「ーーは、なに、隕石?」
しばらく驚きと言い知れない恐怖で心臓がドキドキと波打ち、体が震えて動かなかったが、落ちてきた"何か"はよく見れば人型であることに気が付いた。
理解が追い付かないが、とにかく人であると思った瞬間、体は反射的に駆け出していた。
「大丈ーー」
「ッテェな!あのクソジジイ!」
「ぅわあ!」
生きてた!えっ、なんで?なにこの人!いきなり人の庭に穴開ける勢いで突っ込んで来て無傷?
「なんだオマエ」
「え、と…この家の者ですけど」
「あ?家?」
うわ、目付き悪。ギロリと擬音が聞こえてきそうなほど鋭い視線を向けられて肩が竦む。短い髪は金色にも近い薄い茶色で、こちらを睨み付ける瞳は炎を宿したような赤色だ。私とその向こうに見える我が家を地面に座り込んだまま検めるように睨み付けている。
「あの、大丈夫なんですか。怪我とか…」
「……………」
え、無視?一応心配してるんですけど。しかもよく見たらこの人の服装おかしい。まだ暖かい日もあるとはいえ、暦の上ではとっくに秋だ。日が落ちれば気温は下がるし、私だって今はTシャツにパーカを羽織っているというのに彼はノースリーブだ。
いや、ノースリーブというか白いワンピースのような服を着ている上に足元はサンダルだ。
あれもしかしてやばい人?
さっきとは違う意味で心臓がバクバクしてきた。警察に通報した方がいいのかな、でもそんなことして殴られたりしたらどうしよう、
「オイ!聞いてんのかテメェ」
「はいっ?」
悶々と考えていたら話しかけられたことに気付いていなかったらしい。先程よりも一層深く刻まれた眉間のシワに、呼び掛けられたのはどうやら一度や二度ではなかったようだと察した。
「名前はって聞いてんだよ」
「え、名前?私の?」
「他に誰がいんだよ」
「あ、えと…なまえです」
しまった、不審者になんで名前なんて教えちゃったんだ!私の馬鹿…
「あなたは?どこから来たんです?怪我は?」
「怪我なんかするかよ」
「しますよ、すごい音しましたよ?」
「テメェらみてェな人間と一緒にすんじゃねぇよ」
「それは…昔から喧嘩が強かったとかそういう、」
「あ?」
「あ、いえ…」
絶対そうじゃん。目付きといいオーラといい、そうとしか思えない。
とにかく怪我がないならもうとっとと出てって欲しい。
「じゃ、じゃあ怪我もないようなので…お帰り頂けますか?」
恐る恐るそう言うと、怪しい男は私から視線を外し暫く考え込むように黙ったあと、明らかに良くないことを思い付いた顔で笑った。
余談だが、私はこんなに悪い顔で笑う人間を見たことがない。悪魔か。
「みょうじなまえ、○○出身、独身、一人暮らし、恋人なし、最後に男と寝たのは去年のーー」
「なっ、ちょっと止めてください!!何?!何なんですか!」
「よし、お前にするわ」
「何が!」
「オレがお前を救ってやる」
「は…はぁ!?」
怪しすぎる金髪男(結構イケメン)にドラマのような台詞を言われた気がしたけど、騙されないぞ!この不審者!いきなりなんなんだ!急に私の個人情報をペラペラと…!これ所謂ストーカーってやつか?
「誰がお前みてェな色気の欠片もねぇ女ストーキングするかよ」
「……今私声に出してました?」
「いいや?」
んなもん、声にされなくたってわかる。
そう言うと今まで座ったままだった男は立ち上がり、パパッと土を払うと私を見下ろした。背、高い。それに土を払ってしまえば本当に怪我一つしていないことがわかった。
しかし、感心するのはそこではなかった。彼は首をぐるりとまわすとさっきと同じように不敵に笑った。次の瞬間、彼の周りに小さな光が集まり始めたかと思うとバサッという音とともに突風が起きた。思わず髪を抑え俯いたが、風が止み、視線を上げるとそこには先程と変わらぬ笑みを浮かべた彼が立っていた。
その背中に眩く輝く真っ白な翼を背負って。
今度地面に崩れ落ちるのは私の番だった。
声にもならない驚きに、今度こそ腰が抜けた。意味がわからない。これは何だ。
目の前にいるこの人は、何者?
「オレは一刻も早く天上に帰りてェ。だがしばらくはジジイのせいで帰れねえらしい。クソめんどくせーがその間、ここでお前の守護してやる。喜べなまえ、お前は選ばれた人間だ」
言いたいことは山ほどあるし、脳みそがオーバーヒートしてまともな思考回路が残っていないがこれだけは言っておきたい。
この、悪魔!!!!
落ちて来た天使