とタオルだけは持って帰ってください!ごめんなさい、エースくんは雨に濡れてるのにここまで送ってもらって…!」
「お姉さんは優しいな。その優しさ、おれにだけなら…嬉しい。…タオルと傘、借ります」
お姉さんも、早くお風呂で温まって。
手が伸びてきて、するりと髪を撫でられる。
優しく触れる手に私も触れたくなったけれど…。
なんとか堪えて笑みを返す。
「気をつけて、帰ってくださいね」
「ありがとう。それじゃあ、また」
「はい。また…」
一度だけ手を振ると踵を返して歩いて行く。
そんなエースくんの後ろ姿を目で追う。
目で追った先…彼の肩を見て、さらに驚いた。
半分以上、濡れている。
自分の方が上背があるから、と。
貸して貰ってるから、と…持ってくれた傘。
そして雨に濡れると私を引き寄せてくれた。
自分が濡れてしまうのも厭わずに。
エースくんの姿が見えなくなってから、部屋へ帰る。玄関に入りドアに背をつけて…そのまま
ズルズルとしゃがみ込んだ。
手で顔を覆えば。とても、熱くて。
「…エース、くん」
私は彼に、エースくんに…惹かれている。
彼の行動ひとつひとつにときめいている。
恋してしまった、と。気づいた。
エースくんは無事に帰りついたかな。
風邪とか体調崩さなければいいな。
友達でも、恋人でもない。
ただの知り合い…程度の関係だけど。
心配くらいはしてもいいよね…?
雨は夜更けまで降り続いた。
「えっ、お休み…ですか!?」
その翌日。
仕事は休みで、荷物が届く日。
持ってきてくれたのはマルコさんで。
マルコさんからエースくんは休みだと聞かされた。その理由は…体調不良。血の気が引いた。
絶対、雨にうたれたからだ。
体を冷やしてしまったに違いない。
やっぱり無理やりにでも家へ招けばよかった。
後悔と自責の念に苛まれていたら、
「ナナシさんさえ良けりゃ、見舞いへ行ってくれねェか?あいつ、滅多に風邪なんか引かねェから相当参ってるはずだよい。あァ、もちろん、無理にとは言わねェが…」
「行きます!住所、教えてください!」
「食い気味だったなァ。そう言ってくれるだろうと思ったよぃ。あいつの住所のメモだ」
「…あの、マルコさん?気づいてます…?」
「なんのことやら」
ニヤリと笑うマルコさんに、赤面した。
これ、絶対わかってる表情だ!!
赤い顔を隠しきれないまま紙を受け取る。
急いで準備を始めて、家を出た。
必要なものを途中で買い、エースくんの家へ。
結構な量だけど、滅多に風邪を引かないのならきっと足りないものも多いはず。
マンションに着いて、玄関の前。
深呼吸をひとつ。
意を決してインターフォンを押した。
「──はい、」
間を置いて耳に届く、掠れた声。
本当に体調が悪いみたいだ。
「突然すみません、ナナシです」
名乗って数秒。
沈黙が流れた。
…あれ、聞こえてないのかな…?
「エースくん?大丈夫で…」
バンッ!!!
「ナナシさん!?」
「わ!!っ、エースくん!体調はどうですか」
「なんで…ここに?あー、マルコか…?」
「はい、体調を崩したとお聞きしまして…!マルコさんに住所を教えていただきました。エースくんの許可を得ずにすみません。風邪引いたのは昨日、雨に濡れたせいですよね?本当にごめんなさい。それで…ご迷惑かと思ったんですが、必要そうなものを持ってきました」
勢いよくドアが開いて驚いた。
現れたエースくんに、事情を説明する…けれど、当の本人の反応はかなり薄い。
聞いているのかいないのか、わからない。
心なしか目がぼうっとしている気がする。
すみません、と断りを入れて額に手を当てた。
「やっぱり熱いですね…!無理させてごめんなさい。横になってください。品物を冷蔵庫に入れさせてほしいので…部屋へ上がりますね」
「ありがとう…ございます」
部屋へ足を踏み入れた。
わぁ、エースくんの自宅…!
