「また哲也くんの将棋に付き合ってたんだ?」
よくやるねえ。くすくす笑いながら、彼女は食堂のテーブルを丁寧に拭き上げていく。ほかのマネージャーは、もうとっくの昔に帰宅しているのに、彼女は家が近いから、と合宿中は門限ギリギリまで残っていることが多い。
「たまには変わってくださいよ、先輩」
「えー。私は将棋のルール、知らないから」
最後のテーブルを拭き終えて、時計を見た彼女は「たいへん」と少し慌てる。つられて見れば、もうすぐ21時になろうとしていた。確か彼女の家の門限は21時。
「先輩、送りま――」
「ここにいたのか」
「哲也くん」
携帯を片手にやってきた哲さんは「おばさんからメールがきたぞ」と言いながら、入り口近くのイスに置いてあった彼女のカバンを持つ。「御幸、帰ったらもう一勝負だ」次は負けない、という笑みを浮かべて彼女を引き連れていく。
「じゃあね。御幸くん」
「……はい。気をつけて」
食堂の外で聞こえる二人の仲良さげな話し声と、言い切れなかった言葉に思わずため息が出る。
「敵わねえなあ」
ジェラシスブルー/ユリ柩
二人は付き合っていない、家が近い幼馴染。