少し尖らせた口元からは、いつもより低い声が聴こえる。その子供っぽい横顔の彼女に苦笑しながら、郭嘉はまた一粒のチョコレートを口にした。
「いくらなんでも貰いすぎだと思いますけどー」
「貰えるものは貰っておいた方が得だと思うけれどね」
彼女のむくれ面を増長させたいが為か、郭嘉はにっこりと微笑んだ。今日はバレンタインデー。例年通り大量のチョコレートを袋に入れて帰宅した郭嘉が無造作に置いたそれを、遅れてやってきたゆくらが部屋に着くなり開けた。予想以上の数に呆気にとられたゆくらは、少しだけ恨めしそうな声をあげた。
「確かにそうですけどぉ…だってこれなんか、明らかに義理チョコじゃないですよ…」
綺麗にラッピングされたきらびやかなハート型。明らかに値が張りそうだ。きっと、何かしらの気持ちがこもっているのだろう。
「そうだね、ほら。美味しそうだ。ゆくらも食べよう」
「わ、わたしはいいです!郭嘉さんが貰ったんでしょ」
一番に彼に渡したかった。本当は、もっと手の混んだものを作って、一番先に食べてもらいたかった。連日の仕事の忙しさにより、それも叶わなかったうえに、きっと、先に彼の手に渡ったものは自分が作ったものより遥かに美味しいものだってあるだろう。そう思うと、なんだかやりきれなくなった。
「わたし、コーヒー淹れてきます」
郭嘉は横目にゆくらを見ると、またひとつ、贈り物を口に運んだ。直接的な甘さが、脳を刺激した。
「ところで、ゆくらはくれないのかな」
「…何をですか」
「チョコレートだよ、用意してくれたんだろう?」
何をですか、なんて白々しく返事をしたのは、少しでも余裕を見せたかったからなのか。
「本当に可愛いなぁ、ゆくらは」
「な、なんですか急に…!」
「はやく食べさせて欲しいな」
郭嘉ににこりと催促され、おずおずと鞄から包みを差し出す。ラッピングを解き、一欠片を口にした彼はまたも微笑んだ。
「美味しい。ありがとう、ゆくら」
何よりも、美味しいよ。目を細める彼はそういって、すべてを見透かしたようにまたひとつ、彼女の想いを食べた。
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