「今日は一段と冷えるねえ」

 手を擦り合わせ、白い息を吐くクリスは曇り模様の空を見上げる。私も同じように空を見上げて、小さく息を吐く。天気予報では今夜遅くから雨だと言っていた。

「クリスマスの日くらい、雨じゃなくて雪が降れば雰囲気も出るのにさ」
「……私はどっちでもイヤだけど」

 雨にしろ雪にしろ、こんな気温で降られればどちらでも寒いことに変わりはない。「なまえちゃん、雨女だもんね……」憐れむような視線を寄越すクリスは無視して、私は行列ができたケーキ屋の前を通り過ぎる。店員は赤いサンタ帽を被って、笑顔でケーキの入った箱を手渡している。
 当たり前だが街はどこを見てもクリスマス一色で、天気の悪さなど気にしていないらしい。むしろ彼が言ったように、雨ではなく雪を待ち望んでいるに違いない。

「なまえ、待って」

 腕を引かれ、簡単に抱きすくめられる。
 こんな大通りで、人がいる前で、と思ったが、周囲はイルミネーションを眺めるカップルが多く、気に留める人はいなかった。

「クリス」

 諦め半分とクリスマスに免じて大人しくしていた私は、彼の名前を呼んだ。嬉しそうな甘い声で「なあに?」と首を傾けるクリスのコートの襟を掴んで、ほんの少し背伸びをする。

「メリークリスマス」


誰も見ていないならどんなこともできる/エナメル