魔法の続き

※お題「モップ持って魔法使い」続編


大掃除の日、体育館でわたしの掃除を手伝ってくれた時透無一郎くんとは、その後もなぜか時間を共にするような仲になった。
たぶんだけど、あのときの口ぶり的に、彼はわたしのことが好きなんだと思う。けれど、そういう風に「好きだ」とか「付き合ってほしい」とはっきり言われたわけではないのだから、状況はひどく宙ぶらりんだ。

とはいえ、時透くんはできうる限りいつもわたしのそばにいた。クラスが違うのだから、もちろん一緒にいられる時間に限りはある。だけど、まるで周りからわたしを守るかのように、静かにそばにいてくれるその姿は、いつも薄暗い気持ちで学校に通っていたわたしを安心させてくれた。

はっきり言って、時透くんのおかげでわたしが一部のクラスメイトたちから”可愛がられる”頻度は見違えるほどに減った。それは本当にありがたい。でも、周りの女子たちからの視線がなくなることはなかった。むしろ、彼がわたしのそばにいることで、その視線は日に日に鋭くなっていく。

そりゃ、誰もが思っているはずだ。「なぜ時透くんがミョウジなんかと?」「二人は付き合ってるの?」と。むしろその疑問の答えは、わたしが教えてほしいくらいなんだけど。


そんな風に、”時透くんと付き合ってるみたいな人”として日々過ごしていたら、ついに『お小言』をもらうことになる。相手はもちろん、わたしに体育館の掃除を押しつけた、クラスメイトの彼女らと彼らだ。

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帰りのホームルームが終わり、鞄を肩にかけ教室を出ようとした。が、足を踏み出すとグンッと肩が後ろに引かれ、前に進めなくなる。驚いて振り返ると、ワックスでガチガチに髪の毛を整えたクラスメイトの男子がわたしの鞄を掴んでニヤニヤしていた。その近くには、クラスの中心人物でありマドンナ的存在であるあの女子が、妖艶に足を組んでこちらを見ている。彼女の周りには、取り巻きである「カースト上位」の男子、女子が集まっていた。

「ねぇねぇ、ミョウジさんって無一郎くんと付き合ってんの?」
彼女が発する”無一郎くん”という言葉に、ひどく甘ったるさを感じた。そして、そうか、女子たちは時透くんのことを名前で呼んでいるのか、と関係のないことを考えたりする。
「いや、ぶっちゃけないでしょ。だってミョウジさんと無一郎じゃ…ねぇ?釣り合わないっつーか…」
わたしの鞄を掴んでいない、他の男子が失笑まじりにそう言う。周りの仲間たちがクスクスと笑いを漏らした。
「で、結局のところ、どーなの?あたし無一郎くん結構狙ってたんだよねぇ〜」
マドンナがぴょんっと椅子から立ち上がり、わたしに近づいた。

”そんなこと言われてもなぁ………。”
それがわたしの正直な気持ちだった。付き合っているかどうかなど、確認していないし。そもそも、交際の事実を確認していないということは、お互いそういうカタチにこだわっていないというか…簡単に言えば、どうでもいいのかもしれない。けれど、彼女たちにとっては「付き合っているかどうか」というのが、ものすごく重要らしい。

「…さぁ、知らない」
「いやいや、知らないってどーいうことよ!」
わたしの言葉にすかさず男子たちが反応する。
「えっ、じゃあ付き合ってないのに、あんなにいつも一緒にいるの?それじゃあ無一郎くん、可哀相だよぉ」
「本当本当、ミョウジさん粘着しすぎだってー」
今度は女子たちが口々にわたしを批判する。久しぶりの”可愛がり”を受けて、少し頭痛がしてきた。
「ねぇ、じゃあさ、無一郎くんに聞いてみようよ!ミョウジさんと付き合ってるかどうかって」
「あっ、それいいね!」
「んじゃ、俺今から無一郎つれてくるよ!」
わたしが黙って頭痛に耐えていると、話が勝手に大きくなっていった。もうなんでもよかった。わたしは再び鞄を自分の机に置く。それから1分も経たないうちに、先ほど教室を出て行った男子が時透くんをつれて戻ってきた。

時透くんは不思議そうな顔でわたしたちを見渡している。いつもみたいに温かみのある目でわたしを見てくれないのが、少しだけ気にかかった。
「おい、じゃあ早速聞いてみようぜ!」
待ちきれないと言った様子で、男子が声を上げた。マドンナが椅子に座り、ゆっくりと足を組んだ。

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「なぁ、お前ってミョウジと付き合ってんの?」
わたしの鞄を掴んでいた男子が、好奇心を抑えきれないと言った様子で時透くんに尋ねる。すると時透くんは眉を寄せ、「え?俺が?」と言ってわたしの方を見た。
「そうだよ、お前らって付き合ってんじゃないの?いつも一緒にいるじゃん」
「いやいや、付き合ってないけど?」
そのあと「俺はね」と時透くんは付け足したけど、その言葉はマドンナたちの笑い声にかき消される。

