じゃがいものパイユ
「パイユだってよ、うめ〜〜〜っ!!」
「パイユってなんだ??」
「パイユってのは大怪獣パイユのしっぽの肉だ!!」
「…じゃがいもを細切りにして焼いたものだってサンジが言ってたよ…?」
「ロアお前夢がねェこと言うんじゃねェよ!! もちろんこのパイユ、おれが仕留めたのさ!! 全長100mあったぜ」
「100m!!? すげーなー、ウソップ!!!」
「なーーーに、朝メシ前だ…」
「早起きして倒したのか!!!」
「チョッパー、おれの名を言ってみろ…」
「え…!? それは勿論キャ…キャプテ…」
「そう!! おれの名はキャプテ〜〜〜ン ウソップ!!!」
「…(ふたりとも楽しそうだな…)」
「ロア! おれロビンと街に買い物に行ってくるぞ! ナミに小遣いもらったからな、医学書を見に行くんだ!」
「…ん、気をつけて」
「なんか欲しいものあるか? ロアは留守番だろ!」
「…そう、だな。おれもあとで服だけ見に行こうかなって思ってるけど…今は…」
「甘いもの、だな!!」
「…ふふ、そう。お願い」
チョッパーにはこの時点でも比較的柔らかい表情を向けられるロア(無意識)
人の表情や会話を良く見ているロビンだからこそロアのそういう違いに気付いていそう。だから何故かその感情の機微が自分にも向けられているのが不思議で仕方がない。
「…浮かない顔、してる。大丈夫?」
「!! え、えぇ。大丈夫よ」
ロビンにとって1番掴みどころがない人がロア。多分最初はどうしてこの人はここにいるんだろうか。とすら思われていたと思う。でもなんだかんだ1番静かだからか歳が近いからかよく隣に居るし気を使わなくていい存在にはなってて欲しい。
フランキー一家が襲ってきた時、ロアは船の中にいて物音に気付いて外へ出る
「? 何かあった?」
「いんや。羽虫がいただけだ」
「…羽虫…?」
「ちょっと待ててめェ誰だぁ!!!!」
ってゾロの声が聞こえて慌てて再び甲板に飛び出してくるロア。
メリーが直せないと聞いたゾロとロア
「…ここまで航海してきたのも奇跡だって」
「あァ」
「…この先、どうするんだろ」
「さァな、ルフィ達の判断次第だろうよ」
「…ウソップの故郷で貰った船、なんだよね」
「…あァ。…珍しくやけに喋るじゃねェか」
「……ちょっと、いろいろ受け入れられてなくて」
「…そうだな、おれもだ」
この話の後にロビンも居なくなった、ウソップがフランキー一家にやられたって聞いていつも温厚なロアもちょっとピリピリしているはず。それをとても珍しそうに見るチョッパーはいる。こんなロア初めて見る。
チョッパー以外でよく船で一緒にいるのはウソップやロビン。その為ウソップの手伝いをしながら、この船にどれだけ思い入れがあるか、この船を大事にしてるかは沢山話を聞いてきてよく知っている。
ボロボロになって外に放り出されてるウソップを見て、さすがのロアも怒りをその顔に映す。
ルフィとウソップの言い合いは何も口出せずにいる。元々の性格もあるけど、ただどちらの言い分も正しくて間違ってると思ってしまったから。ただただ口を噤むしか出来なかった。
終わった後にナミとルフィが言い合いしてるのも、ゾロとサンジが言い合いしてるのも、ただメリーを眺めることしか出来なくて、加えてロビンも帰ってこなくてずっと一人心の中でどうすればいいどうしたら良かった、って考えてる。でも絶対に目を背けたくはないと思ってるからウソップとの決闘も見届ける。
一夜明けて、ロアはロビンを探しに行く。一味の空気感に重くなる気を紛らわすために朝から街へ。
新聞を見て事態を把握はするがますます訳分からなくなっていくので一旦宿へ。その途中で追い回されてるゾロと合流して巻き込まれて追い回される。その後ルフィとナミと合流。
「そうか、お前は顔割れてねェんだったな」
「…新聞、信じる?」
「信じるも何も俺らにゃ身に覚えがねェんだ」
「…でも、ロビンが帰ってこない」
「考えても仕方ねェだろうが。真実かどうかは直接本人に聞きゃいい」
ロアもそのままゾロ・ナミ・チョッパーとガレーラ本社に突入組。
ルフィとゾロが建物外に飛ばされた後、ロアもルッチに対抗をするが敗北。ルッチ達がガレーラ本社を出ていった後にナミだけ先に逃がして瓦礫に埋まったチョッパーを引き上げる。
「…ッ、チョッパー…、」
「っ、ロア…?」
「ごめん、無理させるけど…おれじゃ下まで無事に下ろしてやれないから…」
そう言ってロアが視線を向けた先にはアイスバーグとパウリーの姿
「道、作るから、頼める…?」
「でも、じゃあロアは…! ?」
「大丈夫、1人なら、多分何とかなるから」
信じてくれ、と目で訴える。それを汲み取ったのか、はたまた振り払ったのか、迫る時間に急かされチョッパーはその背に2人を乗せて立ち上がる。
それを見て、ロアは自らの槍を手にすでに崩れかけている壁へと向き直りその手に渾身の力を乗せた。
大きな音と共に開かれる外への道。その瞬間にチョッパーは駆け出した。それを見届けてふらつく体を槍を地面に着いて支える。暑い。肌が焼けるのをひしひしと感じた。何かに引火したのか爆発音があちこちから聞こえる。
「(……どうしようか)」
