「そこで、だ。高遠ゆくらよ、そなたを全軍に配属する」



「…えっ?」













『会社員、はじめました』











色とりどりの龍が描かれた豪華絢爛の応接間、その部屋の中心で響いた素っ頓狂な声。その声の主は頭に疑問符をいくつも並べたまま、目の前にいる三人の男性を見渡した。


(全…軍?軍?普通会社って部とか課じゃないの…?)



ここは株式会社無双、数千人規模を誇る、国内有数の業績を上げている貿易会社。なんとか就職活動を経て、今日からこの会社で働くこととなった彼女、高遠ゆくらは、入社日にひとり、この応接間へと通された。対面するのは最終面接で面接官でもあった三人、曹操、劉備、孫堅であった。配属について、という話を聞かされていたゆくらは、緊張した面持ちで、また、まだ見ぬ未来の想像をしながら席についた。そしてその結果、間の抜けた声を出している。



「あ、あの…配属って、部、とかではなく軍…なんですか?そして全軍って…」


「あぁ、悪いな、我が社では部ではなく軍という呼称を用いているのだ。互いに競い合うためにな」


ロマンスグレーの髪で、にっかりと笑う男性、孫堅が話す。どうやらこの会社はおおまかに三つの部にわかれており、どういうわけか自らを軍として各々活動しているらしい。


「どの軍からもそなたを欲する声があってな…協議した結果、全ての軍に属し修練を重ね成長していくのが最善であるという結果が出たのだ」


清廉な雰囲気で穏やかな視線を送る劉備は微笑んでいる。一方、あまり話が見えないゆくらは(優しそうな人だなあ)などと素直な感想を抱くのみ。


「そなたには期待しておる。日々精進せよ、ゆくらよ」


眼光鋭く、しかしながらどことなく優しさが垣間見える曹操に『期待している』と言われ、ゆくらの背筋がピンとのびた。今日からこの会社でいち社会人として頑張っていくのだ。あまりよくわからない事態に晒されているが、これからの生活に胸を踊らされるゆくらであった。













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