※捏造設定
※一護の幼馴染(成人済みの社会人)
※名前変換無し
一護のともだちだと名乗った彼の顔は、それはもうとても不服そうな顔だった。高校生にしては、背が小さく、たぶん私服で歩いた日には誰からも「小学生」だと間違われるだろう。実際、たまたま見かけた一護の妹である夏梨が「小学生のくせに。」なんて声を漏らしていた。だが、その反面。どこか、大人びた雰囲気を纏っているので、なんとなく、彼は「小学生」でも「高校生」でもないのだと感じた。
なんとなくだけども。そんな紹介をされた数日。彼は、またもや不服そうな顔で「家に泊めてくれ。」と頼んできた。そんな顔で言われても、「いいですよ。」とは言えないが…。というか、なぜ私の家なのか疑問だ。あんなにも友だちがいるのに。
「えっと、一護の家とかは?」
「もう泊まってきた。」
「ええっと、あ、ほら、阿散井くん?とかそれこそ、斑目くんのお家とか…。」
「泊まり済みだな。」
いけしゃあしゃあと嘘をついているようにしか見えないが、彼は折れる気が全くなさそうだ。わたしは仕方なく、「一日だけね。」と声に出し、彼を招き入れた。それは、夏の蒸し暑い日の夜だった。
最初の一日だけという言葉は聞いていなかったのか否、彼が泊まって数週間が過ぎていた。わたしは夏休みのある彼らと違って仕事があるので、昼間は彼がなにをしているかなんてわからないが、たぶん外に出ているんだと思う。たまに、夜に出ていくこともあるが、わたしは彼の親ではないし、止めるのも面倒なので放置している。それに、高校生だし。あ、でも一護は門限19時だっけ。高校生なだけに可哀想だとも思うが、まぁ、家族で食卓を囲むのは大事なことだ。
そういえば、彼は平気で夜出ていくが、晩御飯のときは必ず一緒にいる気がする。あれは、彼なりの優しさなのだろうか。可愛いとこもあるなぁ。退屈そうにテレビを観る彼の横顔を見つめる。綺麗な顔立ち。というか、一護の周りには整った顔立ちが多い気がする。類は友を呼ぶということだろうか。羨ましいな、と気持ちを込め、小さくため息を吐き、冷蔵庫へと向かう。
冷蔵庫を開ければ、そこにはストックしてあるソーダ瓶が並んでいた。
「冬獅郎くん、ソーダ飲む?」
「ああ。」
素っ気ない返事ながらも、こちらへと振り向いた彼に笑みを浮かべる。うちに泊まった頃は、ソーダ瓶を飲んだことがなかったのか、開け方がわからないと言われたし、飲みにくいなんて文句まで言われてしまった。そんなことを言われたところで、私がつくった訳でもないので困ったが、今ではもう慣れてしまったようで、楽しそうに瓶を開けている。
そんな光景は、まるで無邪気な子どものようで、存外可愛らしく感じる。そんな姿を見つめつつ、慣れたようにソーダを喉に流し込んでいれば、彼が口を開いた。
「何も聞かないんだな。」
「…出掛けてること?」
「ああ。」
「なにか悪いことでもしてるの?」
彼の言葉に問いかければ、彼は「してねぇよ。」と笑って応えた。それなら、わたしはそのことに関して問いただそうとは思わない。悪いことをしてるのならば、今すぐにでも止めさせる。彼を悪い方向には、行かせたくないし。なにより、親が許さないだろう。まぁ、家族のことを聞いたことないのでわからないけれど。思えばわたしは、彼のことを何一つ知らない。どこに住んでいるのかも、家族がいるのかも、兄弟がいるのかも、何一つ知らないのだ。
知っているのは、名前と一護のともだちということだけ。ちゃんとした大人なら、あの日に追い返すはずだ。でもわたしは、追い返すことが出来なかった。きっと、周りからは罵倒されるし後ろ指を指されるだろう。
けれど、彼と過したこの間の時間は無駄だとは思わないし、有意義な時間だったとわたしは思う。
応えを伺う彼の顔を見て、笑を零した。
「だったら、何も言わない。それに、たぶんだけど、冬獅郎くんはいいことをしてる気がするの。」
「……どういう、───!!」
「…冬獅郎くん?」
「出掛けてくる。」
片手に持っていたソーダ瓶をテーブルに置き、立ち上がった彼を見上げる。いつもより真剣なその顔は、何だかもう会えない気がしてしまう。そんなはずはないのに。きっと彼は、用事を済ませたらまたのこのことこの家に帰ってくるに決まっている。それなのに、どうして胸の中がザワつくのだろうか。不安になる胸を抑えつつ、玄関へと向かう彼の背を追う。
「──気をつけてね。」
「、ああ。行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
玄関の閉まる音を聞いた後、部屋へと戻る。明日も仕事だ。早く寝てしまおう。布団の中に入り、目を閉じる。明日の朝には、いつもの彼の寝顔が見れることを願い、わたしは眠りへとついた。
「──せめて、最後に顔を見たかったなぁ。」
翌朝、目を覚まして部屋の中を確認するが、彼の姿は見つからない。リビングへと向かい、テーブルへと視線を移す。そこには、昨日の夜に飲んだソーダ瓶二つと、紙切れが残っていた。
達筆に書かれた文字を見つめた後、カーテンを開き、窓を開ける。蝉の鳴き声が、家の中に響き渡った。
「暑いねぇ、冬獅郎くん。」
振り向けば、ソーダ瓶を持った彼が笑った気がした。
「そうだな。」