暑さのせいか、煙のせいか、思考がぼやけるのを感じながらも、ロアは力強くその地面を蹴った。崩れる建物を足場に、何度か着地の衝撃を緩めて地面へと受身を取り何とか脱出を成功させたのを実感したのは、慌ただしくアイスバーグとパウリーを囲むガレーラカンパニーの人間達が見えたからだった。
「お、おい、お前、何があった! ?」
「おいよせ!! こいつはさっきこの麦わらの達のペットとそこの女と一緒に居たやつだぞ!! 麦わらの一味じゃないのか! ?」
口々に捲し立ててくる相手に一気に対応出来るほどの対応力を持ち合わせていないロアは、周りへと目をやる。アイスバーグとパウリーは一目散に運ばれて行くが、チョッパーとナミをどうするか考えあぐねているようだ。
「詳しい話は、アイスバーグさんが起きたら聞けるから、今は、仲間を助けてくれませんか。人質だろうがなんだろうが、おれがなりますから」
大きな体躯を折り、頭を下げるロアにたじろぐ社員達。その体からは未だに血が滴っている。
「アイスバーグさんの意識が戻った!!!」
「……」
その言葉を聞いたがすぐにロアの体はその場に倒れ込む。ロアの意識はそこで途絶えた。
が……、すぐに叩き起される事となる。
「チョッパー、ロア起きて!!! みんなを探すのよ!!!」
「おいおい、ねーちゃん、ねーちゃん、そいつらすげー重症で!!」
「起きなさい、チョッパー、ロア!!!」
「へべ!!!」
「…ッ」
「じゃあロビンはおれ達のこと嫌いになったわけじゃないんだな…!!」
「…は…よかった…」
ロアは心の底から安堵している。そして同時にどうしてもいたたまれなくなった。ロビンの苦しみを、葛藤を知らぬままここまで過ごしてきたのかと。
元々口下手なロアは踏み込むことを心のどこかで恐れていた。ただでさえ自分が何者かすらも分からないような人間なので人様の領域に踏み込むなど出来なかった。
なのに彼女はそんな自身をも含む一味7人の命を、世界を捨てても、自分を捨てても選んでくれた。
この事実がロアの中ではとても大きな転機になっていると思う。
ロケットマンの船内、人見知り発動してるロアに延々とチムニーが話しかけてそう。小さい子は嫌いじゃないんだけどロアのペースをお構い無しに話しかけて来られるとあわあわしちゃう。
「ねーねー、槍のにーちゃんなんでそんな端っこにいるのー?」
「ニャー」
「…えと、あの…」
「ねーねー」
「…っ、…ナ、ナミ…」
「チムニー、その辺にしてあげて、ロアがパンクするわ…」
ソドムとゴモラが可愛くて撫でたりしてたらフランキー一家の下っ端達とはそこそこ打ち解けてたりするかもしれない。
エニエスロビー
ロケットマンが門を超えた先で、ゾロとサンジに続いておりてとりあえず囲まれたので周りの海兵をのしていくロアだったが、真横でサンダーボルトテンポが爆発してひぇっ、ってなってる。目と鼻の先でゾロとサンジが丸焦げになった。ナミ怖い。
「そんでな!! ソドムとゴモラ兄弟はフランキー一家に救出されてこう言われたんだってよ。『もう腹いっぱいだからお前らは食わねェ』 その時から命の恩人フランキーに忠誠を誓ったんだそうだぞ!!」
「バヒンッ」
「…大好きなんだ、フランキーのこと」
「バルルルッ」
「それはお前 偶然フランキー一家が食った海王類の腹の中にこいつらが入ってたってだけの話じゃ……」
「バルルルルルーンッ!!!」
「『おれは一生アニキについていくぜ!!!』だと」
「まァいいけど前見てくれるか、危なっかしい…」
「相当嬉しいんだな。言葉も分かってもらえて共感してもらえるのが」
ロアがソドムの背中なでなでしてるのを見たナミに「あんたほんと好きね…」って呆れられてるくらいには仲間内でもバレてる生き物好きなロア。
ソドムが撃たれて乗り移れって言われた時に、1番渋るのはロアだと思う。ここに来るまでも今も沢山話聞かせてくれた子達の1人だから。でも目的を忘れたらいけないということと、ソドムの力強い後押しにロアも決断する。
「…ゾロ、そっちじゃないってば…」
「あァ!? いや、上に行きゃなんでもいいんだろ!!」
「…上あがるにはあっちの階段を…」
「めんどくせェ。一気に行くぞ」
「…え?」
「竜巻き!!!!」
「…わっ」
「ふぅ…初めからこうやって登りゃよかった」
「…最初から迷子にならなければ済んだ気が…」
「ゾロ! ロア!」
「やっぱりアンタか!! 余波だったからよかったものの!! ど真ん中で技受けてたら死ぬとこだったじゃない私達!!!」
「あ!? どうしたんだお前ら」
「…上の階にナミとチョッパーもいたんだよ…だから階段教えたのに…」
「猛進っ!!! 猪鍋シュート!! どォりゃああああ!!! 間違いなく一番乗り…!! さァロビンちゃんお待ちかね…!! おれが助けに………藻っ!!! マリ藻≠トめぇなぜおれより先に!!? それにクソアザラシまで先にいるじゃねェか!!!」
「あぁ…お前遅かったな迷ってたのか?」
「オ…!! オ…、オホホイ、オホホイ…!! どこでそんな言葉覚えたんだてめェェ!!!」
「…結局どっちも正規ルートじゃなかったよね…」
「あ!!!!」
「そげキング!!!」
「え、空を飛んでるっ!!」
「あいつどこで何をしてやがった」
「着地 大丈夫か?」
「…落ちてない…?」
ひゅるるるる、ドカーン、派手な音を立てて着陸したそげキング。だがこれで、全員揃った。
