「どうしたんですか、その足」

 着物の袖を引っ張り、私は桂さんの進行を止めた。それほど急いで歩いていたわけではなかったので、つんのめる事もなく、彼は驚いた……そして不思議そうな顔をして振り向く。

 どうやら察するに、隠し通すつもりだったらしい。

 しかし、この私の目を侮ってもらっては困る。これでも桂さんの彼女なのだ、それくらい分からないでどうする。「隠さないで下さいよ」私が少し拗ねたように見上げれば、桂さんの顔は不思議そうな顔から困ったような顔へと転じた。

「大丈夫だ、挫いただけだ」
「桂さん、結構おっちょこちょいですもんね」
「そんな事はない」

 頭上目掛けて降りてくるチョップをひらりと交わし、私は桂さんの脇に滑り込んだ。背が足りないのが難点ではあるが、多少は支えになれるはず。「さあ、早く帰ってドラマの再放送でも見ましょう」無理やりではあるが彼の腕を肩に回し、私への心配は無用だ、と彼に笑顔を向けた。


右足についての考察



 普段通りに歩いているはずだった。しかし「どうしたんですか、その足」少し不機嫌そうに着物の袖を引っ張るなまえの目はやはり鋭かった。どうしてだろう、彼女は俺の隠し事を見抜く才能があるらしい。
 立ち止まり、何の事だ、という顔で振り返っては見たが「隠さないで下さいよ」と軽く睨まれた。やはりなまえの目は鋭いらしい。

「大丈夫だ、挫いただけだ」

 これは嘘ではない、本当に挫いただけだ。なまえは少しバカにしたような顔を見せ「桂さん、結構おっちょこちょいですもんね」と頷いた。「そんな事はない」事あるごとにそう言う彼女へ、チョップをくれようと思ったが、ひらりとそれは交わされてしまう。
 そのまま猫のような動作でなまえは脇に滑り込み、俺を支えるように細い腕を肩へと回した。身長差のせいか、だいぶ苦労しているように見えるが「さあ、早く帰ってドラマの再放送でも見ましょう」となまえはいつもと変わりない笑顔を見せる。

 まさかそのいつも見せる笑顔に、思わず見惚れてしまってうっかり足を挫いてしまった。などとは言えるはずもなく、俺は仕方なくなまえの支えられ、いまだ少し痛む右足を引き摺るようにして「そうだな、今日は見逃せない場面だからな」と笑顔に笑顔で返した。