…いやいやいや!感激してる場合じゃない。
買ってきたものを冷蔵庫へ。
エースくんはふらふらとソファーに座る。
ベッドで寝てください、そう声をかければ
「…ん、」とだけ返ってきた。
動く気配はない。
これはベッドへ行く気がなさそうだ。
スポーツ飲料水を渡そうと近づく。
「食欲はありますか?」
「そんなに、ない」
「プリンがありますよ」
「…たべる」
「では先に水分補給してくださいね」
「ん」
蓋を軽く開けてから手渡した。
飲んでくれて安心する。
プリンとスプーンを持って隣に座れば、ゆるりと視線を寄越した。…だいぶ辛そうだなぁ。
ぐったりとソファーに座るエースくん。
スプーンでプリンを掬って口元へ。
「エースくん、あーんしてください」
「…じ、じぶんでたべ」
「食べられますか?本当に?スプーンを持てます?動くの辛いですよね。はい、あーん」
「ナナシさん、あつがつよい…」
渋々、といった感じで口を開けてくれた。
よしよし。少しでも食べてくれたらいい。
何度か繰り返して食べさせ終える。
もう一度スポーツ飲料水を飲んでもらって、
ベッドへ誘導しようと肩に触れた。
触れた手を、握られる。
「ほんとに、ナナシさん?ほんもの?」
「はい。本物です」
「おれのゆめ、じゃ…ねぇの?」
「夢じゃないですよ。立てますか?」
「…ん」
ぎゅう、と握られた手。
そのままベッドのある部屋へ向かい、沈むように横になる。息遣いが荒くなってきた。
手の届く所に飲み物とティッシュ、タオルも。
前髪を分けて額に冷えピタを貼ってあげたら、冷たさに驚いたのか眉間に皺が寄った。
こんな時に不謹慎だけど、可愛い。
目を閉じているエースくん。
もう眠っているのかな。
顔見知りとはいえ、薬を飲ませることは出来ない。抵抗あるだろうし。でも…やっぱり熱を下げるには必要だよね。買ってこようかな。
静かに立ち上がる。
ドアを開けて出ていこうとした。
「…ナナシ、さん…?どこ、いくんだ」
「お薬を買ってきますね」
「いらない、ここにきて。おれのそばに」
「良くなるためには必要、ですよ」
「…いい。ナナシさん、いかないで」
体を起こそうと動くエースくん。
それを支える腕はグラグラしている。
無理しないでください、と近寄れば肘が折れてベッドに沈んだ。言わんこっちゃない!
枕元へ戻る手助けをしてなんとか元の体勢に。
すると再び、いかないで、と口にする。
「…エースくんが寝るまで、行きませんよ」
「おきたらいない、ってこと?」
「そう、ですね。私とエースくんは…そんな関係じゃ、ないですし…。…そういえば、彼女さんがいらっしゃるかもしれませんよね?本当に私、配慮が足りなくてすみません…!」
その可能性は大いにある。
なんで失念していたんだろう。
マルコさんに教えてもらえたから?
中に入れてもらえたから?