「頼むからよ!! ロビン…!!」
「!」
「死ぬとか何でも言っても構わねェからよ!!!」
「…………」
「そういうことはお前…俺たちのそばで言え!!!!」
「!!!!?」
「そうだぞロビンちゃん!!!」
「ロビン帰って来ーーい!!」
「あとはおれ達に任せろ!!!!」
エニエスロビー、司法の塔
鍵を手に入れるためにCP9を探してみんなと別れた後、CP9イグル(オリキャラ)と対峙。
「手配書にない人じゃん。でもさっき麦わらのルフィといたし麦わらの一味ってことでいいんだよね」
「……」
「無視? まぁいいや。あんたらからしたら時間は惜しいだろうし。これでしょ、欲しいの」
「…!」
「あんたらイカれてるよね。あんな女の為に世界政府に喧嘩売るなんて」
鍵を指先でクルクル回しながら言うイグル。その表情は退屈そうだ。
「楽にしてあげた方があの人の為だと思うけど」
「…言いたいことは、それだけ?」
「なんだ喋れるんじゃん」
「…おれ達は彼女の優しさを知ってる。それだけで、十分」
「揃いも揃ってバカばっかり。でもいいや。分かりやすいじゃんね、戦う理由」
好戦的な笑みを向けてくるまだ若い青年。ロアは静かにその手に槍を構えた。
「いいね、やる気満々じゃん。あんた名前は?」
「……ロア」
「ぼくはイグル。楽しくやろう、ロアくん」
両者、同時に地面を蹴った。
「……ッ、ゲホ」
自身の体の上に崩れてきた瓦礫を押し払うロア。上を見上げれば1羽の鳥。その鳥は鋭い鉤爪を構えて下降してくる。慌ててその場から離れれば元々ロアのいた所に大穴が開く。
「ありゃ。まだ避けられたんだ。しぶといね」
「…(やっかいだ、どうしたものか…)」
そうしてまた空に舞戻る敵。トリトリの実、モデル『イヌワシ』。ロアにとって圧倒的に不利な相手だった。
逃げるばかりではどうにもならないが、攻撃が届かぬせいで防戦一方になっている。このままじゃ勝つどころか時間を無駄にしている。今は一分一秒でも時間が惜しいのに。考えを巡らせていると、大きな鳴き声が聞こえてくる。その声をロアは知っていた。
「(チョッパー…?)」
知っていると言っても何年も前にドラムで1度だけ聞いた声。通常時の彼の声では到底ない。
「何か知らないけど、他所に思考を向けるなんて余裕じゃん」
「……ッうぐ」
肩を鋭い鉤爪が貫く。その爪はそのままロアの肩を掴み意図も容易くロアの普通より大きな体を投げ捨てた。目の前の青年が若かろうが小さかろうがゾオン系の悪魔の実。そもそもCP9になるほどの実力者だ。自身の力不足を呪わずに居られなかった。
『よりによってバスターコール≠かけちまった〜〜〜っ!!!』
拡声器によりエニエスロビー全域に響き渡った声。それはもちろんロア達の耳にも届く。
「はぁ、なんなのあの人。バカすぎでしょ」
ボヤくように吐き捨てられた言葉には心底の軽蔑が含まれていて、痛む肩を抑えながらもロアはイグルを見やる。
「まぁいいや。これであんたたちは詰み。もう諦めなよ」
バスターコールに対して声を荒げるロビンの声も拡声器によって聞こえてくる。それは心の底からそれの恐ろしさを物語るような悲痛な声だった。それだけの恐怖と戦いながら、彼女は今も自分たち麦わらの一味を、仲間を待っているのだ。
「…諦められない理由が増えただけだ」
「呆れた」
話は終わったと言うかのようにイグルは再び鉤爪を構えて降下してくる。ロアはそれを今度は槍で受け止めた。殺しきれなかった勢いで肩から血が吹き出る。その痛みさえも今はどうでもよかった。
「…彼女がやっと本心を見せてくれたんだ。願いを口にしてくれたんだ。…だからおれは、こんな所で止まれない…!!」
力のままに鉤爪を槍で薙ぎ払う。そしてそのまま槍をショートスピアへと切り替えてイグル目掛けて投擲する。それをイグルは滑空してひらりと躱す。
「残念」
「…そうでもない」
「? なッ…」
何かを手繰り寄せたロアの動きと同時にイグルがまるで引き寄せられるようにバランスを崩した。ショートスピアの柄に仕込まれたワイヤー。それがイグルを絡め取り手繰り寄せていた。
「…誰になんと言われようが、おれは…おれ達はロビンを助ける。――
「…!!!」
引き寄せた勢いそのままでロアの槍がイグルを切り裂いた。倒れたイグルを見やり息を吐き出す。カランと音を立てて地面に落ちた鍵を拾い、ロアは先程聞こえた大きな鳴き声の元へとかけ出すのだった。
「…! ウソ…そげキング!!」
「!! ロアくん!! 無事だったか!!」
「ウ…そげキングこそ…。そうだ、チョッパー…チョッパー見なかった…!?」
事のあらまし聞いて、そげキングに鍵を預けそのままゾロとサンジと合流。そのままココロさんに助けられて脱出船でロビン達とも合流。
「…チョッパー。ランブルボール、3つ使ったでしょ」
「お、おれ、殺されると思って…」
「……良かった、無事で、本当に良かった…」
「ロア…」
チョッパーが心配だっただけ。怒ってない。ロビンもチョッパーも無事で心の底から安心してる。後はルフィだけ。
みんな、下を見て。そんな言葉が頭に響く。
ロアも敵をいなしながらそっと下を見た。目に入った光景に一味は誰もが目を見開いた。
「海へ飛べーーーーー!!!!」
