「ねぇ、滝くん?」

「ん?」

放課後の教室。ふわりと笑う彼に、見惚れる。いや、そうではなくて。見惚れちゃダメだろ。そよ風が吹く中、彼に声をかければこの有り様。私は、どうしてこうも、彼の笑顔に弱いのだろうか。美しいから、かな。ずるいよね、ホントに。
パチンッと、ホッチキスの音が鳴り響く。

「今度の休み、どこ行く?」

「どこか行きたいところでもあるの?」

質問を質問で返された。別に、私自身、滝くんさえ居れば何処だっていい。ただ、彼を元気づけたかっただけなのだ。レギュラー落ち、しちゃったから。彼は、気を遣わなくていいと言うだろう。でも私は、そんなの無理なわけで。小さく溜息を吐きつつ、ホッチキスでまとめた紙を止める。

「僕は、花乃が居れば何処だっていいよ。」

そう呟いた彼の横顔は儚げで、美しかった。大好きな彼氏にそんなことを言われて、照れないわけがなく。熱くなる頬を、手で覆い隠す。自然と言ってのける彼は、本当にずるい人で。照れている私を見て、彼はクスクスと声を出して笑った。「相変わらず、照れ屋だね。」と言葉を口にする彼に、「寧ろ、照れない方がおかしい。」なんて声に出す。
纏める作業が終わったのか、彼は束ねた紙を机へと押し叩き、揃えた。相変わらず仕事が早いなぁなんて感心していれば、名前を呼ばれる。

「花乃。」

「あ、うん?」

「半分、頂戴?」

強請るのが上手なのは、いいことなのか悪いことなのか。ふわりと微笑んだ彼は、首を可愛らしく傾げて強請った。ああもう、本当に。
彼は、美しい人だ。そよ風が頬を掠め、彼の髪が綺麗に靡いた。



「滝くんて、なんでそんなに綺麗なの?」
「花乃のが、綺麗だと僕は思うけど。」
「ほんっと、滝くんて、ずるいよね。」
「ありがとう。」「褒めてないよ。」