自意識過剰にも程があった。
…でも、せめて。
エースくんが眠るまでは傍にいたい。
「彼女なんて、いない。だから…いかないで。
ナナシさん…おれ、ナナシさんにいてほしい…
そばにきて、手を…にぎって」
エースくんの言葉に、胸がときめく。
それと同時に鼓動も速くなる。
エースくんは今、体調が悪いから。
きっと人恋しくなっているから。
そして近くにいるのが、私だけだから。
何度も自分に言い聞かせた。
言い聞かせて、手を握る。熱い手のひら。
強く握られ、驚いてエースくんを見れば…。
なんて、嬉しそうな顔をしているんだろう。
「エースくん、」
「ナナシさん、すきだ…すき。ナナシさ、ん…おれ、ナナシさんのこいびとになりたい…。きすしたい…ふれたい……ナナシ、さんが……すき…」
私の名前を呼びながら。
エースくんは眠りについた。
恋人になりたい。
キスしたい、触れたい。
…好き。
エースくんの言葉に、涙が溢れた。
熱に浮かされているのだとしても。
その想いが…言葉が、嘘だとは思えなかった。
「私も、エースくんが好きです」
***
─それから、三年の月日が流れて。
私は仕事を辞めて自宅で勉強をしていた。
ひと息つこうとボールペンを置く。
すると、インターフォンが来客を知らせる。
モニターを覗くと、笑顔を浮かべた。
「こんにちは、白ひげ宅配便です」
「こんにちは、マルコさん!」
「おう、荷物は玄関先でいいのか?」
「はい。ありがとうございます!」
今日は暑いな、袖を捲って汗を拭う。
マルコさんは年々色気が増してる気がする。
じいっと見つめていたら笑われた。
「熱い視線を感じるよい」
「はっ!すみません、いい男だな、って!」
「そうかぃ?そりゃあ光栄だねェ」
笑顔も素敵です。
マルコさんとほのぼの、まったり話をしていたら、後ろから腕が伸びてきて抱きしめられた。
「よぉ、マルコ。お疲れさん。で?いつまでうちの奥さんと話してんだよ、仕事しろ」
「おう、エース。身重の奥さんに玄関対応させてんじゃねェ。テメェが率先して出てこい馬鹿野郎。オラ、荷物とっとと中へ運べよい」
「おっとー?今日は客ですよ、白ひげ宅配便のオニーサン?イカついパイナップルが脅してくるって営業所にクレーム入れんぞ??」
「あァ?ぶっ飛ばされてェのか?」
お?やんのかコラ?
お前がおれに敵うわけねェだろ?
はァ!?いったな?表出ろマルコォ!
出ねェよおれは制服だ。ここでぶちのめす。
バチバチに言い合う二人へ、手をひとつ叩く。
「お腹の子に悪影響なので二人とも言葉遣いは気をつけてください!玄関で喧嘩もだめ!」
「「…ごめんなさい…」」
「はい、わかればよろしい!」
にっこり笑えば、二人は距離をとった。
私たちはあの風邪引き事件をきっかけに、エースから告白され晴れてお付き合いを始めた。
そして紆余曲折を経て、結ばれて。
今私のお腹には、新しい命が宿っている。
二ヶ月後に産まれてくる予定だ。
「…無事に、産まれてこいよ」
「ふふ、マルコさんに撫でられるとこの子、嬉しそうに動くんですよねぇ。不思議」
「おれはちっとも嬉しくねェ!」
「おれが親父だと気づいてるのかもなァ…」
「言っていい冗談と、悪い冗談があるぞ!!今のは後者だ…ふざけんじゃねーぞマルコォ…」
「あはは、うん、この子はマルコさんのことが好きなんだろうなぁって思うよ!」
お腹を優しく撫でてくれるマルコさん。
産まれてきたら、きっとこの子を優しく甘やかしてくれるのだろう。そんな未来が見える。
そして“初恋のお兄さん”にも、なりそうだ。
「嫁にはやらねェからな…!」
「惚れられたら、16で迎えに行くよい」
「やめろやめろ!!リアルで怖ぇわ!」
「エース、惚れたら応援しようよ」
「おいナナシ、諦めるんじゃねぇ…!」
「どこの誰とも知れない男よりマルコさんなら安心して任せられると思わない?」
「…くそっ、確かにマルコなら…って納得しかけた自分に腹が立つ…!!ダメだ…!」
