「あれ、燕先輩帰ってたんだ。サボり?」
「なに、ついに君までそういうこと言うようになったの? 先輩泣くよ?」
「燕先輩がそんな繊細な心持ってないでしょ」
もはや定番となった軽口のコミュニケーション。
「そんなこと言うならコレ、あげないよ?」
ひらり、1枚のチラシを広げる燕。そこにはデカデカと、新装オープンの文字となんとも美味しそうなスイーツの写真が並んでいた。そして燕のその手にはそのチラシの他に、プレオープンの招待券が握られている。
「そ、それは……!」
「今度オープンするカフェの優待券。しかも10人限定の激レア物ときた」
「どうしてそんなもの先輩が……」
「行きつけのカフェの店長さんと仲良くなってさぁ。店長さんの後輩さんなんだって、この店の店長。んで、譲ってもらった♡」
茶目っ気たっぷりで言われた言葉に、目の前の人物はなんだかんだ界隈では有名なスイーツ好きだったことを思い出す。
「2人分なんだけどなぁ〜。野薔薇がそんな態度取るなら悠二でも誘おうかなぁ〜」
「ぐっ……。私が悪かったわ……。だから、ね?」
「えー、どうしよっかな〜」
「燕先輩〜〜……」
懇願する野薔薇に堪えきれなかったように笑う燕。恨めしそうにそれを睨みつけながらも手渡された優待券を前に野薔薇の目は輝く。都会で話題の新店をいち早く堪能出来るなんて、そんなまたとない機会に頬は緩む。
「オープンいつだっけ」
「11月だったかな。中旬くらい?」
「ほんとだ。休み確保しとこっと」
「店長さんのお墨付きだから楽しみなんだよねぇ」
「ほんと甘いもの好きよね、燕先輩」
最後に浮かんだ、あの日の情景。
あぁ、約束。
守れなかったな…。