スポンサーさん
「まったく、帰ってきたばかりの#那由#様を…働かせ過ぎです!」
「このくらい大丈夫。今まで散々迷惑をかけてきたのだし。」
「ううう…そうですかぁ?」
「うん。私は平気。」
「#那由#様がいいのなら私は何も言えませんが…」
「ねえ、#京#。」
「はい。」
「いつもありがとう。大好き。」
「な…ずるいです。そんなんじゃお父上の悪口すら言えません…」
「貴女の口からそんなこと言わせたくないから。ね?」
にこりと笑う#那由#に#京#もつられて笑ってしまった。いつだって、どんな時だって彼女はネガティブな言葉を口にしない。
彼女が一番不平不満を言ってもいい立場であるのに、少なくとも#京#が彼女と過ごすようになってからは一度もそんなことわ言わなかった。
テレビ局の廊下を歩きながら今日の仕事の再確認をする。打ち合わせの後は会社に戻って残務処理、夜は逢坂邸で食事会。改めて見てもつい最近海外から戻ってきたばかりの#那由#には少し大い仕事量だ。
「…待って。」
「#那由#様?」
#京#がスケジュール帳とにらめっこをしていると、急に#那由#は足を止めて後ろを振り返った。視線の先にはいかにも芸能人という男性が2人とスーツを着た男性が1人…マネージャーか何かだろうか。
「あ、あの!」
「ん?何か?」
「もしかして、ええと…何て言ったかしら…#京#、ほら私が学生の頃通っていた、」
「あー…えっと、り…りばーすじゃなくて…りば…りばーれ!」
「そう、りばーれ!りばーれの方ではないですか?」
こんなに興奮している#那由#を見るのは久々だった。#京#はりばーれ、りばーれと心の中で繰り返して記憶を探る。そう、一時期お嬢様は両親に内緒でライブハウスに通っていた。とても心に響く歌があるのよと本当に楽しそうにしていた。そう、男性が2人のユニットだったような…片方は黒髪でもう片方は色素の薄い今にも消えてしまいそうな。
#那由#の声に振り返った3人のうち、黒髪の男性が笑顔で近づいてくる。後ろのモモクン!という声を無視して。
「そうです!俺、Re:valeの百です。」
「百くん!今わりと大事なスケジュールの話を…」
「ちょっとだけ!ね?こんな美人さんに声かけられたんだからさ!」
百と呼ばれた男は#那由#と#京#の提げているパスを見るとすっごい美人なスポンサーさんだ!とまた笑った。声をかけた張本人の#那由#はというと、百が目の前にいるというのに首を傾げている。
「あら…?でも貴方…以前ライブの時に椅子を準備してくださった方に声が似ているのだけど…#京#、どうだった?」
「ううーん…私は、#那由#様を見てるので精一杯だったのでよく覚えてないんです…」
「確か歌っていた方のお名前は…ユキさんとバンさん…だったような…」
その言葉に百と千がピクリと反応する。
「もしかしてインディーズの頃のファンですか?」
「ええ。私なんかがそう名乗ってもいいのなら…よくライブにお邪魔していました。」
「…ライブに来てたくらいなのに僕達のことがわからないの?」
「千!」
少し呆れたように千が言うと、#那由#は何も言えなくなってしまった。そうよね、ごめんなさい、なんて困ったように笑う#那由#に、見るに見かねた#京#が口を挟んだ。
「私からご説明いたします。」
「#京#…」
「#那由#様…いえ、逢坂は幼少の頃に視力を失い、5年前に海外へ渡るまではその状態で生活をしていました。なので、Re:valeさんのことは音でしか知らないのです。」
ごめんなさいね、と苦笑いする#那由#の手を百がぎゅっと握った。驚いた#那由#が恐る恐る百に声をかけると、泣きそうな目をした百がありがとう、ありがとうと感謝の言葉を繰り返す。
Re:valeを好きになってくれて、Re:valeを覚えていてくれて。百のありがとうにはそんな意味が意味が含まれているのだと#那由#は思った。そして同時にやっぱり、彼はあの時の親切な人だと確信した。
「貴方は変わらないのですね、親切な方。」
「春原、百瀬さん…」
#京#が口にした名前に、百が忘れていた小さな出会いの記憶が呼び戻された。