「ねえ。千空、知ってる?」

 読んでいた雑誌に飽きたのか、ピンと小指を立ててなまえは千空に問いかけた。
 またいつものやつか、そう思いながらも「何をだ」と、聞き返す千空の視線は、顕微鏡に注がれている。まったく見向きもしない彼を気にする様子もなく、なまえは話を続けた。

「私の小指はね、運命の赤い糸で運命の人と結ばれているんだよ」
「おー、そりゃあ、おめでたいこって……」

 観察結果をノートに書き記した千空は、知り合った頃から幾度となく聞かされ続けているセリフを吐く、ロマンチストな幼馴染をようやく一瞥した。
 伸ばしたり折り曲げたりしている小指に、赤い糸が実際に巻かれているわけもなく、傷ひとつすらない小さな小指がそこにあるだけ。

「……んで、なまえ。テメーのいう“運命”とやらが来なかったら、どうするつもりだ?」

 普段の心のこもっていない返し文句に続いた新しい問いに、なまえは驚いた顔を見せる。驚くほどのことかよ、と千空は幼馴染の回答を待った。
 少し考える素振りを見せ、なまえはニッとはにかむ。こういう顔の時の彼女を、千空はよく知っている。

「千空のお嫁さんになろうかな」
「100億パーセント、ありえねえ」


小指の先の未来
化石化前