ウソップの声が大きく響く。ロアは槍を薙ぎ払いチョッパーを抱える。隣に居たチムニーとゴンベも抱え、そのまま橋の下、海へ。もう1人の仲間がそこにはいた。
「……メリー…!!」
迎えに来たよ♀mかに届いたその声。もうは次の島まですら走れないと言われたその船が今ここにいた。
「根性だけで逃げ切れる敵じゃねェだろ?」
っていうサンジの後ろでおぉーって拍手してるロアはいます。
メリー号
成り行きで乗せてもらった船。思いがけない仲間を手に入れて、一緒に旅をして、一緒に空を飛んだ。涙は見せないがロアも目を伏せ、だが最後までしっかり見送る。メリーの優しい声を忘れぬように頭に刻みつけて。
W7に戻ってから
チョッパーの手伝いしながらロビンと3人で色んなとこ回ってる。
ソドムとゴモラにめちゃ懐かれてればいいよ。
【ここからロア故郷編に繋がる。オリ要素多くなります。】
ドラゴンの件が終わったあと
「それにしてもお前がルフィの船に乗っとるとは思っとらんかった。縁とは奇妙なもんじゃな」
「……?」
ロアを見てガープがそう零す。もちろんロアには心当たりは無くて不思議そうな表情をする。
「じいちゃん ロアのこと知ってんのか!?」
「ん? あァ、こやつはワシの元同僚の息子だからな。ワシがお前と最後に会うたのはお前がこーんな小さい時だったから覚えておらんかもしれんが」
「…あ、と…」
自分の記憶の中を探れどただ覚えてないのか、抜け落ちた記憶の中なのかロア自身にも分からない。それにこの人は自分の母を元同僚と言った。
「どうした、やっぱり覚えとらんか」
「違ェぞじいちゃん、ロアは何も覚えてねェんだ」
「何もじゃと…?」
ガープの驚いたような顔がこちらに向けられていたたまれなくなって視線を逸らす。
「なんと…」
「……俺のこと、何か知ってるんですか」
初めての手がかり。自分の事を知れるなら知りたい。その気持ちを、気付けばそのまま口に出していた。
「…ワシが知っとるのはお前が4.5つ位の時までじゃ。それでもよければ少し話をするか」
少しのざわめきを感じながらも、ロアは小さく頷いた。
「さっきも言ったがお前の母親はワシの同僚じゃった。なんともまぁ自由で気の強い奴でな。ワシも随分手を焼かされたわい」
そう話し出すガープはどこか遠くを眺めている。
「名はリヴィエール・リア。女というレッテルを乗り越え海軍少将まで上り詰めた女よ」
「ロアのお母さんが海軍少将…! ?」
「昔の話じゃ。ある日突然海軍を辞める!!なんて抜かして周りを騒がせるだけ騒がせてあっさり辞めよった。そうなった経緯をワシは知らんが、今思えばお前を身ごもったからだったんじゃろうな」
「なんつーか、お前と全然違うタイプだな、お前の母親は」
自分が話の中心にいるのが落ち着かないのか、はたまた自分の過去をくすぐられているからなのか、落ち着かぬ様子でロアはその話を聞いている。
「まあそれはいい。その後リアはミルレース島へと移り住み海軍とは無縁の生活を送っておった。ワシも何度か顔を出しに行き、その時に何度かお前とも会っとる」
「…ミル…レース」
その言葉にぞわりと胸がザワつく。
「お前の生まれ育った島だ。…20年前に1度海賊の手によって壊滅しとるがの」
「おいおい物騒な話になってきたな」
――ロア、ごめんね。
この声は誰だろう。その声だけはずっと頭の中に残っている。それに追随してノイズ混じりの情景が浮かび上がる。誰かを見上げる情景。顔が思い出せない。それが炎に包まれて消える。
「20年前のあの日、ワシは間に合わなんだ。リアは島を守り命を落とした。そしてそこにお前の姿ももうなかった。じゃからお前がここにおる事に正直驚いとる」
背中の傷跡が酷く熱を持っている気がする。なんの傷かすら覚えていない背中の傷。あるはずのない痛みがズキズキと主張している。これは自分の記憶に関係しているのだろうか。
「お前が今までどうしてきたのかワシには知る余地がないが…その顔を見るに決して良いものではなかったようじゃの」
ガープの視線に皆の視線がこちらに向く。
「ってロア、あんた酷い顔色よ…!!」
「お、おれ水持ってくるよ…!!」
「座りましょう、少しは落ち着くかもしれないわ」
そんなに酷い顔をしているのか。元々無表情だなんだと言われるのでそんなことを言われるのは新鮮で自分でも驚く。だが仲間の顔を見て、恐らく大袈裟でも無いのだろうと腰を下ろした。
心臓がうるさい。だが見えた光景は断片的な物で点と点は繋がらない。それでも言いようのないざわめきと、これは恐怖なのだろうか。心臓が震えるような、底冷えするようなそんな感覚。
「ミルレースはこのログを辿ればそこまで遠くは無い。気になるなら行ってみると良い。あそこは街もそれなりに再興して今は長閑な島になっとる。ワシはもうあの島に寄る理由が無くなったからな」
そう言ってガープはエターナルポースをルフィへと投げ渡す。そしてそのままルフィはナミへとそれを手渡した。
「ロア」
「……?」
「お前はどうしたい」
ミルレースのことを言われているのだろう。真っ直ぐ向けられた目に少したじろぐ。
自分を知らないという事は、案外不安なこともあった。だがガープから聞いた話を差し引いても、自分の過去は決して愉快なものでは無いのだろう。そもそも記憶がない時点で何かしら問題は起きていたのは間違いないと思ってはいたが。
