雛森桃side




「桃〜、茶ァ入れてや〜。」

「ご自分でどうぞ〜。」

珍しく仕事をサボらず、書類と睨めっこをする隊長。そんな隊長から声を掛けられ、いつもと変わらないやり取りをする。そんな時、隊長のことをお慕いしていると有名な自隊の席官が、「どうぞ、お茶です。」と隊長にお茶を差し出した。そんな彼女に、隊長は「何や、花乃。気ィ効くやないか。」とお茶を受け取り、口にする。
お茶を口にする隊長を、彼女はジッと見つめていた。

「な、何やねん…。そない見つめられると、飲みにくいわ。」

「私のことは、お気になさらずに。」

ニコニコと笑っている彼女とは対照的に、眉を顰めてお茶を飲む隊長。変な空気だなぁと感じつつ、書類仕事を再開させる。そんな中、彼女が一言発した。

「隊長、身体に何か変化とかあります?」

「…な、なんもあらへんけど、」

「身体が熱くなる、とかもですか?」

「何でそないなこと、聞いてくんねん。」

彼女の発言の意図がわからず、隊長は質問を質問で返した。たしかに、彼女の意図が読めない。どうしてそんなことを、聞いているのだろうか。不思議に感じつつも、二人のやり取りを見守る。隊長自身は危機を感じているのか、冷汗を流している。隊長に身体の変化が無いことを疑問に感じたのか、彼女が首を傾げて言葉を発した。

「あれ〜?おかしいなぁ。よく効くって、聞いたのに。」

「花乃、お前、茶に何か入れたんか、?」

「あ、はい。媚薬を入れました。」

「ブーッ!!!ゲホッゲホッゴホッ!隊長に、なんちゅーもん飲ませてんねん!!」

彼女の発言に、隊長は飲んでいたお茶を盛大に吹き出した後、噎せながらも怒声を上げた。隊長の怒声など彼女には効かないのか、「おかしいなぁ。友だちは効いたって言ってたのに。」と首を傾げている。そのお友だちは、誰に使ったのだろう。使われた相手に対してなのか、隊長が「気の毒になぁ…。」と呟いた。本当に、お気の毒に…。

「って、ちゃうわ!そんなん何処から仕入れてきてんねん!」

「十二番隊です。」

「ほんま、ええ加減にせぇよ、十二番隊…。」

呆れたように呟いた隊長に、苦笑いを零す。お慕いしていて尚且つ、自隊の隊長に薬を盛るなんて、彼女くらいしか居ないのではないだろうか。小さくため息を吐き、またもや書類仕事を再開させる。そもそも、彼女は常日頃から隊長に惚れ薬だの何だの試してはいるが、そんなの必要ないのに。未だにお喋りをしている二人に、視線を移す。

「それで、身体熱くなってきません?」

「ならへんわ!!」

彼女が、隊長の気持ちに気づくのは何時になるのやら。いつもと変わらない二人のやり取りを見つめ、小さく笑った。