「降谷さん! たまにはゲーセンに寄りましょうよ!」

 偶然見つけた小さなゲームセンター。その店前にあるクレーンゲームを指差すなまえは、降谷の返事を待つことなくゲーム機に駆け寄る。はなから返事を聞く気はなかったようで、いつの間に取り出したのか、すでに硬貨を投入していた。
 チープなBGMと共に、どう見ても弱そうなアームがぎこちなく移動を始め、なまえは真剣な表情で狙いを定めている。

「おい、みょうじ。まだ勤務中だぞ」
「いいじゃないですか。あとは帰って報告書を提出するだけですし。……って、ああ!?」

 降谷の注意を受け流し、ゲームに集中するなまえだったが、突如悲鳴をあげる。何事かと、彼女の視線の先へと目をやって、降谷は目を覆った。
 ぬいぐるみの足をギリギリ掴んでいたアームが、あと少し、というところで獲物を落とし、元の定位置へと戻っていく。ぬぐぐ、と歯ぎしりをするなまえを見て、これはしばらく帰れないな、と降谷は確信する。

「……ったく。ちょっと代われ」

 小銭入れを漁っていたなまえを押し退け、硬貨を一枚投入すれば、再び同じBGMが流れ出す。
 もう少し右、やら、そこじゃない、と隣でうるさいなまえを無視し、降谷は彼女が狙ったものとは違うぬいぐるみを掴む。数秒後、ぼとんっ、取り出し口に現れた戦利品になまえは「さっすが、降谷さん!」と嬉しそうに笑う。

「でも私が欲しかったのは犬じゃなくてうさぎです」
「お前のために取ったわけじゃないからな」


うさぎさんのみぞ知る
title 失踪宣告(くまさんのみぞ知る)