※子ども設定



午後三時。それは、子どもたちにとって幸福な時間。おやつの時間だ。まぁ、わたしは中身は子どもではないので、別にはしゃぐわけでもないのだけど。パフェが食べたいと騒ぐ歩美たちにノコノコと着いてくれば、行き着いた先はよく訪れているポアロという喫茶店だった。「歩美、これにするー!」「僕はこれにします!」「じゃあ、おれはこれー!」はしゃいでいる彼らを横目に、隣にいる彼女へ声を掛ける。

「哀は、何にするの?」

「アイスティー。」

「大人〜。」

「オメーは何にすんだよ。」

「ミルクティー。」

「お前らな…。」

もう少し子どもらしくしろって。そう続けて小声で言ったコナンの言葉に、呆れたようにため息を吐く。ミルクティーは、子どもは大丈夫だと思うんだけど。呆れた顔をするコナンを無視していれば、「コナンくんは決めたかい?」とこの店の店員である、安室さんが声を掛けていた。

「ぼく、オレンジジュース!」

「かしこまりました。」

相変わらず綺麗な顔立ちだなぁなんて、ふわふわと笑っている彼を見つめていれば、隣にいる哀が口を開いた。

「貴女も飽きないわね。」

「え〜?わたしは哀が居れば、幸せかな〜。」

「あら、奇遇ね。私もよ。」

「両想いだ〜。」

ふわりと微笑む彼女とは対照に、わたしは子どもらしく笑う。そんな変わらずの光景を見ているコナンは、また呆れたような顔をした。「おめぇら、その設定ずっと続けんのかよ。」と言葉にするコナンに、「設定じゃないもん、事実だもん。」なんて反論をする。

「もん。なんて、可愛子ぶっても可愛くねーからな。」

「江戸川くんてば、辛辣〜。」

「オメーにだけだよ!」

「それって、差別って言うんだよ〜?」なんて子どもらしく言えば、「あーはいはい、悪かったよ。」と悪びれもなく謝罪をするコナンに、小さく笑う。子どもというものは、不便だ。それでも、何も考えずにミルクティーを飲める子どもが、羨ましいとさえ思ってしまう。
運ばれてきたミルクティーを前に、安室さんの目を見てお礼を言ったわたしが、彼には不思議に思えたのだろう。目を丸くして、瞬かせた。

「花乃ちゃんが、話しかけてくれるなんて珍しいね。」

「え、え〜?そうかなぁ?」

「うん。てっきり僕は、キミに嫌われてるのかと思っていたから。」

まさか。その逆だ。わたしは、あなたを好いている。だがそれは、叶うはずのない想いだとも自覚している。だから、成る可く関わらないようにしていたのだけど、どうやら彼には、違う意味で伝わってしまっていたらしい。ああなんていうか、切ない。

「わたし、安室さんのこと好きだよ?あ、いちばんは哀だけど。」

「ちょっと、私を巻き込まないでくれる?」

「えっ!哀には、私だけだと思っていたのに…。」

「フラれてんじゃねーか。」

「ははっ、それじゃあ、一番になれるように頑張ろうかな。」

大好きな哀にフラれてしまったショックで落ち込んでいれば、彼は小さく笑った。彼の言葉に、胸を高鳴らせる。ああ、ズルいなぁ。
きっと私は、大人に戻っても彼には適わないのだろう。惚れたもん負けってやつ。
熱くなっていく頬を冷ますように、わたしはミルクティーを口にするのだった。
いつか絶対、振り向かせてみせる。という想いを、心に秘めて。