ただ、今しがた感じたざわつきと恐怖が、知りたいという感情の邪魔をする。このまま思い出して、自分は自分のままで居られるのだろうか。そもそも今の自分はなんなのだろうか。
「おれはよ、お前がなんだろうが気にしねぇからよ。別に行かなくなっていいし、思い出さなくたっていいぞ」
「そうは言うがな、ルフィ。自分のことわかんねェままじゃこいつも何かと不便ではあるだろうよ」
「でもサンジくん、さっきのロアの反応見てる感じそれが本当にいい事なのか…」
「あー、まァそうだよな」
「お前が決めろ!! おれはお前がなんだろうと気にしねェし、誰だか分からなくたって構わねェ!! なんだろうとお前は麦わら海賊団の甲板手だからな!! しししっ」
「ルフィ…」
みんなが同じ意見だ、と言わんばかりにこちらに笑みを向ける。ロビンのことがあったからなおのことだろう。彼らなら全部受け止めてくれると思える。自分もロビンにそうしてあげたかったのと同じように。
「…知りたい、自分のこと。だから付き合って欲しい」
「にしし、当たり前だ!! よし、次の目的地が決まったぞ!!」
ガレーラのプールでの宴
「大丈夫?」
「…ロビン。ん、平気」
「記憶が無いとは聞いていたけど、こんな事になるなんてね」
「…ごめんね、せっかく落ち着けたのに」
「それは言わない約束よ」
「そうよ、あんたたちは気を使いすぎ」
「…ナミ」
「他人事みたいに聞いてるけどロビンもだからね!!」
「ふふ、もうしないわ。ほんとよ」
「わかればよし!!」
「…ありがとう」
「んナミさぁ〜ん!! ロビンちゅわぁん!! デザートも作ったよぉ〜♡」
「ありがと、サンジくん」
「美味しそうね、いただくわ」
「お・ま・え・は!! コッチだよおオラ!!」
顔の前にグイッと差し出されたアイスの入ったカップ
勢いそのままに受け取る。恨めしそうな表情とは裏腹にそれと合わせてアイスココアが机の上に置かれる。
「……ありがとう」
手配書
槍使い<鴻A
懸賞金 5500万ベリー
W7出る頃にはチムニーとそこそこ話せるようになってる。肩車してあげたりロアも子供の扱いが上手くなってそう。
チョッパーの手配書とともにロアの手配書もドルトンがドクトリーヌに渡してくれてるはず。
なんだかんだ3年間世話したのでちゃんとチョッパーと一緒で息子みたいに思っててくれたらいいな。
【ミルレース編】※長いです。普通にSS
無事ガープの猛攻を抜け、サウザンドサニー号でウォーターセブンを出航した麦わらの一味。新たな仲間フランキーを加え、向かうはロアの故郷ミルレース。
緩やかな船旅とは裏腹に、ロアの心には焦燥が募っていた。数日の航海でたどり着く己が故郷。近づくにつれて余裕がなくなっていくロアに、仲間は皆なるべくいつもと変わらずに接していた。
「よし、これでいいだろ。見ろこのワイヤー、今までのより強固で伸縮性に優れてる!! ガレーラで譲ってもらったのさ!!」
「…おぉ…」
「スゲ〜!! 伸びたり縮んだり、おれの腕みてェだ!!」
「ロアも能力者みてェだな!!」
「…ありがとう、ウソップ」
「へっ、おれ様にかかりゃこんなの楽勝よ!! どうだ、ついでに爆破機能でも追加してやろうか!?」
「…そ、それはちょっと…」
ロアの武器の修繕と強化の為にウソップの周りにはいつものメンバーが集まっていた。色々あったが今まで通りの光景に他の仲間たちをそれを呆れながらも微笑ましく見ている。
「ナミ、梶はこっちでいいのか?」
「うん大丈夫。このまま真っ直ぐで。この感じだと雪が降るかも…。サンジくん、雪掻きの準備だけしておいてもらえる!?」
「はぁい、ナミさん喜んで!!」
「ナミ!! 次は冬島か!?」
「そうみたい。直に寒くなってくるわ、あんたも着替えたら?」
「雪かァ!! 楽しみだなァ!!」
「ダメだ、聞いちゃいないわ…」
「冬島…ドラム島を思い出すな!! ドクトリーヌ元気にしてるかな」
「…そうだね。…でもあの人なら心配ないよ、ドクトリーヌだもん」
「そうだよな、ドクトリーヌだもんな!!」
そんな会話をしているうちに雪が降り出す。しんしんとゆっくりと、だが進むにつれて激しく。
あっという間に積もる程の雪が振れば船内はお祭り騒ぎ。雪掻きと、雪遊びとそれぞれに精を出す。
「ん? 島が見えたぞ!!」
見張り台からゾロの声が響く。一同はその声に地平線へと目を向ける。雪掻きをしていたロアもまた、視線をそちらに向けた。白い雪に包まれた島。それが一瞬赤く炎に包まれた様に見えた。
「…ッ」
その光景はすぐに掻き消え、ロアに焦燥だけを残していく。それに気づいたものも気付かないものも、一様に島への上陸を目指す。
「よし!! 船をつけるぞ!!」
「バカ、あんたおじいちゃんの話聞いてなかったの!! 裏手に船を回しましょう。私たちは海賊なのよ!!」
「そうか、海賊のせいで壊滅したっていってたもんな…」
「過去の話でも歴史というのは根深いわ。ナミの言う通りにしましょ」
ロアの雪掻きの手が止まろうが、上陸の輪に加わることがなかろうが、それを気にするものは誰も居ない。ロアにとってはそれが有難かった。
「あゥ!! 船番はおれにドンと任せときな!!」
「頼むわね、フランキー」
