深淵の先で後悔を知る/TOA



 元々何も持ってない。今更無くすものだってありやしない。ただあるのはもはや何に対しての感情なのかすら分からなくなった憎しみだけ。そのはずだったのに。

 いつの間にかそこに現れたものが、いつの間にか隙間に土足で踏み込んできて、無くしていたはずの何かに小さな灯りを灯していく。

何度消しても、何度消しても、懲りずに。
何度も、何度も、何度も。

 そのうち諦めて、暗闇を照らすその灯りをぼんやり眺めていればなんともくだらない感情が湧き上がる。
今更何を変えろと言うのか。腐った性根はそう簡単に変えられやしない。ましてや、この憎しみは目的が見えなくなった今でも深く根付いて消えることは無い。こんな事をしてなんの意味があるのか。嘲り、また灯りを消す。

 なのに、くだらないと吐き捨てた思考すらあいつは拾い上げて笑ったのだ。今はそれでいいよ。そう言って、自分が1番理不尽に振り回されているというのに、屈託の無い笑みで笑う。そうしてまた、握り消した灯りを再び灯した。

 それから何度も何度もそれを繰り返して、ついにその灯りを消せなくなったその時、初めて見えなかった風景が見えた。心もとなかった灯火は、いつしか辺り一面を照らすほどに大きく、明るい焔になっていた。だが暖かな焔に照らされたその場に、焔を灯した持ち主の姿はない。それでも焔は消えることはなかった。

 焔はただ静かに揺れる。消えることなくゆらり、ゆらりと。明るく照らされた世界でただ1人残され、明るさに比例するように影もより息衝く。以前よりも明確に、鮮明に。影はそこで初めて、これが後悔だと言うことを知った。
焔に背を向け、より明かとなった影を見据え歩き出す。

 焔が辺りを照らしながらも、世界は影を孕んだ。

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