毛利は貴様らの飽くまで此処に滞在するが良い、と侍女までつけて、わたしと#name02#に部屋をくれた。
思わぬ所で最上の宿を手に入れる事が出来たと、#name02#はひと意地の悪い顔でにやついていたが。
恐らく慣れないフードを一日中被っているのが相当ストレスだったのだろう、部屋で上着を脱げるのが嬉しくて仕方がないようだ。
――元々厳島を見るという目標はたったの一日と少しで達成してしまったので、当然の如く、暇を持て余しながら毛利と日輪を浴びたり#name02#と情報収集に城下へ向かったり……。
久々にぐうたらとした怠惰な毎日を過ごしていたと思う。

しかし、ある日の事だ。
わたしが手持ち無沙汰に両手に婆娑羅の光を灯しているのを見て、#name02#は突然立ち上がり、口を開いた。

「綾瀬、婆娑羅屋に行くぞ」
「……ば?」

はて、聞いた事のない。
首をかしげると、目の前でわらび餅に舌鼓をうっていた毛利もそれはそれは妙案ぞ、と仕切りに頷いていた。

「婆娑羅は武器を通して使う事で、その力を発揮できる。私の場合はこの刀だ」
「へえ」
「婆娑羅屋は婆娑羅者専用の武具を誂える事が出来る店よ、今の貴様であれば奴らも門を開くであろう」
「武器かぁ」

聞けば#name02#の居合刀や毛利の持つ丸い刃の輪刀も其処で作らせたものらしい。
婆娑羅に目覚めた今、一刻も早く武器を作り、制御を完璧にしなくてはならないようだ……婆娑羅は時折、暴走するのだと聞いて、少しばかり背中がひやりとした。
どんな形の武器を作るのかは婆娑羅屋の彼らが使い手を見てから決めるのだそう。
刀だろうか、それとも槍、鉄炮の可能性も無きにしも非ず……使いこなせる、自信はないが。

「城下にも入口があった、私が先導しよう」
「仮にも四六時中ふらふらと出歩いていたのだ、その程度の役には立たねばな。いくぞ、綾瀬」
「ありがとうね、元就」
「もみじ饅頭五個で手を打とう」
「本当、甘味が好きね」

残っていたわらび餅を全て平らげると、毛利は当然の如く立ち上がり、わたし達を急かすように見下ろした。
………殺気を感じて隣を見ると、何時ぞやの鬼。

「……何故、貴様も、着いてくるッ!!」
「城下の視察を兼ねている」
「部屋に篭って政に追われていろ!」
「この我を何処ぞの鬼畜生と一緒にしてくれるな、すべき事などとうに終えておるわ戯け」
「たッ!た、たわ……綾瀬ーー!!不敬者を斬滅する許可をォォ!!!」
「二人共、置いていくよ」

今にも抜刀してしまいそうな#name02#の上着を引きながら、部屋を出て、門を目指して歩き始める。
引き摺られながらも、未だぎゃんぎゃん吼える#name02#を振り返って一言。

「煩いわ」
「――――ぐ、うううッ」

わたし達は城下の何処ぞの婆娑羅屋を目指し、城を出た。
……武器を持つなんて初めての事で、実は楽しみだったりもするのだ。