島の裏手に船を着け、ルフィ達はミルレースへと足を下ろす。雪が積もるその様はかつてチョッパーとロアを仲間にしたドラムを連想させた。
「冬島は得意だからな、おれ達!!」
「…ん、そうだね」
いつもよりも覇気のない声色のロア。その頭の中は色んな情景が浮かんでは消えてを繰り返していた。それを整理する余裕もないロアだが、ルフィはそれを気にすることなくロアを引っ張って島をずいずいと進む。
「ほんとに大丈夫かしら…」
「心ここに在らずね。でも彼らがいつも通りなのは気が紛れるんじゃないかしら。ほら」
「見ろよ町が見えたきたぞ、ロア!! 肉屋行こう!! 肉屋!!」
「おいルフィ目的忘れんなよ」
「…いいよ、大丈夫。街に着いたら先に何か食べようか」
「お前ってルフィに甘いよな…」
騒がしいまま街へと入るルフィたち。いつも通りの空気感にロアも少しばかり落ち着く。その様子をみてナミとロビンも顔を見合わせて笑った。
町入ってすぐサンジは買い出しへと別れ、ロア達はひとまずそのままルフィの食欲を落ち着ける為に酒場へ。昼間からでも賑やかなその酒場のおかげでルフィ達がお尋ね者だと気付く者はいない。
一同散って情報を集めようと言うことで話が纏まり、1時間後に広場へと集合とし、一同解散する。
ロアはチョッパーとロビンと共に町を歩いていた。
宛のない情報だとばかり思っていたが、町ではリア≠ニいう名は様々な人の口から聞くことが出来た。
元海軍∞20年前の英雄$l々はそう口々に話す。
「あなたのお母さん、慕われていたのね」
「みんな誇らしげに話してくれるな。…大丈夫か、ロア」
「……ん」
「少し早いけれど、思ったより情報も集まったことだし戻りましょうか」
「そうだな、おれも疲れたから休憩したいぞ」
二人の気遣いにロアは素直に頷いた。
再び広場に集まった面々。互いの得た情報を共有する。照らし合わせた情報で浮かび上がるリア≠フ人物像。元とは言え海軍であったことを象徴するような正義感。それとは裏腹に豪快な人物であったこと。彼女がいたからこそ20年前の悲劇で犠牲もあったもののこの街が復興出来たこと。そして、行方不明の息子の話。
「ガープ中将の計らいで定期的に海軍が巡回にきてるそうよ。あの人と同僚だったという話は間違いないみたい」
「その人が住んでた家の跡地に小さな慰霊碑が建ってるっていってたが、つまるところお前ん家ってことだろ?」
「…そういうこと、だと思う」
よし、じゃあ行くか。返事も聞かずにロアを背負って走り出すルフィ。勢い任せに感じるがそれが引っ込みがちなロアの後押しをしているのは確かだった。
「あんくらいの強引さがあいつには必要だろ」
「それもそうね…」
呆れながらも全員ルフィに続いて歩き出す。
ルフィより明らかに身長が高いロアが背負われているというアンバランスな光景。
「待ってくれ!!」
そんなルフィとロアの前に立ちはだかる人影が複数。
「なんだ?」
「ほら町長、やっぱり麦わらの一味だ!!」
「今朝の新聞と一緒に手配書が入ってたんだ、間違いない…!!」
「おいおい、これってやばいんじゃないか…?」
ルフィ達の前には複数人の町人達の姿。その手には記憶に新しい手配書が握られている。今や一味全員が札付きなのだ。顔が知れ渡っているのも何ら不思議では無い。だが町人達の雰囲気はそういった緊迫感とはまた違ったものだった
「麦わらのルフィで間違いないな」
「あァ、おれがルフィだ」
「……」
少しの間双方見つめ合い緊張が走る。町長と呼ばれた男性はルフィの前に1歩躍り出る。町長の目からは1粒大きな涙がこぼれ落ちた。
「ならばやはり、やはり…ロアなのだな」
「……!!」
背負われたままのロアをその目に映したまま、町長はその場に崩れ落ちる。共に居た町人も口々にロアの名を呟く。
「おれ達はあんたがガープさんの孫だってことは知ってる。この街じゃ有名さ。リアさんが居なくなったあともこの町がこうしてここにあれるのはあの人のおかげだ」
「あんたらが不用意に暴れない限りここにはあんたらを通報する奴はいない。安心してくれ。ただおれ達はこの子が本当にあの人の息子なのか知りたかっただけさ…」
「…手配書を見た時にまさかとは思ったが…リアよ、見ておるか…」
「……」
ルフィの背をおり、ロアはそっと町長へと歩み寄る。目線を合わせるように屈んだロアはそっと口を開いた。皆がその姿を静かに見守る。
「…あの、おれ、何も覚えて…なくて…。ガープさんにここの話、聞いて…ここにくれば、何か、知れると思って…」
拙く紡がれる精一杯の言葉に、町長達は一言一句逃さないように聞き入る。
「…覚えてなくて、ごめんなさい」
「何を言うか…ッ、私たちは我が身可愛さにあの日連れて行かれるおまえを追いかけられなかった…」
力を前に立ち向かえる人間はほんのひと握りしかいない。それはロアも知っている。誰もそれを責められやしない。
「…でも、おれは生きてます。こうして一緒に探し物してくれる仲間にも出会えた。だから、大丈夫」
穏やかな顔でロアはそう伝える。
町長達は涙ながらに後ろで笑うロアの仲間を目に映す。20年前島を襲った海賊とは似ても似つかぬその様子にロアの手をそっと握った町長はそのままルフィ達に呟く。
「どうかロアを、よろしくお願いします」
その言葉にルフィはいつもの笑顔で笑った。
