「あ〜。今日もお茶がおいしいなあ」

 しみじみと幸せそうにそう呟くのは、校医見習いのなまえ。本日は校医の新野先生が出張で不在のため、なまえがこうして医務室で番をしているのだ。

「って、完全にくつろいでるだけじゃあないですか!」
「おや。留三郎くん」

 医務室の戸を勢いよく開け、登場した留三郎に驚くこともなく、ずずっとお茶を飲み干したなまえは「どうしたの?」と留三郎がズッコケそうになるほど、ゆったりとした笑顔で首をかしげた。どうしたもこうしたも、後ろ手に戸を閉めながら、留三郎はため息をつく。

「作業中にちょっと指を切ってしまったので、傷薬をと思いまして」
「それは大変! ちょっと見せてごらん」

 くつろいでいただけだが、やはりここは校医見習いらしく、真剣な表情に変わる。へえ、と感心する留三郎はなまえの前に座り、素直に手を見せた。
 触れる優しい手と、膝を付き合わせるほどの至近距離と、かすかないい香り。思わぬ、というか分かっていたことだが、すっかり失念していた事態に「平常心、平常心」と留三郎は平静を保とうと目を閉じる。しかし、それはほんの数秒で砕かれた。

「ちょっと留三郎くん」
「はい?」

 手を引っ張られたかと思えば、こつん、とぶつかる額。驚き、目を開けば、目の前に「うーん」と唸るなまえの顔。

「な、なななな、!?」
「熱もあるんじゃない?」

 パチリと開かれた双眸は心配そうに留三郎の瞳を覗く。「あんたのせいだ!」とは言えず「今日はちょっと暑いみたいで!」なまえの手を振りほどき、距離をとった。突然バタバタと慌ただしくなる留三郎を、特段気にする様子もなく、なまえは救急箱を片付けながら「無茶はしないでね」と留三郎に忠告する。

「なまえさんには言われたくないです」
「留三郎くんも言うようになったよねえ」

 嬉しそうに笑うなまえに、敵わないな、と留三郎は頭をかいて「それじゃあ、俺は作業に戻ります」医務室を後にした。


そういう病気
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