「いや、お前ら落ち着けよい。何十年後の話をしてんだ。おれは仕事に戻る。じゃあな!」
面倒くさい空気を察したマルコさんは、さっさと出て行ってしまった。さすがです。
届いた荷物を中へ運んでもらう。
この子の、抱っこ紐。
箱を開けて実際に装着してみるエース。
「まだ想像できねぇなぁ」
「そうだねぇ…。ふふ…エース似合わない!」
「だんだん似合ってくるはずだ!」
腰に手を当てて、キメ顔でこちらを見る。
なんてシュールな絵面なの。
片付けをしている間に、コーヒーを淹れた。
エースには、ミルク多めのカフェラテ。
私はホットミルク。
出来上がったものをエースがテーブルに置いてくれる。そして私の手を引いてソファーへ。
ずっと優しい、エースの手。
「おれ、親父やれるかな」
「うん。エースなら、大丈夫。私が保証するよ!…私こそお母さんになるの不安だし心配…」
「それこそ、ナナシなら大丈夫だ。それに、おれがいるだろ?一緒に悩んで心配して、たくさん愛を注いで。大切に育てていこう」
「…そうだね。エース、好きだよ」
「へへ、おれもナナシが好きだ」
唇が軽く触れる。
離れて微笑むエースに、頬が染まる。
「なぁ、お姉さんはおれの癒しだよ」
「ふふ…エースくんも私の癒しです」
荷物を届けてくれる人。
苦手なコーヒーを飲みにきてくれる人。
優しく守ってくれる人。
格好良くて、可愛い人。
これからも、好きな人。
あなたはいつも、幸せを運んでくれる人。
カフェラテ、ミルク多めで
(5年後)
「待て!おい!!待てって、アン!」
「やだー!!おとーさん、へたくそだもん!」
「へたっ、下手くそはやめろ!傷つくぞ!」
髪型が決まらない。
その女の子はこだわりが強いようで。
それは何故か、と言うと。
「アン、今日も可愛いなァ」
「えへへ、マルちゃんもすてきだよっ!」
「ぐうっ…!マルコが憎い…!!」
「ふふふ、やっぱりマルコさんかぁ…」
好きな人に、可愛く見られたいから。
髪を結ってもらうのが、お父さんなのは。
妹が、産まれるから。
(さらに5年後)
「マルコ、だーいすき!」
「…親父が妬いてるよい」
「父さんもすきだけど、マルコは別のすき!」
マセた小学生だねぃ、なんて。
優しい瞳に、どんどん惹かれていく。
「…どうなってんだ、アンは。あれのどこがいいんだ?だってパイナップルだぞ??」
「エース、めっ」
「ナナシ、それ可愛いな」
(さらにさらに5年後)
「ねえ、マルコさん」
「んー?」
「私、来年16歳だよ」
「そうだなァ…月日の流れは早ェもんだ」
「…マルコさん、恋人いないの?」
「さぁな?仕事でいっぱいいっぱいさ」
「やべぇ流れだな」
「この前、次女ちゃんに妬いてたよ。マルコさんに抱っこしてもらうの禁止ーっ!って」
「一番下のチビにも言ってたぞ」
「「……マルコ(さん)…」」
(それから高校卒業後)
「私もう、子どもじゃないよ」
「知ってる。オムツ履いてる頃から知ってる」
「!!その話本当にやめて!?」
「…エースとナナシの子が、ねェ…」
「マルコさんが好き。ずっとずっと大好き」
「何歳差だと思ってんだ。おれは確実にお前を置いて先にいく。お前はもっと視野を広げて…」
「他の人と、キスしていいの?私が、他の、マルコさん以外の人を愛しても…いいの?」
「っ……許せねェ、よい…」
「エース、どんな気持ち?」
「会社の社長で先輩で、でも愛する娘の婿?
はー………ぶん殴ってから…親子の盃、だな」
「複雑だねぇ、次女ちゃんは誰だと思う?」
「やめろ聞きたくねぇやめろ」
「サボ」
「あいつはマジで許さねぇ、うちの敷居は跨がせねぇ!!!ま…、まさかチビも!?」
「サッカーに夢中です」
「……あいつは癒しだなぁ…」
「ふふ、お父さんは大変だねぇ」
そんなポートガス家の…未来の、お話。
Fin.
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