22.とどめの一撃

それから丸1ヶ月かけてわたしはやっと本調子を取り戻した。この1ヶ月の間も任務に出てはいたが、わたしの調子に合わせてくれてか簡単な任務が多かった。そのため、本格復帰後はすぐに大型任務を任されることになった。
……この人と。

「いや〜〜〜ナマエと一緒の任務とか、本当俺って運いいわぁ。一緒に頑張ろうね、ナマエ!」
恥ずかし気もなく鼻の下を伸ばす善逸と一緒の大型任務。気が散るような言動が多いのが、若干気がかりではあるものの、彼はわたしよりも数倍強い剣士である。人間性を除けば、頼りがいがあることこの上ないのだ。
「うん、よろしく」
と簡素な挨拶を返すと、彼は不服そうに眉を中央に寄せる。
「なに?もしかして俺じゃ不安?ていうか、不満?」
「あはは、どうしてそんなこと聞くの」
気持ちが顔に表れていたのかしら、と慌てて笑って見せると、善逸は拗ねたように唇を尖らせる。
「いやぁ、だってさあ……ナマエってその、」
「なんなの、歯切れが悪いなぁ」
「うん…だからその、ナマエってさぁ、あの人と恋仲なんだろ?」
「…え?誰と、誰が…?」
「えぇー…それ俺に言わせる?だからさ、ナマエと…その、霞柱の……アノヒトだって」
「………はぁ?」
わたしが間抜けな声を上げると、善逸は一瞬面食らった顔をしたが、すぐにその表情を輝かせた。

「えっ?!違うの?じゃあ俺は炭治郎からデマ情報を掴まされたってこと?!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!炭治郎がそんなこと言ったっていうの?!」
「そうだよ!だから俺、超ショックでさ〜〜俺を差し置いて、あんな不愛想な男とくっつくなんて、許せねぇーーー!ってさぁ。でもまあ、それが嘘なら、安心安心…」
善逸は急に言葉を途切れさすと、失礼なほどマジマジとわたしの顔を見つめる。
「…って、あ、あれ?まさか、デマのデマ…ってこと?」
「いつまで意味分かんないこと言ってんの、もういい加減にしてよ」
「そりゃ説得力ないって、ナマエ」
「は?」
「そんなドキドキ音を立ててたらさ、説得力なさすぎ。っていうより、もうめちゃくちゃ顔に出てんだけど……」
善逸は、はぁ、と大きなため息をつくと、じっとりとした上目遣いでこちらを見つめる。

「なによ、いつ惚れたのよ、ていうかどこに惚れたんだよ!それくらい教えてくれたっていいだろ」
「ま、待って、待ってよ善逸!」
このやり取り、炭治郎に告白されたときのことを繰り返しているようだった。あのときの炭治郎も、わたしが時透さんに”惚れている”と決めつけた。いや、決めつけ…というより、惚れているという匂いを”嗅ぎつけた”という方が正しいだろうか。そして今、善逸の前でも同じことが起こっている。彼はきっと、わたしが時透さんに惚れているという音を”聞きつけた”のだ。

「その……ひとつだけ教えて。わたし、実は、全然自覚がないの。だから、一体どんな顔をしてたのかなって…」
善逸はきょとんとした顔でわたしを見つめたあと、困ったように少しだけ眉を下げた。
「教えてもいいけど、恥ずかしがんないでよ」
「うん」
「俺があの人の名前出したときね、ナマエはね、」
「…うん」
「恋する女の子の顔、してた」

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この日の任務は、善逸が引くほど殺気立っていたと思う。ただ本当のところは、彼にこれ以上わたしが自覚していない心内を知られたくなかったのだ。だから、必要以上に気合を入れて鬼を斬りまくった。善逸の出番がないくらい、わたしが鬼を片付けてしまおうと思ったけれど、結局最後は彼の助太刀のおかげで任務を終えられた。

それはしても、鼻のいい炭治郎、耳のいい善逸に、わたしの気持ちがダダ洩れだったなんて。そもそも自分が気づいていない気持ちを、先に他人に知られてしまうなんて、これ以上恥ずかしいことはない。

ただ一方で、ついに認めざるを得ないところまで来てしまった、とも思う。少なくともわたしは、日を追うごとにこの気持ちの違和感に気づきはじめていた。でも、どこかで知らないフリをしていた。
なぜなら、わたしみたいな弱い人間は、恋だの、愛だの、そんなものにうつつを抜かしてはならないからだ。だって、わたしは人より何倍もの時間をかけて鍛錬しなければ、すぐに周りに置いて行かれてしまう。だから、そんなものに浮かれてはならないのだ。それなのに、炭治郎と善逸がわたしに”気づかせる”とどめの一撃を放つものだから、本当に参ってしまった。

わたしが、時透さんを想っているだって?本当に?あんなに意地悪な人に?
―――そう疑問を覚える一方で、”でも、時透さんは変わった”と擁護するような自分の声も聞こえてくる。そう、彼は変わった。下手な小細工をせず、真正面からわたしを好きだと、想いを伝えてくれるようになった。ある意味ズルい手だとは思うけれど……おかげで、彼の想いが嘘ではないと何度も証明してくれた。


「困ったなぁ……」
別の任務に行くという善逸と別れ、町はずれの山道を歩きながら、独り言が零れる。恋への憧れ、もっと強くなりたいという気持ちがぶつかり合い、心臓が軋んでいるようだった。また、こんなに頭を悩ませるくらいなら、もういっそすべて忘れてしまいたい、とすら思った。

そんな風に半ば自棄になっていると、微かな羽音が近づいてくるのに気づく。空を見上げると、夜空に溶け込んだ鎹鴉がこちらに飛んでくるところだった。善逸と任務を終えたばかりだが時刻はまだ夜半前。任務をはしごしてもおかしくない時刻だ。そう思いながら腕を出すと、器用に鴉がとまる。

「至急、コノママ南東ニアル竹林ヘ!!柱ト隊士ガ2体ノ鬼ト戦闘中、十数名負傷!応援求ム!至急、応援求ム!!」

わたしは頷くと、腕を伸ばしてもう一度鴉を飛ばせた。そのままわたしを案内するように空を進む鴉。わたしは大きく深呼吸をしてから、その後を追って走り出した。走りながら、自分の状態を確認する。少々擦り傷や打ち身はあるものの、大きな怪我は負っていない。大丈夫、まだまだ動ける。さっきまで頭をごちゃごちゃさせていた”悩み”をいったん頭の隅に追いやり、地面を蹴ることだけに集中した。




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