耳を澄ませば、どこかでやっている祭囃子の音が聞こえる。
 とても楽しそうだ。しかしそうも言っていられない、と課題に向き合う留三郎は、別の喧騒を感じ取り、思わず身を低くした。

「留三郎! 夏祭りだよ!」
「……みたいだな。それより、課題は」
「夏祭り!」

 ここが図書館だということをすっかりと忘れているらしいなまえに、利用客の痛い視線が集中する。その視線は彼女に絡まれている留三郎にもやってくるわけで。
 だがしかし、なまえ本人はその視線に気付くことなく「行こうよ〜!」と、留三郎の側で駄々をこね続けている。

「ねえ〜!」
「だああ! もう! わかった! お前は黙れ!」
「やった!」

 このお祭り女め! 結局一ページも進まなかった課題をカバンにしまい、留三郎は周囲に謝りながらなまえを追いかける。
 機嫌よくスキップで受付の女性に「夏祭りに行ってきます!」と声高らかに宣言する彼女に、恥ずかしさと申し訳なさでどうにかなってしまいそうだ。「いってらっしゃい」引きつった笑顔でなまえを見送る女性にも頭を下げて、早くとはしゃぐ彼女の手を掴む。

「かき氷、何味にしようかなあ」
「奢らんからな」
「焼きそばも食べたいよね」
「……まあ、な」

 結局、彼女のペースに乗せられてしまっている不甲斐なさを感じつつも、祭りの賑わいに足取りは軽く、たまにはいいか、となまえの手を握りしめた。


summer hot summer