ただ、好きだった。あなたに見て欲しかった。ただ、それだけ。それだけの為に、あなたの好きな子を傷つけてしまっていて。自分でも、よくわからなくて。気がつけばあなたは、わたしを汚い物を見る目で見下ろしていた。そんな顔をさせたかったわけじゃ、ないのに。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう、景吾。」

肩を抱かれ、体を支えられる彼女を羨ましく思う。ああ、羨ましい。ずるい。どうして、あの子なんだろう。言い知れぬ感情が、胸の中で渦巻く。テニス部レギュラー陣から、わけもわからず罵声を浴びる。わたし、あの人を振り向かせたかっただけなの。
未だに怯えた表情でこちらを見る彼女を、睨む。ずるい。ずるいずるいずるいずるい!どうして、わたしじゃダメなの?どうして?ねぇ、どうして?ずっと、好きだった。一年の頃からずっと好きで、周りから美男美女と慕われ、もう少しで彼はこちらに振り向きそうだったのに。突然現れた彼女に、彼の全てが持っていかれた。
レギュラー陣でさえ、彼女を好いた。彼らに好かれている彼女。その光景はとても異常で。でもそれよりも、彼に好かれて愛されて、それでも彼の気持ちに気づかないで、彼らに愛されたままのお姫様でいる彼女が、とても不快だった。

「桧山さん、どうしてこんな、」

「、突然、好きな人を奪われた私の気持ち、貴方にわかるの?」

「え、」

「花乃、お前、」

久しぶりに彼に名前を呼ばれ、胸を高鳴らす。ああ、ずるい。私の気持ち、ずっと知っていたくせに。滲んでいく視界の中、彼を見つめた。

「ずっと、好きだったよ、景吾くん。」

「花乃っ…!!」

手元にあるカッターで、お腹を突き刺す。遠のいていく意識の中、私の名前を呼んで駆け寄ってくる彼に、笑みが零れた。一緒にいてもらえないなら、生きてる意味なんてない。
最後に見た光景は、彼女の嫉妬に塗れた顔だった。







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突然現れた逆ハー補正のトリッパーに
意地悪をする悪女側のはなし。