ウンウンと唸る同室者を見かねた伊作は「大丈夫かい?」と声をかけた。
 声をかけられるまで、伊作が帰ったことに気付いていなかったのか、留三郎は驚いたように顔をあげる。「あ、ああ、まあな」ぎこちなく返事を返した留三郎は、少し逡巡したあと、意を決したように伊作に向き直った。

「伊作、折り入って相談があるんだが」
「うん。なんだい?」
「その、なんというか、だな」

 彼らしくない、はっきりとしない物言いに「ああ」と伊作は頷く。

「なまえさんのことだね」
「はあ!?」
「あれ? 違った?」
「……いや、違わない、が」

 なんで分かったんだ、と、そう訴える目に伊作は苦笑する。さすがに分からないのはなまえさん本人くらいじゃあないかな、と言えるわけもないので「同室だから」とはぐらかす。
 納得したのか、それならば話が早い、と留三郎は話をようやく進める。

「今度の休暇に、彼女を誘って町へ行きたいんだが、どう誘えばいいのか……」

 彼の悩みに「なんだそんなことか」と拍子抜けした顔をする伊作、一方で留三郎は真剣な表情で悩んでいる。
 いつもは留三郎に頼る場面が多い伊作だが、この件に関しては立ち場が逆だな、と恋に苦悩する同室者と共に頭を悩ませた。

「普通に誘えばいいんじゃない?」
「それができれば苦労はせん」
「……ごもっとも」

 普段の彼からは想像もつかない姿に、伊作は「青春だね」留三郎には聞こえないように呟いた。


ブルーブルーブルー
title 約30の嘘