スヤスヤと眠るその寝顔はいつもとは似つかわしくない、可愛らしい寝顔だった。普段の彼は、私と顔を合わせる度、眉間に皺を寄せ悪態をつく。そんな彼に合わせて、わたしも悪態をついた。そもそも、隊が違うのにどうしてこんなにも私に突っかかってくるのだろうか。
霊圧を消したまま、苛立ちを募らせ、彼を見る。まるで、危機感すらない幼子のような寝顔に、小さくため息を吐いた。というより、今は昼前だ。そしてここは、隊舎を隣接する廊下。五番隊の隊長である彼は、こんな人通りの多い廊下でスヤスヤと眠りこけたようだ。よく眠れたものだ。四番隊へと繋がるこの廊下は、特に隊士たちの足音が鳴り止まないというのに。
目覚めそうもない彼の顔を、まじまじと見つめる。綺麗な寝顔だなぁ。隣に座り込んだまま見つめていれば、名前を呼ばれた。

「花乃、仕事中ですよ。」

綺麗な声に驚いて肩を揺らした私は、同じく霊圧も揺らした。慌てて立ち上がり、そちらへと振り向く。そこには、自隊の隊長である卯ノ花隊長が居た。ああああ、バレてしまった。そんなことを思いつつも、私の揺れた霊圧に気づいたのだろう。後ろから、「うおっ、寝てしもうたわ。」なんて能天気な声が聞こえた。

「おはようございます、平子隊長。」

「おはよーございまぁす、卯ノ花サン。花乃ちゃんも、おはようさん。」

「おはようございます、」

おはようと挨拶を交わす隊長たちを横目に見ていれば、先程まで眠っていた彼に挨拶をされてしまった。咄嗟のことに驚きつつも、微かな声で挨拶を交した。「このような場所でお昼寝されては、困ります。」と微笑んで言った卯ノ花隊長に、冷りと冷汗を流す。怒ってはいないようだけど、怖い。彼も卯ノ花隊長の機嫌に気づいたのか、「以後、気ィつけます…。」と苦虫を噛み潰したような顔をした。

「花乃、仕事に戻りますよ。」

「は、はい!」

「平子隊長も、雛森副隊長を困らせない程度にお昼寝されてくださいね。」

「、はい…。」

ふわりと微笑む卯ノ花隊長とは対照的に、不服そうに返事をした彼を横目に見た後、「失礼します。」と会釈をして隊長の後を追うのだった。




あれから数日が、経った。彼は、卯ノ花隊長の言葉を聞いていなかったのか、それともわざとなのか。先日と同じ場所で、また彼はお昼寝をしていた。懲りてないのかな。それとも、学習能力が低いのか。いや、それはないか。スヤスヤと眠っているその様に、先日と同じくため息を吐き、隣に座り込んだ。

「綺麗な顔…。」

ボソッと呟き、彼の寝顔を見つめる。私の呟きなど、聞こえてはいないのだろう。変わらずに、スヤスヤと眠っている。私も仕事サボって、一緒にお昼寝したいな、なんて考える。怒られるから絶対にしないけど。まぁ、ここに座っている時点で怒られるから、一緒なのかな。人通りの多い廊下。スヤスヤと眠っている彼。ふと、か細く出た言葉に、私は顔に熱を集める。

「何言ってんだろ、わたし。はは。眠ってる、よね?」

独り言のように誤魔化し、彼の顔を覗く。彼は変わらずに、寝息を立てて眠っていた。ああ、よかった。バレていない。気恥ずかしくなった私は、「失礼します。」と小さく声をかけ、その場をあとにしたのだった。彼が狸寝入りをしていたなんて、知らずに。


「…そんなん、ズルいわ…。」

私が去った後、そこには顔を真っ赤にする平子隊長が居たんだとか。

「好きです、平子隊長。」