「なぁんだ、やっぱり付き合ってないんだ〜。よかったぁ」
マドンナが恍惚とした表情でしなを作る。勝ち誇った顔をしていた。
「ってことは、ミョウジの勘違いだったってこと?」
「うわ、可哀相…」
仲間たちもニヤけ笑いを抑えられない様子で、わたしに憐みの言葉を向ける。わたしは時透くんの顔を見れなかった。たしかに、わたしの勘違いだったのかもしれない。彼がわたしのことを好きかもしれないだなんて、一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしい。


そうして彼らの笑い声に包まれながら俯いていると、教室の戸を開けて誰かが入ってきた。「…えっ?」とマドンナが声を上げる。
「こんなところにいた、ミョウジさん」
顔を上げるともう一人の時透くんがいた。わたしに優しく微笑んでいる。そして最初にいた時透くんは「おお、無一郎」と後から入ってきた彼に笑顔を向ける。

「ねぇ、ミョウジさん。僕、言い忘れていたことがあったんだ」
無一郎、と呼ばれた方の時透くんがわたしのそばに来る。そして、わたしの両手をぎゅっと握った。
「僕ね、ミョウジさんのことが好き。ずっと好きだった。だから、僕と付き合ってほしいんだ」
教室がシーンと静まり返った。マドンナの仲間たちは目を見張り、口を半開きにしている。
「君のことをこれからも助けるって言っておきながら、大事なことを伝えるのが遅くなってごめんね。僕は君が好き、君のことだけが好きだよ」
ヒュウッ!と時透くんの片割れが指笛を吹いた。「やめてよ兄さん」とわたしの手を握っている方の時透くんが、彼を睨む。

時透くんがわたしの手を離し、もう一人の時透くんと並んだ。指笛を吹いた方はニヤニヤとし、わたしの手を握っていた方はひどく冷たい目でマドンナたちを見下ろしている。
「ねぇ、君たちさ。僕の兄さんを連れてきて、なにを馬鹿なこと聞いてるわけ?」
「俺は有一郎、ミョウジさんと付き合っていない、それは嘘じゃないよな?」
マドンナが顔を真っ赤にして、有一郎くんを連れてきた男子を睨む。
「兄さんもふざけないでよ、僕じゃないんだってすぐに明かせばこんなことには…」
「だってこいつら馬鹿なんだもん、面白いじゃん」
「兄さんのせいでミョウジさんを傷つけることになった、反省しろよ」
「…へーい」
そう言って有一郎くんはペロッと舌を出し、わたしに可愛らしくウィンクをすると教室を出て行った。残ったのは、ただならぬ怒りをまとった時透くんだけだ。

「僕はね、君たちに怒ってるよ」
「ま、まぁまぁ!俺らもふざけてただけっつーか…」
時透くんはヘラヘラと笑う男子の胸倉を掴むと、机に押しつけ、彼の腕を後ろに捩じり上げた。
「イテテテッ!!」
「なに、ふざけて僕の大事な人を傷つけてくれてんの?…じゃあ僕も君たちのこと、いたずらに傷つけていいんだよね?」
「うわっ、た、たんまたんま!悪い!悪かった!!」
「今さら遅いんだよ、そんな言葉」
「イダッ……!!!」
「ご、ごめんなさい、無一郎くんっ…あの、もうしない!こんな風にミョウジさんに絡んだりしない!」
マドンナ一行が顔面蒼白で立ち上がる。時透くんが男子を解放し、ニコリとわたしに笑みを見せた。
「もう二度と僕のミョウジさんに手を出さないでね、約束だよ」
最後に時透くんはそう言って、わたしの手を引き教室を出て行った。


そのまま一緒に学校の外まで出ると、いつも通りの時透くんにすっかり戻っていた。
「喉かわいたなぁ、どこかで休んでいかない?」
そう言ってわたしのことを覗く時透くんの瞳は、いつもみたいに温かみがあってわたしは嬉しくなる。「いいね」と答えると時透くんは嬉しそうに微笑んだ。
「そうだ、ミョウジさん。さっきの返事聞かせてよ」
わざとらしく時透くんがわたしの手を握り直す。
「僕、君が好きなんだ。だから付き合ってほしい」
普通の手繋ぎから”恋人繋ぎ”にする時透くんに、ズルいなぁと笑ってしまう。けれど、この手を離したくないと思うわたしは、もうすでに彼に”落ちていた”んだろう。だからわたしは「うん、いいよ」と答えて、恥ずかしさを紛らわすように彼の手を強く握り直した。


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