「やれ三成、ぬしは一体名前に何をした?」
「…私は何もしていない」
「ぬしは嘘が下手よなァ…」

名前が姿を消した前日の夕餉前、名前は三成に呼ばれ、われの部屋から笑顔で出て行った。
そして、次に顔を合わせた夕餉の時間には、先ほどの笑顔は消え失せ、今にも泣き出してしまいそうな情けない顔をしていた。
三成と何かあったのだろうなァとは思っていたが、まさか姿を消すとは思いもしなかったし、何より三成がわれに顛末を語ろうとせぬとは…意外よ、イガイ…。

「名前は…帰って来ると思うか」
「はて、われには分からぬが…」

名前は三成のことをとても大切に想うておる。ぬしが名前に酷いことをしていないなら直に帰って来るであろ。

だが、ぬしが名前に酷いことをしたのであれば、もう二度と帰って来ないかもしれんなァ…?

そう言ってやれば、三成はいつもの仏頂面をさらに険しくし、如何にも不機嫌ですという表情をした。

「刑部、私は少し出かける」
「あいわかった。早に名前を連れて帰って来やれ」
「言われるまでもない」

無駄を嫌う三成が、人を愛さない三成が、ただの女子にここまで執着するとは…信じがたい。が、事実。
われは三成をずっと側で見てきた。三成は何も欲しがらない。地位も、名誉も、金も、部下も。
その三成が、まさか女子を欲するとは…まこと信じがたい出来事である。

「幸せ者よなァ、名前よ」

どこに行ったか分からぬ、三成とわれの大切な女子に向けて、そう呟いた。