手前で立ち止まり、大きな動きで頭を下げた少女は弓を両手に持ちながら口を開いた。

「貴女が!お告げにあった、厳島に祀られる形ある神様ですか?」
「お告げ?」
「はい!私が朝のお祈りをしている時に……安芸の地に新たな神あり、祝福せよ、と声があったのです!ビビッときました!あれはお告げに違いありません!」

別に厳島に祀られてなどいないのだけれど、とぼやいてみても少女はお告げに間違いがある筈ないと首を横にふる。
ふと彼女の後ろの階段に目をやる。
そこには何故か元就を連れて階段を駆け上がってくる#name02#の姿があった。
心なしか、元就の目が輝いている。
…………激しい既視感、そう、あれは大鳥居の前で出会った時と同じ目をしているような。
遠い目で駆け寄ってきた二人を見つめるわたしに、少女は戸惑ったように再び声をかけた。

「でも、でも私、こんなにはっきりとした神様を初めて見ました」
「お前は随分と良い目を持っているのね」
「光栄です、貴女は……上杉さんとはまた違う形の神様なんですね」

うんうん、と頷いて可愛らしい笑顔を浮かべていた少女は、しかし「きゃっ!!?」突然、わたしの視界から消えた。
横に飛んで、わたしに背を向けている。
向かい合った先には、言わずもがな。
鞘に納めたままの刀を振り切った#name02#が少女を思い切り睨み付けていた。

「もうっ、私と神様のお話の邪魔をしないでください!誰なんで、」
「退け、私の前に立つ貴様が悪い」
「貴方は……」

……目が良すぎるのも困りものか。
フードの奥に隠れた#name02#の目が見えるように少女は、はっと口を押さえた。
きっと、これは"石田三成"の顔を知っている。
気をひく為に弦を弾こうと腕を上げたその瞬間、そういう事だったんですね!、と。
少女はさも閃いたと言わんばかりに声に喜色を露わにして#name02#とわたしとを見比べた。
そして何を思ったか、#name02#の背中をぐいぐいっと、わたしの隣に並ばせるよう押し出した。
そしてわたし達を前にすると、またその眼を輝かせていうのだ。

「こんなにも色が、神様と近いのは……、貴方は違う刻のあの人!きっとそうです!」
「き、貴様ッ、何を」
「だってほら!こんなにぴったり同じなのに違うんですもの!……ちょっと毛利さん、神様の隣に立たないでください!」
「あら、元就」

先ほどから静かにしていたと思ったが、どうやら周りの兵、もとい駒を撤退させていたらしい。
さすがわたしの神様友達、優秀である。
少女に声をかけられた途端、眉間を顰めた元就は追い払うように手をひら、と動かした。

「フン、雛鳥より煩わしい巫めが……そも、貴様を呼んだのは綾瀬を厳島に祀るに相応しい神として認めさせる為。故に用済み、無駄口を噤みさっさと失せろ」
「誰が雛ですか!……って、ちょっ、ちょっと待って下さい。まさかお告げを下さったのは神様じゃなくて、」
「我だ」
「ま、また騙しましたね!!」

元就は過去にもこの少女を騙した事があったらしい。
どうしてだろう、#name02#が溜め息をつく。
はて、今の元就と少女の会話に何やら引っかかるものがあった気がするような、しないような。
…………わたし、もしかして、厳島に祀られたのかしら。

「たちの悪い詐欺に引っかかった気分だろう、綾瀬…………私もだ」
「変な噂が出回らないと良いのだけれど」

この後、念の為#name02#と一緒に社の中を回ったが、どうやらこの世界の厳島神社には、元々神などいなかった。
おかしな話だけど。
そしてもう一つ余談だが、巫女の少女――鶴姫が安芸の城下と厳島付近の海でよく見かけられるようになったと元就が胃の辺りを押さえながら報告にきた。
そして呟くのだ。
これは計算してない、と。