「すまない、引き止めてしまったな。リアの慰霊碑に向かうとこだったのだろう。お前の元気な顔を彼女に見せてやってくれ…」
コクリと頷き、ロアはルフィへと振り返る。
「うっし、行くぞロア!!」
「…ん」
またロアをグイッと背負って走り出すルフィにナミたちも続く。
「あいつなんでロア背負ってんの? バランス悪いわね」
「彼なりの気遣いかしら」
「ただ楽しくなっただけじゃねェのか?」
町人たちの見送りを受けそのまま道を歩けば少しばかり開けた場所へとたどり着く。海が見える風通しの良い場所だ。
そのには小さいが、未だに沢山の花が添えられている慰霊碑が佇んでいた。
「これが…」
家があったとは言うが、そこにその形はなくただその石碑だけが佇む。十字の中心には光を反射して輝く小さなネックレスがかけられていた。ロアはそっとルフィの背を降り、その石碑へと近づく。そっと触れたネックレス。それは確かに母がつけていたものだった。そっと触れる。そう、あれはまだこの島で母と過ごしていた長閑な日々だった。
――…
ロア6歳。
「ロア〜」
名前を呼ばれたロアは砂浜を弄っていた手を止め顔を上げる。
「お母さん」
「晩御飯もうすぐできるから手ェ洗ってきな!」
「はぁーい」
いくつかの貝を手に母に言われた通りにする。手を洗い家へと戻れば美味しそうな匂いと共に胸を張る母が出迎えてくれた。
「毎日毎日あんたもほんと好きねぇ。ほら」
「おれこんなに食べれないよ」
「何言ってんの、食べなきゃおっきくなれないわよ」
豪快な母とごく普通の小さな男の子。少し変わったことと言えば
「リアッ、海賊じゃ!! 町で暴れとる」
「またァ!? こちとら今食事中だっての。はぁ、ロア先に食べてて」
「うん、気をつけて」
ロアの母は元海軍であったということくらいだった。
「いい? 私がババァになったらあんたがこの町守るんだからね」
元職由来の正義感のある女性
「槍ィ!? 槍なんて適当に振り回しときゃいいのよ!! 私にはわからん!!」
女らしからぬ豪胆な性格、強さ
「ふふ、さすが私の子!!」
そしてロアにとっては暖かな母親
ロアにとっては波乱万丈ではあったが平穏な日常。
だがそれはある日突然崩れることとなる。
「ロア!! あんたは逃げなって言っただろ!!」
「嫌だ!! おれだって戦える!! 」
どこぞの海賊が置いていった自分の背丈より長い槍を構え燃え盛る家を背にロアはこれまた同じく自分より大きな海賊と相対す。
体格差のせいでまるで子供のままごとのように受け流されそのままバランスを崩し倒れるロアに海賊は容赦なくその刃を振り下ろした。来るであろう痛みに咄嗟に目を瞑ったロアだったが痛みは一向に襲ってこない。代わりに大きな腕に包まれる。
「ほんと悪いとこばっか私に似て…。勇気と無謀は違うって教えただろ…」
「……お母、さん…」
抱きしめたその手に血が伝う。
「……ごめんね、ロア」
支えきれず倒れた母から広がる血の海。抱き起こそうと伸ばした手は海賊によって阻まれる。
「こんなんでも労働力くらいにはなるか。いいネタだ」
「離して…ッ、お母さん…!!」
燃える家も、母にすらも手が届かぬまま、ロアの穏やか日常は崩れ、壮絶な人生がここから始まった。
「(…おなか…すいた…)」
物置のような船の一室に押し込まれて何日経っただろうか。陽の光も入らぬここではそれすらも分からない。
船が一際揺れたと思えばそのまま麻袋に詰め込まれて何も分からぬままにどこかへ運ばれる。どこかも分からない。自分がどうなるかさえも。
「普通の人間を持ち込まれてもなァ」
「そう言うな、聞いて驚け、こいつはあのリヴィエール・リアの息子だ」
「!! へへ、前言撤回だ。奴には恨みを持つ海賊も多い。いい値で売ってやるさ。後で売上金を取りに来な」
――……
まるで罪人のように錠をはめられて並ばされる。幼いロアにも自分が今どういう状況なのかようやく理解が出来た。もう逃げ場はないのだということも。
「なんとこの人間、ここだけの話、元海軍少将を親に持つのだとか!!」
「わちしの海賊コレクションに追い回させて遊ぶと面白そうだえ!! 買うえ!!」
――……
「こいつを捕まえ奴は今日の食事を保証してやるえ〜」
岩陰に身を潜めてただ息を殺す。そうしなければ生き残れない。来る日も来る日も狼の群れの中に放り込まれる兎のようにただ天竜人のおもちゃとして他の奴隷から逃げ回される。捕まっても逃げ切っても待つのはただの地獄。
「居たぞ、あそこだ!!」
「……ッ!!」
ーー……
マリージョア襲撃事件。それはロアにとっても大きな変化となる。
「ロア、逃げるんだ!!」
「…でもアドラさん…!!」
「私は他に残ってる子達を助けてから逃げる。君くらいの歳の子もまだ沢山いるんだ。大丈夫、必ずまた会える」
「…絶対、絶対だよ…」
「あぁ、約束だ」
この環境で唯一安息の地を作ってくれていた気心知れた人とも別れ火の手が上がるマリージョアから這うように逃げた。
――……
「船長、こいつの背中!!」
「天竜人の所有物…つまり分からなくしちまえば今の騒ぎじゃ人間1人消えたところで誰も探しゃしねぇよ」
「なるほど頭良いですね!」
忌々しいと思った背中の烙印、それが更に仇となり背中の烙印の代わりに消えない傷を負うこととなった。
