「やっぱり、浮気してたの?!」

「そう。女にもアイツにも一発食らわせた。」

「よくやった。」

友人二人の会話に着いていけず、「怖いなぁ。」なんて他人事のように思う。浮気や不倫なんて、誰も幸せになれやしないのに。背徳感とかがあるのかな?わからないなぁ。
お弁当の卵焼きを口に放り込み、未だに話し込んでいる二人の会話を聞いていれば、何故か私へと飛び火した。

「花乃は?切原くん、浮気とかしてないの?」

「…さぁ、わかんない。」

「わかんないって、アンタね…。」

「基本的に引っ付いてきてるから…。」

呆れたように呟いた友人に、そう呟く。すると、「あぁ、確かに。」なんて小さく声が聞こえた。一つ下の学年である彼は、モテる。それはもう、一生分のモテ期を使い切ってしまうんじゃないかというくらい、モテる。だからこそ、私なんかで良いのかという気持ちになることが多々ある。
不安とか、たくさんあるけれど。一々疑うのも、疲れてしまうのは確かなわけで。今ある幸せを信じていたい、なんて。


放課後。友人二人と別れ、テニスコートへと向かう。そこには、やっぱりギャラリーがたくさん居て。少なからず、彼のファンもいるのだろう。明らかに、私を見て睨んできた。こわい。浮気どうこうよりも、私が刺殺される方が早いんじゃないだろうか。なんて気にさえ、なってくる。誰もが通るであろう階段下で座り込んでいれば、同じクラスの幸村くんに声をかけられた。

「桧山さん。」

「幸村くん。」

「毎日、大変だね。」

クスクスと笑った彼に、「それはどーも。」と嫌味ったらしく返す。毎日、大変ですよ。でも、朝は彼が早いから一緒に登校は出来ないし、お昼休みもあまり会えない。残るは、授業の合間にある少ないトイレ休憩と下校時しか会えるタイミングがないのだ。
「キミのお陰だよ。」と、唐突な言葉を口にした幸村くんに、「何が?」と返す。

「赤也、宿題忘れは減ったし、赤点回避率も上がった。紛れもなく、キミのお陰さ。感謝してるよ。」

綺麗に笑った幸村くんに、少しだけときめくも、「そんなことないよ。」と返した。それは、赤也くんの実力であって、私のお陰では無い。彼は元々、それなりの実力はあるのだ。この学校、その辺の学校よりは難関だし。私の返答に声を出して笑った彼は、「赤也をよろしくね。」と言ってフェンスの向こう側へと入っていった。同級生だけど、彼はどうしてあんなにも大人顔負けの余裕があるのだろう。不思議すぎる。それよりも、どうして同級生と話すだけでこんなにも緊張しなければいけないんだ。
小さくため息を吐くも、こちらへと駆け寄ってくるワンコのような彼を見て、頬を緩ました。

「花乃先輩!」

「赤也くん。」

今はまだ、わからないけれど。このときの幸せを、私は大事にしたいと思う。