「成る程な」

文机の前で端正な顔をこれでもかと曇らせて、毛利は露わになった#name02#の顔を睨み付けていた。
こそこそと忍ぶように連れてこられたのは居城、吉田郡山城。

今だ嘘を吐き慣れていない#name02#が毛利にその身の上を洗いざらい話してしまったお陰で、わたしや#name02#という存在がこの男には知れてしまった。
先程からわたしを見て、思い出したようにため息を吐かれる。
当然ながら、わたしが天照ではなかったというのも、毛利が消沈している理由の一つである。

「ごめんね、天照ではなくて」
「……それはもう良い」
「貴様、綾瀬の謝罪を蔑ろに扱うな!斬め……、…つ、してやるッ」
「顔色を伺って言葉にするくらいならば初めから用心なさいね」
「す……すまない……」

「…………石田らしいが、我の知る石田はこうも従順ではない。綾瀬と言ったか、貴様が豊臣の忘れ形見などと言わぬ限りはな」

豊臣の忘れ形見。
その一言に、#name02#は眉を吊り上げて目の前の細面(ほそおもて)を射殺さんばかりに睨め付けた。
落ち着かせる為に、その肩を叩く。

「どうどう、#name02#、顔が怖いわ」
「私は馬ではない……」
「ハ、どう足掻こうとも貴様は馬のように穏やかにはなれまい」
「黙れ毛利ぃ!!」

どうやら毛利は火に油を注ぐのが好きらしい。
とりあえず、#name02#にフードを被せて、その視界から毛利を外しておく。
こうすれば少しは落ち着いて話が出来るのではなかろうか、苦肉の策。

「わたしは#name02#を拾っただけ、#name02#はわたしに拾われて生きた。だから傍にいてくれる」
「神とは、孤独でなくてはならない」
「ひとから生まれ出ずる神は孤独になれぬものよ」
「………………フン」

……なんだろう、数百待てば、毛利もわたしと同じものに成ってくれるのかもしれない。
そんな気がする。
綾瀬、と名を呼ばれて隣を見ると、そこには真っ直ぐわたしを見つめる月色。
影から覗くその白すぎる頬を撫でながらわたしは再び、目の前の男に視線を向けた。

「こうして相まみえたのも縁(えにし)、仲良くしよう」
「何を、」
「わたし、同じ神さまの友達が欲しかったの」
「…………」

右へ左へ切れ長の目を泳がせ、暫くして謀神は、僅かに頷いたように見えた。