自由の為に逃げた先はまた同じような暗闇でロアただ自分の生を呪うことしか出来なかった。
――……
「敵船だァ!!!!」
「戦闘準備!! こんなとこで運のねェ…!!」
バタバタと船内が慌ただしくなったのをただ小さな物置のような部屋で伺う。今までも戦闘が起こることはあった。たが今回は激しく、船員が慌ただしく走り回っている。戦況は落ち着くことなく激化していき大砲の音と刃物が交わる音が鳴り響く。そして遂に大きな音と共に、大砲によってロアのいた部屋共々船は抉り取られた。衝撃で吹き飛ばされ顔を上げれば、荒れた波と海が大口を開いてロアを待っていた。終われるだろうか。長かった自分の人生を振り返ったところで希望なんてものはもうなかった。ただもう自由になりたい。この先がどんな形であれそれが自由なのならば。ロアは迷わず足を踏み出した。
――……
次に目を覚ました時にはまっさらだった。ただ誰かが自分の名を呼ぶ声だけが頭に残っていて辛うじて自分の名前だけが分かる状態だった。
「訳ありかい。全くチョッパーといいお前といいなんでこうも厄介事ばっかり転がり込んでくるのかね」
「…でもこのまま放り出すとこいつ生きていけねェんじゃ…」
「…はぁ、私もそこまで薄情じゃないよ。あんたが面倒見な」
「…!! わかった!!」
――…
あぁ、そうか。おれは自由を手に入れていたんだ。
手に入れて、今ここにいる。
ドクトリーヌとチョッパーが繋いでくれた自由を、今度はルフィが手を引いて自由な大海原へ連れ出してくれた。その為だけに今までの人生があったと思えるほどに、大きくて意味のある自由。
「……」
「!! 目ェ覚めたか、ロア!! 気分悪いとか無いか!?」
「…チョッパー。ん、大丈夫」
最近ようやく見慣れた、サニー号。チョッパーの声でだんだん頭が覚醒してきてこれが今現実なのだと実感する。
「待ってろよ、みんな呼んでくるからな!! じっとしとけよ!!」
子供に言い聞かすように念を押して船室を出ていく彼に、そういえばドラムで拾われた時もそうだったなと思い出す。そう、思い出せる。まだ頭は整理できてはいないがそれ以前の事も。
バン、と勢いよく開かれた扉から最初に飛び込んできたのはルフィ。その後に続いて皆も入ってくる。
「思ったより元気そうだな」
「ほんと、急にぶっ倒れたと思ったら熱出すわうなされてるわでチョッパーがずっと看病してくれてたんだから」
「…あ…、ご、ごめん」
「元気になったならそれでいいんだ。おれは船医だからな!!」
どこか誇らしげに言うチョッパーに皆笑う。
「んで、なんか思い出したのか?」
「おいルフィ、ちょっとは遠慮ってものをだな」
「なんだよ、結局聞くんだから良いじゃねェか」
「だからってちょっとはこいつのペースってものを考えなさいよ…」
「でもこいつ、聞かなきゃ言わねェじゃん」
「……」
ルフィの一言に制止していたウソップもナミも押し黙る。
「あのなァ、言いたくねェなら聞かねェけど変に気ィつかうなよな。お前すぐ黙るだろ」
「…え、と…」
真理だ。どうもこの船長は己のことをなんだかんだよく理解している。言っても気持ちのいいものではないし、同情して欲しいわけでもない。ならばこのまま仕舞っておけばいいんじなないだろうか。と、確かにロア思ってはいた。
だがそれは決して遠慮をするようなものじゃない。知る権利は彼らにだってあるはずだ。自分が何者だったのか、を。意を決して口を開く。
「――思い出したよ」
みながロアの言葉を待っている。この人達なら大丈夫。分かってはいても、この人とすら扱われなかった過去を話すことには抵抗がある。忌まわしい過去。人としての尊厳を折られ、未来が見えない暗闇でさ迷ったあの過去。口を開いては閉じるを繰り返す。
それでも彼らは、ただ静かにこちらの言葉を待っていた。
「……おれ、は……」
喉まで出てきている言葉が中々音にならない。震えが迫り上がってくるのを感じる。
「ロア!!」
「!」
「大丈夫だ!!」
力強く、だがいつも通りに笑う船長。きつく目を閉じ、今の言葉を反芻する。
「……おれは、昔……奴隷、だった……」
「「!!!」」
息を飲む音、ジッポの音、全てが大きく聞こえた。視線を上げられぬままうるさい心音に耳を塞ぎたくなる。背中の古傷が、痛い。
「なんだ、そんなことか」
その言葉に、呆気に取られる。
思わず顔を上げ、そう言ったルフィへと目を向けた。
「過去にお前がなんだろうがお前は今、おれの仲間で、甲板手のロアだろ。それ以外なんでもねェ!」
「!!」
あぁ、これがおれが着いてきた船長か。大きくて、計り知れない。仲間達も呆れたように笑っている。目頭が熱くなった。視界が、滲む。
「なんだお前、泣けんじゃねぇか」
「……ッ」
嫌煙されてもおかしくない過去を笑ってくれる仲間、心強く受け止めてくれる仲間、一緒に泣いてくれる仲間、それだけであの地獄のような日々が報われる。
「あぁもう、つられちゃうわ」
「無表情よりよっぽどいい顔出来んじゃねぇか」
「締まらねェがな」
「いいじゃねぇか今日くらいよォ」
「そうね。まだ知らないあなたが知られて良かったわ」
「……ッ、……ウッ……」
「ししし、だから言ったろ、大丈夫だってよ」
――そう、おれはもう、自由だ。